2011年07月09日

◆ 再生エネ法案の是非

 菅直人首相が退陣の条件としている 再生エネ法案(再生可能エネルギー特別措置法案) が、成立の芽が出てきた。これをどう評価するべきか? ──
 
 再生エネ法案は、自民党の反対でつぶれるかとも思ったが、自民党と公明党の賛成で成立する芽が出てきた。
  → 再生エネ法案、自民幹事長が修正条件に賛成表明
  → 再生エネ法案:14日審議入り 民自公が合意

 私としては、7年ぐらい前からずっと「太陽光発電への補助金」に反対してきたし、最近では池田信夫その他も反対している。だが、世間の大半はいまだに「太陽光発電への補助金」(もしくは電気料金の上乗せ)に賛成する人々が多い。そこで、自民も公明も、世論に迎合する形で(もしくは無知であるせいで)、再生エネ法案に賛成するようだ。

 ──

 では、そもそも再生エネ法案とは、どんなものか? その実態は、あまり知られていないが、次のサイト(経産相)に情報がある。
 → http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003.html
 → http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003-3.pdf


 後者の PDF から一部抜粋すると、核心は次の通り。


saisei.gif


 そのポイントは、次のことだ。
 (1) 太陽光と、その他(風力など)を、区別する。
 (2) その他は、15〜20円/kWh という低めの価格だが、太陽光は高額かつ不明。
 (3) 住宅用と事業用は区別される。
   ただし「余剰分買い取り」と「全量買い取り」の区別は明示されていない。

 要するに、「細かいことは決まっていなくて、今後の政策しだいで、いろいろと変更できる」ということらしい。

 ──

 これに対して、私はどう評価するか?
 
 私はこれまで、次のような立場を取ってきた。
 「太陽光も風力も、コストが火力よりもずっと高いので、補助金で普及させるという方針を取るべきではない」


 基本的には上記の方針を取っているのだが、いろいろと調べると、次の3点を考慮してもいいと思い直した。
  1. 風力はもはやかなりコストが下がっている。最新式の火力(8円)には及ばないが、古い火力と同程度(14円)にまで下がっている。火力のエネルギーコストが、今後は上昇基調にあることを考えると、「今後はずっと同一価格」が保証されている風力は、十分に検討対象になる。また、「自然エネルギー」という理由で、「環境に優しい」という長所もある。また、「将来の技術への援助」という名分も立つ。……これらの理由で、風力については 15〜20円/kWh 程度の購入は、認めてもいい。

  2. 太陽光発電については、40円/kWh というのは論外であるが、家庭の電力の購入価格である 25円/kWh ぐらいでならば、購入してもいいだろう。つまり、 25円/kWh で購入して、 25円/kWh で販売するわけだ。これならば、電力会社にとって利益を得ることはできなくなる(送電設備その他の費用負担もできなくなる)が、少なくとも、赤字の垂れ流し状態ではなくなる。
  3. 太陽光発電は、夏の日中には発電量が多いという長所をもつので、夏に日中に限っては、高価格で買い取りをしてもいい。夏の三カ月間(6月半ば〜9月半ば)のころであれば、40円/kWh で購入してもいいだろう。(ただし家庭での余剰分だけ。)
 以上の3点を考慮して、再生エネ法案については、「条件つき賛成」の立場を採りたい。
 条件とは、次のことだ。
  1. 風力については、最高でも 20円/kWh として、なるべく価格の引き下げを推進する。
  2. 太陽光については、最高でも 25円/kWh を原則として、なるべく価格の引き下げを推進する。
  3. ただし夏の三カ月間に限り、家庭における余剰分については、40円/kWh を許容する。(当面における優遇措置。)
  4. 企業における発電は、余剰分でなく全量買い取りが原則となる。したがって、家庭に対する優遇措置は取らない。孫正義の主張する 40円/kWh の全量買い取りなんて、もってのほかだ。最高でも 25円/kWh という原則を守る。夏季の分については高めにしてもいいが、それならば夏季以外の分については低めにするべきだ。トータルで年平均 25円/kWh でいい。これならば、十分に優遇措置となる。
 単純に言えば、こうだ。
 「価格を低めにするという条件のもとで、再生エネ法案を成立させていい」


 つまり、自然エネルギーを補助金(など)で促進することは、価格が高めならば駄目だが、価格が低めならばいい、ということだ。

 ──

 なお、現状は、次のような問題がある。
 「風力であれ、太陽光であれ、コジェネの自家発電であれ、電力会社は購入の義務を負わない。そのせいで、電力危機の際にも、東電は自家発電の電力を買わないで、勝手に電力危機をあおっている。そのせいで国民はやたらと節電を強いられる」


