2012年03月04日

◆ 地震 と PTSD

 地震被害のあとで、恐怖が募る過剰反応がある。これは PTSD として認識される。では、どう対処するべきか? ──
 
 地震被害のあとで、恐怖が募る過剰反応がある。「怖い、怖い」と思って、正常な日常生活ができなくなることだ。これは PTSD(心的外傷後ストレス障害)として認識される。
 PTSD は、Wikipedia では次のように説明されている。
 PTSD は、危うく死ぬまたは重症を負うような出来事の後に起こる、心に加えられた衝撃的な傷が元となる、様々なストレス障害を引き起こす疾患のことである。
 地震、洪水、火事のような災害、または事故、戦争といった人災や、テロ、監禁、虐待、強姦、体罰などの犯罪など、多様な原因によって生じうる。
 精神療法においては認知行動療法であり、内容としてはEMDRと長期持続暴露がそれにあたる。
( → Wikipedia
 さて。震災一周年を迎えて、「記憶を風化させるな」という趣旨で、テレビ局は震災関連の特集番組を用意している(一部は放送済み)。ところが医師会がこれに横槍を入れている。「病的な被害者の心を傷つけるのは好ましくない」という理由。
 日本医師会が津波の映像を可能な限り自粛するよう、NHKや日本民間放送連盟(民放連)などに要請した。 甚大な被害をもたらした巨大津波の映像は、ショックやトラウマ(心的外傷)を抱える被災者らに不安や苦痛を与える、と考えている。
( → 日医が津波映像「自粛」申し入れ
 上記記事では批判的に紹介されている。たしかに、医師会の方針はおかしい。それはいわば、「インフルエンザが起こったときには、インフルエンザの治療をするかわりに、ウイルスを撲滅すればいい」というようなものだ。見当違いも甚だしい。特に、医師がそんなことを言うのはおかしい。「病気の治療」を目的とする医師がそんなことを言い出したら、病気の治療をする人がいなくなってしまう。(医師は「病気」を前提とした上で「治療」をする。「病気」の原因そのものを撲滅するのは、公衆衛生の問題であって、医師の仕事ではない。)

 そもそも、PTSD が起こる理由は、Wikipedia にもあるように、多種多様にある。そのすべての原因をなくすことはできないし、報道禁止にすることもできない。たとえば、殺人・強姦・自殺などだ。これらの事例はたくさんあるし、これらので被害を負った人もたくさんいる。が、だからといって、「殺人・強姦・自殺などの報道を一切するな」ということにはなるまい。

 ──

 とはいえ、実際に心が傷ついている人もいる。その人たちをどんどん傷つけていいということにもならない。では、どう解決すればいいか?

 一般に、PTSD は、心の問題である。精神の問題である。ここでは、医学的に精神科の治療をするのが、医学的に正しい方針だ。つまり、「病気を治すのは医師に任せろ」というのが正しい。
( ※ 医師会みたいに「治療の放棄」をするのとは反対に、「治療の推進」をするのが正しい。医師会の主張は医学の常道に反している。医学音痴。精神科音痴。精神科の医者が黙っているのが不思議だね。)

 PTSD は、誰にでも起こる問題ではない。心が深く傷ついた少数の人だけの問題だ。具体的に言えば、
  ・ 実質的にひどい損害を負った (例。肉親や財産の喪失)
  ・ その損害から立ち直れない。 (つまり心が傷つきやすい)

 この二点をともに負った人々だけの問題だ。たとえひどい損害を負っても、その損害から立ち直れた人々は、PTSD ではない。
 そして、PTSD の治療とは、このように「立ち直ること」を推進することだ。それは「心を強くする」という内面的なことだ。それは決して「事実を見ない」「事実に蓋をする」ということではない。
 医師会はこの点を誤解している。

 ──
 
 PTSD の治療の方針は、医学的にすでにだいたい定まっている。その治療は、「傷つくような情報を一切隠蔽する」ということではなく、「そのような情報に接することがあっても傷つかないように、心を改善する」ということだ。あくまでその人自身の心の問題としてとらえる。
 他のサイトから引用しよう。
 PTSDの症状が出たときに大切なのは、この病気の特徴と症状を知っておくことです。深刻なトラウマ体験を頻繁に悪夢で見るようになった場合、自分の身に何が起きているのかの見当がつくのとつかないとでは、早期治療の観点からも大きな差があります。
 PTSDという病気の存在を知らず、苦悩を抱え込んでしまうと、かえって症状も悪化しやすく、回復までより多くの時間がかかってしまいます。
 一方、もしも自分が体験している症状が、深刻なトラウマ後は誰にでも起こり得る可能性のあるPTSDと呼ばれる心の病気であり、治療を受けることによって以前と同じような生活レベルを回復できることを知っていれば、すぐ精神科を受診し、治療を開始することにつながり、より良好な回復が望めるはずです。
( → PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療法
  ___

