2011年12月17日

◆ 燃料電池車を推進するな

 燃料電池車の実用化が遠くないらしい。しかし燃料電池車を推進するべきではない。なぜなら、熱効率がひどく悪くて、地球温暖化が進むからだ。 ──
 
 燃料電池車の実用化が遠くないらしい。トヨタや GM などは、2015年ごろの販売を見込んでいる。価格そのものは今の電気自動車みたいに高いらしいが、政府の補助金があれば商売になると見込んでいるようだ。
 しかし、政府は補助金を出すべきではない。つまり、販売を推進するべきではない。なぜか? 「燃料電池車は、炭酸ガスを出さないので、地球温暖化の問題で有利だ」と言われているが、実は、その逆だからだ。燃料電池車は、炭酸ガスの排出量がかえって多い。これが真実だ。

 ──

 まず、俗説を示そう。
 「燃料電池車は、炭酸ガスを出さないので、地球温暖化の問題で有利だ
 という俗説がある。その理由は、こうだ。
 「燃料電池車は、水素だけを燃やして、炭酸ガスを燃やさない。ゆえに、炭酸ガスの排出がゼロだから、地球温暖化の問題で有利だ」
 
 しかし、これはペテンである。なぜか? その理由は、こうだ。
 「燃料電池車は、水素だけを燃やして、炭酸ガスを燃やさない。しかし、水素を生産する過程では、化石燃料(水素と炭素の化合物)を使って水素を生産する。その際、炭酸ガスが副次的に生産されるが、その炭酸ガスは、大気中に放出される」
  
 この問題を解決する方法として、「炭酸ガスをトマト生産に利用する」という案がある。
  → 水素ステーションで回収したCO2を植物工場のトマト栽培施設に利用
  → CO2でトマト栽培−燃料電池車向け実証実験

 しかし、こんなことで利用できる量は、たかが知れている。世界中で大量に消費される自動車燃料(水素)を生産するときに副次的に産出される炭酸ガスの量は膨大だから、とても消費しきれない。要するに、1%の炭酸ガスを利用することはできても、99%の炭酸ガスはそのまま大気中に放出される。
 その意味で、いかにトマト栽培を利用しても、炭酸ガスの放出は止められない。

 ──

 さらに言えば、燃料電池車では、炭酸ガスの産出量が「減らない」どころか「増える」ことになる。なぜか? 
 燃料電池車では、水素を生産するために、炭素のエネルギーを利用する。
  → 水素生産のペテン
 つまり、せっかくある炭素のエネルギーが、自動車のためではなく、水素生産のために消費されてしまう。(もともと結合していた炭素と水素を分離するために余計なエネルギーを使う。)……そのせいで、熱効率が悪くなるのだ。
 燃料電池車の場合、原料を水素に限定しても、熱効率は 30%以下にしかならないようだ。
  → 25〜30%程度の熱効率
 一方、現実の化石燃料(炭素と水素の化合物)を原料にした場合は、その炭素部分は、水素生産のために消費されてしまうので、効率が良くない。とすると、総合的な熱効率は、20%ぐらいにしかならないだろう。
 一方、同じように化石燃料を使っても、そのまま燃焼させれば、熱効率はもっと高くなる。昔ながらのディーゼルエンジン車でも、35〜38%に達するそうだ。
  → ディーゼル・エンジンでは35〜38%に達する
 ガソリン車では 30%以下であるそうだが、最近のミラ・イースなどでは、燃費が従来比で 30%ぐらい向上しているので、ディーゼルエンジンに近い値( 35%弱 )にまで熱効率は向上しているようだ。
 要するに、ディーゼル車や、最新型のガソリン車では、燃料電池車の2倍近くの熱効率をもつ。逆に言えば、燃料電池車は、熱効率がひどく悪いので、最新の化石燃料車に比べて、炭酸ガスを2倍近くも排出する。燃料電池車を推進すればするほど、地球環境はかえって悪化してしまう。
 ついでだが、熱効率が半分程度だということは、燃料コストが2倍程度になるということだ。さらに言えば、(化石燃料の水素部分の改質およびボンベ圧縮で)水素生産の手間もかかるから、コストは3倍になるだろう。燃料代がそんなにかかるのでは、コスト的にまったく太刀打ちできない。燃料電池車の価格がどれほど低下しても、燃料を馬鹿食いするがゆえに、燃料電池車には採算性がまったくない。(自動車会社にとってでは、なくユーザーにとって。)

 ──

 結論。

 燃料電池車は、それ自体を見れば、水素を燃やすだけだ。しかし実際には、水素生産のために炭素を燃やす。だから、地球温暖化対策にはならない。むしろ、水素生産のために炭素が無駄に浪費されるので、かえって大量の化石燃料を必要とする。そのせいで、炭酸ガスの排出量は2倍になり、コストは3倍になる。
 こんなものを政府は推進するべきではない。

