2011年12月18日

◆ スマートグリッドと家電(HEMS)

 スマートグリッドと家電を高度に結びつけるための規格として、「HEMS」という統一規格が定まりつつある。これは、素晴らしく頭のいい方に見えるが、発想に穴があいている。 ──
 
 スマートグリッドと家電を高度に結びつけるための規格として、「HEMS」という統一規格が定まりつつある。記事を紹介しよう。
 《 家電やEV、つないで節電 メーカー各社が統一規格合意 》
 家電、自動車、住宅メーカーが、家庭の省エネルギーのために家電や電気自動車などをネットワークでつなぐ仕組みをつくる。各機器のメーカーが違っても、太陽光発電など自然エネルギーの電力を効率よく配分したり、自動的に節電したりできるようにする。
 これは「家庭用エネルギー管理システム」(HEMS)という仕組み。エアコンや太陽光パネル、蓄電池、電気自動車を無線などでつなぎ、自然エネルギーによる電力を効率よく使う。東芝やパナソニック、トヨタ自動車、積水ハウスといった家電、住宅、自動車など約680社が、HEMSと各機器の間で基本的なデータを送受信する方式を統一することで合意した。来年夏から、この方式を使った家電などが順々に発売される見通しだ。
 
( → 朝日新聞 2011-12-16
 これは、私の提案した「スマート家電」という案に似ているように見える。
  → スマート家電 > 蓄電池
 そこで、この HEMS というのを、詳しく調べてみる。

  → http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=17
  → http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1107/26/news065.html

  → http://202.214.174.229/article/tk/20100420/222379/
  → http://www.nec.co.jp/environment/energy/sl/hems.html
  → http://www.nec.co.jp/environment/energy/tvcm2.html
  → http://j.mp/ujGSc8 (日経)
  → http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110929/108565/ 
  → http://allabout.co.jp/gm/gc/379478/
  → http://sangyo.jp/ri/sg/na/article/20110421.html
  → デジタルグリッド」

 これらを見ると、私の「スマート家電」と同様の発想をしているとわかる。だが、あまりにも愚劣である。簡単に言えば、「仏作って魂入れず」あるいは「猫に小判」である。
 要するに、原理だけは考えているのだが、その原理に従って実際にどういうふうに制御するかを、まるきり理解できていないのだ。馬鹿がハサミをいじっているようなもので、便利な道具を手に入れても、その道具の使い方を理解できていない。
 以下では、具体的に指摘する。大別して、(1)(2)の2点がある。

  ※ HEMS の端末のことを「スマート端末」と呼ぶことにする。
 
 ──

 (1) 表示と制御

 HEMS の主な機能は、「表示と制御」である。つまり、
  ・ 電力の使用状況を表示する
  ・ 電力の使用状況に応じて機器を制御する


 たとえば、次のように。
  ・「電力消費が多すぎるので、電力使用を抑制してください」と表示する
  ・「電力消費が多すぎるので、電力使用をやめよ」と機器を制御する


 しかし、このいずれも、不要な機能だ。
  ・ 制御はオートマチック化するべきだから、人間への表示は不要である。
  ・ 機器をいきなり制御するのは粗っぽすぎる


 ここで「粗っぽすぎる」というのは、次のことを示す。
 「スマート端末が勝手に電源を ON・OFF するのは、問題を起こしがちだ」
 たとえば、電力不足のときには、次のようになる。
  ・ 暑いのに勝手にクーラーが切れてしまって、病人が死ぬ。
  ・ 暑いのに勝手に冷蔵庫が切れてしまって、冷凍食品が溶けてしまう。
  ・ 寒いのに勝手に暖房が切れてしまって、赤ん坊が風邪を引いて死ぬ。

 このように勝手な電源 OFF をすることが問題だ。
 かといって、人間に促すのでは、安全ではあるが、面倒臭くて、使い物にならない。

 では、どうすればいいか? こうすればいい。
 「スマート端末が勝手に電源を ON・OFF するのではなく、スマート家電の側が自動制御すればいい」
 たとえば、電力不足のときには、次のようにする。
  ・ クーラーは、自動的に設定温度を少し上げる。
  ・ 冷蔵庫は、自動的に午後に設定温度を上げ、午前は設定温度を下げる。(蓄冷)
  ・ 暖房機は、自動的に設定温度を少し下げる。

