放射線は、その量が少ないときには、有害だろうか? 「有害だ」と見なすのが LNT 仮説だ。その是非を論じる。 ──
LNT仮説については、下記のページに解説がある。
→ LNT(しきい値なし直線)仮説について
ここにある図では、「自然放射線」のレベルでは「被害ゼロ」と見なしているが、それはちょっとおかしい。というのは、自然放射線というのは、世界各地で量が異なるからだ。日本では通常、年間値で 0.6 mSv ぐらいのところが多かった。全国的には 1mSv 以下と見なせた。一方、世界各地では、世界平均で 2.4mSv だし、5mSv は珍しくもないし、10mSv 以上のところも結構ある。(そこで人間が健康に暮らしている。)
だから、「自然放射線のレベル」を基準とするのでは、その基準値自体が定まらない。そんなのはおかしい。
だから、どうせなら、 0mSv を基準として、「少なければ少ないほどいい」というふうに見なすのが、学説としては妥当だろう。(さもないと、学説にならない。数値が曖昧すぎるからだ。)
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一方、放射線量が少ないときにはどのくらいの影響があるかは、よくわかっていない。
・ 一定の値(閾値)以下では、影響はない。 (閾値説)
・ 一定の値以下では、かえって好影響がある。(ホルミシス説)
という二種類の説がある。
この二種類の説については、次のページに図の説明がある。(比喩的な話だが。)
→ 閾値とかホルミシス効果とかをバナナで説明してみる
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さて。これらの説のうち、どれが正しいのか? いきなり結論を言えば、「どれが正しいかは不明である」というのが現状だ。
ただしそれは、「まったくわかっていない」という意味ではなくて、「断定できるほどにはデータが集まっていない」という意味だ。断定できない程度であれば、かなりわかっている。多くの医学データが、「少量の放射線はかえって有益なことが多い」という数値を示している。(出典は? Wikipedia や Google を見ればわかる。)
その意味は、「放射線は人間にとって無害有益である」ということではなくて、「有害な点もあるかもしれないが、有害な点よりも有益な点の方が上回っている」ということだ。この件は、前にも述べたとおり。
→ 放射線とホメオパシー
ここでは「放射線は……何に近いかと言えば、塩素に近いだろう」と述べた。つまりは、有害な点よりも有益な点の方が上回っている、ということだ。(害が皆無だという意味ではない。)
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その項目で述べた話をさらに引き継ぐと、次のように言えるだろう。
放射線は、毒ではない。なぜなら、毒として有害になる生理的な経路がないからだ。
一般に、毒には、有害になる生理的な経路がある。(フグの)テトロドトキシなどの神経毒にも、亜ヒ酸などの細胞毒にも、それが毒となる生理的な経路がある。その経路に働くことで、人体に致命的な影響を及ぼす。たとえば、神経毒が働くと、呼吸がマヒして、人間が死んでしまうことがある。細胞毒が働くと、心臓が弱まって、人間が死んでしまうことがある。……このような毒は、たとえ致死量以下でも、場合によっては致命的な影響を及ぼすことがある。だからこそ、なるべくゼロに近づける必要がある。
一方、放射線は、そうではない。放射線は、毒として有害になる生理的な経路がない。放射線が巨大になると、人間が死ぬこともあるが、その場合も、全身が衰弱する形で死ぬ。特定の局部に致命的な作用が働くのとは、事情が異なる。
では、このような放射線の悪影響は、他の何に似ているだろうか? ……そう思って考えてみると、似た例が思いついた。それは、熱である。
人間は、高熱にさらされると、死んでしまう。典型的な例は、五右衛門風呂で殺された石川五右衛門だ。一般に、体温が 42度を超えると、細胞が変質して、生物は死んでしまう。
気温だと、42度を超えても、人間は大丈夫であることが多い。衣服を着ているとか、汗をかくとかの、何らかの防護措置が働くからだ。それでも、気温がどんどん高くなって、そこに長い時間いれば、人は耐えきれなくなって死んでしまうだろう。
そこで、温度と時間と積を「熱責め」と称して、熱責めの量と死亡率とを、グラフに取ると、「熱責めの量と死亡率とは比例する」というグラフができるだろう。LNT仮説のように。
では、その仮説は正しいか?
