医療の問題点を解決するために、診療報酬の改定がなされた。これはこれで有益だが、一番大切な点が抜けている。それは「ベッド数の絶対的不足の解消」だ。 ──
診療報酬の改定がなされた。
→ 診療報酬改定 (朝日新聞)
大事なのは、次の点だ。
・ 救急外科・小児科・産科などを優遇する
・ 大病院の料金を上げて患者を抑制する
これによって現状では医療の不足が起こっている部門を拡大する。
以上の点は、正しい是正の方針であり、大いに歓迎できる。
──
しかしながら、一番の問題となる点が、なおざりにされている。
では、一番の問題点とは何か? 次のデータを見るといい。
→ 救急搬送における医療機関の受入状況
これを見るとわかるように、救急医療では、患者を受け入れてもらえない場合がかなりある。交通事故や脳出血や心臓の血管破裂などで、患者の救急医療が必要なときに、適切な救急病院が見つからずに、あちこちをたらい回しにされることがかなりある。特に、土日の夜間はひどいようだ。
ここでは、救急医療の絶対的な貧困がある。そして、これは、命に関わるがゆえに、とても大切な問題だ。(高齢者が高齢になって癌で死ぬのは天命かもしれないが、救急医療の貧困のせいで、交通事故の若者が死ぬのは、あまりにもひどすぎる。救える命をみすみす見殺しにすることになる。)
では、この問題は、どうして起こるのか? 次のデータを見るといい。
→ 三次医療機関で受入れに至らなかった理由
これを見るとわかるように、三次医療機関(三次救急病院)で患者を受け入れられなかった最大の理由は、ベッドが満床であったことだ。救急患者を受け入れたくても、受け入れるためのベッドがない。そのせいで仕方なく、瀕死の患者を受け入れない。
ここで注意。この病院は、実際には、救急患者を治療する能力はある。医者もいるし、設備もある。なのに、救急患者を受け入れられない。なぜなら、治療しても、治療したあとの患者を置く場所がないからだ。
こうして、「治療は可能だが、治療を断る」という状況が起こる。大いなる矛盾。ここには、ひどい問題がある。
では、この問題は、どうして起こるのか? 次のデータを見るといい。
→ ”ふん詰まり”満床 「救急受け入れ「ベッドがない」
これを見るとわかるように、三次救急病院で患者を受け入れられないということは、原理的にはありえない。なぜなら、治療して日数がたった患者を、次々と一般病院に転院させることが可能だからだ。手術後、数日を経て、転院が可能になれば、他の一般病院(一次・二次の救急病院を含む)に転院させればいい。そうすれば、三次救急病院は、常にベッドをあけておくことができる。
ところが、現実には、そうならない。なぜか? 他の一般病院で、次々とベッドが廃止されているからだ。それというのも、厚労省の方針で、ベッドを次々と削減させているからだ。採算に乗らないせいで病棟が閉鎖されてしまう例も多発している。(介護・治療型の病院から、有料老人ホームに転換する例が増えている。)
要するに、「患者のベッド数削減」という一般的な方針のせいで、三次救急病院の患者を外に転院させることができなくなっている。そのせいで、三次救急病院は救急車の患者を断らざるを得なくなっている。
さらに言えば、もっとひどい問題もある。病院では「金曜入院」がとても多い、ということだ。
→ 朝日新聞:金曜入院と月曜退院が多い病院……
これは、病院の側が意図的にそうしている、という認識のもとで、金曜入院を削減しよう、という方針だ。
一方、次の事実もある。
→ 介護施設が金曜日に患者を病院に押しつける
この記事にあるように、「(介護施設の側は)施設に土日置いておきたくないので,入院させることを目的にわざとそんな時間に受診させたんだろう」という推測が成立する。
つまり、病院の側が入院料を目当てに入院患者を増やしているのではなく、介護施設の側が人手不足の問題を解決するために「土日は病院に入院させる」という方針を取っているようだ。
で、そのせいで、「土日には一般病院が満床となり、三次救急病院では患者を受け入れられなくなる」という問題が発生するわけだ。
( ※ 「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな、複雑な経路だが。しかしこれは冗談ではない。)
──
結論。
医療の最大の問題は、土日の救急医療の不足だ。それが現実的には解決が可能なのに、間違った方針のせいで、あえて「満床」という方針が取られて、満床のせいで医療不足が起こっている。
この問題を正しく理解することが大切だ。そうすれば、何をなすべきかも、わかるだろう。
[ 付記 ]
厚労省は問題を理解していない、ということは、金曜入院の問題を「医療費抑制」という面でしかとらえていないことからもわかる。この件は、下記で指摘されている。
→ 金曜入院と月曜退院にペナルティ!?
金曜入院によるベッド数の不足が、救急医療における「患者の受け入れ拒否」という問題につながっていることは、頭のいい医者でさえ理解できていないようだ。たとえば、次の有名ブログがある。
→ 新小児科医のつぶやき
ここでは、「金曜入院をやめて、どうすればいいか?」と問題提起して、「救急患者を増やせばいい」という結論を出している。
しかしそれは見当違いだろう。一般病院では救急患者なんか、あまり来ない。むしろ大切なのは、三次救急病院や二次救急病院からの転院患者を受け入れることだ。そのことで三次救急病院や二次救急病院のベッドをあけることだ。
ここが大切だ、ということを理解するべきだろう。
また、このような「空きベッドの確保」という点からしても、「三次救急病院では空きベッドがあっても利益が出る」という診療報酬を設定することが大切だ。現状のように、「常に満床でない限り、利益が出ない」というようでは、「救急病院のベッドが常時満床」(つまり救急病院が役立たずになる)という問題は、根源的に解決しがたくなる。
医療については、問題点がどこにあるか、理解しておくことが必要だ。
【 関連サイト 】
→ 救急医療、現場ひっぱく ベッド不足で受け入れ制限も
[ 注記 ]
医学的な専門知識の不足により、間違いが含まれている可能性があります。間違いを見出した場合は、ご連絡ください。
2012年02月10日
過去ログ
《 訂正後 》
(介護・治療型の病院から、有料老人ホームに転換する例が増えている。)