2011年11月15日

◆ イレッサと TPP

 イレッサ副作用死の訴訟で判決が出た。「国、業者の責任認めない」というもの。いかにも不自然な判決なので、その理由を解き明かす。 ──

 イレッサでは副作用で 843人が死亡した。あまりにもひどい薬害である。原発の放射線では死者がゼロなのと比べると、その被害の程度は雲泥の差だ。
 なのに、大量殺害事件みたいな事件をやらかした犯人(国・会社)に、無罪判決が下った。つまり、「責任なし」だ。
《 イレッサ副作用死:投薬訴訟 国、業者の責任認めず 遺族側、逆転敗訴−−東京高裁 》
 肺がん治療薬「イレッサ」の副作用による間質性肺炎で死亡した患者3人の遺族が輸入を承認した国と輸入販売元のアストラゼネカ(大阪市)に計7700万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(園尾隆司裁判長)は15日、国とア社の責任を認めて2遺族に計1760万円の支払いを命じた1審・東京地裁判決(今年3月)を取り消し、遺族側の請求を全面的に退ける逆転敗訴の判決を言い渡した。
 イレッサの副作用死を巡っては、大阪地裁が今年2月、責任をア社に限定する判決(大阪高裁に控訴中)を言い渡し、地裁レベルの判断が分かれていた。初の高裁判断は厚生労働省の薬事行政に影響を与えるとみられる。
 訴訟では、国が輸入販売を承認した02年7月当時の初版の添付文書(医師向けの説明文書)にあった副作用に関する記載が妥当だったかが争点となった。
 東京地裁判決は、イレッサの有用性を認めつつ、初版の「重大な副作用欄」に間質性肺炎が下痢などに続いて4番目に書かれていた点について、「情報提供として不十分」と不備を指摘。ア社に製造物責任法上の責任を、国にも記載に関する十分な行政指導をしなかったとして国家賠償法上の責任があると認めた。一方、患者3人のうち、02年10月の添付文書改訂後に服用して死亡した女性のケースは請求を退けた。
 東京高裁の控訴審では、ア社と国は改めて「初版の記載で医師は間質性肺炎で死亡する可能性を認識できた」と主張。国は「安全性確保の一次的責任は業者にある」として、違法性はなかったと訴えた。わずか2回の期日で結審し、判決が注目されていた。
( → 毎日新聞
 これを読むと、不可解に思えるだろう。843人もの大量の死者を出した犯人(国・会社)が、どうして「責任なし」というふうに見なされるのか? 日本では大量殺人が認められるのだろうか? 
 実は、これは、TPP とも関連する。日本だけが国際基準から隔絶した(ガラパゴス的な)独自の医療基準をもっているせいで、「大量殺人もやむなし」という基準を採用してしまっているのだ。ここに問題の本質がある。

 ──

 イレッサ問題については、前に詳しく述べた。
  → イレッサ:医療詐欺
  → イレッサ問題の本質

 簡単にまとめてみよう。
 イレッサには、当初、「副作用のない画期的な夢の薬だ」と騒ぐブームがあった。それはちょうど、「 TPPは危険だ」と騒ぐブームと同様である。世間がそろって、ひとつのブームに乗っていた。浮かれていたと言ってもいい。そして、その圧力を受けて、「早期承認せよ」という圧力が政府にかかった。そこで、世界に先駆けて、日本政府は承認した。その際、ろくに治験をしなかった。(大急ぎで承認するためとなれば、治験はぞんざいになるのが当然だ。論理的必然。)
 で、どうなったか? 世界中の国は承認しなかったイレッサを、日本だけが承認した。ろくに治験もしないまま。そして、当然ながら、一般に利用されてから、次々と副作用が報告された。特に、肺をかきむしって死ぬとか、「あまりにも苦しいから殺してくれ」と頼むような、残酷な例が続出した。
 それにもかかわらず、そのような副作用死の例を、あまり大きく記載しないまま、「夢の薬です」と宣伝しながら、どんどん売りつけた。その結果、大量の死者が出た。

 ──

 これは別に、珍しいことではない。「副作用を隠したせいで被害者が続出」という例は、直前にも報道されたばかりだ。
  → 茶のしずく石けんで 66人重篤 アレルギー症状 471人