 これらの場合には、電源を ON・OFF するのではなく、設定温度を変更する。その制御は、スマート端末の側がやるのではなく、家電の側がやる。家電の調整はあくまで家電の側(そこに組み込まれた CPU とソフトウェア)が行なう。

 だから、スマート家電に渡すべきデータは、「管内の電力使用量全体の、現在データと予報データ」だけである。スマート家電が実際に電力を食うかどうかは、スマート端末の側が制御するのではなく、スマート家電が自律的に制御する必要がある。
 これが基本原則だ。この基本原則を理解していないという点で、HEMS という規格は欠陥規格だと言える。実際、そのせいで、前述のような被害(場合によっては物質が損壊したり人間が死んでしまうこと)が起こりかねない。
  
 ITの世界では、「中央制御」から「分散制御」という方向の流れがある。なのに、家庭内において「スマート端末で中央制御しよう」という発想が、根本的に時代遅れなのだ。
 それよりはむしろ、それぞれの家電の側で、それぞれの機器ごとに(分散的に)最適制御する方が、ずっと賢明である。なぜなら、それぞれの状況でどのように制御するのが最適であるかは、家電の側が知っているのであり、スマート端末の側は知らないからだ。

 (2) 蓄電池の愚

 新聞記事によると、「デジタルグリッド」という言葉のもとで、「太陽光発電と蓄電池を、スマートグリッドで賢く制御」という発想がある。
 しかし、このように蓄電池を使うのは愚劣である。そのことは、すでに示した通り。
  → スマートグリッドの愚
 要するに、蓄電池はあまりにも高コストであるから、(風力発電などの)電力供給の変動を吸収するには、適していない。莫大なコストがかかる割に、効果はあまりにも僅少である。
 では、どうすればいいか?
 「供給の側でなく需要の側で変動を吸収する」

 というのが、私の提案だ。たとえば、クーラーを ON・OFF したり、冷凍庫を ON・OFF したりして、需要の側で電力供給の変動を吸収する。

 ここで、次の難点が生じる。
 「クーラーや冷凍庫の ON・OFF は、10分間ぐらいの停止ならばまったく問題がないが、10分間を超えるようだと、問題が出る」

 この難点を解決するには、どうすればいいか? 次のようにすればいい。
  ・ 10分間未満の急変動は、需要の側で吸収する。(スマート家電で)
  ・ 10分間以上にわたる変動は、火力発電で対応する


 火力発電は、1分間未満の急変動には対応できないが、10分間ぐらいの時間をかければ、十分に変動に対応できる。だから、
   スマート家電(需要減) + 火力発電(供給増)

 という組み合わせにすれば、あらゆる変動に対応できるのだ。

 たとえば、事例を示すと、こうだ。
 「急に風が弱くなって、全国の風力発電量が急減した。同時に、運悪く、雲のせいで太陽光発電の量が激減した。そのせいで、1分間で発電量が3割も低下してしまった。大変だあ!」
 「大丈夫だ。こんなこともあろうかと。まずはスマート家電がいっせいに電力使用を落として、アイドリング状態になる。クーラーは送風状態となり、冷蔵庫は運転を止める。これで急激に電力需要が減少する。その間に、少しずつ火力発電の出力を上げていく。火力発電の出力が十分になったら、そのことをスマート家電に伝える。すると、ストップしていたクーラーや冷蔵庫が稼働し始める。クーラーや冷蔵庫が止まっていた時間は、火力発電が出力を高めるまでの、10分間だけだった。これなら、ストップしていたことの問題は、何もない」
 
 さらに言えば、次の事例も考えられる。
 「今日はものすごい猛暑日です! クーラーも冷凍庫も止める余地はありません。また、火力発電所の発電量は、すでに 100%であり、これ以上、火力発電を増やす余地はありません。大変だあ!」
 「大丈夫だ。こんなこともあろうかと。今日は猛暑日だと予想されていたから、あらかじめ昨日のうちに、企業に猛暑休業を要請しておいた。あちこちの企業がすでに休業しているから、特に問題はない。また、もし問題が起こりそうになったら、あちこちの稼働中の企業に(短時間の)臨時休止を要請するから、それで対処できる」( → 前出項目
 
