自然エネルギーによる発電は、不安定である。たとえば、太陽光発電は、前に述べたような不安定さがある。( → 太陽光発電の時変化 )

この不安定さを解決するために、スマートグリッドが必要だ、という発想がある。
(i) 供給面の不安定さをなくすために、蓄電池を設置する。
(ii) 需要面の不安定さをなくすために、スマートメーターを配備する。
たとえば、読売新聞・朝刊 2011-08-29 [紙の新聞]に、そういう記事がある。
しかし、このようなことは、実現は困難だ。
(i) 太陽光発電の発電量に匹敵する大量の蓄電池は、コストがかかりすぎる。
(ii) スマートメーターを配備しても、コストだけかかり、意味がない。
順に説明しよう。
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(i) 太陽光発電の発電量に匹敵する大量の蓄電池は、コストがかかりすぎる
上の図で説明したように、太陽光発電には変動はきわめて大きい。1日のうちに0%から 100%まで変動する。この変動を吸収するためには、太陽光発電の発電量(1日分)に匹敵するだけの蓄電池が必要だ。
それだけではない。雨や曇りが1週間以上続くことが考えられる。とすれば、1日分どころか、10日分ぐらいの蓄電池が必要となる。そうなると、コストは莫大になる。
コストはどのくらいか? 次の記事が参考となる。
→ 日産リーフの中古電池を使う蓄電システム
→ 蓄電システムの価格
後者のページによれば、現在販売されている価格は 100〜200万円だ。この10倍となると、千万円を突破する。1家庭あたりで、だ。その上、産業用の分まで考えたら、とんでもない価格になる。将来、コストダウンがいくらかあったとしても、それでも途方もない価格になるだろう。とうてい、負担はできない。実現性は皆無だ。
では、どうすればいいか? もっといい解決策がある。それは、蓄電池でなく、発電機を使うことだ。
→ 太陽光に蓄電池は不要
家庭ならば、自家発電機があればいい。国全体ならば、火力発電所があればいい。どっちみち、燃料がある限り、いつまでも発電できるし、太陽光発電の時間的な変動を吸収できる。
(瞬間的な)急激な変動には、どう対処するか? 通常は、もともとの電圧を上げておけば、大丈夫だ。たとえば、100ボルトのかわりに 105ボルトにしておく。そのあとは、急激な変動に対しては、電圧低下によって対処可能だ。
もう少し大規模な変動に対しては、水力発電が有効だ。水力発電はかなり即時的に変動に対応できる。
水力発電で一時的に対応したあとで、火力発電の出力を上げればいい。これによって水力発電を肩代わりして、変動を吸収する。
とにかく、自然エネルギーの変動を吸収するには、蓄電池は不要だし、蓄電池では不可能だ。「蓄電池によるスマートグリッド」という発想そのものが、根本的に狂っている。
自然エネルギーを普及させるには、火力発電によるバックアップが必要不可欠である。特に、夜間はそうだ。「太陽光発電と蓄電池があれば、原発も火力発電も不要だ」と思うのは、現実無視の発想だ。そんなことをすれば、太陽光発電に莫大な金がかかるだけでなく、さらにその数倍ないし十数倍もの費用が蓄電池のために必要となる。それはあまりにも馬鹿げた発想だ。(たとえ太陽光発電の価格が劇的に低下しても、蓄電池の価格が劇的に低下することはありえない。蓄電池が実用水準にまで下がるには、数十分の1まで価格が下がる必要があるが、それはあと 20年間は不可能だろう。)
(ii) スマートメーターを配備しても、コストだけかかり、意味がない
「スマートメーターを配備すれば家庭用の電力のピークを下げることができる」
という発想があるが、これは間違いだ。そのことは、橋下知事の主張を見ればわかる。彼は自分がスマートメーターの指示機のかわりをしたがっているようだが、そんなことをしても意味がない。家庭はその指示を聞かないからだ。
同様に、(機械の)スマートメーターを設置しても、家庭はその指示を聞かない。つまり、スマートメーターを切ってしまう。なぜか?
・ スマートメーターが働くのは、真夏の滅茶苦茶に暑いときだけだ。
・ 真夏の滅茶苦茶に暑いときには、エアコンを切らない。
これが基本となる。私だってそうだ。もしスマートメーターが配備されたなら、真夏の滅茶苦茶に暑いときには、スマートメーターを切る。死にたくないですからね。
むしろ、政府としては、「スマートメータを切れ」と命令するべきだろう。さもないと、熱中症で死ぬ人が増えるからだ。(まさか「死んでもいい」とは言わないですよね?)
