(単に「値上げすればいい」という発想ではダメだ。) ──
ボトルネックという発想がある。
一般に、直列的な生産工程では、最も生産能率が低い部分によって、全体の生産性が左右される。
例示しよう。
工程A …… 16台 / 時間 (ボディ)
工程B …… 10台 / 時間 (エンジン)
工程C …… 13台 / 時間 (内装)
この全工程で自動車を生産するとして、どのくらいの量で生産できるか?
平均値を取って、「 13台 / 時間 」か? いや、最も生産能率の低い 工程B の「 10台 / 時間 」である。
つまり、他の部分がいくらたくさん生産しても、工程B が少ししか生産できないのであれば、それによって全体の生産が決まる。
似たことは、現実に起こっている。自動車や iPad が部品不足で生産不可能になっている。それは、ある工程の生産量がゼロになっているからだ。ここでは、ゼロという値が全体の生産能率となっている。
以上のことは、次の本で話題になっている。
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的
この本を読めばわかるが、ボトルネックを解消するためであれば、いくらか高いコストがかかってもいい。余分なコストがかかっても、それまで遊んでいた他の部門が稼働するようになれば、全体の効率は大幅にアップする。
上の例で言えば、工程B の改善のために、いくらか高いコストがかかっても、そのことで他の遊休設備が稼働するようになれば、かえって得をするのだ。
ここで、「工程Bのコストを上げたくない」という発想を取ると、他の工程がすべて遊んでしまうので、かえって大損する。
※ 工程Bの値が低いのは、そこで突発的に故障などが起こったから。
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ボトルネックという発想は、停電にも当てはまる。
(1) ボトルネックの箇所
夏の電力で、ボトルネックはどこか? ピーク電力の時間帯だ。
だから、このボトルネック(ピーク電力の時間帯)のみ、状況を改善すればいい。
一方、他の時間帯で節電しても、別に意味はない。その時間帯に電力はボトルネックでないのだから、電力を節約しても、ろくに意味はない。
大事なのは、ボトルネック(としての電力不足)を解消することだ。それは、ピーク時間帯にのみ、成立する。
(2) ボトルネックの対策
仮に電力料金値上げがあったとしよう。その場合、電気料金を節約するために、企業は電力を節約するべきか?
企業の生産において、電力は必要不可欠のものだ。もし電力を強引に節約すれば、必要な電力が供給されなくなる。つまり、ボトルネック部分を締めてしまうことになる。そのせいで全体の能率が悪化する。
・ パソコンや照明を切れば、業務能率が下がる。
・ 室温を 28度以上にすると、業務能率が下がる。
( → 「28度では能率が下がる」という声 [2ちゃんねる],検索 )
電気代という部分的なコストを惜しむと、全体の能率を下げてしまう。それはボトルネックを締めてしまう効果がある。
だから、たとえ電気代というコストが余計にかかっても、企業は電気代を節約するべきではない。たとえ電気代が高額にかかっても、ボトルネック部分を締めてはならないのだ。
もしボトルネックを締めれば、全体の能率が大幅に悪化するので、逆効果である。そんなことをするのは、愚かな経営者だ。一文惜しみの百失い。
( ※ 午後の時間帯で生産しないというのならいいが、生産しながら電気代を惜しむというのは最悪だ。)
( ※ それゆえ、生産活動が続く限り、電力値上げは節電の効果がない。単に企業体質を弱体化させるだけだ。)
──
以上のことが、停電についてわかるだろう。
ところが、これを理解できていない人々がいる。
(i) たとえば、こう述べている人がいる。
「ビルの昼間の電気料金が50%増にでもなれば、エアコンの設定温度は数度は高く設定されるでしょう」
→ http://agora-web.jp/archives/1292374.html
この件は、前項の最後に追記しておいた。( → 前項 )
要するに、エアコン代を節約して、頭をぼんやりさせて、業務能率を大幅に下げるというのは、愚の骨頂である。(上述の通り。)
(ii) また、野口悠紀雄は、こう述べている。(他人の提案)
「各家庭の基本料金を、40A以上は5倍程度に値上げする」
→ http://diamond.jp/articles/-/11554
