ドイツの太陽光発電の事情はどうか? 前に「ドイツの太陽光発電 1」という項目でも言及したが、新たな情報を示そう。
ドイツの太陽光発電の大手会社(Qセルズ)が倒産した。
独太陽電池メーカー大手のQセルズは2日、法的整理の手続きを申請すると発表した。同社は太陽電池ブームを追い風に2008年に世界シェア首位に立ったが、中国メーカーなどとの価格競争が激化し、赤字体質に陥っていた。似た記事は他にもある。
Qセルズは1999年に太陽電池の生産を開始。独政府の再生可能エネルギーの普及促進策に乗り、生産規模を急速に拡大し、08年には世界首位になった。しかし、市場が拡大するにつれ、参入企業も増加。とくに中国メーカーが低価格を武器に欧州市場にも進出し、Qセルズは徐々にシェアを落としていった。
( → 日経 2012-04-03 )
→ ドイツの太陽電池大手のQセルズが経営破綻
→ 独Qセルズが上場来安値、法的整理へ
→ 補助金削減でドイツ太陽光発電の前途に暗雲
→ ドイツ、Qセルズ破綻とFITの大幅改訂
最後のページには、次のページへのリンクがある。
→ その1 / その2 / その3
これらのページには、ドイツのPV(太陽光)の事情について、興味深い記事があるので、以下で紹介しよう。(引用も。)
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(1) 買い取り価格
ドイツでは、PV設備の設置価格が大幅に下がった。一方、PV発電の買い取り価格も大幅に下がった。1kWhあたり25セント前後(約27円)。家庭用電力の販売価格とほぼ同額。
具体的には、次の引用の通り。
もともと1kWhあたり50セント(約55円)近くしていたPV電力は、内部収益率IRRで6%を加味しても、20セント(約22円)を切るようになっています。こちらの一般家庭の平均的な電力料金は、1kWhあたり25セント前後(約27円)ですから、今年の4月1日から正式にいわゆる「グリッドパリティ」に到達したことになります。ひるがえって、日本ははるかに遅れた状況だ。
通常の日本の家庭用のPVは、3.5〜4.0kW出力なので、80〜90万円で設置できる計算になります。日本の半額以下、下手をすると3分の1という数字です。
・ PV設備の設置価格は高いまま。
・ PV発電の買い取り価格も高くしようとしている。
あまりにも馬鹿げた場状況だ。で、この状況を継続しようとすると、しょせんは継続できないから、状況の急変化に耐えきれないで破綻する会社も出てくる。その例がQセルズだ。
孫正義のソフトバンクも、同様にして倒産するかもしれない。その件は、前に記述した。
→ ソフトバンクは倒産するか?
(2) スマートグリッド
ドイツのスマートグリッドに比較して、日本のスマートグリッドはひどい状況だ、という指摘。簡単に言うと、次の通り。
「ドイツでは、自家発電の買い取り価格は低めなので、発電した家庭は自宅で使おうとする。晴れた日に発電量が多いと、晴れた日に電力をたくさん使おうとする。供給が多いと需要も多くなる。そのことで自動的に電力は安定化する。
日本では、自家発電の買い取り価格は高めなので、その逆になる。発電した家庭は自宅で使おうとせずに、売電しようとする。晴れた日に発電量が多いと、晴れた日に電力をたくさん売却しようとする。蓄電池があると、安価な深夜電力を夜間に蓄電し、晴れた日中に高値で売却しようとする。そのことで日中は供給過剰になりがちになり、自動的に電力供給は不安定化する。……太陽光発電が少ないときには問題がないが、太陽光発電が多くなると問題になる」
つまり、ドイツの制度は「供給の安定化」に寄与するが、日本の制度は「供給の不安定化」に寄与する。具体的には、次の引用の通り。
ドイツの屋根置き型の小型PVは固定価格による全量買取りが基本ですが、2009年の改正から、「自家消費ボーナス」というものを採用するようになり、近年では、屋根設置の大型に至るまでになったり、そして自家消費の割合を多少の義務化を図るようになったり、自家消費をドンドンと促すように制度を改善させています。要するに、こうだ。
つまり、日中の正午前後には、電力系統の25%を占有するようになったPV電力が、すべて系統に流れ込むのではなく、できるだけその瞬間に電力を使えるように、配慮した「電力系統の安定化」に寄与する制度とシステムがドイツでは実施されているわけです。
翻って、日本の現状は、その正反対となります。(PV普及を前提とするならば)電力系統をより不安定化させる思想が組み込まれています。
ご存知のように日本の余剰買取制度は、日中のPV発電時に、出来る限りたくさん余剰電力を販売することで、もとを取ろうとする制度です。日中のPV発電時は、電力使用を控え、その代わりに、PV発電がない夜間に電力消費をして、翌日の日中に備えます。
また、さらに最近、具合の悪いことに、PVシステムのメーカーやハウスメーカーなど各社は競って、バッテリーと見える化を組み込んだ「スマートハウス」なるものを販売する戦略に出ています。
深夜電力でバッテリーを満タンにしておいて、日中、バッテリーからの電力で家庭の消費電力をまかないながら、ほとんど100%の電力を余剰電力として売電して、PV、バッテリー、そしてシステムなどのもとを取ろうとする戦略が取られています。
例えばこんなモノが、時には日中の消費電力の「ピークカット」、あるいは「エコ」、「ソーラー推進」「スマート」「セロエネ」という名のもとに販売されています:
