「思ったよりもずっと良くできました。90点」という高評価になる。 ──
6月25日に、復興会議の提言がなされた。新聞では簡単に報道されただけだが、詳しい提言は下記で得られる。(いずれも PDF )
→ 復興への提言〜悲惨のなかの希望〜
→ 提言本文に使用する図表
→ 提言資料編に使用する資料
PDF では見にくいので、HTML に変換しようかと思ったが、プロテクトをかけているので、できない。 (^^);
それでもテキストの抽出はできるので、(本文について)テキストファイルを示しておこう。
→ テキストファイル
また、一部の重要な図は、GIF にしておいたので、これもここに示そう。


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では、いよいよ評価しよう。
この提言が出る半月ほど前に、「骨子」という短めの文書が出た。これについては、私は「無内容だ」と厳しく評価した。
→ 復興会議と復興計画
しかし、今回の正式な提言を見て、びっくりした。半月ほどを経て、まったく異なった内容になっている。特に注目するべきは、次の文章だ。
今回の津波は、これまでの災害に対する考え方を大きく変えた。今回の津波の浸水域は極めて広範囲であり、その勢いは信じ難いほどに巨大であった。それは、物理的に防御できない津波が存在することをわれわれに教えた。この規模の津波を防波堤・防潮堤を中心とする最前線のみで防御することは、もはやできないということが明らかとなった。この文章は、非常に重要だ。
実は、これは、私の見解と同じだ。私は今回の震災に対する教訓として、強く示したことがある。再掲しよう。
釜石港湾口防波堤は、約30年という時間と総事業費約1200億円というお金をかけて作られた。私の見解とまったく同じと言っていいだろう。半月前の「骨子」には含まれていなかった基本線が、今回の「提言」では最重要の基本線として取り入れられた。劇的な転回とも言える。まるで馬鹿が突然変異して天才になったぐらいの転回だ。
1200億円もかけて、役立たずの堤防を作った。……鉄筋の高い防災ビルなんて、コストはたいしてかからない。普段はビルとして実用に使えるのだから、防災(専用)のためのコストは、ゼロに近い。一方、防災専用の堤防(効果なし)には、1200億円という無駄金を投じた。
堤防を作ればそれで津波対策になる、という発想は、あまりにも甘すぎたのである。(というか、見当違いがひどすぎた。)
人々は、あまりにも自然を見くびっていた。「 1200億円もかけた防潮堤があるのだから大丈夫」だと思い込んでいた。
( → 南三陸の津波被害 )
このように巨大な自然の力に対しては、人間はなすすべもない。「1000億円で駄目なら 2000億円をかければいい」というような発想では駄目なのだ。根本的に別の発想が必要となる。
( → 復興会議と復興計画 )
今回の震災への対策として、「巨額の防潮堤は駄目だ」という見解は、私以外に語っていた人を知らない。たいていの識者は、「 1200億円をかけた釜石の堤防は、無駄ではなかった。津波の到来を6分間ぐらい遅らせたからだ。その6分間によって救われた人命も多かっただろう。だから、たとえ少しの人命でも救えたのだから、1200億円の堤防は無駄ではなかった」なんて言っていた。
※ 実は津波の到来を6分間ぐらい遅らせることには何の意味もない。
なぜなら、たいていの人々はもともと逃げる気はないからだ。下記参照。
→ 避難警報を聞いても誰も避難しない
とにかく、そういうふうに防潮堤を好む人が多い。だから、私としては、復興会議の提言は、こうなると予想していた。
「 釜石や田老地区のような堤防をどんどん作ろう。それは津波によって破壊される運命にあるが、ないよりはマシなのだから、今後も(津波であっさり崩壊されるような)巨大な防潮堤をどんどん作ろう」
こういう馬鹿げた提言(無駄な巨額の公共事業を増やそうという提言)が出るだろう、とばかり思っていた。
ところが、あにはからんや。現実に出た提言は、私の予想とは正反対だった。つまり、私の見解に合致するものであった! 口あんぐりである。
──
さらに、別の点もある。
巨大な防潮堤をやめるとしたら、かわりにどうすればいいか? 私は「内陸堤防」という提案をした。下記のように。
これは、私の提案のユニークなところだ、と思っていた。ところが、これと同様のアイデアを、復興会議の提言も取り入れている! 引用しよう。
今回の津波では、重要な事実がある。次の事実だ。
「巨大は防潮堤は、役立たずだった。1200億円をかけた釜石の防潮堤も、日本一と呼ばれた田老地区の防潮堤も、津波に破壊されてしまった」
ここから、教訓が得られる。
・ 湾内の海中にある防潮堤は、あっさり破壊された。(釜石)
・ 海岸にある防潮堤も、少しは持ちこたえたが、やがては破壊された。(田老)
・ 内陸部にある防潮堤は、小規模であっても、津波を阻止した。
( → 堤防は内陸部に )