 彼女は、自分の苦しんでいるものが何であるのかがわかり、さっそく精神科を訪れました。そこで、PTSDと診断され、抗うつ剤を処方され、治療を続けて行くうちに、症状は劇的に良くなりました。
 私生活の面でも、素敵な男性とめぐり合い、結婚しました。結婚生活は順調で、娘も生まれ、彼女は立ち直ることに成功しました。
( → トラウマの精神的後遺症−PTSD
 ──

 以上のように、きちんと治療すれば、PTSD という病気は治る。これが本道だ。
 一方、患者の病状を放置して、治療をしないまま、単に「情報からの隔離」を目的として、あちこちで情報を隠蔽しても、無駄なことである。いくら隠蔽しても、いつかは情報に遭遇する。そのとき、いきなり接したことで、かえってショックが大きくなるかもしれない。
( ※ 比喩的に言うと、ふだんから無菌状態に置けば、小さな病原菌に感染してさえ、重症化してしまう。病原菌からの隔離が最適だとは言えない。むしろ免疫力を付けることが大切だ。……医学音痴は、ここを理解できない。誰のこととは言わないが。)

 だから、治療の方針としては、「免疫療法」に準じればいい。つまり、恐怖の対象となるものに、小さな形で接して、徐々に慣れさせることだ。少しずつ慣れることで耐性を付けるわけだ。心の免疫療法。
 ただし、激しい形で強引に見せつけるのは、有害である。(比喩的に言うと、結核の免疫を付けるためには、弱毒化した菌を接種するのは有効だが、強い菌を接種すれば結核に感染してしまい、逆効果だ。)
 だから、その点に注意することが必要だ。

 ──

 具体的な例を示そう。

 例。津波映像の小さな新聞写真を見せるぐらいなら、ショックも小さいので、何度か慣れさせるといい。
 例。「津波」という文字を見せたり、概念的に理解することは、事実の客観視なので有益。
 例。テレビの津波映像を強引に見せつけることは、有害なので、避けた方がいい。
 例。テレビの津波映像をたまたま見たときに、そこから目を逸らす。


 最後の例が大切だ。ここでは、見たくないものをじっくり見る必要はない。無理に見るかわりに、軽く見て、視線を逸らして、受け流すことができればいい。その程度の適応力があればいい。……そして、これができるようになった時点で、病気としてはもはや完治に近い。「見たくないかったものを平気で見られるようになる」ということを目的とするべきではない。普通の人だって、見たくないものはいろいろとある。そういうものをあえて見る必要はない。ただ、(見たくないものを見たときには)視線を逸らすことができればいいだけだ。
 


