2011年04月09日

◆ 原発とスマートグリッド

 「将来の日本の電力網は、スマートグリッドに」という主張がある。
 しかし、日本が原発を捨てるなら、同時にスマートグリッドも捨てることになる。 ──
 
 スマートグリッドとは、何か? 電力の安定化を果たす送電網だ。
 特に、太陽光発電や風力発電の不安定な電力を解消するために、次の2点が推奨される。
  ・ 大規模な統一された送電網
  ・ 電気自動車の電池を利用した蓄電


 ただし、このような構想は、成立しがたい。

 ──

 (1) 規模

 大規模な統一された送電網は、日本のような狭い国土では、成立しがたい。日本全体が同一の気象になりがちだからだ。
 たとえば、梅雨時には、北海道以外のすべてが雨となる。(晴れにならない。)
 また、台風の日には、日本のほとんどが台風の暴風を受ける。
 このようなことは、狭い日本では当然のことだ。一方、アメリカのように国土が広いと、天気も日照時刻も大幅に異なるので、スマートグリッドの効果も出やすい。
  → 太陽光発電と電力安定 の (4)
 広いアメリカはともかく、狭い日本では、気象の違いを吸収するようなことはできない。

 (2) 電気自動車の電池を利用した蓄電

 電気自動車の電池を利用するというのは、うまいアイデアに思える。私も推奨したことがある。
 しかし、よく考えると、次の問題がある。
 「家庭で太陽光発電によって生じる電力よりも、電気自動車が食う電力の方が、圧倒的に大きい」

 たとえば、家庭で 100 の電力を太陽光で発電したとしても、電気自動車は 1000 や 5000 という大量の電力を消費する。電気自動車は電気食い虫なのだ。
 だから、
   電気自動車 + 太陽光発電

 という組み合わせは、電力事情を悪化させることはあっても、電力事情を改善することはない。電気自動車は、どれほど蓄電能力があっても、太陽光発電だけで自立的に走行することはできないのだ。(ソーラーラリーを見ればわかる。太陽光発電で生じる電力は、自転車を漕ぐぐらいの電力にしかならない。1トン以上もある自動車を動かすなんて、夢のまた夢。電気自動車があればあるほど、電力事情は悪化する。あちこちの家庭でせっせと太陽光発電がこまめに発電しても、どこかの電気自動車が莫大に電気を食っている。)

 電気自動車の電池を利用するというのは、太陽光発電との組み合わせでは成立しない。では、何が成立するかというと、原発の深夜電力だ。原発の深夜電力は、需要不足の状態で安価に夜間電力を発電できるから、その安価な深夜電力を電気自動車が使える。これは電力資源の有効利用と言えるだろう。

 しかし、原発がなくなれば、そういうことは成立しなくなる。原発がなくなり、日本が火力発電所だらけになれば、あえて夜間電力を発電する必要はなくなる。電力会社としては、深夜電力の単価を下げる必要はないのだ。
 火力発電の場合、需要が夜間になっても昼間になっても、状況は同じである。あえて夜間の電力使用を推奨する理由はない。従って、夜間の電力料金を下げる必要もない。
( ※ しいて言うなら、真夏のピーク電力のときだけは、電力利用を抑制した方がいい。その分だけは、電力の設備投資額に影響する。一方、真夏のピーク電力のとき以外では、いつ電力需要が増えようが減ろうが、電力会社にとっては何の影響もない。したがって深夜電力の価格を下げる必要もない。現状では、深夜電力の単価は昼間の半分ぐらいだ。しかし、原発がなくなり、火力発電所だらけになったら、深夜電力の単価は昼間とほぼ同じになっていいはずだ。)

 こうしてわかっただろう。
 原発がなくなれば、もはや需給を安定させるスマートグリッドは必要ないのだ。なぜなら、火力発電が即時的に電力(需要・供給)の変動を吸収するからだ。
  ・ もし天気が雨で太陽光発電が減ったら、火力発電の発電量を増やせばいい。
  ・ もし気温が上昇して電力需要が増えたら、火力発電の発電量を増やせばいい。

 このように、火力発電によって、電力の変動をかなり吸収できる。この点は原発とはまったく異なる。したがって、原発がなくなれば、スマートグリッドの必要性は大幅に減じる。スマートグリッドなんかなくたって、火力発電所だけあればいいのだ。