 
 《 参考 》

 燃料電池車の効率については、上記でも数字を示したが、あまり根拠のある数字ではなかった。もっといい根拠として、次のページを紹介する。
  → http://avalonbreeze.web.fc2.com/32_10_fcvdevelop.html
  → http://hori.way-nifty.com/synthesist/2013/08/jhfcco2-854a.html

  後者は、後日に加筆したもので、かなり詳しい情報がある。それと同じ話を簡単にまとめたものとして、本サイトでは次の項目がある。
  → 燃料電池車は普及するか?
 つまり、燃料電池車は、ハイブリッド並みで、プラグインハイブリッドよりは劣る。
 とすれば、ディーゼルとの比較では、ディーゼル並みで、ディーゼルハイブリッドよりも劣る、ということだろう(たぶん)。
 ※ なお、このデータは 2013年のもの。(一方、本項本文は 2011年) 
 


 [ 付記1 ]
 燃料電池車が実用化するとしたら、太陽光発電によって水素を生産した場合だけだ。それには、太陽光発電が実用化するのが先だ。しかも、太陽光発電が実用化しても、その発電を使うにのは一般の家庭や工場が先だ。自動車用の水素生産にまで太陽電池の電力が回ってくるのは、何十年も先のことだ。
 太陽光発電で発電しても、その電力は、まずは電力として利用するのが先となる。そうして電力の利用が上限にまで達したら、そのときようやく、太陽光発電による水素生産が実用化される。(たぶん、変動する太陽光発電の余剰分を安価に利用する形だろう。)
 そして、それが実現するのは、今から 30年以上あとのことだ。そうやって水素生産が実現したあとで、ようやく、燃料電池車の普及が課題となる。
 現時点では、燃料電池車は、地球温暖化にとっては有害無益でしかない。ゆえに、その普及を推進するべきではない。
 
( ※ なお、家庭用の燃料電池は、話が別である。家庭用の燃料電池では、コジェネの形で、熱の利用が可能なので、熱効率は 70% ぐらいになるらしい。その場合には、十分に実用性がある。これは話が別だ。)
 
 [ 付記2 ]
 電気自動車はどうか? 化石燃料を使う火力発電がすべてならば、燃料電池車と似た状況になる。しかし現実には、原子力発電の分がかなり多い。しかも、電力が余りがちな夜間電力を使うから、実質的には、大部分を原子力発電でまかなうことになる。
 この意味では、電気自動車は燃料電池車よりもずっと上だ。
( ※ 将来的には、太陽光発電を電源とする。この点では、燃料電池車と同様だ。ただ、それまでの過渡的期間では、原子力発電を使うので、問題ない。化石燃料から水素を作る燃料電池車とは全然違う。)

 [ 付記3 ] 
 燃料電池のために水素生産をして、そのとき生じる炭酸ガスを農業のために利用する── というのは、頭がいいように見えて、すごく頭が悪い。なぜなら、いったん炭酸ガスを冷却して、ボンベに詰めて、それを遠隔地(田舎)の農家に運ぶ、という非効率なことをしているからだ。
  ・ 冷却のためのエネルギー
  ・ 運搬のためのエネルギー
  ・ 運搬にかかる人的・機械的なコスト

 これらを考慮すると、とうていコスト的に見合わないはずだ。
 そんな馬鹿げたことをしなくても、田舎ではもともと炭酸ガスを容易に入手できる。
  ・ 鶏糞・牛糞など
  ・ 飼料や残飯

 これらが大量にメタンを発生する。そのメタンを使って、燃焼によってバイオマス発電をして、燃焼のあとの排ガスを使えば、そのまま排ガス(炭酸ガス)ハウス栽培に使える。これなら、いちいち遠距離を運搬する手間もない。しかも、有害な農業廃棄物を処理できる。
 こういうことは、実際に農家がやっている。ドイツでも、再生可能エネルギーによる発電で最大のものは、太陽光でも風力でもなく、このようなバイオマス発電だ。(出典は省略。)
 バイオマス発電をすれば、新たに産出される炭酸ガスはないまま、既存の炭酸ガスを植物生産のために使うことができる。一方、燃料電池のための水素生産で、化石燃料を燃やせば、いくら炭酸ガスを植物生産のために使っても、焼け石に水も同然で、ほとんど効果はない。しかも、高コストだ。
 報道で紹介されていた「炭酸ガスでトマト生産」というのは、頭がいいように見えて、まるきり尻抜けなのである。
 


 【 追記 】
 あとで調べたところでは、燃料電池車には、別の非効率さもあった。
 気体である水素を、ボンベに圧縮するときに、多大なエネルギーを消費するのだ。そのせいで、総合的な効率が低下してしまう。この低下量は半端ない量であるらしい。燃費を大幅に低下させるのと同じ効果があるようだ。
 つまり、燃料電池車自体の燃費はあまり悪くなくても、燃料電池車のエネルギー源である水素の生産自体に大幅にエネルギーを費消してしまうので、総合的な燃費はかなり悪くなる。そういう問題がある。



