大停電はなぜ起こるか? 通常は、次のように言われる。
一時的にせよ電力消費が供給を上回ると、変電所の電圧や周波数が不安定になり、最悪の場合は安全装置が働いて停電する。家庭のブレーカーが落ちるのと同じだ。そして一つの変電所が停止すると、供給能力がさらに下がって消費が超過し、他の変電所も停止する・・・という連鎖が起きて、ニューヨークやカリフォルニアのような大停電が起こる。関西一円で大停電が起こると、被害は数兆円の単位だろう。しかし、これは妥当ではないようだ。
( → 池田信夫ブログ
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朝日新聞・朝刊 2011-06-30 に、良い解説記事があった。これをまとめておこう。核心は、こうだ。
1987年7月23日に、首都圏で大停電が起こった。予報を超える突然の猛暑で、昼休み後に冷房需要が急上昇した。1分間に40万キロワットという、過去の記録の2倍のスピードで消費電力が増加し、電圧が急落したことが原因だった。このとき、280万戸が最長3時間20分停電したそうだ。これは「電圧崩壊」と呼ばれるという。
これが起こるのは、発電所が大消費地から遠く、電圧を支える能力が比較的低い東京電力の特性が災いしたそうだ。対応策が採られた今では、このタイプの停電の心配はないらしい。
今では心配なのは、「電圧」ではなくて「周波数」の急落だという。
急に電力が足りなくなったとき、発電所に負荷がかかり、回転軸を強く握ったような状態になって、回転数が落ち、周波数が急落する。このようにして、周波数が急落する恐れがある。周波数が急落しても、幅が小さければ、大丈夫だ。しかし、幅が大きいと、問題が起こる。
発電機の回転が急に落ちると、タービンの羽根が振動で破損する恐れがある。気温急上昇などで、消費電力が大幅に増えても、ゆっくりとした変動なら、発電機を動かす動力を増したり、大口需要家に操業を止めてもらったりして、対応できる。しかし、発電機の出力は急激には上げられない。そこで、周波数が一定以下に落ちそうになると、発電機を守るために、変電所の安全装置が働き、周辺地域への送電を止めて、消費量を減らす仕組みになっている。周波数の急落の幅が大きいと、部分停電が起こるわけだ。では、幅は、どのくらいまで許容されるのか。
周波数で0.5ヘルツ、総出力の5%程度までの一時的不足なら、まず問題はない。──
以上をまとめると、次の通り。
・ 大停電はかつて起こった。昼休み後の需要急増が理由。
・ それは「電圧降下」という形で起こった。今はその形では起こらない。
・ 今は「周波数急落」という形で起こりうる。
・ それが起こる条件は、全体の5%程度の変動が急激に起こった場合。
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要するに、次のように言える。
「電力が不足すると、大停電になる」としばしば言われる。しかし、それは正しくない。
正しくは、こうだ。
・ 「大停電」が起こるのは、電力消費の急上昇があったときだ。
・ だから、「大停電」を防ぐには、電力消費の急上昇を防げばいい。
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ひるがえって、次のことは正しくない。
・ 「大停電」が起こるのは、電力消費の絶対量が高まったときだ。
・ だから、「大停電」を防ぐには、電力消費を減らせばいい。
この理由で、人々は「大停電を防ぐために節電しよう」と思う。しかし実際には、節電をしても、大停電を避けることにはつながらない。
どんなに節電していても、電力消費の急増があれば、大停電は起こる。
逆に、節電していなくても、電力消費の急増がなければ、大停電は起こらない。
では、電力消費の急増がなくて、単に絶対量だけが緩やかに上昇した場合には、どうなるか? イタリアや戦後日本の例からして、次のようになるはずだ。
「なだらかな電圧低下。現在、95ボルトぐらいである電圧が、さらに5ボルトぐらい低下する。末端では90ボルト程度まで下がる。そのせいで、照明が弱まったりちらついたりする。
一方、たいていの家電製品(パソコンを含む)は、85ボルトまでは大丈夫であるように設計されているので、たいていの家電製品は何も問題が起こらない。
逆に、エアコンは、インバーターが働いて、能力が上昇するので、電力消費は少しも減らない。(むしろ電圧低下による効率悪化のせいで電力消費は微増する。)」
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ここまでを簡単にまとめると、次の通り。
・ いくら節電しても、大停電を防ぐことはできない。
・ 節電をするのは、電圧の低下を防ぐためだ。あまり意味がない。
・ 大停電を防ぐには、節電ではなく、電力消費の急増を防げばいい。
