2011年07月10日

◆ 微量放射線と過剰報道

 微量放射線は、たいして騒ぐほどのことはない、とわかっている。なのにことさら騒ぎ立てる新聞がある。朝日新聞( 2011-07-10 )がそうだ。だまされてはいけない。 ──
 
 放射線の影響をことさら過大視する見解は、もともとある。「危険厨」と呼ばれる人々の発想だ。ま、素人がそのような発想に染まるのは、仕方ないかもしれない。無知な人々は常にいるからだ。
 しかしながら、朝日がそのような見解を大々的に掲載した。この日の新聞の大部分がこの特集になっている感じだ。1面も、社会面も。(朝刊 2011-07-10 )
 世論に大きな影響を及ぼす大新聞が、こういう危険厨に染まった偏向的な記事を掲載することには、大いに問題がある。そこで、問題点を指摘し、真実を示そう。

 ──

 「少しであっても危険だから、放射線の影響をできるだけ減らすべきだ」
 というのが、危険厨の発想だ。しかしながら、これが成立するのは、次の場合だけである。
 「放射線がなければ、人間は不老不死である」
 これは成立しない。人間は、放射線を浴びようが浴びまいが、いつかは死ぬ。癌になることも多々ある。とすれば、放射線の影響があるかどうかは、「有か無か」という形では判定されず、「他の死因に比べて、大きいか少ないか」を比べるのでなくてはならない。なのに、その基本が、朝日はまったくできていない。

 たとえば、記事にはこうある。
 「20ミリシーベルト被曝すると、致死的な癌になる人が、生涯の間で千人中1人程度(0.1%)増える」
 これをもって「少しではあるが、危険だ」という見せかけている。しかし、正しくはこうだ。
 「放射線で癌にならなくても、千人中千人が必ず死ぬ」
 つまり、癌で死のうが、癌で死ぬまいが、人は必ず死ぬのである。「放射線がなければ死なずに済む」とばかり書くのは、間違いだ。正しくは、
 「放射線がなければ、放射線に由来する癌で死ぬかわりに、他の死因で死ぬ」
 である。結局、放射線の影響は、死ぬ時期が1年ぐらい早まるぐらいのことだ。それも、千人に1人ぐらいの割合で。
 このような影響は、他の死因(メタボ・高血圧・飲酒・交通事故)などに比べれば、圧倒的に小さな影響である。

 ここまで見ればわかるだろう。
 「放射線による影響は、あるとしても、あまりにも小さい」
 というのが正解だ。ひるがえって、
 「放射線による影響は、たとえ少しでも危険だから、なるべく減らすべきだ」
 というのは、間違いである。なぜなら、「減らす」ためには、何らかのコストがかかるからだ。すべてはコストとの兼ね合いである。

 なお、ここでいうコストとは、金銭上のコストとは限らず、健康上のコストを含む。たとえば、次の例がある。
 《 お墓にひなんします 南相馬の93歳自殺 》
 緊急時避難準備区域に住む93歳の女性が6月下旬、こう書き残し、自宅で自ら命を絶った。一時は家族や故郷と離れて暮らすことになり、悲観したすえのことだった。
 5月3日、南相馬の自宅に戻った。群馬に避難している長男にたびたび電話しては「早く帰ってこお(来い)」と寂しさを訴えていたという。
 住み慣れた家で、一家そろっての生活に戻った約2週間後の22日。女性が庭で首をつっているのを妻が見つけ、長男が助け起こしたが手遅れだった。
( → 毎日新聞 2011-07-09
 93歳の女性の息子と言えば、70歳ぐらいだろう。孫は 40歳ぐらいだろう。いずれにしても、あえて避難するほどのことはない。避難することのメリットよりは、避難によるストレスのデメリットの方が、影響は大きい。これが(健康上の)「コスト」だ。そして、そのコストがあまりにも多大であったために、93歳の女性はストレスから自殺してしまった。

 このような例はこれが初めてではない。次の例もある。
  → 福島 計画的避難区域で女性自殺か
  → 家族避難を苦に自殺か 飯館村の102歳男性

 また、自殺ではなくても、次のような例もある。(介護老人の死亡)
  → 30キロ圏から避難3か月、高齢者77人死亡
 
 いずれにしても、ストレスが理由で、高齢者がどんどん死んでいく。これは「放射線が怖いから」と人々が思うことによる、人災だ。仮に、「放射線なんかへっちゃらだ」と思っていれば、これらの人々は死なずに済んだはずだ。
 要するに、朝日のように、「放射線は危険だ、放射線で死ぬ」というふうに騒げば騒ぐほど、死ななくて済んだ人が死ぬ結果になる。
 「人間はどうせ遅かれ早かれ死ぬものだ」と達観していれば、騒がずに済んだはずだ。なのに、「人間は不老不死であり、放射線を浴びなければ死なずに済む」と思い込んだ人々が、「放射線で死ぬまい」と大騒ぎしたあげく、まわりの人々を死に追い込んでいく。
 朝日のやっていることは、「未必の故意による大量殺人」と同様である。