 ──

 ただし、それがいいことかどうかは、まったく別問題である。
 深夜電力が安価でなくなれば、電気自動車の普及は遅れる。世界中で電気自動車がどんどん普及していくときに、日本だけは電気自動車が普及しなくなる。(排ガスも減らない。)
 また、深夜電力を利用したオール電化住宅が世界的に普及しても、日本だけは深夜電力の高さゆえにオール電化住宅が普及しなくなる。この点は、特にマンションで影響が大きい。マンションはガスが標準となる。そのせいで、あちこちでガス爆発の事故が起こり、下手をすると高層マンション倒壊というような事故が起こるかもしれない。

 原発がなくなって火力発電所が増えるということは、あまり嬉しいことではないのだ。特に、地球温暖化が話題になると、原発を使わない日本は、多額の温暖化ガス税を支払う必要が出そうだ。そこに、LNG 価格上昇という状況が生じたら、ダブルパンチだ。

 原発のない状況というのは、確かに安全性の意味では向上するが、そのかわり、あれやこれやと別の問題が起こりやすい。原発で死ぬ人は一人もいなくなるが、マンションでガス爆発のせいで死ぬ人は多大に出るようになるだろう。あなたも爆発の巻き添えで死ぬかもしれない。……それは決してバラ色の世界ではないのだ。
 


 [ 参考 ]
 ついでだが、太陽電池の話題。

 シャープが変換効率 42%の太陽電池を開発したと表明している。
 ただしこれは、集光レンズを使っているので、変換効率を高めたというより、集光率を3倍にしただけのインチキであるとも思える。
 そもそも、変換効率というのはは、浴びた太陽光に対する変換効率であるはずだが、それとは別の意味に勝手解釈するわけだ。
 もしそうなら、ほとんどペテンですね。太陽光発電なんて、まともに信じべきではないとも言えそうだ。
( ※ 太陽光発電では、さまざまな波長の光のうち、特定の波長の光しか使えない。その意味で、発電効率を飛躍的に高めることは、原理的に困難だ。ここ 10年ぐらい、変換効率は頭打ちになっているが、それは原理から来るもので、どうしようもないのだろう。そんなものは、当てにするべきではない。)

  


 【 関連サイト 】

 スマートグリッドについては、下記ページに興味深い話がある。

  → 「スマートグリッド」で日本発のイノベーションを

 次のページにも、関連する情報がある。
  → http://agora-web.jp/archives/1283647.html
posted by 管理人 at 21:25 | Comment(5) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
火力発電だけにすると、夜間電力料金がなくなって、それを前提とした経済需要もなくなるというのは興味深い視点ですね。

ちなみにですが、一昨年に書いた中国の大規模太陽光発電所の記事を紹介します。
http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=1534
Posted by 石水 at 2011年04月11日 00:09
> 中国の大規模太陽光発電所

 砂漠の発電所ですね。
 別項でも書いたように、欧州はサハラ砂漠で発電するようだし、砂漠を使えば太陽光発電は十分に「あり」です。
 ただし日本は、国内には広い砂漠はないし、モンゴルの砂漠から電力を持ってくるわけには行かない。洋上に浮かべたくても、いかだの建設費がない。

 どうせ夢想をするなら、「地震のエネルギーを使った発電」という夢を見たいですね。  (^^);
Posted by 管理人 at 2011年04月11日 00:51
池田信夫がおかしなことを言っている。下記。
 ──
 小型のガスタービン発電が注目されるようになった。これはガスを燃焼して発電すると同時に、その熱を工場などで使うコジェネレーションが可能なので、熱効率が高い。
 ガスタービンは再生可能エネルギーと同様の分散型エネルギーなので、両者を組み合わせて、たとえば雨の日には太陽光の不足分をガスタービンで補うといった発電プラントも可能だろう。
 このような発電所はユーザーの近くにあるので、電力網もこうした分散エネルギーを制御して電圧を安定させるスマート・グリッドにする必要がある。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51696334.html
──
 小型のガスタービン発電を太陽光発電のバックアップに使う、ということらしい。だとしたら、小型のガスタービン発電は、雨や曇りの日には、稼働率が半分以下になってしまう。それではコストがかかり過ぎて、商業的に成立しない。
 だいたい、熱を工場で使うというが、雨や曇りの日には、稼働率が半分以下になってしまうのだから、熱を使うこともできない。そのときは別途ボイラーを使うのだとしたら、ボイラーの建設費までかかってしまう。
 結局、小型のガスタービン発電を使うとしたら、常時稼働させる意外には、コスト的に成立しない。
 どうしてもバックアップ用に使うのならば、バックアップ用に買い上げてもらう電力のコストをすごく引き上げてもらう必要がある。それを負担するのは太陽光発電なのだから、太陽光発電のコストはさらに上昇する。
 
