2011年08月16日

◆ 空中の電波で発電

 空中の電波を使って発電する、という方法がある。これを使えば、うまく節電できるか? ──
 
 この実験は、別に珍しくもない。ただ、節電マニアの朝日新聞が、これを「節電」と絡めて報道している。
 節電の夏にこんな「発電」法はいかが――テレビやラジオ、携帯電話などが送受信している空中の電波の電力を回収するシステムを米ジョージア工科大のチームが開発した。取り出せる電力はごくわずかだが、センサーを動かしたりすることに使えそうだという。
 テレビ局の電波から数百マイクロワット(電気炊飯器の待機電力の千分の1程度)の電力を回収し、温度センサーを動かすことに成功したという。最終的に熱として捨てられる電磁エネルギーを活用するアイデア。
( → 朝日新聞 2011-08-16
 「最終的に熱として捨てられる電磁エネルギーを活用する」という文句が本当ならば、無駄をなくす形で、有効にエネルギーを利用できるわけだから、節電になるはずだ。
 しかし、そんなうまい話は成立しない。

 ──

 理系の人ならば知っていると思うが、「ヘルツの実験」というのがある。文系の人向けに改めて解説すると、こうだ。
 「ある場所で電波を発生すると、離れたところで、受信した針金の隙間で火花が飛び散る。これは電磁エネルギーが空間的に移動したことを示す」


 Aという地点で電波を発生すると、Bという地点で火花が飛び散る。こうして電気エネルギーが電磁波の形で、AからBへと移転する。
 詳しくは下記ページ。
  → ヘルツの実験
  → フランク=ヘルツの実験 - Wikipedia

 ──

 これからわかるように、Bという地点でエネルギーを得る分、Aという地点ではエネルギーが減る。
 したがって、朝日の記事の方法で発電すればするほど、電波の発生地点ではエネルギーが減る。つまり、「無から発電する」わけではない。その場所で発電した分、電波発生源ではエネルギーが失われるのだ。

 もっと正確に言うと、こうだ。
 「記事の方法で発電すると、その分、空中の電波が弱まる。すると、電波を到達させるという本来の目的が達成されなくなる。(たとえばテレビの電波が弱くて、テレビが映らなくなる。)その点を改善するために、電波が弱まった分、テレビ局は電波を強くする必要がある。そのために電力が必要となる」


 こういう形で、
    電波塔  →   受信アンテナ

 というふうに、電気エネルギーが移転する。
 つまり、「エネルギーを無から生む」ということはない。また、「捨てられていたエネルギーを回収する」ということもない。回収すればするほど、捨てられるエネルギーが増えることになる。
( ※ 比喩的に言うと、街中にある街路灯の蛍光灯を「捨てられている」と見なして回収すると、タダで蛍光灯を得ることができるように見える。しかしその分、自治体が蛍光灯を新たに買う必要があるので、その出費がかかる。決して、無から蛍光灯が生まれたわけではない。)

 朝日の記事は、物理学的な認識のできない文系記者の書いた、間違い記事である。素人だから仕方ないとはいえ、こういう間違いが堂々と新聞に掲載されるのは好ましくない。まるで「永久機関ができました」というような記事だ。そこで、誤りを正しておいた。そしてまた、ヘルツの実験について、「夏休みのお勉強」ができました。(子供に押しててあげると、教育効果がある。)



 [ 付記1 ]
 記事には「最終的に熱として捨てられる電磁エネルギーを活用する」という表現がある。ここが不正確だ。
 「最終的に熱として捨てられる電磁エネルギー」という表現自体は、特に間違いではない。電波塔から発生する電磁エネルギーの大半は、最終的に熱として捨てられる。あちこちの水などで吸収されるからだ。しかし、残りの部分は、人間が機械的に受信して、きちんと利用している。ここで、誰かが強力な「電波吸収装置」を作って、空中の電波から莫大なエネルギーを取り出したら、人々が受信する電波が弱まってしまう。それでは困る。
 だから、「最終的に熱として捨てられる電磁エネルギーを活用する」という表現は、正しくない。「最終的に熱として捨てられる電磁エネルギー」という部分は、おおまかには正しいが、「(それを)活用する」という部分は、まったく正しくない。正しくは、こうだ。
 「人々が機械的に受信している電波を横取りする(盗む)ことで、自分だけは発電エネルギーを得ることができる」
 つまり、無から何かを生むのではなくて、他人のものを盗むだけだ。これが本質である。「無からエネルギーを生む」というような、永久機関ふうの非科学的な表現は好ましくない。

 [ 付記2 ]
 ただし、記事にもあるように、微弱な電波であれば、社会への影響はほとんどない。無視できるレベルだ。だから、携帯機器用に微弱な電力を得ることは、特に問題はない。
 なお、このような方法は、記事に示されたような特別な発明ではなくて、すでに実用化されている。先月の報道があるので、下記サイトを参照。



 【 関連サイト 】

 本項の発電方法は、すでに実用化されている。それぞれ別の会社。
  → 電波から電力を得るエネルギーハーベストデバイスの販売を開始
  → 環境中の電磁波から電力を収穫する

 ──

 なお、自立的に発電する、本物の発電方法もある。振動エネルギーを発電する、など。
  → 圧電素子、振動素子、熱電素子による発電

 別記事のコメント欄で教えてもらったが、パナソニックによる次の方法もある。
  → チューブにお湯を流して発電する
posted by 管理人 at 09:35| Comment(2) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
1975年のHAMジャーナル(cq出版)には、放送波の電波を使った発電の実験記事が掲載されています。製作も行われ、色々なタイプのレポートが掲載されています。今こそ注目すべき記事かもしれません。
Posted by tuji at 2012年07月18日 09:26
電気を生み出しているわけじゃなくて、移しているだけだから、「発電」というよりは「送電」というべきなんですけどね。無線送電。
 小規模ならば、電池のかわりにはなる。ただ、電気泥棒だ、という一面もある。0.01円にもならない額だが。
Posted by 管理人 at 2012年07月18日 19:02
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