これは、「電力がボトルネックになるのはピーク時だけだ」という点を認識していない。ピーク時だけ下げればいいのに、全体の電力を無理やり下げさせようとしている。たとえば、人工呼吸器のために必要な電力を抑制せよ、と圧力を掛ける。ピーク時だけ下げればいい問題に対して、全体で下げさせようとしている。どこがボトルネックかということをまるきり理解していない。そのせいで、国民には不要な痛みをかけることになる。
( ※ しかも、痛みをかけても、停電を解消できない。こんなことをいくらやっても、規模が小さすぎて、1000万Kw の電力不足を、とうてい埋められないからだ。ただの節電ごっこにしかならない。その点、1000万Kw の電力不足をまさしく埋める タイムシフト とはまったく異なる。)
──
どうせなら値上げなんかよりも、もっといいアイデアがある。たとえば、こうだ。
「自家発電の推進。国が自家発電に補助金を与えて、自家発電を大幅に建設させる」
この場合、自家発電には補助金の分、余計なコストがかかる。しかし、コスト多くかかっても、国全体の能率は大幅に上昇する。(停電がなくなるからだ。)
本来であれば、「発電設備に国が補助金を与える」というような補助金政策は好ましくない。市場原理主義者ならば、大反対するだろう。
しかし、今の日本経済では、「電力」がボトルネックとなっている。このボトルネックを解消するために、ある程度のコストをかけても、そのことで国全体の能率は大幅にアップするのだ。
ここでは、「市場原理こそ素晴らしい」という発想は成立せず、「ボトルネックの解消のために国家資金を投じる」という発想が成立する。
( ※ 「市場原理こそ素晴らしい」という発想を取ると、ここを理解できない。)
停電問題を考えるときには、「ボトルネック」という発想が必要だ。たいていの経済学者は、そのことを理解できていない。「値上げすればいい」という馬鹿の一つ覚えを唱えるだけだ。これだったら、子供に経済学者をやらせても、同じことだ。
[ 付記 ]
ボトルネックという発想を取ると、次のアイデアも浮かぶ。
中電の電力を、東電にもってきたい。ここで、ボトルネックを考える。
ボトルネックは、何か? 周波数変換器だ。この容量が小さいので、これがボトルネックとなっている。
とすれば、このボトルネックを解消することで、中電の電力を東電に持ってくることができる。
では、どうやって? 周波数変換器を増設するか? それはいかにも頭の悪い方法だ。コストがかかりすぎるからだ。
もっとうまい方法がある。送電線だけを建設すればいい。次のように。
中電の発電所 ────────── 東電の発電所
つまり、周波数変換器を通さずに、中電の発電所から東電の発電所へ、直接、電力を送り込めばいい。(双方の電力網をつなげるのではなくて、発電所同士をダイレクトに結ぶ。)
ただし、そのままでは、周波数が異なる。そこで、中電の発電所では、60Hz でなく 50Hz で発電すればいい。こうすれば、最初から 50Hz なのだから、いちいち周波数変換器を通す必要がない。
では、どうやって 50Hz で発電するか? 単純に言えば、発電機の回転数を、6分の5に落とせばいい。
この場合、発電機の回転数が最適化されないので、効率は落ちる。電力コストは、いくらか高くなる。それでも、電力がないというのに比べれば、ずっとマシだ。
要するに、ボトルネックを解消するためには、そのためのコストが平均よりも高くなってもいいのだ。
一方、「この部分のコストを最小化することが大切だ」という市場原理ふうの発想を取ると、「コストのかかるものはダメだ。コストが高いものは淘汰されてしまえ」という発想となる。つまり、部分最適化ばかりを考えているせいで、全体最適化ができない。木を見て森を見ず。
「木を見て森を見ず」というのは、停電のときに慌てふためいている人々に当てはまる。特に、古典派経済学者は、そうだ。「値上げすればいい」という発想を取る経済学者は、たいていが「木を見て森を見ず」なのである。
[ 余談 ]
こういう経済学者は、先に掲げた「ザ・ゴール」という本を読むといいだろう。この本は、面白くてためになる小説ふうの教養書なので、ベストセラーになった。「もしドラッカー」なんていう本よりも、ずっとおもしろくてためになる。
案内文から抜粋しよう。
「全体最適化」と呼ぶ考え方に基づいて経営をいかに立て直すか、という著者の実経験に基づいて物語り風につづられている。主人公がある会社の工場に赴任したところ、赤字続きで3カ月後には工場閉鎖というところまで追いつめられていた。そこで主人公は、経営を舵取りする際の思考のプロセスをガラリと変え、工場再建に挑むというストーリである。訳は読みやすく、小説として読み流しても楽しい。しかし、内容はかなり高度な経営理論であり、具体的なノウハウも満載なので、大変勉強になる。野口悠紀雄も、この本を読むといいだろう。そうすれば、「停電解決には料金5倍アップ」なんていう、粗雑な子供じみた発想をしないで済むようになる。
