食糧価格が高騰している。G20でもそれが話題となり、新聞各紙は1面で大々的に取り上げている。(ただしネットには上げていない。)
とりあえずは、日経の記事を紹介しよう。
20カ国・地域(G20)の財務相と中央銀行総裁は今週末、世界的な食糧価格高騰への対応策を話し合う。最大の穀物輸出国である米国の食糧生産が大幅に減るような事態に備え、トウモロコシを主要な原料とする米国のバイオ燃料政策の修正も緊急対応策として検討すべきだ。
最近の食糧価格高騰は、中国など新興国の需要増や、ロシアなどの天候不順の影響に加え、米国の金融緩和に伴って農産物など商品先物市場に流入する資金が膨らんだ結果だ。
さらに、米国の燃料エタノール向けの需要拡大が買い材料になって、シカゴ市場のトウモロコシ先物相場は史上最高値に迫る。
米農務省は、2010年9月〜11年8月の穀物年度に米国で燃料用にするトウモロコシが約1億2600万トンまで増えると予測。輸出や飼料用などを合わせた需要に対する米国のトウモロコシ在庫の比率は、15年ぶりの低水準に落ち込む見通しだ。
減税などの政策誘導でバイオ燃料の利用を促す米国では、すでにトウモロコシ生産の4割が燃料向け。食糧以外からエタノールをつくる計画も進めているが、生産効率の高いトウモロコシの利用は今後も増えそうだ。農地に制約がある中で、燃料用トウモロコシの作付けが増えると他の食糧の生産にも影響する。
アジアやアフリカなどで農業の生産性を高めて食糧を増産するのが、世界の食糧問題への対応で不可欠だが、それには時間がかかる。投機資金による先物相場の過大な変動を抑える対策も必要だ。
生育の際に二酸化炭素を吸収する農作物から燃料をつくり、普及させることは地球温暖化対策として有益としても、食糧高騰時に現在のような政策を続けると、弊害も大きい。
非常時には米国がバイオ燃料に使う量を一時的に減らし、価格高騰に対応する用意があると、市場に示す意味は大きい。
( → 日経 2011-02-20 )
ここで、私なりに対策を示す。
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まず、原因。
第1に、先進国におけるバイオエタノールの需要急増だ。量的にはこれが最大かもしれない。米国はもともと大幅な食糧輸出国だったが、その生産量の多くがバイオエタノールに転じることで、輸出量が大幅に減った。
第2に、新興国での穀物需要が急増したことがある。中国などは輸出国から輸入国へと転じた。
第3に、異常気象の影響だ。オーストラリアではサイクロンでサトウキビの畑が水浸しになり、大幅な減産となった。ロシアでも異常気象による大幅減産がある。エコ主義者の人々は、これを重視しそうだが、気象変動の影響となると、今さら(短期的に)どうしようもない。
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対策としては、どうか? 日経の記事ともダブるが、いくつかを掲げよう。
(1) 途上国での農業指導
これはかなり有効だ。紳助のカンボジア小学校の番組でも明かされたように、途上国の農業は低レベルすぎる。土地の有効利用がまったくできていない。単に「種をまけば実が実るだろう」というだけの発想。ほとんど原始農法である。畑を耕すという最小限のことすらできてない。日本の江戸時代よりもひどいだろう。
そこで、農業指導をすることで、土地生産性が大幅に上昇する。化学肥料も使えば、生産量を7倍ぐらいにすることは可能だ。(すでに実績あり。)
(2) バイオエタノールの縮小
バイオエタノールというものは、そろそろやめた方がいい。もともとは米国の「農産物価格安定」という方針のもとで推進されたにすぎない。今となっては何の意味もない。というか、有害である。さっさと方針を撤回した方がいい。
そもそも、農産物というのは、太陽と水と土地を利用して作った、とても手間のかかったものであり、そこでできる生産物も、人間様が食べられるような高度な生産物である。それを石油の代わりにしてしまうのでは、あまりにももったいない。
たかが自動車なんかが、人間様の食糧を食べるなんて、おこがましい。自動車にはもっと下らないものを食わせればいいのだ。バイオエタノール生産を全廃するべきだろう。そのことで、食糧は大幅に余裕が生じる。
(3) 新バイオ
バイオエタノールをやめるとすれば、どうすればいいか?