 今は全国で電力不足が訴えられているが、その一方で、(小規模な)風力発電や自家発電などの会社は、「電力を買ってもらえない」と文句を言っている。東電などの電力会社としては、そういう小規模の電力を、いちいち買う気にはなれないのだろう。というのも、そういうシステムができていないからだ。
 しかし、そういうシステムができれば、現在のような電力不足もかなり緩和される。その意味で、「自然エネルギーの購入義務」という再生エネ法案は、悪くない。

 そして、その本質は、「自然エネルギーの促進」というよりは、「自家発電の電力の購入義務」ということであるから、「発送分離」や「スマートグリッド」という発想にかなり近くなる。そういう意味合いが、再生エネ法案には込められているのだ。
 そして、その意味があるからには、再生エネ法案は、とりあえずは成立させてもいいだろう。

 ただ、その本質が、「自家発電の電力の購入義務」ということなのであるから、そこには、「コジェネの発電」も含めるべきだ。
 実際、コジェネというのは、とても効率が高い。熱効率は 80%ぐらいにまで達する。これを比喩的に言えば、「お湯を沸かしたついでに、余った熱によって発電できる」ということだ。簡単に言えば、「無から発電できる」ということだ。(永久機関みたいなものだ。いや、エネルギーを生み出すから、それ以上だ。)

 ドイツのようなグリーン電力の推進国でさえ、その主役はコジェネだと言える。
  → 電力購入を自由化せよ(グリーン電力制度)

 そういうわけであるから、再生エネ法案では、やたらと太陽光を優遇せず、風力やコジェネにも注力するといい。そして、価格をなるべく低めに誘導するといい。
 この条件が満たされるのであれば、再生エネ法案は成立させていいだろう。(つまり、そういう修正がなされれば、という条件つきで。)



 [ 付記1 ]
 「太陽電池は、補助金で大量生産が進めば、価格がどんどん低下する」
 という説があるが、まったくの嘘っぱちだ。すでに欧州などで莫大な大量生産が進んでいるが、価格の下落は緩慢である。十年間で生産量は爆発的に増えたが、価格低下はわずか。(生産量は5〜10倍ぐらいに増えたが、価格低下は1〜3割程度だ。)
  → 画像検索「太陽光発電 生産量」
  → 画像検索「太陽光発電 価格」

 近年では、太陽電池の価格が急落した時期があるが、それは、大量生産のせいではなくて、中国製が普及したせい(人件費が安いせい)である。
 今後はどうか? 見通しは甘くはない。大幅な価格下落のためには、技術革新が必要だ。それは、できそうだが、まだ未確定である。CIS 太陽電池も有望だが、やはり、有望ではあるが未確定である。

 要するに、「大量生産で価格低下」という説は成立しない。ゆえに、「多額の補助金をだすべき」という説は、成立しない。再生エネ法案で「太陽光発電をことさら優遇する」という論拠は成立しない。

 [ 付記2 ]
 「大量生産で価格低下」という説は成立しない。なのに、「成立する」と勝手に思い込むと、どうなるか? たぶん、「太陽電池バブル」が起こるだろう。
 では、その意味は? こうだ。
 「一時的な急成長と、その後のバブル破裂」

 似たことは、ドイツやスペインで起こった。国の補助金で、太陽電池のメーカ−が急成長したが、その後、中国製のメーカーなどの参入やら、補助金の停滞・縮小やらで、バブルが破裂した。すると、ドイツやスペインのメーカーは倒産の危機に瀕した。

 日本でも同様のことが起こりそうだ。つまり、こうなる。
 「再生エネ法案が成立すると、シャープの太陽電池は莫大に売れる。シャープはどんどん工場を増設して、株価が急上昇する。しかしその後、バブルが破裂する。市場は中国製の太陽電池が大半を占める。シャープは莫大な設備をもてあまして、倒産する。倒産したあとは、中国がシャープを買収する。シャープは中国企業の子会社となる」

 つまり、再生エネ法案のせいで、日本でも最先端の技術を持つシャープという企業は、倒産して、中国に買収されてしまう。技術もろとも。
 これはまあ、「売国」政策だ。同じことが他の産業でもなされたら、トヨタも日産もキヤノンもソニーも、こぞって倒産して、中国企業に買収されてしまうだろう。

 そして、そういうことを防ぐ唯一の策は、こうだ。
 「市場は市場原理に任せる。補助金で特定製品を推進して、市場を歪めない」


 再生エネ法案は、市場を歪めない範囲(買い取り価格が低めである範囲)ならば、問題がない。しかし、市場を歪める(買い取り価格が極端に高くなる)ようであれば、問題が起こる。
 この基本を、しっかりと理解しておくことが大切だ。

