2011年10月02日

◆ 発送分離と電力安定化

 発送分離と電力安定化とは、密接な関係がある。送電部門を東日本・西日本ごとに統合するべきだが、そのことで、自然エネルギーの不安定さを吸収する効果も生じる。 ──
   
 前項のコメント欄で述べたことを、独立させて発展させて、詳しく示そう。

 自然エネルギーには、不安定さがある。たとえば、風力や太陽光発電は、お天気しだいで変動する。また、地熱発電は、需要に応じた変動ができないので、逆方向に不安定だと言える。(安定的すぎるとも言える。)
 一方、火力発電ならば、需要の変動に応じて、適切に発電量を変動させることができる。
 現状では、独立した発電業者は、個別の業者ごとに、「電力の需要と供給の一致」のみを要求される。しかしこれはかなり困難なことだ。そのせいで、やたらと高コストになりがちで、採算に乗りにくくなる。……このことが、自然エネルギーを普及させない主な要因となっている。

 ──

 ここで、発送分離があると、次のことが可能だ。
  ・ 送電業者を、東日本・西日本ごとに、統合する。
  ・ 統合された管内の全体で、電力の需給一致があればいい。


 これによって独立業者の事業が容易になる。なぜなら、次のようにできるからだ。
  ・ 自然エネルギー業者は、独立系の火力発電業者と提携する。
  ・ 独立系の火力発電業者は、他社の需給の変動を吸収する。
  ・ 東日本・西日本の広い管内で帳尻を合わせる。


 たとえば、東北で風力発電の発電量が急増したり急減したりすれば、その変動に応じて、北陸電力管内や東京電力管内における火力発電の発電量を増やして、東北電力管内に送り込む。

 ──

 以上を対比すれば、次のようになる。
  ・ 現状 …… 個別の電力業者ごとに、需給を一致させる。
  ・ 将来 …… 東日本全体の電力業者全体で、需給を一致させる。


 当然ながら、後者の方が、コストはずっと低くて済む。したがって、風力発電などの業者の参入は容易になり、風力発電などの事業が増える。(地熱発電も同様。)

 そして、このことのためには、次のことが必要だ。
 「東日本全体の送電網を統合する」

 そのことのためには、次のことが必要だ。
 「発送分離をする」

 結局、こう言える。
 「発送分離は、市場原理ないし競争原理によるコスト低下という意味で、推進されることが多い。しかし、それとは別に、電力の安定化という面で自然エネルギーを参入させやすくする効果もある。そして、それは、発送分離それ自体によってもたらされるのではなく、発送分離のあとの送電網の統合によってもたらされる」




 [ 付記 ]
 上記では、基本だけを述べた。細かな点では、修正や補足をするべき点もいろいろある。
 たとえば、電力会社の管内を超えて電力の移入をするには、一定の限度がある。
 具体的には、北海道と東北とを結ぶ電力の容量には、一定の限度がある。
 これらの点については、いろいろと整備する必要があるが、それは、細かな点となるので、本項の主題とは別の話題となる。補足的な話題にすぎない。
 本項の話題は、あくまで、「送電網の半・全国的な統合」である。( 周波数ごとに、東日本と西日本で、送電網を統合するべきだ、ということ。そのためには、電力会社から送電部門を分離する必要がある、ということ。)
 
 [ 余談 ]
 このようなことをはっきりと主張している人は、私以外には、たぶんいないと思う。
 ちなみに、ネットを検索してみると、池田信夫の次の発言があった。
 「電力のインターネット」を実現するには、送電部門を分離して東日本の送電網を一つの会社に統合するなどの抜本的な改革が必要だろう。
 ここで「送電部門を分離して東日本の送電網を一つの会社に統合する」ということ自体は、私の主張と同じである。
 ただ、池田信夫の場合は、それが何のためであるかは、特に示されていないし、また、その必要性が特に強く主張されているわけでもない。たぶん、「経済効率を上げるためにはその方がベターだ」という主張なのだろう。
 私の主張は、そうではなくて、「電力の安定化のためにはそのことが必須だ」というものだ。そして、電力の安定化という目的は、コストダウンが目的ではなく、自然エネルギーの参入のしやすさが目的だ。(池田信夫にはそういう視点はないはずだ。)
  


 【 補説 】

 前項および本項(上記)の見解に対して、前項で次のコメントが寄せられた。
 現状でも、10年ほど前からの自由化により、【参考】に掲げた事業者の多くで広域的な運用がなされています。別の場所にある風力と火力を組み合わせたり、別の会社から市場で電気を買ったりして全体で需要との帳尻を合わせるなど。また、東西連系線の空きがあればそれを使って全国レベルで帳尻を合わせることも行われています。その意味で、制度的には現状でもほとんどのことができる状態です。
 なるほど。その意味では、「それができない」というふうに記した本項(上記)の内容は、修正した方がいいかもしれない。
 ただし、建前とは違って、現実では、「それができない」という見解は間違っていないようだ。というのは、実際に風力発電が多くなされている地域(関東と関西を除く地域。特に北海道と東北)では、風力発電の電力を、電力会社が購入拒否しているからだ。「不安定だから」という理由で。
 北海道と東北(および他の地域発電会社)は、東京電力と関西電力を除いて、規模が小さい。そのせいで、風力発電の変動を自社ではうまく吸収できない。そこで風力発電の購入量に限度を設けている。これを「連系可能量」と呼ぶ。たとえば、下記では、85万kW という数値が示されている。
  → 東北電力の連系可能量
 