高温のときならば、正しいだろう。「熱責めの量が多いほど死亡率が高くなる」という、ほぼ正比例のグラフが描けるだろう。
低温のときならば、どうか? 「やはり同様だ」と思うかもしれない。「高温のときには比例関係が成立するならば、低温のときにも比例関係が成立するはずだ」と。……そして、それを「科学的に合理的な説だ」と思うかもしれない。
しかし、その説に従えば、気温をどんどん下げる方がいいことになるので、「基準値(たぶん摂氏零度)の気温では死亡率が一番低い」というふうに見なしそうだ。しかし、気温が零度では、死亡率はかえって高まる。
正しくは、20度〜25度ぐらいの気温が一番快適だ、ということだ。そのくらいの温度が、一番死亡率が少ないはずだ。
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というわけで、熱に関する限りは、LNT仮説は成立しない。「気温が高ければ高いほど死亡率が高い」ということが成立するとしても、それは、気温がとても低いときにまで成立するとは言えない。気温があまり低いと、かえって死亡率が上昇してしまうのだ。
同様に、「放射線が低すぎると、かえって死亡率が上昇してしまう」ということがあっても、何ら不思議ではない。たとえば、次のような生理的構造があるかもしれない。
「人体にはある種の有害な物質が発生する。(活性酸素など)。それらの物質を、なるべく分解した方がいいのだが、そのような仕組みはなくても、自然放射線のおかげで、自然に分解されてしまう。だから、人体があえてそういう仕組みを備える必要がない」(これは、人体がビタミンを生産する仕組みを必要としないのと同じだ。)
このような事情にあるとすれば、人体は、自然界にあるビタミンを利用するのと同様に、自然放射線を利用していることになる。なのに、その自然放射線が完全に遮断されてしまったら、それは、「必要な塩を得られない」という事情に似て、かえって死亡率が上昇してしまうことになる。
これと似た事情の例は、いろいろとある。
・ クロムは人体の必須元素である。
・ ヨウ素は人体の必須元素である。
・ 塩(NaCl)は、人体の必須化合物である。
これらは、いずれも必須なものであるが、過剰に取ると、人体には有害となる。
放射線もまた同様だと言えるだろう。(たぶん。……まだ証明はされていないが。)
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なお、次の立場もある。
「有益かもしれないが、まだはっきりとしていない。危険である可能性もある。ならば、念のために減らすべきだ」
これはこれで、妥当な判断だと言える。ただし、「平常時ならば」という前提が付く。
平常時ならば、その判断を取ってもいい。なぜなら、コストが(ほとんど)かからないからだ。そういう方針を取っても、別に問題ない。
事故時には? すでに原発によって大量の放射性物質がまき散らされてしまった。この状況で、平常時のレベル(年1mSv)まで放射線を減らすには、莫大なコストがかかる。ざっと見て、100兆円だ。国民1人あたり 100万円ぐらいになる。それだけのコストをかけるとしたら、それだけの増税が必要となる。では、そんなことをするべきか?
