本格的なスマートグリッドを実際に構築しよう、という方針が出た。国が税金を使ってやるのかと思ったら、一介の知事である都知事が独断で方針を決めて、東京都の都税でやるようだ。
《 都心に次世代電力網、災害時も首都機能維持 》──
東京都は大規模オフィスビル群にIT(情報技術)を使って電力の需給管理を効率的に行う次世代電力網「スマートグリッド」の導入に乗り出すことを決めた。
都内の全エネルギー消費の35%を占めるオフィスビルの電力使用を効率的に制御することで電力会社への依存を減らし、災害で停電した時にも首都機能を維持するための基盤を整えるのが狙いだ。年度内にビル所有者と共同調査を実施し、来年度からの実施を目指す。
都が事業化を想定しているのは、東京駅に近い丸の内や大手町、新宿副都心など高層のオフィスビルが集中するエリアで、延べ床面積が1万平方メートル(20階程度)を超える中高層ビルを含む複数の建物が対象になる。
( → 読売新聞 2011年11月7日 )
(1) 太陽光発電を取り入れた場合、日照があって発電が盛んな時間帯には、優先して使用したり、蓄電池に充電したりする。
(2) 電力会社から供給が停止したときは、不要な電気機器のスイッチを切り、不足分は複数の建物の間で、蓄電池や、都市ガスを燃料にした電熱併給(コジェネ)などによって融通し合う。
( → 読売新聞 2011年11月7日 [紙の新聞・一面] )
いかにも先進的なので、マスコミやエネルギー評論家は大喜びだろう。しかし、スマートグリッドというのは、先端技術に見えても、とんでもない無駄である。簡単に言えば、次のようになる。
「太陽光発電と、スマートグリッドは、金の無駄遣いの双璧だ」
どちらもエネルギーの先端技術に見えるし、人々も「これは素晴らしい」と信じているが、実際には、金ばかり無駄に食って、実効性がほとんどない。
その趣旨のことは、前にも述べたが、本項では上記の記事に即して述べよう。
(1) 日中の蓄電池
日中の蓄電池は、何の意味もない。太陽光発電で発電したなら、それはその場で使えばいいし、余った分は系統電力に流し込めばいい。蓄電池の出番はまったくない。「その場で電気が余ったから、その場で電気を蓄えよう」なんて、アホの発想だ。「その場で電気が余ったら、よそに電気を回そう」というのが正解だ。要するに、「蓄電池に充電する」かわりに、「火力発電所の発電を減らす」というふうにすればいい。これならば、コストゼロで、蓄電と同じことができる。
また、「日中には優先して電気を使う」(発電量の多い昼間に電力作業をする)というような発想は不要である。供給可能な最大電力に達する恐れがある場合以外には、需要側で特に時間調整する必要はない。要するに、夏の電力ピーク時以外には、需要側で特に時間調整する必要はない。また、時間調整をするとしたら、「夏の昼間には電気を使わないようにする」ということだ。「昼間に電力を使おうと努力する」なんて、方向が正反対である。逆効果。
(2a) 停電時の蓄電池
停電時に蓄電池を使おう、というのは、まったくの尻抜けの発想だ。なるほど、東電が停電したら、蓄電池で何とか電力を使える。しかしそれでまかなえるのは、ほんの数時間だけだ。その数時間が過ぎれば、蓄電池は空っぽとなる。だったら、蓄電池のかわりに、ディーゼル式の発電機を使えばいい。発電機なら、燃料のある限り、ずっと使える。また、費用も格安だ。
→ 太陽光に蓄電池は不要
(2b) コジェネ
コジェネという案自体は、悪くない。私も、蓄電池に変わる案として、「コジェネの自家発電」という案を示した。
→ 蓄電池よりも良い案
しかし、記事にあるように、「停電への対策」としてのスマートグリッドというのは、ちょっと話がおかしい。コジェネをやるならば、「停電への対策」ではなくて、「常時利用」が原則だ。そうでなければ、コスト的に引き合わない。せっかく多額のお金をかけて導入しながら、「停電のとき以外には眠らせておくだけ」というのでは、費用が無駄になってしまう。(固定費が莫大にかかる。それでいて、運用費用の格安なコジェネを休ませるのは、愚の骨頂。)
こんなことは、「金を無駄遣いするだけ」というお役所でのみ可能な発想だ。まともな経営判断があれば、こんな無駄は許されない。コジェネを使ったら、常時利用、が原則だ。そして、それは、スマートグリッドとは何の関係もない。単に「自家発電を推進する」というだけのことだ。
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さらに言おう。より本質的には、「スマートグリッド」という発想そのものがまったく間違っている。
第1に、スマートグリッドは、無効である。蓄電池を使用するとしたら、日本の全発電量に匹敵するような(またはその半分の)蓄電池を用意しなくてはならないが、そんなことはコスト的に不可能だ。
→ スマートグリッドという幻想
第2に、同じ効果を圧倒的に低コストで実現する方法がある。それは、供給の側で調整するのではなく、需要の側で調整することだ。つまり、スマート家電だ。
→ スマート家電 > 蓄電池
だから、政府がなすべきことは、スマートグリッドの推進ではなく、スマート家電の推進である。供給側が無意味な蓄電池を設置するために莫大な金をかけることではなく、需要側が有効な可変システムを備えるようにIT化を推進することだ。
そして、そのためにまずなすべきことは、このような可変システムを稼働させるための情報システムの構築だ。具体的には、次のような。
「スマート家電に電力情報を伝えるのには、どうすればいいか? 情報信号を伝えるか、電圧を変動させるか?」
私としては、この二者択一について、「電圧を下げる方がいい」と考えていた。しかし、よく考えると、もっとうまい方法がある。
「情報信号と電圧低下の双方をともに実施する」
これならば、スマートエアコンは精密な調整が可能になるし、一方、装置のない LED 蛍光灯などは電圧低下によって電力使用量を下げるだけとなる。その双方がともに実行される。
※ 1割の電圧低下で、約2割の消費電力低下。( ∵ 0.92= 0.81 )
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結論。
東京都のスマートグリッド構想は、金を食うだけで、効果がない。むしろ、金をかけずに、効果のある方法を取るべきだ。つまり、スマート家電を。
何をなしてはならず、何をなすべきかを、間違えてはならない。そこを間違えている現状は、太陽光発電に邁進するのと同様に、愚かしいことだ。