 ──
 
 現実には、福島の人々にも、大騒ぎしていない人々も多い。たとえば、次のように語る人もいる。
 「震災前と同様の生活をしているので、放射能のことはあまりに気になりません」
 ( → 郡山市の美人店員 石井綾子さん)

 ごもっとも。私だって、郡山市ぐらいの放射線であれば、右往左往したりはしないだろう。右往左往することのリスクの方が、高すぎる。
 なのに、朝日新聞は、大騒ぎする人のことばかりを仰々しく書く。たとえば、次のように。
 線量計で家中を測ってみた。すると……「毎時 0.8μシーベルト」。すべての床を雑巾で拭いた。壁や天井も吹き上げた。それでも線量計の数字は変わらない。全身の力が抜けるのがわかった。
 何のためにこのような馬鹿記事を書くのか?
 床を雑巾で拭くのは、放射線量を下げるためではない。そんなことは、やってもやらなくても、計測される放射線量には影響しない。当り前のことだ。
 床を雑巾で拭くのは、床付近に溜まっている放射性物質を吸い込まないため(内部被曝を下げるため)である。外部被曝量を下げるためではない。……なのに、そこを根本的に勘違いしているようだ。

 結局、朝日の記事は、無意味なことをして騒いでいる人の大騒ぎを取り上げて、ことさら騒ぎを大きくしているだけだ。
 たとえると、次のようなものだ。
 「この自動車は、事故の直前に、速度を下げようと思って、クラッチを踏んだのですが、いくらクラッチを踏んでも、ちっともブレーキがかかりませんでした。全力でクラッチを踏んでも、それでもブレーキがかからないんです。何という危険な自動車でしょう。あまりにもひどいことに、愕然としました」
 これと同じくらいの馬鹿記事だ。ブレーキをかけるには、ブレーキペダルを踏むべきであり、クラッチペダルを踏んでも意味はない。そう指摘するのが、正しい記事だろう。なのに朝日と来たら、扇情的に騒ぎ立てるだけだ。
 「内部被曝を下げる努力をいくらやっても、外部被曝の量がちっとも下がらないんです。何というひどいことでしょう!」
 というふうに。馬鹿丸出し。

 ── 

 朝日は、LNT仮説(しきい値なし直線仮説)についても、一方的に報じる。「これが国際的に認められている」というふうな趣旨で。
 しかし、LNT仮説は、正しいかどうかは、判明していない。朝日のような書き方は、偏向報道である。

 では、正しくは? こうだ。
  ・ 微量放射線が人体に影響するかどうかは、判明していない。
  ・ 微量放射線が人体に影響するとしても、その量はあまりにも微小である。


 特に、後者が重要だ。
 影響は、たとえあるにしても、その量はあまりにも小さいのだ。冒頭付近にも掲げたとおり、
 「致死的な癌になる人が、生涯の間で千人中1人程度(0.1%)増える」

 とか、その程度のことだ。
 しかも、ここでは、「そのせいで不老不死の人が死んでしまう」のではない。「死因が変更されることで、寿命が数年間程度、縮まる」というだけのことだ。

 仮に、朝日のような論法を使うと、池田信夫と同じことになる。
 「石炭のせいで、年間数万人が死んでしまう」

 これではまるで数万人がばったばったと死んでしまうように聞こえる。しかし実際は、そうではない。70歳ぐらいの高齢者の寿命が、1年程度短くなる、というだけのことだ。たとえば、80歳で死ぬ人が79歳で死ぬ、というふうに。そういう例が数万人ある、というだけのことだ。なのにこれを、「石炭のせいで数万人が死ぬ」と表現している。一種のペテンだ。
  ( → 続・池田信夫のデマ(電力)

 池田信夫のペテンも、朝日のペテンも、どっちもペテンだ。それによって寿命が少しだけ短くなる人がいる、というだけのことなのに、「死なずに済む人が死んでしまう」というふうに表現する。まるで「放射線を浴びなければ不老不死であったのに」とばかり。

 ──

 では、正しくは? こうだ。
 「人は遅かれ早かれ、いずれは死ぬ。放射線を浴びなくても、メタボ・高血圧・飲酒・交通事故など、他の死因によって死ぬ。その死因が変更されることで、寿命がほんの少し短くなる人が、千人に1人ぐらいいる。しかしその影響は、メタボ・高血圧・飲酒・交通事故などに比べれば、圧倒的に小さい」


