2011年12月08日

◆ ヒッグス粒子と質量

 ヒッグス粒子を「質量の起源」と見なす見解があるが、正しくない。正しくは、「質量の起源」ではなくて、「質量が発現する起源」である。 ──
 
 ヒッグス粒子を「質量の起源」と見なす見解がある。
  → 質量の起源「ヒッグス粒子」発見か (朝日新聞)
  
 しかし、これは正しくない。もし正しいとすれば、次のようになるはずだ。
 「ひとつの粒子は、ヒッグス粒子からの作用の大きさに応じて、多様な質量をもつようになる。ちょうど、多様なエネルギーをもつように」

 たとえば、陽子であれ、電子であれ、中性子であれ、さまざまなエネルギーをもつことができる。(加速器で加速されるとエネルギーが増す。)
 それと同じように、ヒッグス粒子からの作用の量に応じて、さまざまな質量をもつことができるはずだ。たとえば、こうなるはずだ。
  ・ ヒッグス粒子からの影響が多くなると、質量が多くなる。
  ・ ヒッグス粒子からの影響が少なくなると、質量が少なくなる。

 しかし、このようなことは起こらない。静止状態であれば、同一の粒子はすべて同一の質量をもつ。電子なら電子、陽子なら陽子。いずれの粒子も、静止状態では、同一の質量をもつ。ヒッグス粒子からの影響がどうであろうと、同一の質量をもつ。
 質量は、それぞれの粒子に固有の値である。つまり、質量は、それぞれの粒子に固有の値として定まっている。だから、ヒッグス粒子は「質量の起源」ではないのだ。
 
 ──
 
 では、正しくは? こうだ。
 「質量は、それぞれの粒子にもともと備わっている。ただし、質量が発現するのは、ヒッグス粒子の作用による」


 具体的に言おう。次のような質量がもともと定まっている。( → Wikipedia )
  ・ 電子 …… 9.109 ×10-31キログラム
  ・ 陽子 …… 1.672 ×10-27キログラム


 これらの質量は、もともと電子や陽子に備わっている。ヒッグス粒子があろうとなかろうと、もともと質量はある。
 ただし、質量が発現するには、次のいずれか条件がある。
  ・ 重量  …… 地球などの天体による引力が働いていること
  ・ 加速度 …… ヒッグス場による作用が働いていること


 たとえ質量があっても、天体の引力がなければ、そこでは重量は計測されない。バネ量りを使って、無重力状態で人間の体重を測定しても、体重はゼロと表示される。
 同様に、たとえ質量があっても、ヒッグス場がなければ、そこでは加速度の質量は計測されない。バネ量りを使って、加速状態における人間の体重を測定しても、体重はゼロと表示される。(ヒッグス場がなければ。)

 いずれの場合にも、人間の質量そのものが存在しないわけではない。人間の質量はもともと存在する。ただし、その質量が、計測されないのである。前者では「重力質量」がゼロであり、後者では「慣性質量」がゼロである。
 いずれの場合も、質量はあるのだが、質量が発現しないのだ。

 ──

 ヒッグス場は、物質に質量をもたらすのではない。つまり、質量の起源ではない。
 ヒッグス場は、物質に質量を発現させる。つまり、質量の発現の起源である。

 この両者を混同してはならない。



 [ 付記 ]
 ヒッグス場を、「物質の運動に対する抵抗」というふうに説明する見解もあるが、これも妥当ではない。なぜなら、物質の等速直線運動に対しては、ヒッグス場は影響しないからだ。
( ※ 仮に、影響するとしたら、この世界に「絶対静止」のエーテル空間が存在することになるので、相対性理論に矛盾してしまう。)

 ヒッグス場は、物質の等速直線運動については影響せず、物質の加速運動についてのみ影響する。
 この件については、以前、別項で言及した。そちらを参照。(下記の関連項目)



 [ 付記 ]
 では、素粒子に質量を与えるものは、(ヒッグス粒子でないとしたら)何なのか? それは、「カイラル対称性の破れ」である。Wikipedia から引用しよう。
 カイラル対称性(カイラルたいしょうせい、英: chiral symmetry)とは、量子色力学 (QCD) において、クォークのフレーバーを右巻きスピン成分と左巻きスピン成分で独立に変換する近似的な対称性である。この対称性はQCDのダイナミクスにより自発的に破れ、ハドロンに質量を与える。物質に質量を与える機構は、他にヒッグス場との相互作用があるが、陽子や中性子(質量は1GeV程度)を構成するアップクォーク、ダウンクォークがヒッグス場との湯川相互作用により与えられる質量は数MeV程度であり、全体の2%程度に過ぎない。残りの98%はカイラル対称性の破れによるものである。