 まとめると、次のようになる。
  ・ 分単位の変動は、家庭のスマート家電で吸収する (需要側・家庭)
  ・ 10分以上の変動は、火力発電所で吸収する (供給側)
  ・ 1日単位の変動は、産業界の猛暑休暇で吸収する (需要側・産業)


 このように、対処する部門をきちんと分担させることが大切だ。これが基本原則となる。
 なのに、その基本原則もわきまえず、やみくもに「スマートグリッドがあれば大丈夫」なんて思うのは、頭があまりにもスマートでない。(= 賢くない。愚かである。)
 
 スマートグリッドを導入するに際して、最も大切なことは、機器をスマートにすることではなくて、人間の頭をスマートにすることだ。
 いくら文明の利器があっても、それを馬鹿が使うのでは、「馬鹿がハサミを使う」ようなもので、まともに使いこなすことはできない。




 以下は、細かな話題。特に読まなくてもいい。

 [ 付記1 ]
 HEMS では、通信に無線を使うことが前提とされているようだ。具体的には、次の話がある。
 無線は特定小電力無線(950MHz帯)を使用しています。電子レンジや無線LANなどの電波の影響を受けにくく、安定した通信が可能です。
( → NEC
 こういうふうに、通信は無線機器を使うことになる。
 しかし、たかが電力使用データを伝達するに、無線機器を使うのでは、オーバースペックだろう。コストがかかりすぎるだろう。また、場所によっては電波が到達しにくい、という問題が起こることもある。
 それよりは、電灯線で屋内通信をする方が、実用的だろう。
  → 電力線搬送通信

 なお、現時点で無線通信のコストを調べると、無線LAN プリンタはコストが 1000円アップになっている。他に、通信の親機が必要で、これが1万数千円となっている。ただし、無線LAN の親機と兼用になるようだ。
 スマート端末の場合も、親機と子機で、それぞれ同等ぐらいの価格になりそうだ。

 [ 付記2 ]
 電力の変動を吸収する方法として、次の方法もある。
 「電力供給が過剰になったときに、余剰の電力で、燃料電池用の水素を生産する。たとえば、夜間の風力発電の電力が余っているときに、その電力で水素を生産する」
 これはこれで一案だ。少なくとも、蓄電池よりはずっとマシだろう。
 とはいえ、この方式は、短時間の急変動には適していない。クーラーや冷蔵庫ならば、一瞬のうちに ON・OFF が可能だが、工場における水素生産は、そんなに簡単には ON・OFF ができない。せいぜい 10分単位だろう。となると、あまり実用的ではない。
 
 そもそも、このことが成立するには、燃料電池車が普及して、水素の需要が十分にあることが前提となる。また、風力発電が普及するために、海上風力発電が広く実用化されていることも前提となる。……となると、これらのことが実現するのは、あまりにも遠い将来のことになりそうだ。少なくとも、あと 30年ぐらいは、実現しないだろう。ほとんど夢物語に近くなる。今現在の時点で話題にすることではないだろう。
posted by 管理人 at 21:45| Comment(10) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
真田さん、そしてハヤブサが垣間見えましたが、これはちょっとしたお楽しみですね。
一番大変なのが産業界のご協力でしょう。多分猛暑休暇を拒否するでしょうね。
Posted by 京都の人 at 2011年12月18日 23:47
猛暑休業を実施した企業は、需給調整契約を結ぶことで、年間の電気料金を大幅に引き下げられます。具体的には、その日の電気代が100万円ぐらい安くなり、さらに加えて、年間の電気料金が3000万円ぐらい割引になります。(電力会社の過剰投資が不要になった分。)
 仕事をするより、休んだ方が、よほど金儲けができます。かなり多くの企業が休業するでしょう。

 参考:
 需給調整契約
 → http://openblog.meblog.biz/article/5425728.html
Posted by 管理人 at 2011年12月19日 00:38
スマート家電で事故が起きた時の責任は誰が取るんですか?。


猛暑休業を実施すると商品の納期が
メチャクチャになり
経済活動に支障が出るのでは?。
Posted by ジミー at 2011年12月21日 05:40
>スマート家電で事故が起きた時の責任は誰が取るんですか?。

