( ※ ただし、太陽光発電よりは、ずっとマシだ。…… 最後に 【 追記 】 あり。) ──
環境省が風力発電を推進するための試算を示した。
《 風力発電で原発40基分の発電可能 環境省試算 》──
環境省は21日、国内で自然エネルギーを導入した場合にどの程度の発電量が見込めるか、試算した結果を発表した。風力発電を普及できる余地が最も大きく、低い稼働率を考慮しても、最大で原発40基分の発電量が見込める結果となった。風の強い東北地方では、原発3〜11基分が風力でまかなえる計算だ。
試算によると、固定価格買い取り制度など震災前に政府が決めていた普及策だけでも、風力なら日本全体で約2400万〜1億4千万キロワット分を導入できる。風が吹いているときだけ発電するため、稼働率を24%と仮定。それでも出力100万キロワットで稼働率85%と仮定した場合の原発約7〜40基分に相当する。
( → 朝日新聞 2011-04-22 )
政府がやることはいつも勘違いだが、今回も同様だ。
まず、
「稼働率を24%と仮定」
というが、ひどい話。過去の例を見る限り、日本で成立しているのは、たいていは、「風車が壊れて、稼働率は0%」である。そういう例がとても多い。ちゃんと実際の風車の実例を見ればいいのに、実例も見ないで机上の空論を書くのだから、呆れる。
そもそも、風力発電は、欧州のように弱い偏西風が常に吹いている地域では少しは成立するだろうが、日本のように季節風が強まったり弱まったりする国では成立しない。
こういうことは、日本と欧州の地理・気候の差によるとも言える。欧州ではよくとも、日本では無理なのだ。
→ 風力発電(地理・気候)
──
実例を示そう。
《 落雷で次々故障する風力発電…赤字膨らむ 》記事によると、「建設費など計約3億円の補助金」ということだから、金を食いつぶしていることになる。これが風力発電の実態だ。まったくの無駄なのだが、補助金だけを目的に建設しているわけだ。
新潟県上越市がクリーンエネルギーの普及を目的に進める風力発電事業の累積赤字が、2009年度時点で約1億5600万円に上ることが13日、分かった。
市は4基の風力発電施設を市内で管理・運営しているが、落雷による故障が相次ぎ、しかも4基のうち3基が外国製で、部品取り寄せや修理に時間がかかることが響いている。
最大の敵は、冬に多い落雷。最近では、港公園にあるドイツ製の施設が昨年1月に落雷で故障して発電ができなくなり、修理して運転を再開するまでに1年かかった。
昨年度は全4基が、345〜32日間故障。売電額は約1000万円と伸び悩み、売電と維持管理費の収支だけで約3800万円の赤字となった。
( → 読売新聞 2010年10月15日 )
──
上の記事では落雷だが、落雷以外にも、強風でぶっ壊れる例はとても多い。次に動画がある。
その他、台風などの強風で風車が倒れる例も多い。
→ 青森県東通村の風車倒壊 1
→ 青森県東通村の風車倒壊 2
→ 宮古島の風車倒壊 1
→ 宮古島の風車倒壊 2
→ 海外の例 1
→ 海外の例 2
→ 海外の例 3
──
そもそも、「風力発電は素晴らしい」というのは、現実には成立しない。欧州ですら、そうだ。欧州の実例を示そう。証言がある。
何年も風力発電のエンジニアとして働いてきた自分に言わせると、風力にとって変えるという対案は失笑ものだ。──
背景を言うと僕はフィンランドに住んでいて、今ここでは30年前に最初の原発が建設され(現在4基が稼動中)、政府は現在さらに2基の原子炉の建設を認可すべきか議論の真っ最中である。反対派は再生可能エネルギーとして風力を推している。僕らの国はとても寒いから、真冬は電力の消費がピークに達するんだ。
フィンランドでは95%以上のエネルギーは原発が供給しており、毎時平均815MWの電力を供給している。新しく建設される原子炉からは1500MWの電力が得られる予定である。
それに対して一番大きい風力で得られる最大の電力は3MWである。これは理論上の最大なので、実際にはもっと少ない。フィンランドでは平均出力は平均名目パワーの16%で、一番ニーズの高い2月と3月に風が弱く、出力が最低となってしまう。
そのため原子炉に対抗する出力を出すのに3000基の風力タービンが必要になる。ただしそれだけではない。すでに一番風力の強そうなエリアは利用済みである。新しくタービンを建てるところは風力が弱いところになるので、より効率は落ちる。それも平均的な供給に達するためだけの話でだ。風力のないところには石炭等が必要になる。
さらに政府が支援を十分にしたとしても、電気代は原子力発電所より高くなる。
( → 外国人の声(らばQ) )
また、たとえ発電しても、その電力は、実際には利用されない。風力発電は、電力が不安定であるため、通常の発電網では受け入れられないのだ。いくら発電しても、利用されない電力となるだけだ。
《 そもそも全く電力にもCO2削減にも貢献していない 》──