 要するに、小型のガスタービン発電を太陽光発電のバックアップ(補完)に使うというアイデアは、成立しない。スマートグリッドを使えば、技術的には成立するが、不安定稼働ゆえに、コスト的に成立しない。スマートグリッドを使えばいい、というふうにはならないのだ。
 小型のガスタービン発電を使うのなら、太陽光発電の補完として使うのではなく、それ単独で使う必要がある。スマートグリッドというのは、あまり関係ない。現状の送電網で、売電する工場を組み込むだけだ。そして、その電力は、安定的となる。(やたらと変動しない。)
Posted by 管理人 at 2011年04月11日 00:53
「日本が原発を捨てるなら、同時にスマートグリッドも捨てる」と言い切るには、あまりに考察不足かと。

(1) 規模について
なぜ太陽光発電だけで平準化しようという発想になるのか?米国もEUも比重は異なれど風力や小水力、地熱、波力といった異なるリソースの組合せを考えますよ。

(2) 電気自動車の電池を利用した蓄電
V2Gの話ですが、誰もEVの電力を全て太陽光発電で賄おうなんて考えてないですよ。系統維持の上で必要な需給調整用の電池を単独で置いたら高くつくので、常時運転することのないEVの電池を使い回したら効率的、ということです。

おまけ:ガスタービンコージェネ
PVやらコージェネが発電した電力を一箇所の工場内で使い切る、という発想だとこうした理解になってしまうのでしょうね。
あと、コージェネには当たり前にバックアップ用のボイラがつきます。コージェネ動かす必要がなければ普通に止めてボイラ使いますよ。

工場内で使い切れない電力をグリッドを介して他の工場に送る、或いはEVの電池に貯めるといった制御を柔軟にこなすためのスマートグリッド構想です。その時の制御にコスト最適化というのも入りますよ。
Posted by 通りすがり。 at 2011年04月11日 15:14
> 「日本が原発を捨てるなら、同時にスマートグリッドも捨てる」と言い切る

 通りすがりさんにはわかりにくいかもしれませんが、本サイトは簡単に表現して、誇張気味に表現するのを旨としています。

 たとえば、世間が「黒」と言っているときに、「白」という正反対の見解を出します。ここで、厳密に言えば、世間は「90%の黒」と言っているのであり、私は「80%の白」と言っている、というふうになるでしょう。つまり、別途、例外があるわけです。
 しかしながら本サイトでは、いちいち例外的なことは切り捨てて表現しています。例外的なことは自分で考えればすぐにわかるからです。

 あなたのいっていることは確かに成立しますが、ただしそれは例外にすぎない、というのが私の見解であり、その例外についてはいちいち親切に注釈しません。
 あなたがそこに注釈してくれたことは、本サイトを初めて読む人には、親切な注解となるでしょうね。
 ただ、本サイトの常連の人は、そのくらいのことは自分の頭ですぐに理解するので、注釈してもらう必要はないのです。

 本項で示したのは、「黒」という従来の枠組みに対して、「白」という新たな枠組み(思考基盤)を提出したことです。そのあと、どのくらい黒っぽいか白っぽいかは、あなたのように細かな点ばかりを見たがる人が、微修正すればいいわけです。
 本サイトは基本的には、「細部において正確な表現をする」ことを目的としておらず、「新たに大きな思考基盤を提出すること」を目的としています。

> 誰もEVの電力を全て太陽光発電で賄おうなんて考えてないですよ。

 私だって考えていませんよ。また、それを否定しようともしていませんよ。
 この点は、本項の趣旨を誤読していますね。本項が何を言おうとしているか、きちんと理解してください。粗探しをしようとしているばかりだと、相手の文章を理解できませんよ。まずはきちんと文章を理解しましょう。
Posted by 管理人 at 2011年04月11日 18:23
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