普通の家電が自動温度調節して事故が起こったときの責任は誰が取るんですか? ……というのと同じ。何も特別なことはありません。(もともと単に設定温度を変えるだけです。たとえばクーラーの設定温度を26度から30度に変える、というふうな。)

> 猛暑休業を実施すると商品の納期が メチャクチャになり 経済活動に支障が出るのでは?。

 そういう会社もありますから、あくまで自己判断でやることになります。大丈夫な会社だけがやればいい。全体の2割ぐらいがやれば十分。
 やりたくない会社は、やる必要がありません。かわりにすごく高い電気料金を払うだけ。
 一般的には、在庫は1週間以上あるので、1日休んでも、土曜に働けば、何も問題はありません。
 なお、欧州では、1カ月ぐらいのバカンスがありますが、それで大混乱になることはありません。1日休んで大混乱なんて思うのは杞憂。日本だってちょいちょい祝日で休みます。
Posted by 管理人 at 2011年12月21日 12:21
>一般的には、在庫は1週間以上あるので、1日休んでも、土曜に働けば、何も問題はありません。
 >なお、欧州では、1カ月ぐらいのバカンスがありますが、それで大混乱になることはありません。1日休んで大混乱なんて思うのは杞憂。日本だってちょいちょい祝日で休みます。

猛暑日一週間続いたらどうするのですか?
欧州のバカンスのようにあらかじめ休みが決まってれば前もって在庫の準備が出来ますが
いつ来るか猛暑のために多めの在庫を用意するのは難しいのでは?。
Posted by ジミー at 2011年12月26日 00:17
> 猛暑日一週間続いたらどうするのですか?

 一週間も連続することはほとんどありません。
 猛暑の定義は「電力が逼迫するほどの猛暑」ですが、過去の例では、「電力が逼迫するほどの猛暑」になったのは、毎年散発的に4日間ぐらいです。続いても二日間です。

> 欧州のバカンスのようにあらかじめ休みが決まってれば前もって在庫の準備が出来ますが

 猛暑もそうですよ。天気予報により、数日前に予報されています。だいたいの時期なら、7月と8月に限られています。しかも、そのうち多くは、夏休みと重なります。

 そもそも、部品の在庫が心配なら、自分も休んじゃえばいいんですよ。
 ついでに言えば、取引先が十日間の夏休みだからといって、文句を言う会社はありません。自社も休めばいいだけの話。
 夏休みが少し増えたぐらいで困る会社はない。もしあれば、淘汰されて、さっさと倒産してしまえばいい。かわりの会社が同等の製品を生産しますから、それで十分。夏休みも取れない駄目会社は、さっさと退場するべし。
Posted by 管理人 at 2011年12月26日 00:30
>そういう会社もありますから、あくまで自己判断でやることになります。
>大丈夫な会社だけがやればいい。全体の2割ぐらいがやれば十分。
>やりたくない会社は、やる必要がありません。かわりにすごく高い電気料金を払うだけ。


制度に参加したくても業務の形態上参加できない会社も
制度に参加してないという理由だけで高い電気料金を払わなければいけないんでしょうか?
仮にそうだとするとちょっと理不尽ではありませんか?。
Posted by ジミー at 2012年01月14日 01:51
需要が多くて供給が少ないときには、価格が上昇する、というのが市場原理です。
 必要性に応じて安価で提供する、というのは、社会主義政権下の配給制です。
 あなたの主張を実行したければ、日本を共産主義にする必要があります。
 ま、基本的には、あなたの発想は共産主義です。北朝鮮に行くと、お望みの通りになります。
Posted by 管理人 at 2012年01月14日 06:37
>需要が多くて供給が少ないときには、価格が上昇する、というのが市場原理です。
>必要性に応じて安価で提供する、というのは、社会主義政権下の配給制です。


もう少しかいつまんだ説明お願いします。
Posted by ジミー at 2012年01月14日 13:12
私は初心者向けの親切な説明はしない方針なので、わからなければ諦めてください。
 ま、そのうち計画停電になると、私の言うことが理解できるでしょう。「電気がないよりは電気が高い方がマシだ」と。
Posted by 管理人 at 2012年01月14日 21:39
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