ならば原発のあとは、火力発電よりも 自然エネルギーがいい、と言えるか? ──
LNG の需要が急増したのにともない、世界的に需給が逼迫した。LNG 価格が上昇基調にある。このままだと、かなり高騰しそうだ。
そういう趣旨の記事が、朝日・朝刊 2011-06-22 に掲載された。
これが事実ならば、火力発電に頼るという方針は、好ましくないのかもしれない。火力発電はやめて、自然エネルギー(再生可能エネルギー)にするべきなのかもしれない。
とにかく、記事を読む限りは、「 LNG発電はどんどん価格が上昇して、先行きの見通しは暗い」というふうに読み取れる。そう考えていいのだろうか?
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実は、この情報には、「統計の操作」というペテンがある。これは情報操作によって書かれた記事である。
つまり、記事の内容を自分の都合のよいように操作する。そのことで、読者を一定の方向に誘導しようとする。(ここでは、自然エネルギーに誘導しようとしている。)
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では、正しくは? 次のグラフを得られる。( → 出典 )
この図と比べると、朝日のグラフは、地区別(日本・米国・欧州)の取り方は、していない。
それでも、明白な違いがある。次のことだ。
・ 上記のグラフ …… 2006年1月以降 (グラフ全体)
・ 朝日のグラフ …… 2009年2月以降 (グラフの右半分だけ)
では、2009年2月という中途半端な時期は、何なのか? 実は、こうだ。
「日本の LNG 価格が最低価格になった時期」
要するに、価格が底打ちした時期である。そして、その時期と比べて、右半分だけを見た(左半分を隠した)上で、
「価格はずっと上昇一辺倒だから、この先も上昇します」
という結論を出している。
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これは、ペテンだ。次のペテンに似ている。
「ある会社の株価が底打ちした時期以降のグラフを見せて、『ずっと上がっていますよ。だから、この先も上がりますよ』と語って、クズ株を売りつける」
たとえば、東京電力の株価 は、いったん底打ちしたあとで、ここ一週間ぐらい、上昇基調にある。それを見せて、客にこの株を勧める。
「グラフをご覧ください。ここ一週間ぐらい、上昇基調にあります、このまますれば、1年後には倍増確実です。是非、東電の株をお買い求めください」」
しかしながら、そのグラフの過去の時期を見れば、
「とてつもなく暴落した時期があった」
とわかる。
朝日の記事も、これと同じペテンだ。グラフの左半分を隠して、右半分だけを見せる。そういうふうに情報操作して、読者をたぶらかす。「統計のインチキ」の一種。
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では、正しくは?
LNG の需要は急変するが、供給は急変しない。だから、需要が急変すれば、一時的に価格が大きく変動するのは、当り前のことだ。
最近では、需要が急増しているから、価格が急上昇するのは当然だ。これに対して、『新興国の需要が増えているから、このあともどんどん上昇するだろう」という朝日の記事は、あまりにも物事を一面的に見すぎている。
一方、「シェールガスがあるから、供給は問題がない」という見解もある。しかしながら、アメリカのシェールガスの埋蔵量は、(相対的には)そんなに多くない。
→ Wikipedia
図からわかるように、埋蔵量が圧倒的に多いのは、中東と旧ソ連だ。特に、カタールが多い。また、カタールでは、供給設備の新規増設が進んでいる。
以上のことから、次のようにわかる。
「 LNG の価格は、需要によってしばしば変動するが、長期的には、供給の増加によって安定する。供給は十分にあるからだ。そして、特に、カタールとロシアの供給が多い。アメリカのシェールガスは、国内分をまかなうので精一杯だろうから、あまり期待しない方がいい」
「日本の分については、カタールからの輸入もあるが、ロシアのサハリンからの輸入もある。この両者からの輸入に頼るといい。(アメリカのシェールガスは当てにならない。)」
日本が何かをできるとすれば、(カタールは米国の影響が強そうで手出しができそうにないので)ロシアとの協力を進めるべきだろう。次の記事が参考になる。
→ ロシア・ガスプロム、極東ガス開発加速
→ 日本へのLNG供給、露「大幅追加の用意」
ただ、何か特別なことをしなくても、単にカタールから買うだけでもいい。足元を見られないようにして、カタールとロシアを両天秤にかけるといいだろう。ついでに、アメリカも、一応は交渉相手にしておく。
大事なのは、足元を見られないようにしながら、ちゃんとした安定供給を受けることだ。
以上が結論となる。
[ 付記1 ]
本項の趣旨は、何か特別な情報を出そうとしているわけではない。
「朝日のインチキ記事にだまされて踊らされるな」
というのが趣旨だ。本サイトで独自の見解を出しているのではなく、朝日の独自の見解(デタラメ)を打ち消している。それが趣旨。
( ※ 池田信夫のデタラメ記事を打ち消すのと同様だ。間違いを正す、という趣旨。)
[ 付記2 ]
なお、仮に「 LNG 価格が上昇している」という主張が正しいとしたら、そこから得られる結論は、「自然エネルギーの推進」ではなくて、「世界的な原発の推進」であろう。
日本以外は地震はろくにないのだから、どんどん原発を推進してもいい。特に、中国やインドは。(さもないと、本当に LNG 価格が暴騰する。日本で LNG を使えなくなる。日本が脱原発を果たすためには、中国やインドが原発推進をすることが不可避なのだ。)
ま、現実には、「 LNG 価格が上昇している」という主張は正しくないのだが。
【 関連サイト 】
朝日の記事と似た記事は、ネット上にも見つかる。
→ 「脱原発」世界中で奪い合い 天然ガス価格は上昇基調
朝日はこれを見て、よく知りもしないで、簡単に調べて、物まね記事を書いたのかもしれない。
朝日の記者も、質が落ちたものだ。東大卒が多いのに、今回のような馬鹿げた記事を書くとはね。
頭が「脱原発」「自然エネルギー」に洗脳されると、物事を正確に認識できない、という見本かな。
【 参考サイト 】
朝日ほどひどくはないが、NHK でも類することをやっていた、という批判がある。高木浩光のサイト。
→ 日常化するNHKの捏造棒グラフ
→ その続編(いっそう詳しい)
こちらは、捏造とはいっても、ただの誇張であるだけで、まだかわいらしいものだ。朝日のように方向を全面的に変えるというほどではない。
天然ガス市場の価格メカニズム(農林中金)
http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/f1105kk1.pdf
・地域性が強い
・日本や韓国が購入しているLNGは基本長期契約の原油価格連動(スポットLNGは別)
個人的にはサハリンから北海道にパイプライン敷設を真剣に検討して欲しいと思います。LNGと違い購入側の立場が強くなります。
アジア地域のガス価格は一番高いので、北米からアジアへの輸出も現実的になっています。