──
先に述べたように、日本の家電各社は総崩れだ。( → 家電各社が総崩れ )
では、企業はどうすればいいのか? その問題を考えよう。
対比的に考えられるのは、アップルだ。では、「アップルの真似をすればいい」のか? 池田信夫あたりは、そういう考え方のようだが、「アップルの真似をしろ」というのは、凡人に「イチローの真似をしろ」「ダルビッシュの真似をしろ」というのと同様で、無意味である。才能のない人間が、超一流の真似ができるわけがない。
ただし、基本方針だけは、真似ることができる。それは、こうだ。
「利益を重視する」
つまり、売上げ高ばかりを重視するという日本企業の方針を捨てて、利益を重視するわけだ。
では、「利益を重視する」とは、具体的には何を意味するか? こうだ。
「高付加価値のものに絞る」
これはとても重要なことだ。
──
この件は、前項で述べたこととも符合する。
「液晶や太陽電池は、かつては先端技術であったが、今では台湾や中国でも作れる汎用品になってしまった。そこでは技術の優位よりも、コストの低さが重要である。そういうものは、日本企業が作る必要はない」
このことは、頭では理解できても、実感的には理解できないかもしれない。そこで、具体的な例で示す。
「パソコン生産は、以前は世界最先端の技術を要したが、今では容易に生産できる(部品を組み立てるだけで済む)ので、途上国の産業となった」
──
実は、上のことは、IT化という概念に近い。もっと正確に言えば、こうだ。
「生産技術におけるIT化の進展」
これはとても大切なことだ。
通常、IT化というと、人々の使う製品がIT技術によって高度化したことを意味する。たとえば、次のようなものが次々と生じた。
パソコン → ノートパソコン → ケータイ → スマホ ,iPad
このような製品が生じることを「IT化」と見なすのが普通だ。ただしそれは、「消費者にとってのIT化」であるにすぎない。
一方、「生産者にとってのIT化」もある。それは「生産技術におけるIT化」である。……そして、これこそが、先進国の企業を変革の嵐に投げ込んだ。
──
「消費者にとってのIT化」は、誰もが気づいている。人々は、少し前は iPhone のようなスマホに熱中していたし、最近では 新型 iPad に熱中している。こういうITの道具は人々の目を奪う。
一方、企業の場では、IT技術が次々と進展していく。次のように。
・ パソコン生産は、日本企業もやや健闘していたが、今や没落した。
・ ケータイ電話は、日本が i-mode で頑張ったが、今や没落した。
・ ステッパーは、キヤノンとニコンが王者だったが、今や没落した。
・ 太陽電池は、日本企業が王者だったが、今や没落した。
・ 液晶は、日本企業が王者だったが、今や没落した。
・ DRAM は、日本企業もやや健闘していたが、今では完全に没落した。
このような例を見ればわかるだろう。エルピーダが DRAM で没落したのは、別に例外的な現象ではない。他の産業と同様に、またもや没落したというだけのことだ。要するに、昔の企業がそのまま繁栄しているということは、ほとんどない。インテルだけは例外的だが、これはもともと市場を独占していたからにすぎない。市場の独占がない産業では、日本企業はいずれも次々と没落していく。
では、なぜか? 日本企業が他の先進国企業(ドイツや米国)に負けたからか? いや、他の先進国企業(ドイツや米国)は、最初から日本に負けている。それらが勢いを増したわけではない。
では何が日本に取って代わったか? それは、台湾・韓国・中国といった途上国だ。ここが本質だ。
──
要するに、ここで生じたのは、通常の意味の「競争」とは違う。トヨタや日産やフォルクスワーゲンやフォードがたがいに競いあうのとは違う。
ここで生じたのは、先進国の企業同士の争いではなくて、「先進国から途上国へ」という交替なのだ。そして、その理由は、人件費の安さだ。そして、人件費の安さがものを言うのは、次のことが理由となる。
・ 技術の進歩がほぼ停滞している (あまり急激ではない)
・ 途上国でさえ生産できる (生産装置を買うだけで生産できる)
このことが完璧に当てはまるのが、パソコン生産だ。単に部品を組み立てるだけで生産ができる。これらの産業は、マレーシアや中国などの途上国に移りつつある。