そして、真夏の滅茶苦茶に暑いとき以外には、スマートメーターが役立つ機会はない。
つまり、スマートメーターは、役立つ機会が皆無である。
では、どうするべきか? 次のように理解すればいい。
「需要を抑制する必要があるのは、年に数日間だけだ。つまり、猛烈に暑い日だけだ。それ以外では、需要を抑制する必要はまったくない」
「需要を抑制する必要がある日でも、家庭は需要を抑制するべきではない。猛暑のなかではエアコンを効かせるべきだ。そのために電力というものはある」
「需要を抑制する必要があるのは、家庭ではなく、企業だ。つまり、企業についてのみ、スマートメーターを配備すればいい。家庭には不要だ」
「企業にしても、スマートメーターを配備すればそれで電力消費が減る、というわけではない。電力消費を減らすには、まずはそのための料金システムが必要だ。つまり、『通告によって翌日の電力使用を減らすと、料金を割引する』という料金システムだ」
→ 需給調整契約を拡張せよ
→ 産業用電力の価格を上げよ
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まとめ
以上によって、何をすればよく、何をしてはいけないかが、わかっただろう。
(1) してはいけないこと
・ スマートグリッド(= 大量の蓄電池の配備)
・ スマートメーター(= 家庭用の需要抑制)
(2) するべきこと
・ 火力発電所によるバックアップ
・ 産業用の需給調整契約の整備(= 産業用の需要抑制)
以上が、結論だ。
ひるがえって、読売の記事のような「スマートグリッドとスマートメーターの配備」というのは、まったくの愚策である。金ばかりを食って、実効性は皆無だ。
[ 付記 ]
「火力発電では温暖化ガスが出る」
という見解もある。温暖化ガスという主張そのものが疑わしいのだが、それは置いておいて、その主張を採用するとしよう。
温暖化ガスを減らしたいのであれば、何も日本で太陽光発電をやる必要はない。世界規模で温暖化ガスを減らせばいい。そのためには、砂漠地帯で発電すればいい。それを日本にもってくることができないのであれば、産業そのものを砂漠に移転してしまえばいい。たとえば、
・ 電炉
・ アルミ精錬
・ シリコン精製
のような電力多消費の産業だ。これらの産業を砂漠に移転してしまえばいい。サハラやアラブなど。そのことで、太陽光発電を十分に利用できる。(昼間だけだが。)
朝と夕方に電力が不足するという問題は、両面型の太陽光パネルを使えば解決する。
→ http://eco.goo.ne.jp/business/keiei/zensen/04.html
というわけで、「莫大な蓄電池を日本に配備する」という、馬鹿げたことはやらない方がいい。そんなことをしても、金ばかりを食って、実効性がない。それよりは、サハラやアラブの砂漠で発電して、砂漠のそばで電力を使う方がマシだ。
そして、その間、日本の人々は火力発電の電力を使えばいいのだ。「雨でも夜でも使えて、ありがたいなあ。おまけに安いし」と。
【 関連項目 】
→ スマートグリッドの失敗
スマートグリッドは駄目だ、ということは、前にも何度か述べたことがある。
上記には、そのまとめがある。
( ※ 一方、本項では、より踏み込んだ内容が記されている。)
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次の項目でも、本項と似た話題を扱っている。
→ 家庭用の蓄電池
→ 太陽光に蓄電池は不要
→ 太陽電池か 燃料電池か
【 参考項目 】
エコウィルというものがある。都市ガスで発電するコジェネ。これも蓄電池の替わりになる。詳しくは
→ エコウィルのページ
cf. 似たものとして、エネファーム や、エコジョーズ もある。
※ エコウィルを設置した家庭に限っては、スマートメーターが有益だろう。真夏のピーク時に自家発電ができるからだ。
※ 逆に言えば、スマートメーターを設置するなら、同時にエコウィルを普及させる必要がある。それなしでは、無意味だ。
GEH-1011ARS-Kという都市ガスエンジン発電機がありました。
いろいろ制約が多いようですが蓄電池よりよほど現実的かなと。
東原亜希さん、i-MiEV の電力でアウトドア料理に挑戦
http://response.jp/article/2011/09/02/161722.html
東原亜希伝説
http://2chart.fc2web.com/higashiharaaki.html