太陽光発電予報プロジェクトというものがある。太陽光発電の発電量は、大きく変動するが、その変動の量を、気象データによって予測しよう、というもの。
朝日新聞・夕刊 2012-04-04 に説明があるが、同様の記事はネットにもある。引用しよう。
全国を二キロ四方に区切り、衛星画像や地域気象観測システム(アメダス)などの気象データを利用して雲の大きさや厚さ、風向きなどから細かな各地の日射量を推定。各地のパネル設置状況を試算することで、電力会社の管内ごとに発電出力を予測する。──
( → 東京新聞 2012-01-13 )(転載)
これはなかなか興味深い方針だ。
だが、これを読んで私が思ったのは、「もっとうまい方法がある」ということだ。それは、こうだ。
「ソーラーパネルをもつ各家庭の発電量をモニターすることで、各地の日照状況をリアルタイムで計測する」
上記のプロジェクトでは、「衛星画像や地域気象観測システム(アメダス)などの気象データを利用して雲の大きさや厚さ」を調べて、そこから「各地の日射量を推定」する、というものだ。しかし、「二キロ四方」というマス目では、あまりにもデータの精度が粗すぎる。雲の形の変化をとらえるには、マス目が大きすぎるのだ。
一方、私の提案ならば、「ソーラーパネルをもつ各家庭」がそっくりそのまま「日照量の測定器」になる。とすれば、「間接的な推定」ではなく「リアルタイムの実測値」であるし、また、マス目は「二キロ四方」ではなく「きめ細か」になる。たとえば、ソーラーパネルのある家が20メートル置きにあるとしたら、20メートル置きのデータが得られる。設置家庭が増えるにつれて、どんどん高精度になる。
──
さて。私の提案が実施されるとしたら、次のことが必要だ。
「各家庭のソーラーパネルの発電量をモニターして、それを一括して中央のセンターに送信する」
このような装置は、一種の「スマートメーター」である。各家庭の電力消費量だけでなく、各家庭の発電量を計測して、その計測値を中央のセンターに送信するものだ。
このようなスマートメーターは、現時点では想定されていない。そこでこれを「超スマートメーター」と称することにしよう。
現在提案されている HEMS というスマートメーターの規格は、ごく当たり前の仕様でしかないようだが、もっと高度化することで、全国的な太陽光発電量の変動を予測できるようになる。そうなれば、たとえ瞬間的な変動があっても、あらかじめ水力発電や火力発電で対処することができるから、変動の問題は小さくなる。
結論。
スマートグリッドというものを構築して、自然エネルギー発電の変動を少しでも吸収しようと思うのであれば、超スマートメーターによる「発電量の変動の予測」が必要である。
将来、スマートメーターを配備するのであれば、そのスマートメーターは、超スマートメーターであるべきだ。
【 追記 】
誤解があるようなので解説しておく。
この提案の目的は、「発電の総量をリアルタイムで観測すること」ではない。では何かというと、
「各地点の発電量を観測することで、雲の形(雲による陰の形)を知ることができるので、『雲が移動すると、発電量がどう変化するか』を予想できる」
ということだ。
たとえば、10分後に雲がどう移動するかを予想して、そのときのソーラーパネルの分布状態と照合すると、10分後の発電量を予想できる。
例。「A地点が雲の陰に入ったな。お、B地点が雲の陰に入った。この分だと 10分後には、雲の陰がメガソーラーに重なるので、発電量が急減するだろう」
[ 付記 ]
本項では、「ソーラーパネルの発電量をモニターして送信する」という意味で「超スマートメーター」という用語を用いた。
だが、スマートメーターとしては、「家電の側と協調するようにシステム全体を統合的に決める」という役割もある。これについては、前項で述べた。
→ 東電のスマートメーター (前項)
ただし、それだけでは「予測の検証」ができない。つまり太陽光の発電量がわからなければそもそも的中したのかどうかわからないという弱点があります。
これに対し、ご提案の意義は「需要変動に埋もれて区別できない太陽光の発電出力を切り出して **実測する**」点にあると思います。しかし、実測値をいくら積み重ねても それだけで予測はできません。
したがって、両者の関係は対立的なものではなく、相補的なものと考えられます。実測値をもとに予測モデルを修正し、精度を高めていくことができるからです。実測対象を全数にするかサンプリングにするかは議論の余地があるところですが。
なお、これらの手法はあくまでもバックアップ電源(主に火力)の「運用」を効率化するためにあります。つまり、晴天で安定した出力が「事前に」見込めるなら、その日の14時までは一部の火力発電所をアイドリングではなく完全に止められる、という類いであり、火力発電所をなくせるわけではなく、発電自体の燃料消費が大幅に減るわけでもない。その意味で効果は限定的なものになります。
予測できたからといって「不安定電源で雨が降れば壊滅。常にバックアップの発電所を必要とする」という太陽光の本質的な弱点を解決できるわけではありません。管理人さんへの説明は野暮というものですが、往々にしてプロにもこの点が混同され、“予測できれば万事解決”ととられがちなので留意が必要です。 