 このような事実から、わかることがある。次の点だ。
  ・ 風力発電の出力変動は、電力会社が吸収する。(独立業者には依存しない。)
  ・ それを、電力会社は自社内で吸収し、他の電力会社と連動しない。

 つまり、コメント欄で指摘されたことは、建前としてはなされているのかもしれないし、制度もあるのかもしれないが、現実にはなされていない。たぶん、容量に上限があるせいだろう。たとえば「 85万kW だけ」というふうな。
 現実には、東電と東北電力との間では、235万kW の融通が可能である。( → 出典 ) これと、東北電力の分 85万kW (上記) を合わせれば、320万kW の融通が可能だ。とすれば、この範囲までは、風力発電を導入できる。さらに、独立事業者や自家発電業者による変動吸収も合わせれば、おおざっぱに 500万kW 程度(?)まで、風力発電の購入が可能となるはずだ。(これは地熱発電の発電可能量を上回る規模だ。)

 いずれにせよ、風力発電の変動を、東日本全体(または日本全体)の電力網で吸収することは、技術的にも制度的にも可能であるようだが、現実にはなされていない。そもそも、そのようなことを統一的に調整する事業体も存在していないようだ。「東日本電力調整会社」なんてものは、存在していない。(あくまで電力会社が個別にバラバラに調整しているだけだ。)
 この点は、スペインとは異なる。スペインでは、Red Electrica de Espana という唯一の系統運用会社が存在して、さまざまな電力会社の発電した電力を安定化させている。( → 出典
 この会社は、風力発電などの発電量をリアルタイムでネット公開しているので、その点でも有名だ。
  → リアルタイムの発電量
 この会社は、系統運用会社としては、世界最先端だろう。日本でもこのような系統運用会社が必要だ、というのが、本項の主張だ。(現状のように電力会社が個別にバラバラに調整しているのでは駄目だ、ということ。)
  
 《 注 》

 本項の前半までは、「発送分離」という言葉を使ったが、「(半)全国規模の系統運用」という言葉で表現した方がいいかもしれない。私としては、そちらが狙いなので。
( ※ 「発送分離」は、経営体に着目した表現。「全国規模の系統運用」は、仕事に着目した表現。……私としては、「電力の安定化」が目的だから、その目的に着目して、「全国規模の系統運用」というふうに語った方がよかったかもしれない。ただ、そのためには、前もって「発送分離」が必要となる。なぜなら、「発送分離」のあとで、各電力会社の送電部門を統合するからだ。)
 


 【 関連項目 】
 風力発電の電力変動を吸収するには「蓄電池」を使うといい、というアイデアもある。
 しかし、あまりにも高コストなので、(技術的な是非は別として)実用化は困難だ。実用化するにはコストを百分の1ぐらいに減らす必要があるが、数十年は無理だろう。
 一般に、電力の変動を供給の側で吸収することは、コストがかかりすぎるので、実用的ではない。むしろ、需要の側で吸収するといい。短周期の変動は、需要の側で十分に吸収可能だからだ。
  → スマート家電 > 蓄電池
 ここで示したように、エアコンや冷蔵庫などは、インバーター回路を使うことで、数分〜数十分間ぐらいの消費電力削減が可能だ。(実質的な停止も可能だ。)
 そのためには? スマートメーターを使って情報伝達する必要はない。かわりに、電圧の低下を検知するだけでいい。たとえば、「いつもは 105ボルトなのに、急に 95ボルトに低下したな」というふうに電圧の低下を検知したら、インバーターの稼働を弱めて、使用電力を9割ぐらいカットする。このことで、国全体の電力消費を大幅に減らす。……こうして電力供給の急激な変動を吸収できる。
( ※ コストもあまりかからない。電圧を検知する安い部品が一つあれば済む。100円ぐらいかな。あとはソフトウェアの処理だけだ。)
 このようなスマート家電が普及すれば、電力会社は、いざというときには電圧を 5 〜 15ボルトぐらい下げるだけで、国全体の電力消費を大幅に引き下げることができる。(多段階制御も可能だろう。)
 なお、「電圧の低下による情報伝達」というのが、あまりにも原始的で芸がないと思うのならば、FM 式の周波数変調を使えばいい。たとえば、50Hz というのを、0.1%ぐらいの幅で、周波数変調して、FM 信号を伝える。それを検知したスマート家電が、消費電力を下げるようにインバーターを作動させる。(これならばちょっと技術的に冴えている方法だ。……ただし、電圧を下げる方が、一般の照明などの電力も下げることができるので、私としては、芸のない「電圧低下」の方をお勧めする。)