いくらか当てはまるのが、太陽電池だ。アルバックなどから製造装置を買うだけで、太陽電池の生産ができるようになる。だから中国企業が急速に延びた。(前項で述べた通り。)
多少は当てはまるのが、液晶だ。普及品の液晶は、かつてはメーカーごとの品質差が大きかったので、画質の優れていたシャープは高価格で販売できた。しかし今では、どのメーカーでも十分な品質を達成できているので、差別化ができにくい。となると、あとはコスト競争になる。すると、日本では勝ち目は薄い。(ただし技術面でも、日本は韓国サムスンに負けつつある。たとえば、新型 ipad の高精細液晶を生産できたのは、現時点ではサムスンだけであり、日本企業は落後してしまった。 → 出典 )
──
ともあれ、生産技術におけるIT化の進展にともなって、IT商品の生産は、途上国に次々と移行しつつある。これが長期的な流れなのだ。この流れを認識することが大切だ。
そして、そう理解すれば、先進国の企業が取るべき道もわかる。こうだ。
「IT商品は、変化が急速だ。すばやく陳腐化する。それにともなって、生産は、先進国から途上国へと移行する。とすれば、先進国の企業は、従来製品を次々と途上国へ移管し、先進国では別に最先端の技術の製品のみを生産するべきだ。そして、それができなければ、事業を丸ごと売却するべきだ」
具体的に言おう。駄目なのは、次のような方針だ。
・ 生産技術が進歩しなくなったプラズマを、いつまでも国内生産する。
・ 生産技術が進歩しなくなった液晶を、いつまでも国内生産する。
前者はパナソニックであり、後者はシャープだ。いずれにせよ、プラズマや液晶を生産することは、10年以上前なら正しかった。なぜなら、当時は最先端技術だったからだ。しかし、5年前ならば、もはや正しくなかった。なぜならば、この時点ではもはや技術が頭打ちになることが、先に見て取れたからだ。となれば、市況が悪化する前に、この分野の国内生産からは撤退するべきだったろう。次のいずれかが選択肢となる。
・ 途上国に生産を移管する
・ 事業そのものを外国に売却する
途上国に生産を移管するのは、それはそれでいい。「空洞化」という言葉に該当するが、別に、日本が空っぽになるわけではないから、問題視するに値しない。( → 空洞化の本質 )
事業そのものを外国に売却するのも、それはそれでいい。たとえば、日立は HDD 事業を全部売却したが、これはこれで賢明な策だ。
また、最も賢明なのは IBM だ。自社の中核事業を次々と売却していった。その一方で、新たに高収益の事業を見つけて、そちらに転換していった。最初は事務機の会社で、次は大型コンピュータの会社で、次はパソコンやソフトの会社で、次はネットの会社で、……というふうに、次々と業態を変遷させていった。その過程で、ThinkPad の部門など、負担となる低収益の部門を売却して、身軽になっていった。
実は、この IBM の方針こそが、最も正しい。
「時代の流れに応じて、次々と低収益部門を売却して、高収益部門に転換する」
これが正解だ。これによって、ある部門が低収益のうちに、その部門を売却するので、売却利益を得る。一方、収益が悪化したまま持ち続ければ、その部門はやがては途上国との争いに負けて、大赤字を生み出すことになる。(それが日本の家電各社だ。会社全体が低収益になったせいで、会社全体の株価が3年間で5分の1ぐらいまで下落してしまった。各社の株価を参照。)
この二つの流れを典型的に示したのが、次の2社だ。
・ コダック …… フィルムに専念して、業態転換ができずに、倒産。
・ 富士フイルム …… ITの波に乗って、業態変化をして、大成功。
──
以上の話から、日本企業が何をするべきかと、何をするべきでなかったかが、判明するだろう。
簡単に言えば、赤の女王の言葉の通りなのだ。
その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない。IT化というのは、いわば激動の嵐であり、すさまじい急流のようなものだ。そのなかで無為にしていれば、たちまち急流に呑み込まれて、後方に押し流されてしまう。そうならずに、現在の位置(世界最先端)を保つためには、全力で走り続けなくてはならない。
(It takes all the running you can do, to keep in the same place.)