「命を救うためであれば、どれほどコストがかかっても、やるべきだ」
という発想がある。しかし、コストがかかるということは、人命を奪うということだ。
一般に、多大な金銭コストは、人の死を増やす。たとえば、所得が減って、その分、働く時間が増えるので、過労死する。あるいは、栄養失調や睡眠不足で、免疫力が低下するので、病気にかかりやすくなる。だから、保健的・公衆衛生的には、金銭的なコストは生命コストにつながる。100兆円もの増税をすれば、ざっと見て、 10万人ぐらいは死ぬだろう。これは原爆並みの威力だ。
( ※ 死因は、過労死や疲労だ。ただ、GDPが5〜10%程度減るだけでも、年間の自殺者が1万人から3万人に増えてしまう。ここには健康被害は含まれない。……とすれば、100兆円で 10万人の死者増加というのは、見込みが甘すぎるかもしれない。実際には 50万人ぐらいの死者増加になるかもしれない。)
「放射線が少ない方がいい」という発想は、原爆を爆発させるのと同じぐらいの死者をもたらすことになる。つまり、「福島原発の被害を完全になくせ」という発想は、日本に原爆を爆発させるぐらいの被害をもたらすのだ。いわば、「原発が怖いから、原爆を爆発させる」というようなものだ。狂気の沙汰。
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結論。
LNT 仮説は、真実だとは見なされない。真実ではないものをやたらと信じると、かえって逆効果になる。
あまりにも「怖い、怖い」と思っていると、枯れ尾花を見たとき、幽霊だと勘違いする。そのあげく、いきなり走り出して、棒に当たって、死んでしまうかもしれない。
やたらと「怖い、怖い」と思わずに、平然としている方が、かえって長生きできる。あまりにも「怖い、怖い」と思うと、かえって自分自身に原爆を落とすことになる。自殺行為。
( ※ たとえば、福島の放射線が怖いと思って、県外に出たあげく、無職になったりして、所得を失えば、それだけで死亡率は大幅にアップする。)
[ 付記 ]
原発では、死者は出ていない。しかし、池田信夫の見解では、原発で数千人の死者が出たそうだ。菅直人を憎むあまり、「原発で死者数千人」というデマを振りまいている。
→ 池田信夫のツイート
※ この発言の詳しい解説は、「泉の波立ち」の 12月24日c の箇所に記してある。
【 関連サイト 】
池田信夫が、LNT仮説を否定する専門的な研究を紹介している。要約。
→ http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51770075.html
→ http://agora-web.jp/archives/1419309.html
もっと詳しい話は、下記の検索結果を一つ一つ見ればいい。
→ http://goo.gl/Jjs8W ( Google 検索)
2011年12月24日
過去ログ
いつも大変興味深くブログを拝見させて頂いております。
貴方のブログでは、インフルエンザに関する危険性等の様々な知らないこと、考えついていない多くの点を勉強させて頂いております。
ただ、
>原発では、死者は出ていない。しかし、池田信夫の見解では、原発で数千人の死者が出たそうだ。菅直人を憎むあまり、「原発で死者数千人」というデマを振りまいている。
という点に関しては流石におかしい気がします。ある程度誇張表現は読者への爽快感というか、そういう点で重要とはなりますが、、、
今回の内容では他のブログ等での池田氏の記事を見るにさすがに氏の意図とは反対の意見だと思うからです。
「泉の波立ち」の中で管理人様が触れているように、数千人の死亡と菅前首相の行動へのつながりはないというのはわかります。ただ、どこにも『原発』でとは書かれておりません。
個人的には池田氏は津波の被害を勝手に菅前首相のせいにしたい、という意識で書かれたのではないかと考えております。少なくとも池田氏自体も原発は安全という主張のもとで多くの記事を書かれていることから、流石に原発被害が数千人というのは、氏の意図とは反していると思います。
まぁ、だからといって、あの池田氏の発言自体が事実に反していることは確かだと思いますが。。。
まあ、そうかもしれませんが、どっちみち、論理の筋道が立たないので、「これが正しい解釈」というのは成立しないでしょう。
私の解釈が正しいというよりは、「こんな解釈も成立する」というぐらいの悪口だと思ってください。あまり論理的に考えると、おかしなことになります。「どの非論理が最も論理的にか?」ということになるので。
「どの非論理もデタラメだ」という、ただの悪口だと解釈するのが妥当です。もちろん、私の悪口にも、論理は通っていません。 (^^);
だから、「その悪口は非論理的だ」と指摘されても。……