全体最適化の考え方を一言で説明すると、ある部分だけに着目して最適化をしても、決して全体の最適化にはつながらないというものだ。工場で、ある生産工程を最適化して効率を追求したとしても、次の工程が滞ってしまえば生産性は落ちる。では、次の工程を最適化すればいいかというと、前の工程とのつながりを無視していれば結果は同じである。つまり一番大切なのは、常に全体を見てゴールに近づいているかを基準にしなければならないということである。そして、その中でボトルネックを見つけて、全体の中の一部分を必要に応じて最適化すべきだというのが「全体最適化理論」である。
自家発も今更建設しても間に合わないし、とても難しいですね。
ピーク帯をいかに押さえ込むかは、ボトルネックの考えで賛成です。何れにしても停止中の発電所がどれくらい稼働するかにかかっています。
西日本でも原子力発電所が定期検査終了後の運転再開が出来ずに電力不足の兆候が出始めています。
自家発を持つ企業に余剰売電の問い合わせをしている様ですが、重要なインフラをどうのように復旧させるかは、政治力が試されるかも知れません。
http://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3152621_6926.html
今は不可能でも、技術開発すればできるようになるでしょう。
そもそも、現時点でも、周波数はときどき変化しますよ。
> これが出来たら、周波数変換器は必要ないです。
それができても、送電線ができていないと、ダメです。現状では、送電線がないので、回転数を落とすという発想そのものがないのでしょう。送電網を直接つなぐことしか考えていない。発想の転換をしないと。
> 自家発も今更建設しても間に合わないし、
そんなこと言っていないで、遅くとも次の冬までには間に合わせるように努力するべきでしょう。というか、1年かかかっても2年かかってもいいから、やるべきです。巨大発電所よりも早ければ、何年かかかってもいい。
出来なり理由ばかり言っていると、永遠に停電が続きますよ。
ちなみに、福島第1原発がだけが停止する程度なら計画停電の必要は無いはずです。次の冬までに今止まっている原発を運転出来るかどうか政治力が必要と申し上げてます。
原発を止めるのなら電力社が大型火力を作る。小型の自家発は効率が悪くて愚の骨頂。仮に作っても、当面は燃料が供給出来る可能性が低いので意味無し。
初めのコメントでは出来ない理由を言っているのでは無く、無意味だと遠回しに言っています。
ところで、今までの主張を覆して分散主義になられたのですか?
ためになる記事が多いのですが、出来ないことは出来ないとハッキリ書かれた方が良いと思います。発想の転換で月に住みますか?
さて、古くから拝読させていただいているので、ケンカを売るつもりは有りません。今後も拝読させて頂くつもりです。それを踏まえても申し上げたいと思い、強い皮肉でコメントさせて頂きました。申し訳ありません。
周波数変換器の話じゃなくて、発電機の話ですよ。ガスタービンの話。
ここで、ガスタービンにかける燃料を減らせば、ガスタービンの回転数は落ちるはずです。そのことで周波数を低下させることはできるはずです。……もっとも熱効率は大幅に悪化しますが。平時であれば、コスト的に成立しませんが、緊急時であれば、コストが2倍になったとしても、十分に成立します。
そんなこと考える人は、ほとんどいないでしょうけどね。
> 小型の自家発は効率が悪くて愚の骨頂。
小型といっても、工場で使える程度の規模です。中小型。効率は悪くても、非常用電源として使えるので、そんなに悪くはないですよ。夏のピーク時だけ使うならば、効率が少しぐらい悪くてもいい。国が補助金を出せば、十分に成立します。
そして、その理由は、エネルギー効率ではなくて、「職住近接」みたいに、需給が近接していることです。そのことで、送電線の設備を省略できるし、送電線による損失をなくせます。原発はいくら発電効率が高くても、需給が離れているので、現実コストが上昇してしまいます。
この点から、自家発電はある程度の工場になれば、十分に採算に乗ります。実際、自家発電を導入している工場は多いですよ。特に、お湯を使う会社ならば、コジェネタイプを取ることで、コスト的にも安上がりになることがあります。
> 仮に作っても、当面は燃料が供給出来る可能性が低いので意味無し。
それは被災地。首都圏では別に問題はありません。また、
> 分散主義になられたのですか?