この「減災」の考え方に基づけば、これまでのように専ら水際での構造物に頼る防御から、「逃げる」ことを基本とする防災教育の徹底やハザードマップの整備など、ソフト面の対策を重視せねばならない。さらに、防潮堤等に加え、交通インフラ等を活用した地域内部の第二の堤防機能を充実させ、土地のかさ上げを行い、避難地・避難路・避難ビルを整備する。
( ※ 「防波堤」とは、外洋の波浪から港湾や漁港を守り、また津波から陸域を守るため、海中に設置される構造物をいう。「防潮堤」とは、台風などによる大波や津波等から陸域を守るため、陸上(海岸部)に設置される構造物をいう。「二線堤」とは、防潮堤よりも陸側にある防御のための構造物をいう。例えば、道路や鉄道線路を盛土構造にして堤防の役割を果たすものなどである。)
 ̄ ̄
復興計画を策定するにあたり種々の選択肢を比較検討するに際しては、地形の特性に応じた防災効果や、それにかかる費用、そして整備に必要な期間等を考慮すべきである。その上で、防波堤、防潮堤、二線堤、高台移転等の「面」の整備、土地利用・建築構造規制等の適切な「組み合わせ」を考えなければならない。
 ̄ ̄
沿岸に広く平野部が展開し、津波による浸水を受け農業関連を中心に甚大な被害が発生した地域においては、海岸部に巨大防潮堤を整備するのではなく、新たに海岸部および内陸部での堤防整備と土地利用規制とを組み合わせなければならない。
その際、交通インフラなどを活用して二線堤機能を充実させ、住居などは二線堤の内側の内陸部など安全な場所へ移転することを基本とする。仮に、二線堤の海岸側に住居を設ける場合には、宅地の安全措置を講じなければならない。二線堤より海岸側においては、適切な避難計画に基づく避難路の整備・機能向上、避難ビル等の整備について、当然、検討が必要である。
今後の津波対策は、これまでの防波堤・防潮堤等の「線」による防御から、河川、道路、まちづくりも含めた「面」による「多重防御」への転換が必要である。このため、既存の枠組みにとらわれない総合的な対策を進めなければならない。例えば、道路や鉄道などの公共施設の盛土を防災施設である二線堤として位置付けるべきである。学校や鉄道の整備にあたっても「減災」の観点を組み入れるなど、これまでにない発想で地域の安全度を高めていかなければならない。
 ̄ ̄
さらに、防波堤・防潮堤の整備事業、防災集団移転促進事業、土地利用規制などの既存の手法についても、一つ一つ今回の震災からの復興に適用できるかどうかの検証を行い、必要に応じて改良を施すことが求められる。防波堤・防潮堤については、比較的頻度の高い津波、台風時の高潮・高波などから陸地を守る性能を持ったものとして再建する。今回の災害のような大津波に際しては、水が乗り越えても倒壊はしない粘り強い構造物とすることについての技術的再検討が不可欠である。
この文章だけではわかりにくいが、併用された次の図を見るとわかりやすい。

クリックして拡大
以上に見られるように、提言では「二線堤」という言葉が使われている。これが私の言う「内陸堤防」に等しい……かもしれない。
つまり、今回の提言は、私の提案内容である「内陸堤防」という概念まで取り込んでいるようだ。
※ ただ、細かく見ると、多少の違いはある。
図に示された「防潮堤」が内陸部にあることが大事だ、というのが
私の趣旨である。それは「二線堤」とは同じではないようだ。
発想は同じようだとしても。
※ 「二線堤」というのは、本来は河川が氾濫したときの「洪水対策」だ。
Wikipedia では次のように説明されている。
「本堤の保護やバックアップの目的で設けられる小さい堤防のことを
副堤、控え堤、二線堤という」( → 図 )
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結論。
今回の提言は、予想に反して、非常に優れたものになっている。
「巨大な防波堤・防潮堤から、内陸堤防へ」
という津波対策の転換がなされている。これは非常に重要な根源的な転換だ。
そのようなアイデアを出していたのは、元々は私ぐらいだったが、それが見事に取り込まれている。パクリと言ってもいいぐらいだ。 (^^);
今回の提言は、細かいところにはいろいろと欠点も見えなくはないが、根源的な点で、正しい重要な方向転換をなしている。最も基本的な点で、正しい大転換をなしている。
基本方針を間違えなかったという点と、その基本方針が大転換であったという点で、今回の復興会議の提言を、非常に高く評価したい。
それゆえ、私としては、「90点」という、この種の報告に関しては異例に高い点数を与えたい。(通常は 50点であり、「可」すれすれである。それに比べて、今回の提言は、異例に優れている。)
[ 付記 ]
このような提言がなされたのは、官僚がものすごく頑張ったからだろう。ネットをいっぱい漁って、さまざまな情報を調べて、そのなかで私の情報を見つけて、うまくレポートを書いたのだろう。そういう官僚の頑張りが、今回の提言の根本理由であったと思う。(担当の役人には、「ご苦労様」とねぎらいたい。)