 [ 付記1 ]
 実際には、津波の番組は放送された。(3月4日(日) 午後9時00分〜9時59分)
  → NHKスペシャル|映像記録 3.11 〜あの日を忘れない〜
 ここでは、津波の映像がたくさん放送されたが、その感想は次のようなものだ。( twitter の発言 )
@gao_lai NHKの震災特集が終わりました。あまりの衝撃に、頭クラクラしてます。福島県を襲った津波の映像、初めて見たような気がします。そしてしつこくNHKのEテレの南三陸町を見てます。市長の話が生々しい。 via web
 2012.03.04 22:11
 ──
@takahisa7BooBoo NHKで、3.11の映像をながしてた。あの時撮されてない映像、リアルに映ってる(;_;)岩手、宮城、福島、茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川... 各県の被害、大津波の様子、本当にこんな事が実際あったのかと思うと... 怖いし心が痛い(>_<) via Twitter for Android
 2012.03.04 22:14
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@ryoko0109 NHKは、見る勇気がなくて見なかった。どうも、震災直後にニュースで流れた亘理や山元町の津波映像がショッキングすぎて、未だにトラウマだったりする。 via Twitter for Android
 2012.03.04 22:13
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@DarkCandyxxx 東日本大震災で被害に遭われた方々の一人一人に記録という壮絶な物語がある。もちろん、私にも。当時の映像を見ると、やっぱり嫌な気持ちになるし、なるべく見たくはない。地震、津波、原発事故から立ち直るにはまだまだ時間が必要だ。余り気が進まなかったけど、見て良かったよ。NHKスペシャル。 via Twitter for iPhone
 2012.03.04 22:14
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@tsukimiyahonpo 震災の直後、何度も見ていたはずの揺れてる最中や津波の映像。今、あらためて見せられると、精神的にかなりくるものがある。NHKが随時「これから津波の映像が続きます」というようなテロップを出している意味がよくわかった。 via web
 2012.03.04 22:14
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@taohuaa NHKの津波の映像鳥肌立った。首都直下型が来たら、、、 via ついっぷる for iPhone
 2012.03.04 22:15
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@33_dad たくさんの人がツイートしているNHKスペシャルの震災映像。特に津波の映像は、目をそらそうとする自分と直視しなければと自分に言い聞かせる自分との葛藤でした。辛い辛い映像です。 via ついっぷる for iPhone
 2012.03.04 22:21
 ──
@HIROMI_0523 NHKスペシャル〜あの日を忘れない〜見てた。初めて見る津波の映像ばっかだった。NHK報道人達が、議論に議論を重ねて作った番組って言ってた。本当にショックな映像ばかりで、絶対に3.11のことは忘れちゃいけないと思ったよ。 via Twitter for iPhone
 2012.03.04 22:15
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@lonewolfpochi スペシャルを見終わって。こうして世に出る映像は撮影者が生きている証。津波後俺は泥の下で三脚付きカメラを何台か掘り出したが、それらは津波の映像を撮ろうと待ち構えていたものと思われる。この番組観て間違っても自分も凄い映像撮ろう等と思わないで欲しい。 via Twipple for Android
 2012.03.04 22:12
 これからもわかるように、番組を見たくない人もいるが、番組を見たことで「有益だ」と感じている人もいる。
 特に(番組とは直接の関係はないが)最後の「三脚カメラ」の教訓は大切だ。YouTube でも、撮影しながら津波に呑み込まれそうになって、危機一髪でかろうじて死なずに済んだ、という例があった。似た例では、実際に死んでしまった人もいるのだろう。
 また、どこかの新聞社員が、カメラをもって撮影していたら、津波に呑み込まれてしまった、という状況が生々しく遠くから撮影されたことがある。( → 報道 ) この人はたまたま助かったから、写真で報道された。しかし、似た例では、実際に死んでしまった新聞社員もいるだろう。その例は、世間には出なかったはずだ。
 そして、こういう事例を一つ一つ記憶して、記憶を風化させないということこそ、われわれの責務なのである。

 [ 付記2 ]
 だから、われわれがなすべきことは、「つらいことがあっても、目を背けるな」ということだ。
 なるほど、つらいことに耐えきれずに、心がひどく傷ついてしまう人もいる。そういう人にまで「目を背けるな」とは言わない。しかし、そういう「心の病人」を除けば、普通の人々はつらい記憶を直視するべきなのだ。
 それは普通の病気でも同様だ。体がひどく虚弱な人は、病院から出られないだろう。そういう病人にまで、「外に出て激しいスポーツをせよ」とは言わない。しかし、普通の人々ならば、あえて外に出てスポーツをするべきなのだ。そのことで体を鍛えるべきなのだ。「スポーツをするとつらいからやりたくない」なんて言い出せば、体はどんどん弱体化していき、かえって病気になりやすくなる。だからこそ医者は、「できる限りスポーツをしましょう」と言うべきだ。
 その意味で、医師会の方針は、医学的にはまったく間違っている。普通の人々にはスポーツが必要なように、普通の人々は津波の記憶を忘れてはいけない。仮に、津波の記憶を忘れたら、次の津波が来たときに、驚きのあまり腰が抜けてしまって、動けなくなってしまい、死んでしまう、……ということもあるだろう。
 つらいものからいくら目を背けても、つらい現実が避けられるわけではない。地震に対して「目をつぶって、見ないでいる」ということで、「津波は存在しない」というフリをすることはできても、現実の津波をなくすことはできない。ならば、現実にある津波を直視するべきなのだ。直視してこそ、津波から命を守ることができる。
 医師会のように「目を背けよう」という方針は、多大な人命を失わせる。医師会がやろうとしていることは、人命を守ることではなく、人命を失わせることだ。

 [ 付記3 ]
 震災1周年で、学校では「作文で震災を振り返る」という教育がなされることがある。(朝日新聞・夕刊・1面 2012-03-04。紙の新聞のみ。ネットにはない。)
 これは妥当であろう。次の二点の意味がある。
  ・ 津波の記憶を文字で客観視することで、PTSD への好影響。(治療効果)
  ・ 普通の人にとっては記憶を風化させない効果。(教育効果)

 これは、津波の映像を直接見せるのとは違って、特に大きなマイナス面はない。また、現実の場では、「強制」はしないで、「書きたくない人は書かなくてもいい」という対処がなされているから、特に問題ない。
 むしろ、これに反対する人がいたら、その方が問題だろう。