風力発電はもともと風まかせの発電なので電力が安定しません。日本は既存の電力網に風力発電所を組み込んでいますが、風向きによって激しく電力が変化してしまうため、その電力が非常に小さく(全体から見れば誤差の範囲)既存の電力網に何の影響も与えない時だけ風力発電所からの電力を受け入れています。風が強くなって発電量が大きくなると、既存の電力網を不安定にするので、その時は風力発電所からの電力は全てカットするそうです。
( → 書籍紹介1 )
風力発電所が結構増えた北海道電力、東北電力では、風力発電所の発電量が増えると、既存の火力発電所の出力は落とさずに、風力発電所からの送電を止めています(接続制限)。なぜかというと、風は一定の強さで吹き続けるものではないので、それに合わせて火力発電所などの出力を調整するのは難しいからです。
つまり、現状では、風力発電所ができたことで、火力発電所の出力も、数も減らしてはいないので、化石燃料の消費量をまったく減らしてはいないのです。
( → 書籍紹介2 )
上記のブログでは、ひどい低周波被害についても紹介されている。体験者の話。
《 建設前 》ここでも説明されているが、これほどの公害を起こす事業が成立する理由は、補助金である。
私の家は海から1.5km程離れた小さな山合い、風のよく通る谷に位置します。
ある日、どうも山がざわつく、何かおかしい。こちらからは見えないが山の裏で何をやっているンだろう?…と気付き、町に尋ねて初めて、風力発電施設建設位置が自宅から近い事を知りました。
こちらの要望は軽くはねのけ、「これ以上話をしても協議にならないと判断した。工期として進めないといけない時期に来たので、そろそろ工事に入る事を通告する」と一本の電話をよこしたきり、いきなり翌々日から目の前の山の岩を砕く物凄い音が谷合いをサラウンドし始めたのです。
《 建設後 》
からだに与えられる風車からの影響は予測以上のもので、勿論…もはや安全・安心・健康なる居住空間ではなくなり、住める状態ではないというのが現実です。(略)生活環境だけでなく、生活基盤が根底から覆されています。
脳みそから揺らされている感覚で頭の中が一杯になるので、キッチンにいると食事を作る段取りさえ組めなくなるのです。目と胸が圧迫され続ける感覚が、船酔いの上に乗っかる感覚で、吐き気が襲って食事が取れず、まだ症状がそう酷くない主人に頼んで毎回外食をしに連れ出してもらいます。
( → 上記のブログ )
手厚い、ノーチェックの補助金政策、優遇政策がなされるとともに、それだけを目当てに成り立つ産業構造ができあがってしまいました。産業として補助金なしで成り立つように育成するための補助金であるはずが、補助金がないと成り立たない産業構造を造ってしまう従来の失敗がまたしても繰り返されました。とのことだ。
ではなぜ、それほどの補助金が出るのかというと、環境省が、自分の分野で予算を取るためだ。
というわけで、話は最初に戻る。電力危機を利用して、環境省が、自分の分野で予算を取る。こうして補助金行政が実現し、あちこちで風車の被害が発生し、しかも、利用可能な発電量はほぼゼロだ。
無駄の極み。何もしない方がまだマシだ。というか、金をドブに捨てる方が、まだマシだ。それならば、被害者は生じない。
しかしまあ、こういう無駄の極みを推進するのが、環境省(と孫正義)だ。
【 関連項目 】
→ 風力発電(地理・気候)
→ 環境馬鹿
→ 省エネという自己満足
【 追記 】
本文中では舌足らずな点があったが、その後、いろいろと情報を得たので、修正を兼ねて記す。
(1) 補足・修正
本文中で「稼働率が0%」と記したのは、「すべての風車がそうだ」というのではなくて、「稼働率が0%」の風車が多い、ということだ。(一種の誇張表現。)
(2) 現実のデータ
現実にはどうか? 次のページに詳しい。
→ http://www.eesol.co.jp/release/pdf/20080606_release_02.pdf
稼働率(利用率)は、20%弱というところだ。(最後のページの一つ前に結論。途中のページも詳細がある。)
稼働率が低いのは、台風などによって損壊することが多いからだ。このことで、修理中となり、稼働率が下がる。と同時に、修理代がやたらとかかる。結果的に、「収入減」と「費用増」が起こるので、電力コストがとても上昇する。発電コストは 10-14 円/kWh で、石炭よりはいくらか上だ。(太陽光よりははるかに安い。)
ただ、「夜間に発電できない」という問題はないが、「故障中は発電できない」という問題があるし、「必要もない夜間に、無駄に発電している」という問題もある。(必要もないのに発電しているのでは、いくらコストが低く見えても、実際には高いことになる。この点では、夜間に発電する原発と同様だ。)
「必要なときに必要なだけ発電する」という火力発電に比べると、相当、不利である。とはいえ、多くの風力発電が協力すれば、ある程度は、不安定さを解消できる。
(3) 場所
場所としては、どうか?