 詳しい情報は、朝日新聞(紙の新聞・朝刊)に書いてあるが、要するに、この副作用については、前からたくさんの症例報告があったのに、国はこのことを隠していた。「風評被害があると業者が困るから」という理由で、副作用を起こす石鹸の銘柄を隠していた。そのせいで、「これは危険だ」という情報を得ない人々が、これを使った。特に、「自然のものは有益だ」と信じた自然マニアたちが、これを使った。で、その結果、大量の副作用被害者が発生した。

 ──

 で、先の地裁の判決では、「副作用情報を大きく告知しなかったから」という理由で、有罪判決が出た。
 一方、今回の高裁判決では、「副作用情報を大きく告知しなかったことは、別に問題ない」という理由で、無罪判決が出た。

 一方、私の見解は、こうだ。
 「副作用情報を告知したか告知しなかったは問題じゃない。問題は、それ以前だ。そもそも、副作用があるかどうかを、まともに治験をしなかったことだ」

 ここに本質がある。
 比喩的に言えば、こうだ。
 「人を切りつけて殺したときには、切りつけたこと自体が問題なのであって、切りつけたあとで救命措置を取ったか取らなかったかは、問題じゃない。『救命措置をとれば助かったのに、救命措置を取らなかったから、有罪』という地裁判決のあとで、『救命措置を取っても、どうせ死んだだろう。だから、救命措置を取らなかったことは問題ない。ゆえに無罪』というふうに高裁判決を下すようなものだ。てんでピンぼけだ。『切りつけたこと(致命傷を負わせたこと)は有罪か』ということが、まるきり論じられていない。『致命傷を負わせたときにはまだ死んでいなかったから』という理由で、論議の対象からはずされてる」

 ──

 裁判では核心が論じられなかった。だが、問題の本質は、日本が独自の治験制度をもつことだ。そして、そのことは、TPP と関連する。日本では製薬会社の利権を守るために、独自の治験制度をもつからだ。
  → nando ブログ 「 TPP で公的医療保険が崩壊?」

 TPP がどんどん進めば、日本の「独自の治験」という制度も、やり玉に挙がるだろう。「欧米での治験のデータを、日本でも使えるようにするべきだ」という方向に進んでいくだろう。そして、そうなれば、「日本だけが独自のインチキ治験によって、勝手に独自の危険な新薬を承認する」というバカなことはなくなるだろう。「国際的な治験のもとで、国際的に安全と認められた薬だけが承認される」というふうになるだろう。

 今の日本の医療は、ガラパゴス状態だ。そのことに気づいていない人々が多い。
 特に、「日本の医療は世界最高だ」と信じている無知な連中が多くて、困る。なるほど、貧乏人にとっては、日本の公的医療制度は、最高だろう。
 しかしながら、医療技術そのものは、アメリカに比べて大きく劣っている。アメリカでは金をかける先端的な医療がものすごく進んでいる。大金持ちが最先端の医療をたっぷりと享受できる。その一方、日本では、最先端の医療というものは非常に少ない。アメリカで普及してから、十年ぐらい遅れて、ようやく実施される……というようなことが多い。
( ※ どのくらい差があるかは、ネットのサイトを見ても、だいたいわかるだろう。インフルエンザ関連でも、米国と日本では、情報量に大差がある。大学生と高校生ぐらいの差がある。日本は圧倒的に遅れている。そもそも、日本には、インフルエンザのための専門部局が存在しない。 → 日本疾病対策センター

 医療についてアメリカの事情に詳しい人は、世界最先端の医療がどういうものか、よく知っている。その一方で、日本では、イレッサで大量の死者を出したり、石鹸で大量の患者を出したりして、人為的な原因の被害者を莫大に発生させている。
 「日本の公的医療は世界最高だ」
 「日本をガラパゴスすれば日本を守れる」
 なんて思っている連中の、目の前にある現実が、こういう大量死や大量被害者だ。彼らには真実が見えない。
 だからこそ、高裁もまた、「大量殺人は無罪である」というデタラメ判決を下すのだ。
 


 【 関連項目 】
  → イレッサ:医療詐欺
  → イレッサ問題の本質

  → nando ブログ 「 TPP で公的医療保険が崩壊?」
posted by 管理人 at 19:17| Comment(0) | 医学・薬学 | 更新情報をチェックする
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