まず思い浮かぶのは、トウモロコシやサトウキビのような食用作物を使ってバイオ・エタノールを作るかわりに、麦ワラ・稲ワラのようなものを使ってバイオ・エタノールを作るということだ。(第二世代バイオエタノール)
しかしこれは、ダメである。前に述べたとおり。
→ 第二世代バイオエタノール
つまり、麦を刈り取ったあとの麦ワラのような、特定の場合には少量を生産することは可能かもしれないが、恒常的に大量のエタノールを生産することはできない。コスト的にも無理だ。
かわりに、微生物を使う方法が有効だ。高度な穀類を生産するかわりに、藻のような微生物を使うことで、ただの油を大量に生産できる。いったん高度な穀類を作ってから油に変換するという無駄な手間をかけずに、最初から単なる油を生産する。……この方がよほど利口だ。
→ 藻類でバイオ燃料
→ バイオ軽油 (2008年07月19日)
→ 慶應大学のサイト
紹介記事を書いたのは、 2008年07月19日。それから2年半後の現在、慶應大学のサイトを見たが、進展が記されていない。研究は進んでいないのかとも思ったが、慶應大学から離れて、企業レベルで研究がなされているようだ。下記に記事がある。
→ デンソー 「バイオ軽油」実用化へ着々
→ 最強のバイオ燃料、藻
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結論。
いったん高度な穀類を作ってから油に変換するというのは、無駄な手間をかけるだけだ。最初から単なる油を生産する方がいい。穀類はそのまま人間様が食べればいい。
だから、食糧危機を解決する方法は、食糧生産を増やすことではなくて、食糧需要を減らすことだ。そのためには、バイオエタノール生産をやめればいい。そのためには、微生物によるバイオ生産を増やせばいい。そのためには、微生物によるバイオ生産の研究を推進すればいい。
しかしながら現状では、太陽光発電という馬鹿げたことのためには超巨額が投入されるのに、微生物によるバイオ生産の研究のためにはほとんど資金が投入されていない。このような愚かな方針のせいで、人類は食糧危機に見舞われる。
「太陽光発電こそエコなんだ」
という馬鹿げた旗を振る人々が多すぎるせいで、自分のおまんまもろくに食えなくなるわけだ。愚の骨頂。良いことをしているつもりでいて、人類は自分で自分の首を絞めている。
[ 付記1 ]
価格上昇の意味について解説する。
食糧生産を増やすことも、もちろん大切だ。そのためには、農業指導をすることも必要だが、同時に、食糧価格の上昇も有効だ。途上国の低所得者は、自ら食糧を生産する動機が増えることで、結果的に食糧生産が増えていくだろう。
なお、コーヒー栽培などのために土地が使われるのは、もったいないので、コーヒー栽培から穀物生産へと土地利用が転換されることも好ましい。(穀物価格が上昇すればそういう傾向が生じる。)
コーヒー豆は、アフリカの途上国で児童が低賃金労働でこき使われることでなされる、というふうに言われている。しかし、これは嘘だ。
実際には、ベトナムや中南米のような中進国での生産量が多い。次の統計データからわかる。
→ コーヒー豆の生産トップ10と日本の輸入先
また、 「フェアトレード」というふうに銘打っているコーヒー豆もあるが、「アフリカの子供を救うため」と称しながら、実際にはアフリカ以外の中南米からの豆が大部分である。
→ フェアトレード業者の輸入元の例
つまり、「アフリカの子供を救うために、中南米の農家(貧しくない)のコーヒーを買いましょう」という滅茶苦茶な すりかえ論理。(「アフリカの子供を救うために、アフリカの子供を援助しましょう」とは決して言わない。)
こういうふうに、嘘の名分で、馬鹿高いコーヒー豆を販売しているのは、詐欺も同然だ。そのことは、前に示した。
→ フェアトレード (詐欺・問題) (これに続くシリーズ。)
→ フェアトレードは逆効果(中進国で)