第1に、海際(浅瀬)の風力発電は、陸上の場合と違って、うまく事業化されているらしい。新たに次の項目を書いた。
→ 洋上の風力発電
第2に、北海道は、台風もないので、風力発電には有利だと言える。特に、北海道の海際がいいようだ。そうしていると、稼働率が 26% ぐらいまで上昇するそうだ。
→ 北海道における風力発電の現状と課題
(4) 結論
北海道の海際ならば、けっこう行ける。
本州でも、海際ではまともに行っているようだ。最新型は壊れにくくなっているのかもしれない。ようやく実用化段階に達しつつあるのかもしれない。
ただし、本州の陸上では、まだまだダメだ。陸上では、低周波公害もひどいし、バードストライクもある。
また、機種にしても、デンマーク製などは壊れて仕方ないらしいので、日本の事情に適するように強化した機種が必要だ。
いろいろと条件を整えれば、何とかなるようだ。(限られた範囲内で。)
といっても、火力に比べれば、まだまだずっと劣る。「補助金漬け」を前提として、かろうじて成立するだけ、と言えるだろう。それでも、現段階では、太陽光発電よりは、はるかにマシである。どうせ馬鹿をやるなら、大馬鹿の太陽光発電よりは、小馬鹿の風力発電の方がマシである。(ただし賢者は、どちらもやらない。)
ただし……
風力発電は、故障がなければ、稼働率が上がり、十分に採算に乗るようだ。故障があるかないかが、決め手となりそうだ。その意味で、実用化にかなり近い水準にある。(1年ぐらいならば故障もなく動くことも多いだろうが、数年間も丈夫に動くかどうかが決め手となる。)
となると、いっぱい壊れる経験を積んだあとで、設計を直すと、そろそろ何とかなるかもしれない。
( ※ 風力発電は燃料を使用しないので、固定費のコストだけがかかる。となると、故障するか否かが、決定的な影響をもつ。ここを直す余地が大きいので、太陽光よりは、はるかに有望だろう。……ただ、電力の不安定さという面では、どうにもならないが。)
【 補足 】
風力発電を現実的に利用するには、「発電された電力の半分だけを使う」というふうにするしかないだろう。
発電された電力をすべてつかうと、変動があまりも大きくなりすぎて、電力システムが破綻してしまう。それを避けるには、発電された電力の半分だけを使えばいい。そうすれば、
・ 多く発電されたときには、半分を捨てる
・ 半分だけ発電されたときには、全部を使う
というふうにして、出力の変動をなくすことができる。また、
・ 風がなくて発電量がゼロになった
という場合には、本来ならば捨てるはずだった電力(他の風車の分)で補充すればいい。
というわけで、「発電された電力の半分だけを使う」というふうにすれば、不安定さについては大幅に改善する。
ただしそれは、「発電された電力の半分を捨てる」ということだから、コスト的には2倍になる。安定性を得るかわりに、コストを犠牲にするわけだ。あちらが立てば、こちらが立たず。
だから、安定性のある風力発電を取るならば、コスト的には現在の2倍で、火力発電の3倍のコストになる、と考えた方がいい。
風力発電は、小規模に導入するならばまだいいが、大規模に導入すると、その不安定さを可決するために、あまりにも多くのコストがかかるわけだ。
これは日本の農業にも当てはまりますね。
補助金は一時的なもので次の展開を見据えたものならいいと思いますが、慢性化するとそれを頼りにしてしまい、競争力を無くすだけ。
タイムスタンプは 下記 ↓