そして、そのためには、「プラズマ」「液晶」「DRAM」「太陽電池」という同じ商品にこだわっていてはいけないのだ。それらの商品は、時代の流れのなかで、次々と後方へ押しやられていく。それらにこだわっている限り、自社もまた後方へ押し流されてしまう。急流のなかで押し流されないためには、従来からある「プラズマ」「液晶」「DRAM」「太陽電池」にこだわらず、次々と革新的な製品を生み出す必要があるのだ。その例が、次々と革新的な商品を生み出したアップルだ。
( ※ 仮にアップルが、マッキントッシュとマックノートだけにこだわっていれば、今の成功はありえなかった。)
──
なお、最後に、教訓となる話を示そう。
次々と革新的な製品を生み出すには、次のことが必要だ。
・ 多額の技術開発費 (売上高比 10% )
・ 優秀な技術者を優遇する
・ 権限を(経営陣から)下位に委譲する
この三つを満たせば、次々と革新的な製品を生み出すことは、ある程度は可能だ。しかしながら、日本企業の多くは、その三つを満たさない。一方、サムスンは三つとも満たす。
このような経営方針の時点で、すでに日本企業の多くはサムスンに負けている。例外は、数少ない。
私が以上に書いたことを実行しているのは、日本企業ではなくて、サムスンである。(とすれば、勝敗は最初から自明かな。)
[ 付記 ]
簡単に言えば、こうなる。
「不況だからといって、コストダウンのことばかり考えているから、まともな製品を生み出す開発力を失ってしまった。赤字を減らすことばかり考えているから、黒字を生み出す気概さえもなくしてしまった。貧すれば鈍す」
従業員の賃下げのことばかりを考えていれば、かえってその企業は倒産に近づく、ということだ。
シャープや NEC が定昇廃止や賃下げを提案したが、こんなことではますます開発力がそがれて、いっそう倒産に近づくだろう。
( ※ せめて自社株でも配布すれば、まだマシなのだが。……このままでは貧して鈍して、つぶれるのを待つだけかも。)
[ 余談 ]
古典から引用。
方丈記。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。平家物語。
祗園精舎の鐘の声、 諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらわす。 おごれる人も久しからず、 唯春の夜の夢のごとし。 たけき者も遂にはほろびぬ、 偏に風の前の塵に同じ。
【 関連サイト 】
関連情報として、次の話を引用しておく。
手中の豊富な資金を用いて、アップルは自社が欲しいと思う製品を作ることに特化した、新しい生産設備の建設を援助する。
パートナー企業は、アップルから数年間にわたって仕事を受注でき、アップルはそれと引き換えに新しい分野の製品を製造する能力を持った唯一の企業から独占的に製品供給を受けられる。iPadの製造設備がそのよい例だ。
( → sankeibiz )

→ http://www.mindscope.co.jp/recruit_sp2/
※ お暇な人向け。真面目な人は不可。
→ http://www.asahi.com/business/intro/TKY201203200597.html
→ シャープ株に買い殺到 台湾企業との提携を好感
http://j.mp/GVk8wX
──
これは本項における「事業そのものを外国に売却する」を部分的に実行したもの、と見なせるかもしれない。
IBM がパソコン部門をレノボに売却したように、シャープも液晶事業の一部を台湾企業に(ちょっとだけ)売却したようなものだ。で、そのことで、株式市場では大歓迎されているわけだ。株価はストップ高で、値が付かないありさまだ。
ただ、私が思うには、大型液晶パネルについては、もはや丸ごと事業売却した方がいいですね。堺工場を(子会社とも)半分だけ売却したようだが、半分だけでなく全部売却した方がいい。変に未練を持っているようだと、そのうちまた倒産騒ぎが起こるだろう。
ついでに言えば、太陽光発電事業も同様だ。