> 超スマートメーターによる「発電量の変動の予測」が必要である。
「超スマートメーター」で得られるのは、あくまでも「その時点」の日射量と発電量だけではないでしょうか? で、両者は同時に観測されますから、これではやはり「予測」はできない。日射量に対する太陽電池の性能評価をしているのと同じことです。リアルタイムの需給ギャップに対応するだけなら、それは現行システムと何ら変るところはなく、追加投資をする必要はありません。
欲しいのは、現時点ではなく未来の予測です。せめて翌日までの、時間単位の予測発電量。「未来予測」であってはじめて、火力の火を完全に落とすなどの効率的な運用ができるわけです。
未来の発電量を予測するためには、当然ながら未来の日射量の予測が必要で、それにはやはり気象モデルの力が必要。ゆえに相補的な関係にあるだろうと。少し長くなりましたが、申し上げたいのはそういうことです。(^^);
> ご提案の意義は「需要変動に埋もれて区別できない太陽光の発電出力を切り出して **実測する**」
じゃないですよ。「各地点が晴れているか曇っているかという気象の位置情報」を得るために、大空にある気象衛星を使う代わりに、地上にある発電メーターを使う、ということです。
雲がある地点は陰になっているので発電量が減るから、その地点には雲があるということがわかる、……というふうに気象情報を得る。
発電量は、気象情報を得るための道具にすぎない。
本文中に 【 追記 】 を加筆しておきました。
推測を交じえて記事を読めば、日射量の予測は衛星データなどの天気予報技術、実測は地上の日射計ということでしょうか。わざわざ日射計を置くくらいなら実際の発電量をメーターから送ればいい、という意図でしたらそれは理解できます。ただ、くどいようですが(^^); それ「だけ」では「予測」は不可能です。
なお、実際の太陽光パネルは設置方位も傾斜角も性能もマチマチなので、発電量から日射量を推定するにはそれらを一軒ずつ補正する必要があります。これって相当大変かも。
今日はしつこくてすいません(^^);
それは簡単です。「標準モデルとの比較」ならば大変ですが、「各家庭ごとの前日や前々日などのデータ」との比較をすれば、計算はできます。
計算量は多大ですが、最初に百日ぐらいのデータを得ておけば、各家庭の標準状態は決まるので、各家庭の標準状態と現在状態とを比較すれば、あとは自動的に計算できます。
各家庭の標準状態を計算するのは大変ですが、各家庭の標準状態をいったん得たあとでは、あとの計算はごく簡単です。
本項で述べたのは「データを得れば計算が可能だ」という原理だけです。具体的な計算方法(予想方法)は、技術者の仕事なので、いちいち示しませんでした。
言わずもがな。
> 例。「A地点が雲の陰に入ったな。お、B地点が雲の陰に入った。この分だと 10分後には、雲の陰がメガソーラーに重なるので、発電量が急減するだろう」
しかし、[発電量から雲の形を推定]→[それを基に次の発電量を推定]ということであれば、説明変数は発電量だけですから、要するにその動きを後追いしているだけではないでしょうか? 刻々と変わる雲量やその方向を予測するには、やはり他の観測データと気象モデルが決定的に重要と考えます。
ご提案の方法は、数分~ 1時間程度なら有効でしょう。それはそれで意味があります。ただ、朝日の記事を引用すれば、
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プロジェクトを率いる荻本特任教授は「最低でも1週間先、1日先、数時間先の3タイプの推定が必要だ(中略)」と話す。
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ですから、これは全く別の用途と考えるべきかも知れませんね(^^);
「発電量は、気象情報を得るための道具にすぎない。」と先のコメントで述べたとおり。あくまで気象データを得ることが目的です。で、何のために気象データを求めるかと言えば、気象モデルを作るためです。当然。
第2に、用途は「10分先のデータを高精度で予測すること」だけです。これ以外の用途はありません。なぜなら不要だから。この件は、すでに述べました。
→ http://openblog.meblog.biz/article/7250631.html
このページで「10分」と書いてある箇所。 つまり、 (2) の箇所。
> プロジェクトを率いる荻本特任教授は「最低でも1週間先、1日先、数時間先の3タイプの推定が必要だ(中略)」と話す。
この人は「予測ができれば変動の問題がなくなる」と勘違いしているのでしょう。
ついでですが、「1週間先、1日先」の予測をするには、地球規模の気象モデルが必要です。日本国内のデータをいくら高精度で得ても、精確な予測はできません。粗くてもいいから、地球規模のデータを取ることが大切。そのためには現在の気象庁のモデルを使うしかない。そこを理解できていないのが、プロジェクトですね。