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では、具体的には、どうすればいいか? こうだ。
「昼休み後に電力消費が急増するのを防ぐために、昼休み中も冷房をつける。また、昼休みの直後には、冷房をしばらく消す」
具体的には、こうだ。
・ 昼休みを 11時45分から13時15分と想定する。
・ 11時45分から12時45分までは、たとえ無人であっても、冷房をつけておく。
(できれば強めにつけておく。冷気を溜める。)
・ 12時45分から13時15分(±5分)までは、冷房を切る。
これによって、13時00分〜13時15分に起こるはずの「電力消費の急増」を防げるはずだ。かくて、大停電を防げる。
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まとめ。
「大停電を防ぐためには、節電すればいい」というのは、嘘っぱちだ。
人々は電力の機器を防ぐために、せっせと節電をしているが、実は、ろくに意味もないことのために、節電をしていることになる。そんなことをいくらやっても、電力機器を防ぐことはできない。大切なのは、すぐ上に述べた対策を取ることだ。(昼休み直後の電力消費の急増を防ぐこと。)
節電することは、意味がないわけではない。ただし、その意味は、「大停電を防ぐこと」ではなくて、「電圧低下による照明電力のチラつきを防ぐこと」である。そんなことをしても、たいして意味がない。
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ただ、話をひっくり返すようで申し訳ないが、次のことは言える。
現状のように電力が不足すると、電圧が95ボルトぐらいに下がっている。そのせいで、電圧を下げる余裕が小さい。以前ならば、105ボルトだったので、そこから 90ボルトまで下げることができて、余裕は 15ボルトもあった。その分、周波数の急落は起こりにくかった。
しかし今では、95ボルトになっているので、そこから 90ボルトまで下げるとしても、余裕は 5ボルトしかない。その分、周波数の急落は起こりやすくなっている。
というわけで、余裕が不足している。そこで、その分、「昼休み後の急増」を防ぐ対策が必要となる。そして、その対策を取っていれば、大停電は起こらない。
節電をすることは、「余裕を増やす」という意味では、有効である。ただ、節電そのものが、大停電を防ぐわけではない。節電は「大停電を起こしにくくする」という効果は少しあるが、直接的に大停電を防ぐわけではない。
直接的に大停電を防ぐには、「昼休み後の急増」を防ぐ対策が大切だ。
[ 付記1 ]
大阪では「大停電が起こるかも」と私も書いた。だが、そのために必要な措置は、「節電」ではなくて、「昼休み後の急増」を防ぐ対策なのだ。
橋下府知事は、「家庭のエアコンを止めよ」と述べているが、それはまったくの見当違いであった、と言える。
大切なのは、家庭ではなくて企業において、昼休み後の電力使用急増を避けることだ。産業用の機械も、昼休みの直後には、電力消費が急増する。これらの「電力消費の急増」を防ぐことが、本質的な対策となる。
[ 付記2 ]
橋下知事は、「エアコンを止めよ」と述べたが、これを実施すると、かえって大停電が起こる可能性がある。というのは、
休止状態 → その後にいっせいにフル稼働
というふうになって、下手をすると、急激なピークが発生するかもしれないからだ。たとえば、「午後5時まではエアコンを止めてください」と言ったあとで、午後5時にみんながいっせいにエアコンをつけると、そこでエアコンが暑さのなかでフル稼働するので、ものすごいピークが発生して、大停電になる……というふうな。
家庭でできることがあるとすれば、「企業の電力消費が急増する 13時ごろにはエアコンを切る」ということぐらいだろう。これぐらいなら、実行してもいいし、むしろ、実行が推奨される。ただし、それ以上は、駄目だ。(次項で述べる。)
消費電力の急増が停電の原因なのであれば、それは3.11後の今に限った話ではなく、以前から停電の切迫した危機が常にあったというおかしな話になってしまいませんか?
私は専門家でも何でもありませんので単なる想像ですが、消費電力の急増に対応できるだけの発電能力における「余力」がなくなってしまったので、急増=>停電となってしまうということではないのでしょうか?
であれば、余力を生み出すための節電は当然意味があるはずでは?
(そこまでていねいに書かなかったのは、不親切だったかもしれませんね。疲れていて眠かったので、あまり詳しく書きませんでした。ただし、[ 付記1 ]のすぐ前に、ほぼ同趣旨のことが書いてあります。)
ただ、一番のポイントは、「節電よりは急増の防止」ということです。その意味で、「節電こそが大切、急増のことなんか考えない」という俗説を批判しています。