 なお、記事では、「カウンセラーを増やしてほしい」という学校側からの要望があった。これは妥当だ。こういう声を聞くことこそ、医師会がなすべきことだろう。……いや、これは、医師の仕事というより、臨床心理士 の仕事かな。
 たいていの医者は、臨床心理士のことなんか、知らないのかも。だから、医師会みたいに、見当違いのことを言い出す人が出てくる。

 [ 付記4 ]
 つらい過去があったからといって、目を背けるべきではない。普通の人にとっては忘れることよりも、むしろ思い出すことの方が大切だ。
 特に、例として、津波の被害者が「どうせ大丈夫だろう」と思って油断したあげく、思いがけない形で命を失ってしまった、という例。そういう例を忘れないようにするべきだ。

 NHK の津波情報では、新たな方針が取られるようになったそうだ。「忘れるな」という趣旨で。
 「東日本大震災を思い出してください!」――。今後、大津波警報が出た際、NHKのアナウンサーはこう呼びかけて避難を促すことになった。
 NHKによると、「命を守るために一刻も早く逃げてください」などの文言を新設したほか、これまでの見ている人を落ち着かせようとする口調はやめる。従来の呼びかける文言は、命令調や断定調に変えた。例えば、「高いところへ逃げて下さい」→「高いところへ逃げること」、「津波は急に高くなることがあります」→「津波は急に高くなります」とする。1年前の震災報道の教訓から、昨年11月に新たな方針を定めた。
 NHKの松本正之会長は1日の定例会見で「もっと切迫感を持って伝えられなかったかと議論した」と明かした。担当者は「テレビ見てる暇があったらすぐに逃げて、と伝えたい」と新方針の狙いを説明する。
( → 朝日新聞 2012-03-02
 これは妥当だろう。心の痛みがあるから、危機感を持つ。危機感を持つから、逃げる。逃げるから、命を失わずに済む。そういうことだ。
 逆に、つらいことから目を背けようとしていれば、いつか命を失うハメになりかねない。人の命を大切にするためには、つらい真実を忘れてはならないのだ。
  


 [ 余談 ]
 本当に病院に行く気になったら、次の点に注意。
 「精神科と心療内科の違い」
 この両者は、混同されやすいし、実際に混同状態にある。看板を見ただけではわからないことが多い。病院に行くときには、あらかじめ、かかりつけ医の紹介を受けた方がいいかも。あるいは、ネットで情報を得るとか。

 ※ 具体的な医療相談みたいなことは、本サイトではやっていません。
   そういうことは、自分でお調べください。



 【 関連項目 】 
 → 津波の動画(東北沖地震 1)
 → 津波の動画(東北沖地震 2)
 → 陸前高田の津波動画



 【 関連サイト 】
 
 → NHKの特設サイト「東日本大震災アーカイブス」
 証言の一例。(NAはナレーション)
 NA:撮影を続けていた池田さんに、近所の人が危ないと声をかけてきました。
 池田:こっち側にいた人が。そっち危ないから、こっちに逃げろって言われて。
 池田:それで、ここで撮っていられないっていうので、それで、今度はこっちに上がったんです。それでこっちに上がって・・・
 池田:あの時、声を掛けられなかったら、やっぱりまだ撮ってましたね。
わあ、すごい、何これと思って、何かずっとそっち方ばかり写していたんです。で、気が付いてみたらやっぱり来ていたんですもんね、足元までね。
 「お父さん、うちが・・・」
 池田:絶対にここまでは上がってこない、っていうのがどこかにあったんですよね。水は、ここまでは来ないって。だから撮らなきゃみたいな。だからうちの人が、俺が叫ばなければおまえは死んでた、って言われましたからね。
 池田:本当に、本当に信じられないですよね。あの道路が見えなくなるぐらいの波が来たんだよって、やっぱり、言葉で言っても信じてもらえないと思うんですね。見たことがない人は。だからあの映像を見せれば、あ、本当だねっていうことになって。ここまで波が来たということを残せただけでもいいのかな。

( → NHK
posted by 管理人 at 23:45 | Comment(1) |  震災(東北・能登) | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
つらい事実ではあったが、忘れてはならない、ということを示す記事。以下、引用。
 ──
> 死者・行方不明者1590人の被災状況を推測することができた。「逃げなかった」が40・0%、被災場所は「自宅など」が44・9%で最も多い。死者・行方不明者の年齢別では70代以上が49・3%に上り、半数を占めた。「逃げる意識」を持つ大切さがあらためて浮き彫りになった
→ http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20120313_3
Posted by 管理人 at 2012年03月13日 19:01
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