 【 関連項目 】

 燃料電池車はダメだということについては、本項以外にも、たくさんの項目がある。
  → サイト内検索
posted by 管理人 at 20:29 | Comment(11) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
価格だけじゃなく水素スタンド普及の問題もあるから
燃料電池車が車の主役になる日はいつまでも来ないと思います。
もし記事中の問題が解決できても
その頃には空気自動車のように
もっと環境負荷の小さい車が登場してるでしょうから。
Posted by ジミー at 2011年12月17日 22:21
http://www.fnf.jp/zakki.htm#16
こちらでは、燃料電池、開発も下火になっているそうですよ
二次電池が取り扱いやすさでいいとか
ただEV車は、途中でエンコは困るので、携帯の発電機が必要
でしょう。
シャーシがアルミで、ボディがプラスティクのEV車でたら
いいのですが、1人のりでスピードでなくてもいいのです
田舎では、雨、風しのげて、スーパーに買い物いければ
十分
Posted by mnb at 2011年12月17日 23:35
リサイクル詐欺とロジックは一緒ですね。
見かけ上のCO2削減ですね。政治的にはこれで良いのかもしれないけど、利権が絡むと何でもエコ信者が現れる。何でトマト栽培なんですかね。大気中のCO2濃度が高くない(平均0.034%程度)ので天然ガスから炭素(酸化するとき熱を発生)を取り出して水素を使うのは解かりますが結局エネルギーをかけて炭素を違う形にしているだけです。地球上の炭素循環は、今でも正常と思いますけどね。CO2が増えると全ての植物が大型化するだけでしょう。温暖化ガスではメタンもいい線行ってますしね。
Posted by OSSAN110 at 2011年12月19日 10:50
コストは別にして、原子力発電で水を電気分解して水素を生産すれば、炭酸ガスは基本的に発生しないと思います。
原子力潜水艦は、呼吸用の酸素はこのやり方で得ているようですから、平時は原子力潜水艦の甲板に水素タンクを積ませて、捨てている水素を回収してそれで運用費を賄うとかありかも知れません。^^;
Posted by 喧々 at 2011年12月19日 11:50
> 原子力発電で水を電気分解して水素を生産すれば、

 電気を水素にしてから、その水素で発電して電気にする……というのは、馬鹿馬鹿しいアイデアですね。イグノーベル賞狙い? (初めから電気自動車にすればいいのに。)

 その電気でモーターを回して、回したモーターで発電して、その電力でモーターを回して、……みたいな無限循環をするうちに、電力がすべて消えてしまう……みたいな話かな。
 「永久機関ができた」と叫ぶ人によくあるアイデア。
Posted by 管理人 at 2011年12月19日 12:13
深夜電力は現状では余剰が発生していて、
激安料金にすることで無理やり消費していただいている状態です

この余剰電力を電池以外の形で昼間用に持ち越せまいかというアイディアではないでしょうか

少し検索してみたところ、
案外まじめに考えている人たちがいたので参考に貼っておきます

http://criepi.denken.or.jp/search_results.html?cx=015237213593697293067%3Alkbxshkvwam&cof=FORID%3A11&q=%90%85%91f&ie=Shift-JIS&oe=Shift-JIS&x=0&y=0&siteurl=criepi.denken.or.jp%2F
Posted by KM at 2011年12月20日 00:59
> 深夜電力は現状では余剰が発生していて

 別に考える必要はありません。原発の減少と、電気自動車の普及により、自然に達成されます。
Posted by 管理人 at 2011年12月20日 01:24
Posted by 管理人 at 2011年12月25日 19:49
そのとおりですね。
FCEVに限らず、現状の水素供給態勢で水素利用は無意味。
現状でなんとか動かそうとごまかしが横行しているのは驚きでした。

百歩譲って自然エネルギー余剰で水素供給ができるようになっても、熱利用が困難で水素搭載も難しいFCEVは燃料電池の使い方に向いてないと思います。
Posted by aki at 2012年02月22日 11:22
一見であるので誤解があるかとは思いますが、気になったことがいくつかあります。
一つは燃料電池の効率に対して、"熱効率"という言葉を使われていることです。これは内燃機関のエネルギー変換効率に対して使用される言葉であるので、燃料電池に対しては"発電効率"という言葉を適用すべきなのではないでしょうか。ここでディーゼルやガソリンと比較をわかりやすくするために、あえて同じ言葉を用いられているのでしょうか。
二つ目に、(2)の手段において、発電し、水素に変えてまた発電するなら...とありますが多くの場合、家庭まで送電している時点で抵抗によるロスで必ずしも発電量を100%使えるわけではないです。実際、発電量の35%しか使える量が供給されていないそうです。そうであるならば、水素へ変換するロスのみでまた発電するほうが発電効率は高くなるのではないでしょうか。
なんにせよ、燃料電池のシステムそのものを作る時点での問題は何も解決しませんけど(^^:
Posted by ichi at 2015年03月24日 18:19
申し訳ありません、先ほどのコメントで別記事への言及がありました。お詫び申し上げます
Posted by ichi at 2015年03月24日 18:21
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