 【 関連項目 】

  → 重力質量と慣性質量(重力・ヒッグス粒子)
  ※ 重力質量と慣性質量が同じであることについて。
 
  → ヒッグス粒子
  ※ より詳しく専門的に説明している。




 【 関連サイト 】   ( 2012-07-11)

 本項で述べたことを学術的に理解するためには、次の画像を見るといい。

higgs.gif

 空間から受ける影響は、粒子ごとに異なる。ある粒子は影響を強く受けて、遅くなる。一方、ある粒子は影響をあまり受けずに、遅くならない。前者は質量が大きい場合で、後者は質量が小さい場合だ。
 (つまり、質量が異なるものごとに、ヒッグス場から受ける影響が異なる。ヒッグス場が質量を与えるのではない。)

 この画像は、次の動画の1コマである。詳しくは、そちらを参照。



    ( 制作協力:カリフォルニア大学アーヴァイン校 )


 なお、この動画の静止画バージョンは、下記で得られる。
  → http://www.phdcomics.com/higgs/index.php?page=7

 また、これとは似て異なる動画は、他にもある。
  → http://wired.jp/2012/07/09/higgs-for-mere-mortals/



  【 関連項目 】
 本項と同様の話題を扱っているので、次の項目も読んでほしい。さらに詳しい話がある。
  → ヒッグス粒子
  → 質量とは何か?

 本項の続きは、次の項目で。
  → 重力質量と慣性質量(重力・ヒッグス粒子) (次項)
posted by 管理人 at 19:57| Comment(8) | 物理・天文 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ヒッグス粒子が素粒子に質量を与えているのではない。
 仮にそうである(ヒッグス粒子が与えている)としたら、次の二点が説明できない。
  ・ 素粒子ごとに質量が異なる。
  ・ 同一の素粒子であれば、質量は一定である。

 この件は、次の報道からもわかる。読売・朝刊 2012-07-05 から、一部転載しよう。
 ──
> 素粒子の質量は素粒子ごとに異なるが、なぜヒッグス粒子がそれぞれの素粒子に見合った質量を与えているのか、その仕組みも謎だ。
 ──

 以上の問題を解決する説明は、次のことだ。
 「質量そのものは、(エネルギーと等価であるという形で)素粒子に固有のものとして備わる。ただし、その質量が発現するには、ヒッグス粒子が必要である」
 つまり、本項で述べたとおり。

 ここで、「質量が発現するとはどういうことか」という疑問が生じる。それについては、別項で説明した。そちらを参照。
 → http://openblog.meblog.biz/article/7140054.html
 「重力質量と慣性質量(重力・ヒッグス粒子)」

 ── 
 p.s.

 次の発言(野尻美保子)もある。
 「ヒッグスがなくてもカイラル対称性の破れはおこるので陽子中性子の質量はできるのだよね。」
 → http://togetter.com/li/332442
 
 ──

 《 参考記事 》
 朝日新聞にわかりやすい解説記事がある。ヒッグス粒子のことというよりは、もっと基本的な話だが。
 → http://digital.asahi.com/articles/TKY201207040894.html
 → http://digital.asahi.com/articles/TKY201207040487.html
Posted by 管理人 at 2012年07月05日 12:56
真空の定義から入らないと片手落ちでしょう

また、 重力と質量の関係、すなわち重力質量発生のしくみは空間の構造によって定められるもの
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%B9%E7%B2%92%E5%AD%90
Posted by ひゃま at 2012年07月06日 14:57
それは関連項目のリンク先に記してあります。そちらを読んでください。
Posted by 管理人 at 2012年07月06日 18:01
>「質量は、それぞれの粒子にもともと備わっている。ただし、質量が発現するのは、ヒッグス粒子の作用による」