そうじゃないですけど、急激に電力供給を増やすには、自家発電しかないでしょう。緊急事態の対策としては、これしかない。コスト的には高くなるが、ボトルネックを消すためには仕方ない。それが本項の趣旨。
「小型の自家発は効率が悪くて愚の骨頂」という発想は、ボトルネックの意味を理解していませんね。それは部分最適化の発想です。
> 次の冬までに今止まっている原発を運転出来るかどうか政治力が必要と申し上げてます。
それは大事ですけど、たとえそれがすべてうまく行っても、電力不足は解決しません。もともと他の原発がストップしていて、需給が逼迫していたので、福島第一の分、まるまる失っています。この分を他の発電所で埋めることはできません。緊急的にポンコツ火力発電所を稼働させるようですが、そのうち故障するか、定期点検に入るかで、使えなくなります。福島第一の分(プラス他の休眠原発の分)を、一年以内に増設する必要があります。それは自家発電以外、ありえないでしょう。
──
経済産業省は、震災で、この夏、東京電力管内では電力の大幅な供給不足が懸念されることから、少しでも供給力の向上につなげようと、企業に対して自家発電設備の積極的な稼働を促すために、燃料費を助成できないか検討に入りました。
震災を受けて、東京電力は、需要を抑えるために今月14日から計画停電を行う一方、電力の供給不足を補うため、火力発電所の復旧を急ぐとともに、自家発電設備を持つ鉄鋼メーカーや化学メーカーなどから電力の供給を受けています。ただ、経済産業省は、自家発電設備を持つメーカーの間では、ここ数年、重油など燃料費の高騰で、自前で発電するより割安だとして、電力会社から電力の供給を受ける傾向があり、設備を止めているメーカーも多いものとみて、自家発電設備のより積極的な稼働を促そうと、燃料費を助成できないか新たに検討に入りました。東京電力は、電力需要が最も伸びる夏には最大で1000万キロワット程度の電力の供給不足が生じるおそれがあるとしており、少しでも供給力の向上につなげるために、経済産業省では、助成制度の検討を急ぐことにしています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110326/t10014913361000.html
日本経団連の米倉弘昌会長は28日の記者会見で、大幅な電力不足が懸念される夏に向けて、「(企業が)大型ガスタービンなどの発電設備を据え、周囲の工場に電力を配送することも必要ではないか」と述べた。大工場などに短い工期で設置できる自家発電設備を造り、周辺施設も含めて自主的に電力確保を図るなど、経済界として可能な手段に取り組む考えを示した発言だ。
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2011032800693
──
これが現実です。
私の主張は、この手の助成額を大幅にアップさせよ、という趣旨です。
と述べたのは少し不正確だったので、詳しくは下記を参照。
→ http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1150406696
どう書き直すかというと、簡単には書き直せない。短い文章ではうまくかけない。
基本としては、周波数が先に決まり、そのあとでタービンの回転数が決まる。(同期発電機)
これを実現するためには、発電所から東電への送電線を新たに建設する必要がある。その点は、すでに述べたとおり。(この送電線があるから、同期化ができる。現状では、送電線がないから、できない。)
なお、二通りの同期化が原理的に可能だということは、二番目のコメント欄で示されたことからわかる。つまり、水力発電所で実現できている。
> ボトルネックという発想を取ると、次のアイデアも浮かぶ。
> 中電の電力を、東電にもってきたい。
これは、「アイデアの呈示」であり、実現可能であると保証したものではない。現実に可能であるかどうかは、現実の設備の状況を調べないとわからないだろう。可能かもしれないし、可能でないかもしれない。うまく行けばめっけもの、というところか。
ともあれ、実現可能性を調べるぐらいは、別に構わないだろう。ちょっとした調査費がかかる程度だ。
ともあれ、本項の話題は「ボトルネック」という発想そのものである。アイデア呈示が話題だ。
これで停電が一挙に解決、というような、ひょうたんから駒みたいな方法を期待する人がいたら、見当違いなので、そんな期待はしないでほしい。(……そんな誤読をする人はほとんどいないだろうが。念のため。私は帽子から鳩を出すマジシャンじゃありません。)
人がくださるものについては、こちらからは何も注文できません。たとえ効果が小さくても。