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穀物価格が上昇すれば、コーヒー豆を大量に生産するブラジルなどでは、コーヒー豆の代わりに穀物を生産するようになるだろう。その一方、穀物生産ができずにコーヒー豆ぐらいだけ生産できるような痩せた土地(降雨量もなく土地も痩せている土地)の多いアフリカでは、コーヒー豆を生産するしかないが、それでも、他の国々がコーヒー豆の生産をやめることで、コーヒー豆の価格が上昇して、アフリカの人々も恩恵を受けるだろう。
つまり、アフリカの子供たちを救う方法は、アフリカの搾取的なコーヒー豆の購入をやめて、中南米のコーヒー豆を購入する(その生産を増やす)ことではない。むしろ、中南米のコーヒー豆の生産を減らして、中南米において穀物の生産を増やすことなのだ。そのためには、食糧価格の高騰は有効であり、一方、フェアトレード・コーヒー(中南米のコーヒー豆)を推進することは逆効果である。
太陽光発電というエコであれ、フェアトレードという善意であれ、狂信的な善人のやることは、やればやるほど逆効果になる。良いことをしているつもりで、世界をどんどん悪化させる。
科学的な無知による善行ほど、始末に負えないものはない。
( ※ ホメオパシーの信者に似ている。ホメオパシーとエコはよく似ている。
→ ホメオパシーとエコ )
[ 付記2 ]
「食糧価格の高騰が好ましい」
というのは、普段からの私の見解には矛盾するように見えるかもしれない。(余計な介入はしない方がいい、という点では、原理的には市場原理を私は推進する。市場原理が万能だとはさらさら思わないが、統制経済よりは市場原理の方がいい。)
ではなぜ、市場原理に反するような、上記の見解を取るのか?
実は、現在の食糧価格は、自然な価格ではない。どんな価格かというと、次の価格だ。
「アメリカの穀倉地帯で、地下水を汲み上げることで、アメリカが大量に低価格の食糧を生産する。そのあとで、地下水を汲み上げられたあとの土地は、次々と塩害などで砂漠化ししつつある」
「オーストラリアや南米アマゾンでも、森林を次々と開墾することで、安価な穀物生産をするが、そのせいで森林が破壊される」
※ 詳しくは → 地球の砂漠化
このような森林破壊は、地球温暖化という代償をもたらし、あちこちでサイクロンなどの異常気象をもたらす。本項の前半でもオーストラリアのサトウキビの被害を紹介したが、これもオーストラリアが森林破壊をしたことの自業自得だと言えなくもない。
要するに、現在の穀物価格は、過度の価格が低すぎる。その理由は、環境を破壊することで暴力的な低コストの農業がなされているからだ。その低コストの農業の利益は、当の農業従事者が得ているが、同時に、世界の消費者も得ている。その一方で、環境破壊という代償のツケを払わされている。
農業というものは、アメリカやオーストラリアの特定地帯だけで行なえばいいのではない。世界各地で行なうべきだ。そのためには、農業生産者が正当な報酬を得るシステムが必要だ。しかし現在では、土地略奪的な(土地破壊的な)農法による低価格となっている。これでは正当な農業が成立しない。
そこで、正当な農業が成立するように、ある程度は価格が高騰した方がいいのだ。現時点ではすでに過去の2〜3倍の価格になっているが、これならば、世界各地でも、農業が成立するだろう。そのことで、世界的に、農業生産がどんどん増えていくはずだ。(今すぐではないが。) 実際、これまでの例でも、天災などによる生産不足で価格上昇が起こった翌年には、生産が大幅に拡大して価格が暴落したことが多い。世界の農業生産の余力は、かなりあると見ていいだろう。
現時点ではすでに過去の2〜3倍の価格になっているが、このくらいが適正価格だと思える。このまま毎年倍々ゲームで上昇していくことはあるまい。(私の予想では、来年や再来年は、今年よりもかなり価格が下がるはずだ。)
ただ、日本の場合は、超高率関税のせいで、価格が国際価格の数倍にもなっている。さらに、国際価格に関税が同じ倍率でかかるので、輸入品の価格は国産品の価格よりも大幅に高くなりそうだ。……何か、馬鹿げた話だが。
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