いや管理人さんの主張はもっともだなあ思いまして、ひゃま流に言い換えますと
「質量は、それぞれの粒子にもともと備わっている。ただし、力が発現するのは、時空発展による」
Posted by ひゃま at 2012年07月06日 18:59
本項を読んだ上で、「ここに書いてあることは間違いだ。自分は物理の専門家だ」と主張する人がいる。
 ま、間違いだというのなら、具体的に指摘してくれればいいのだが、頼んでも、具体的に指摘してくれない。「間違いだ」と一言でいうだけ。
 そこで、私が解説しておこう。

 ──

 本項の主旨は、
 「質量はそれぞれの粒子にもともと備わっている。ただし、質量が発現するのは、ヒッグス粒子の作用による」……(★)
 ということだ。これは正しいか? 実は、これは、次のことと等価である。
 「それぞれの素粒子の質量は、一定の固有値である」
 具体的な数値は、本文中で示したとおり。
 このように質量に固有値があるということが、(★) の主張である。

 これとは逆の主張は、こうだ。
 「それぞれの素粒子の質量は、一定の固有値でない」
 「それぞれの素粒子の質量は、まわりから何らかの作用を受けて、増えたり減ったりする」
 このようなことは成立しない。

 ──

 質量でなくエネルギーならば、同等のことは成立する。
 「それぞれの素粒子のエネルギーは、一定の固有値ではない。( i.e. 可変値である)」
 「それぞれの素粒子のエネルギーは、まわりから何らかの作用を受けて、増えたり減ったりする」
 これが成立する。エネルギーについては。
 しかし、質量については、こういうことは成立せず、(★) のことが成立する。
 それが、本項で述べたことだ。

 ──

 要するに、本項で述べたことは、量子力学の基本常識を、表現を変えることで、言い変えただけだ。
 本項を読んで、「間違っている」と主張している人は、「素粒子には固有の質量がある」ということを否定しているのと同等だから、ただの お間抜けにすぎない。こういう人は、物理学の知識はあるようだから、日本語の読解力がないのだろう。あるいは、論理力がないのだろう。

 ──────────────────────────
 
 なお、(★) のことが正しいことは、次のことからもわかる。
 「素粒子が真空から誕生することがある。このとき素粒子は、誕生したあとでヒッグス粒子から質量をもらうのではない。素粒子は誕生した瞬間に、すでに質量をもっている」

 仮にこれが間違いだとしたら、
 「素粒子は、誕生したあとでヒッグス粒子から質量をもらう」
 という機構があるのだ、と述べていることになる。しかしそんなことを主張する人はいないはずだ。

 エネルギーというものは、素粒子にくっついたり離れたりすることがある。しかし質量というものは、素粒子にくっついたり離れたりすることはない。素粒子には固有の質量があって、それは(原則として)変化しない。
 厳密に言えば、ごく例外的に質量が少しだけ変化することもあるのだが、それは別に、ヒッグス粒子が質量を与えたり奪ったりするからではない。全く別の理由だ。
 特に、質量がゼロの素粒子に、ヒッグス粒子が素粒子の全質量を与える、ということはない。ヒッグス粒子がもたらすものは、質量そのものではなくて、質量が空間中で何らかの作用として発現するという機構だけだ。
 こういうことを正しく理解しておこう。
Posted by 管理人 at 2012年07月07日 12:41
質量はエネルギーに変換できるから、重力や加速度の存在下でなくとも計測できるよ。
お前さんのニワカ物理で、素人惑わすな。
Posted by p at 2013年10月10日 18:45
> 質量はエネルギーに変換できる

 変換したらそれはもう質量じゃないですよ。質量を計測しているんじゃなくて、エネルギーを計測しているだけ。
 実際、そのエネルギーにはヒッグス機構は働かない。
 つまり「計測できる」じゃなくて、「計算によって推定できる」だけです。質量を直接的に計測できるわけじゃない。
 「エネルギーを計測して質量を計算する」≠「質量を計測する」
Posted by 管理人 at 2013年10月10日 19:20
物理が分からない初心者に分かりやすく説明してるサイトを発見しました。
http://aaa-sentan.org/ILC/about-physics/anatomy/
これを読んでから次にこれを読み
http://d.hatena.ne.jp/hundun2/20111219/1324367739
http://irobutsu.a.la9.jp/movingtext/HiggsHS/
最後にこれを読むと分かりやすくなるかも。
Posted by 虫宇日 at 2013年10月11日 14:33
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