 【 関連サイト 】

 単一事業体が運用する場合には「系統運用」というが、複数の事業体がバラバラのまま協力する場合には「系統連系」という(ようだ。)
 系統連系に関する参考ページ( PDF )を、以下に列挙する。

  → http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50824a03j.pdf
  → http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81125a13j.pdf
  → http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50606a10j.pdf
  → http://www.tohoku-epco.co.jp/oshirase/newene/04/pdf/h18_temp01.pdf
  → http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/bunkakai/kihon_mondai/shijo_kankyo/2th/s2th-sankohontai.pdf
posted by 管理人 at 13:58 | Comment(6) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
後半に  【 補説 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2011年10月02日 20:37
最後のあたりに、 【 関連項目 】 を加筆しました。スマート家電・スマートメーターなどの話。

 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2011年10月02日 22:16
たびたびお邪魔します。すいません (^^);

送電網の運用についてですが、

>そもそも、そのようなことを統一的に調整する事業体も存在していないようだ。「東日本電力調整会社」なんてものは、存在していない。

地味ではありますが中立機関である事業体は存在し、実際に全国レベルの広域調整が日々行われています。
→【一般社団法人電力系統利用協議会】
 http://www.escj.or.jp/

また、実際に取引を行う市場も開設され、時間単位の値付けが行われています。
→【日本卸電力取引所】
 http://www.jepx.org/

ただし、これらは基本的に安定した電力の取引を予定して作られていますので、自然エネルギーの変動吸収としてはこれまであまり機能していないのは事実です。
しかし数年前から既にその議論は公開で行われており、電気事業連合会からも「風力発電は500万kW程度まで、太陽光発電も1,000万kW程度まで受け入れ可能」という表明がなされています(下記資料の4頁目参照)。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai04tyuuki/siryou3_1.pdf

なお、これはあくまでも全国合計での調整力であり、特に風力が集中する北海道・東北ではすでにご指摘のような事態になっています。そこで会社間連系線を使って、という議論になるわけですが、

・連系線の限られた容量を自然エネルギーの調整に使ってしまうと、通常の取引に使える容量が減少し、地域をまたぐ自由競争を阻害する。
・そもそも、不安定な電力を誰が引き取って調整する(費用をかけて最終的な辻褄あわせをする)か。風力が増加した欧州では時期によってはマイナスの価格(お金を払って電力を引き取ってもらう)が形成された。

などの課題があり、立場を問わず非常に安定的なルール作りが難しい問題と認識されています。

もちろん、これだけの事態が起きたわけですから競争政策や電源の優先順位づけとしての発送分離・送電統合の議論は再度なされてしかるべきだと思いますが、以上のようなリアルかつ深刻な課題はそのような送電分野のみの組織論では解決できず、究極的にはどこまで金をかけて設備形成をするかに依存する、ということもまた念頭に置かれるべきだと思います。

※このコメントは情報提供が目的であり、論争を目的とはしておりませんので、掲載の有無は管理人さんにおまかせいたします (^^)。
Posted by 深海 誠 at 2011年10月02日 22:50
情報提供、ありがとうございました。
 私の主張と対立するわけではなくて、逆方向からの補足的な見解と受け止めます。双方の情報を得ることで、いっそう物事の核心に近づけるでしょう。
 別に私の主張だけが正しいというわけではないので、私の語っていない内容についての情報提供は歓迎します。(一見対立するように見えても、実は対立ではなくて補足的な関係にあるとわかりますから、本項のテーマで情報内容を充実させる貢献に感謝します。)

> 安定的なルール作りが難しい問題

この件は、異なる会社が協調するから難しいのであって、統一的な単一事業体がやれば、自社内でカタが付きますから、問題はなくなります。

 ──

 ともあれ、情報をいただいたおかげで、思考内容が整理されました。初めはぼんやりとした内容で書いていて、結論も曖昧でしたが、本項の後半を書くころには、思考がかなり整理されて、きちんとした結論も出せるようになったと思います。
 最初のころには思いも及ばぬ点にまで思考が発展しました。ありがとうございました。
Posted by 管理人 at 2011年10月02日 23:16
色々な方から、電力市場を自由化すると電力供給が不安定化すると指摘していますが、どのように考えていますか?
Posted by 市場原理主義過激派 at 2011年10月06日 04:24
不安定化の要因はありますが、技術的には解消可能なレベルもののばかりでしょう。当初は不安定化しても、時間がたてば問題は解決するでしょう。

 それよりは、分散電力が多数になることで、「いっぺんに停止する」というリスクが減ります。特に大地震があった場合には、小規模分散型の発電所が多い方が、圧倒的に有利でしょう。少なくとも自家発電をしている建物の多くは、そこでのみ電力を得られるはずです。
 一般に、送電網を使わない自家発電は、さまざまな効率や安全性の点で有利です。

 私の立場は「自家発電を増やせ」(余った分を売電せよ)です。別項で書いたとおり。
Posted by 管理人 at 2011年10月06日 12:54
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