なお、
> さすがに氏の意図とは反対の意見だと思うからです。
というのはその通りで、私の文意もそうです。つまり、「自分が普段言っていることと矛盾する、自己矛盾」という指摘です。「死者数千人なんて変なことを言うと自己矛盾になりますよ」という意味。
だから、おかしな結論になるのは、それはそれで妥当。「おかしくなる」というのが私の指摘なんだから。
http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/shinsou_top/20111228.html
によると100mSv未満でも影響があるようですが。
と池田信夫が息巻いています。鬼の首を取ったかのごとく大騒ぎ。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51765226.html
http://twilog.org/ikedanob/date-111230
http://twilog.org/ikedanob/date-111231
泉の波立ち でもちょっと言及したとおり。
NHK は分が悪い。この件は池田信夫の勝ち。
今回も同様で、どういう数値エラーがあったかを、池田信夫が指摘しています。
一人だけ学界の常識に反する報告を出したなら、「自分は間違っていないか?」とチェックするのがまともな研究者です。
なのに、「学界の常識に反する別の結論を出したから、これは画期的な新発見だ」と思うようでは、トンデモ扱いされても仕方ないですね。
ま、トンデモと言うよりは、ただの××かもしれませんが。
線源がラドンかもしれないしカリウムかもしれない
ラドンやカリウム10シーベルト分と
セシウム10シーベルト分と比べないままの
論調はどうなんでしょ??
無害と言われる
自然放射線の核種は人間が長い年月で適応力を
獲得したものですから
単に放射線 何シーベルトという論調には
違和感を感じます。
> 無害と言われる 自然放射線
そんなことはありません。それは「自然のものならば安全」という妄想。
http://d.hatena.ne.jp/buvery/20120105/
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/d/1112.html#29
ちょっと読んだだけではわからないような、細かな数値処理の話。簡単に言えば、NHK の数値処理が初歩的なミスであることを、何人もの識者が指摘している。
NHK は、「100mSv 以下では危険だというデータはない」という通説を批判して、「いや、実は危険なんだぞ」という新説を出しているが、実は、その新説は初歩的な数値処理のミス(というか偏見ゆえに起こる勘違い・牽強付会)である、……と指摘されている。
で、NHK は、指摘されても知らんぷりしているので、何度も批判されている。
「100mSv未満の線量なら発がんリスクなし」
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/hotnews/int/201103/519126.html
※ 発癌のリスクのみ。免疫力低下などの症状は別。
※ それでも 30mSv/年 以下ならば無視していいと言える。
放射線被ばく基準の意味
中川 恵一東京大学医学部附属病院 放射線科准教授
http://www.gepr.org/ja/contents/20120109-01/
上記抜粋1・・・はじまり
[1] そもそも、数mSvの被ばくで、がんが増えると考える“真の専門家“などいない。
・・・抜粋・・・おわり
上記は全く正しいが、それと同時に「解らない」と主張している。
そこで、「解っている」事は何かを考えると・・・
放射線によって「DNA」が損傷を受ける。
上記において、「DNA」の損傷、修復は常時行われているので「問題なし」と主張する輩がいるが・・・まあ、我々「大人」はその通りで、放射能よりも生活習慣に留意するほうが重要に思える。
しかしながら、細胞分裂等が活発な「子供」に関しては、やはり「データ不足*」はあるのだが、「知識人」、社会が「リスク管理」をすべきだと考えます。
もっとも、「データ不足」では適切な評価はできないので、結果、安全サイドに偏ってしまいますが・・・
*上記抜粋2
“そもそも科学的なデータ(リスク評価)”
→「データ不足」
「別に危険じゃないけど、政府がそう言ったから、そう言ったことを守れ」という、約束を守るか否かという問題に転換してしまった模様。
→ http://bit.ly/AeE91V
→ http://togetter.com/li/239729
→ http://sustainablejapan.net/?p=1065