 これが真実だ。この真実を理解しないまま、「放射線は危険だ!」と大騒ぎすると、どうなるか? 大騒ぎのおかげで、「放射線のせいで死ぬ」という率を下げることはできるが、その代わり、ストレスなどのせいで死ぬ比率が急増してしまう。その例が、先の「高齢者の自殺」などだ。
 他にもある。チェルノブイリでは、不安のせいで飲酒量が急激に増えたそうで、それによる死亡者が大幅に上昇したそうだ。ここでは、放射線よりも、「放射線は怖い」と思うストレスの方が、圧倒的に多くの死をもたらしたのだ。

 一方、逆の話もある。広島・長崎で放射線を浴びた被爆者は、(直後の急性期の死亡者を除くと)、普通の人よりも長生きしたそうだ。なるほど、これらの被爆者は、たしかに発癌率が高まった。しかしながら、高度な医療検査などにより、他の死因の率は下がった。おかげで、「放射線を浴びたせいでかえって長生きできた」という結果になったのだ。
  → http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110428
  → http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110518

 ──

 結論。

 放射線による影響は、皆無ではないが、あまりにも小さい。それほど小さい影響について大騒ぎすれば、大騒ぎすることによる死亡率が大幅に上昇してしまう。
 「死の危険はできる限り下げるべきだ」
 という発想は、間違いである。むしろ、こう考えるべきだ。
 「人は決して死を逃れることはできない。放射線であれ何であれ、何らかの死因が必ず来る。それらの死因のなかで、放射線という死因はあまりにも小さい。何が大きくて何が小さいかを、はっきりと理解するべきだ」

 簡単に言えば、「単細胞になるな」ということだ。人の死因は、山ほどある。1000のうち999は、放射線以外だ。なのに、放射線のことばかりに着目して、999の死因を忘れてしまっては、かえって死に近づくばかりだ。
 物事を広い視野で見るべきだ、というのが結論となる。朝日のような単細胞な連中には、とうてい不可能なことではあるが。



 【 関連項目 】

 → 微量放射線の影響
 → 放射線より心配性が危険
posted by 管理人 at 13:48 | Comment(6) |  放射線・原発 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
放射線による健康被害よりも過剰報道による農作物や経済的ダメージなどの無用な風評被害の方が怖いですね。
私の住む千葉県北西部(東葛飾)もホットスポットという相対的に放射線量の高い地域だと週刊誌やネットで過剰なまでに言われていますが、正直言って馬鹿馬鹿しい話です。それより風評被害が怖いです。
Posted by 東葛飾 at 2011年07月10日 15:33
あとで思い出したが、次の有名な言葉がある。
 「酒と女は二合まで」

 酒は二合まで。女も二号まで。  (^^);

 私としてはもっと善良に「酒も女も1ごうまで」とお勧めしたい。その方がずっと健康にいいですよ。

 放射線による影響なんて、酒飲みの影響に比べれば、ずっと小さい。全然飲むなとは言わないが、日本酒換算で1合までにしておく方が、放射線よりはずっと好影響であるはずだ。

 世間では「放射線よりは喫煙の方がずっと危険だ」という声が多いが、微量放射線と比べるならば、酒だって結構 危険度がある。特に、顔が赤くなりがちな人は。
Posted by 管理人 at 2011年07月10日 17:30
母親の実家が南相馬市にありました。(津波で流されたので過去形で^^;)
家の残った親戚はそのまま現地で生活してます。叔父・叔母は「自分たちではなく、子供・孫が心配」と言います。今すぐの心配はあまりしてないんですよね。長期的に生活できる環境なのかどうか?次の世代が安心して暮らしていけるのか?
他の被災地が復興に向けて動く中で、原発が大きな足かせであることは事実です。地域として再生出来るのか?
どうも政府・報道の目線が的外れのような気がして...
Posted by 通りすがり at 2011年07月11日 14:54
あの特集を読んで、朝日を解約しようと思いました。
放射能ノイローゼをどこまで増やすのかと。
社会面の主婦の方には同情するが、正直「心療内科に行ったほうがよい」と思ってしまった。
彼女のような精神状態の母親と暮らすことの子供への悪影響も長期的に心配だ。
Posted by AK at 2011年07月13日 18:44
現在のマスコミの報道がトンデモすぎるのには閉口していますが、それの対論として
「放射線がなければ、人間は不老不死である」、「放射線で癌にならなくても、千人中千人が必ず死ぬ」というのを最初に持ち出すのは少し違うのではないかと思います。
それを言ったら何事もどうでもよくなってしまいます。毒も病気も交通事故も、戦争ですらどうでもいいということになりませんか。言いたいのはそういうことではないですよね。
極論に極論で対抗しても意味がないと思います。

内容と結論には多いに同感です。本来ならそれをマスコミがしっかり報道しないといけないんですよね。
Posted by タムラ at 2011年07月21日 11:24
レトリックを文字通りに読まないでください。いちいち説明しなくても、常識でわかると思いますが。
Posted by 管理人 at 2011年07月21日 12:33
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