 [ 付記3 ]
 本当を言えば、太陽光発電という産業は、日本企業が担当する必要はない。現時点でも世界最大の企業は、中国メーカー Suntech Power である。(人件費の低さが有利だし、技術的にも最先端だ。)
 実際、ヤマダ電機で太陽光発電の見積もりをしてもらうと、SUNTECH POWER の太陽電池を勧められる。「中国製なんかイヤだ」と思うユーザーもいるが、「それなら国産品を」と代案を示されると、次のことがわかる。
  ・ 国産メーカーは、10年保証
  ・ Suntech Power は、25年保証

 要するに、製品の完成度で、大差があるようだ。「国産の二流品を選びますか? 世界最高の中国製を選びますか?」と言われると、あえて国産を選ぶ人は少なくなる。
 
 私が思うに、企業規模からして、シャープには勝ち目がない。また、人材の面でも、(莫大な人口を背景とした)秀才ぞろいの中国企業には勝てそうにない。
 日本企業は、シリコン型の太陽光発電からは、撤退した方が賢明だろう。この分野は、もはや長らく技術が停滞している。シリコン製造の分野では技術革新があったが、太陽光発電パネルの技術はろくに進歩していない。この分野を日本企業がやる意味はろくにない。

 [ 付記4 ]
 ちなみに、シャープは 2008年の時点で、「コストを半減します」と誓約していた。このことは、本サイトでも前に紹介したとおりだ。( → 該当項目
 改めて引用しよう。
 「2010年に太陽電池の発電コストを現在の半分、1kWh当たり23円に下げるめどがたった」
 しかしながら現実には、23円どころか、40円ぐらいのままだ。ごくわずかしか下がっていない。( だから孫正義も、40円で買ってくれ、と要望している。)

 「太陽光発電は、どんどん価格が下がるだろう」というのは、昔から何度も語られてきた嘘である。オオカミ少年と同じ。
 


 [ 余談 ]
 太陽光発電は、それほどすばらしいものではない。というのは、「真っ黒なパネルによって、地上のヒートアイランドをもたらす」という逆効果があるからだ。太陽光発電が増えれば増えるほど、地上はますます暑くなる。
  → 太陽電池の熱吸収
 「太陽光発電は環境に優しい」なんてのは、嘘っぱちだ。どうせなら屋根を白くする方が環境に優しい。
( ※ 屋根を白くして、屋根裏に断熱材を入れれば、クーラーを必要とする度合いが減る。ついでだが、「長めの庇(ひさし) も、なかなか有益である。近ごろの住居は、庇の短いものが多いが。)
posted by 管理人 at 22:40 | Comment(3) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
太陽光発電は大量生産しても、パネルの値段以外のコストが下がりにくいのが難点です。
ただし、太陽光発電産業の生産誘発係数は電気機械、一般機械と同等のようですし、施工などで中小業者の仕事も増えることから「税金を使わない公共事業」と割り切れば悪くないと思います。
・生産誘発係数の試算例(28ページに結論あり)
http://www.giac.or.jp/projects/report_pdf/2010_LG00593.pdf
Posted by 砕かれた四月 at 2011年07月10日 06:47
> 「税金を使わない公共事業」

電気料金にかかるわけだから、誰もが同じぐらいかかります。所得税よりも人頭税に似ている。税金よりも悪いですね。

公共事業は、その利益(洪水防止など)を受ける人がいますが、太陽光発電(の割増額)で利益を得る人はいません。業界に金が回るだけで、結局は「穴を掘って埋める」のと同様です。公共事業というよりは、穴掘り事業ですね。

私としては(ただの)穴掘りの方がマシだと思います。それで雇用されるのは失業者。一方、太陽光では、シャープなどを倒産させるだけの結果。莫大な損失を生むだけ。

 比喩的に言えば、「どうせ穴掘りをするにしても、道路の真ん中に穴を掘れば、ケガ人が続出するので、病院の仕事と利益が増える」というようなもの。狂気の沙汰だ。
 それくらいなら、原っぱで穴を掘って埋める方が、よほどマシです。

> 生産誘発係数の試算例

それが高ければ高いほど、あとでバブルが縮小したときに、反作用が強くないます。補助金によって一時的に極端に生産量を増やすことは、好ましいことではなく、悪いことです。

私の見通しでは、太陽光発電の生産量は、薄膜型(CIS型)が大量に増えるはずです。シリコン型を増やせば増やすほど、あとでバブル破裂の悪影響が大きくなります。
シリコン型太陽電池のバブルは、中国企業に任せる方が賢明でしょう。日本をその厄災に巻き込むために大金を注ぐべきではない。
Posted by 管理人 at 2011年07月10日 09:18
風力発電にも、騒音や、渡り鳥が巻き込まれてしまう問題などいろいろ問題があって、一概にいいとは言えないと思います。
太陽光にもいえるのですが、「エコ」の一言で無議論に推進する今の風潮はいかがなものかと思います。
ブログの最後の方でも触れられていますが、大規模発電(特定の電力会社)にだけ頼る方法を変える必要があると思います。
Posted by タムラ at 2011年07月21日 13:01
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