一方、復興会議の委員たちも、称賛したい。彼らは素晴らしい仕事をなしたと言える。その理由は、「官僚の提言を素直に聞いて、自説を言い張らなかったこと」だ。通常ならば、関係する専門家が、「ああだ、こうだ」と自説を繰り出して、一家言を述べたあげく、とんでもない方向に迷走するものだ。たとえば、小泉時代の「経済財政諮問会議」というのは、竹中や財界人が勝手に自説を繰り出したせいで、とんでもない方向に進んでいった。馬鹿な専門家が集まったあげく、馬鹿な専門家の好む方向へ進む、というのが、常であった。
ところが今回の委員は、文化人などであった。彼らは素人集団であった。ゆえに彼らは、自説をもたなったし、一家言を述べなかった。かわりに、官僚のレポートを必死に読んで、それを虚心坦懐に評価した。だからこそ、彼らは間違わなかったのだ。
この点では、「素人だらけの文化人」を選任した菅直人の仕事は、まったく素晴らしい結果を上げたと言える。(そこまで狙っていたかどうかは不明だが。たぶん結果オーライだったのだろう。 (^^); だとしても、政治家というのは、結果で評価される。最優秀と見えた専門家を集めた小泉は大失敗であり、素人の文化人を集めた菅直人は大成功であった。)
この意味では、復興会議に関する限り、菅直人の業績は非常に素晴らしい、と言える。ほとんど満点に近い。( 90点ですからね。)
[ 参考 ]
湾内ないし海岸の防潮堤は、すべてあっけなく破壊された。それは、釜石や田老地区の例に見られる。
→ 南三陸の津波被害 ,堤防は内陸部に
一方、(海岸からいくらか離れた)内陸部にある堤防は、見事に津波を阻止した。その情報は、これまで記さなかったが、ここに新たに記しておこう。記事や写真や地図を示してあるので、リンク先を見るといい。
(1) 普代村
→ 普代村を高さ15メートルを超える防潮堤と水門が守った
→ 普代村第6地割字中山 - Google マップ
(2) 岩手県洋野町 種市 八木
→ 高さ約12mの防潮堤が続く道
→ 洋野町の種市海浜公園前の防潮堤
※ 以上の (1)(2) とも、海岸線から数十メートル離れた内陸部に、防潮堤がある。
このような場合には、津波に破壊されることなく、防潮堤が有効だった。
【 関連サイト 】
※ 以下は重要ではないので、読まなくてよい。
今回の提言とは別に、中央防災会議の専門調査会の提言もあった。これらについては、下記で報道されている。
→ 防災計画、最大級の地震・津波想定を 中央防災会議 (日経)
→ 中央防災会議調査会中間報告 自治体対策に影響 (毎日新聞)
→ 防災会議提言 実効性ある巨大津波対策急げ : 社説(読売新聞)
1番目の記事(日経)には、次の文言がある。
もう1つは50〜150年間隔などの比較的頻度の高い津波。防波堤などの海岸保全施設を整備する際に対象とする津波高を大幅に上げることは、費用や環境への影響の観点から現実的ではないとしつつ、引き続き一定程度の津波高に対して整備を進めることが求められるとした。やはり、「内陸堤防」ではなく、「現状のような巨大防潮堤の建設」という方針であるようだ。さすがに専門家だ。従来通りの馬鹿げた方針を維持している。「過ちて改めず」(それが過ち)という保守的な方針を墨守している。懲りない人々。
専門家集団というものは、どんなにひどい失敗をしても、決して反省はできないのだ。せいぜい「壊れにくい堤防」なんていう改良案を出して、その場しのぎをするだけだ。
ひるがえって、素人集団の復興会議が、どれほど偉大な報告を出したか、よくわかるというものだ。
【 関連項目 】
→ 復興会議の提言への対案
※ 私なりの案。
田中角栄はやる気は満々だが序列やしがらみで冷や飯を喰っている若手官僚に
声を掛け、彼らに作らせた資料を夜中に起きて読み込むのを日課にしていたそ
うです(ストレートに取り立ててベテラン官僚の反感を買うようにはしないのが絶
品ですね。若手も「角栄が見てくれている」と思えば腐る事はないでしょうし)。
はからずも今回菅首相が人使いのうまさを見事再現させたわけで。こ
れが大々的に報道されないのはかなりずるいですね。
その後、その土木工学者に管理人さまの「内陸防波堤」のページをお伝えして、防災会議の責任者にも情報を流してくださるようにお願いしておきました。もしかしたら、その効果だったのかもしれません。真相はわかりませんが。
誰の手柄であれ、安全な町が造られるといいですね。
ただ気がかりなのは、昨日、三陸の町々が頼りにしている肝心の海が、どうも福島第一原発からの放射能で汚されつつあるという話を現場に行った青年から聞かされたことです。東松島で調査している大学の先生がいたそうです。数値は教えてもらえませんでした。東電は1000億円ばかりをけちって原発周辺の地下ダム建設を躊躇しているようですが、すみやかに対策を講じてほしいものです。