http://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/press/20120330sonae/index/
http://www.daiwahouse.co.jp/release/20110920101418.html
http://www.panahome.jp/company/news/release/2012/0201.html
・・・こんなふうにして挙げはじめるとキリがないほど、ほとんどのハウスメーカーですね。
つまり、日本の法制度と各社の取り組み、販売戦略は、一方では「PV推進」と言いながら、他方では、「その行き着く先は、ドイツのように電力系統が感じるほど大きなPV出力になってしまってはうまくない」という矛盾を抱えたものとなっています。
日本の太陽光発電の推進体制は、「日中の発電量を多くする」ように誘導しようとするものだ。それは、「太陽光発電の量が少ない」という状況では、日中の多大な需要をまかなうので、好ましい。
しかし、太陽光発電が普及して、「太陽光発電の量が多い」という状況になると、一変する。ただでさえ不安定な太陽光発電が、いっそう不安定になるのだ。晴れたときには、ただでさえ供給過剰になりがちなのに、変な料金制度のせいで、いっそう供給過剰になる。晴れてないときには供給不足になりがちなのに、変な料金不足のせいで、いっそう供給不足になる。
日本の料金の制度設計の発想はこうだ。
「日中は、晴れていて、太陽光の発電量が多く、需要も多い。だから、高額買い取りで売電を促せば、うまく需給が一致する」
これは、PV発電量が少ないときには、いいだろう。しかし、PV発電量が多くなると、うまく行かなくなる。こうなるからだ。
「日中は、晴れていて、太陽光の発電量が多すぎるが、需要はあまり多くない(天候にかかわらず一定である)。だから、高額買い取りで売電を促せば、ただでさえ変動が大きいのに、いっそう変動が大きくなりすぎて、変動を吸収しきれなくなる」
本質的に言えば、次のようになる。
誤 「夜間よりも日中の方が発電量が多い、という特性のせいで安定化する」
正 「曇りよりも晴れの方が発電量が多い、という特性のせいで不安定になる」
──
そもそも、太陽光発電には、根源的な難点がある。それは、
「太陽光発電の電力は天候によって不安定だ」
ということだ。このことは、太陽光発電の量が少ないときには無視できるが、太陽光発電の量が多くなると、電力システム全体が不安定化する。そのことを忘れてはならない。
なのに、日本の制度設計は、そのことを忘れている。かわりに、次のように考えている。
「太陽光発電の電力は、夜間に少なくて日中に多いので、需給の変動を安定化する」
実際には、それは成立しない。なぜなら、次のことがあるからだ。
・ 曇りの日には、発電しないので、日中の需要をまかなえない。
・ 晴れた日には、発電量が多くなりすぎて、買い取りの出費が増えすぎる。
こうして需給の不釣り合いが拡大してしまう。
この問題を少しでも解決するには、日本とは逆のドイツの方針を取ればいい。こうだ。
「太陽光は、ただでさえ晴れた日の発電量が多いのだから、晴れた日の発電については買い取り価格を下げる。」
要するに、こうだ。
「不安定な電力にすぎない太陽光発電については、供給過剰になりがちな時点(晴天時)での買い取り価格を下げる」
これならば、市場原理に合致するので、妥当である。太陽光発電の買い取り価格は、「23円+基本料」という 26円程度よりも、かなり下げた方がいい。たとえば、20円程度。こうすれば、「晴れた日には自宅で電力を消費する」という行動が取られるので、需給の安定化が導かれる。
ひるがえって、孫正義の言うように 40円程度にすれば、電力の不安定化がいっそうひどくなってしまう。特に、「晴れた状態から曇りになる」ということが、午後4時ごろに起こると、太陽光発電の発電量が急激に低下するせいで、広域で「電力不足」が発生して、「広域の停電」が起こるかもしれない。(リンク先で指摘されている。)
日本の「スマートグリッド」は、電力を安定化させるどころか、不安定化のために役立っている、というありさまだ。で、何でそういうことをするかというと、太陽光発電や蓄電池の会社を補助金でボロ儲けさせるためだ。スマートメーターやスマートハウスのメーカーはインチキなスマートグリッドでボロ儲けしようとするし、ソフトバンクみたいな事業会社は歪んだ料金制度でボロ儲けしようとする。
で、そのあと、日本の電力は歪んだ体制となり、太陽の光が弱まると、とたんにエネルギー供給を失って死んでしまうのである。
[ 付記 ]
「鉄腕アトム」のエプシロンみたいですね。太陽の光を失うと、エネルギー供給を失って、死んでしまうわけ。それが日本のめざす道。……「太陽の光エネルギーがあれば最強だ」と思って進んだあげく、滅亡する。
PLUTO 7 (ビッグコミックス)
【 関連項目 】
ドイツの太陽光発電については、前にも述べた。
→ 太陽光はドイツの例に学べ
※ ドイツの太陽光発電は失敗した、という話。
→ ドイツの太陽光発電 1
※ ドイツが「太陽光発電の推進」という方針を取りやめた、という話。
ドイツでなくスペインの例
→ ソフトバンクは倒産するか?
※ スペインでは太陽光発電の事業会社がどんどん倒産している、という話。
本項(ドイツの会社の倒産)に先立つ話。
CIS系は、「パネルの一部に陰がかかっても発電できる」という長所がある。一方、シリコン系は、そうではない。
そのことは前から言われていたが、下記に実験がある。
→ http://kyusho.blog.moo.jp/?eid=1453964