2011年01月31日

◆ コースターの事故

 コースターの転落事故があった。この原因は、確認不足というような個別事情にあるのではなく、根本原因がある。それを見失ってはならない。 ──

 コースターの転落事故があった。すでに知られているとおりだが、一応、報道を引用しよう。
 東京都文京区の遊園地「東京ドームシティアトラクションズ」で小型コースターから羽村市の会社員、倉野内史明さん(34)が転落して死亡した事故で、乗客の安全バーを手で触って固定状況を確認する作業が日常的に徹底されていなかった疑いが強いことが捜査関係者への取材で分かった。事故の際もしっかり固定されていなかったとみられる。
 東京ドーム社は30日の会見で、「固定状況は目視だけでなく、必ず手で触って確認するよう指導していた」と説明した。
 しかし、コースターの係員として約1年半の経験があり、事故の際現場にいた大学生の女性アルバイトは調べに対し、「これまでもバーを触らずに見て確かめるだけの時もあった」と話しており、捜査1課が会社の指導状況を確認している。
 コースターの運用マニュアルには、安全バーの固定について▽締め忘れの無いよう、確認する▽再度、安全確認−−などと記載されているが、手で触ることは明記していない。捜査1課はマニュアルに問題がなかったかも調べる。
 女性アルバイトは事故後、「安全バーをちらっと見たら締まっているようにみえた」と、目視による確認しかしていなかったと説明した。
( → 毎日新聞 2011-01-31
 ──

 これだけを読むと、女性アルバイトがいい加減だったことが理由のようだが、それはあまりにも甘い認識だ。根本原因は、次の二点だ。
  ・ 人命に関わる重大作業を、アルバイトに任せた
  ・ 転落事故があった場合のフェイルセーフ策を取らなかった

 以下で順に説明しよう。

 (1) 人命に関わる重大作業を、アルバイトに任せた

 「安全バーを手で触って固定状況を確認する作業」
 というのは、人命に関わる重大作業だ。それをアルバイトに任せたという経営方針そのものが根本的に間違っている。
 
 アルバイトがミスしたり間違えたりしたのは、アルバイトの責任ではない。アルバイトというのは、もともと間違えてもいいような、軽い責任の作業をなすだけだからだ。責任が軽いからこそ、時給も安い。逆に言えば、時給が安いので、責任はもともと負わない。
 悪いのは誰かと言えば、こんな重大な作業をアルバイトに任せた経営者側だ。

 比喩的に言えば、次のことに相当する。
 「薬剤注射を、(看護婦ではなく)素人アルバイトに任せて、患者を死なせた」
 「血液採取の注射を、素人アルバイトにやらせて、患者を感染死させた」
 このようなことがあったとしたら、アルバイトに責任があるのではなく、人命に関わることを素人アルバイトにやらせた上司に責任がある。

 それと同様だ。今回の場合も、人命に関わる重大作業をアルバイトに任せた経営者に責任がある。根本原因は、この経営方針だ。何でもかんでもアルバイトにやらせて、人件費を下げようとした、「安かろう、悪かろう」の方針だ。
 ここを見失ってはならない。

 (2) 転落事故があった場合のフェイルセーフ策を取らなかった

 コースターのような遊具では、万一の場合に転落事故が起こることは、もともと予想されている。とすれば、万一の場合に備えて、「転落しても人命には関わりがない」という措置を取るべきだ。つまり、フェイルセーフの方策を取るべきだ。
 できれば、ネットを張ることが好ましい。しかし、現実には、ちょっと無理だろう。とすれば、最低限、次のことをなすべきだ。
 「転落しやすいカーブの部分では、下方の地面に、灌木などの樹木を植えておく」
 こうすれば、大ケガはしても、死なないで済んだはずだ。実際、人間は、10メートルぐらいの高さから落ちても、死なないで済むことがある。
  → 三宅雪子 マンション 転落

 ところが、今回の現場は、地面が剥き出しだった。
  → 現場写真

 要するに、もともと「転落事故があれば乗客を死なせる」という殺人システムを備えていたことになる。このようなシステム上の問題が、死者を出した理由と言えるだろう。

 ──

 結論。

 今回の事例は、安全とは何かを考えるときの、心構えについて教訓を与える。経営者は「事故の原因を究明する」というふうに述べているが、まるで他人事だ。事故の原因は、経営者の経営方針そのものにある。安全をなおざりにして、金儲けばかりに走ったことだ。ここを理解しないと、似たような事故は続発しかねない。特に、現状のように、やたらとコストダウンばかり図っている時代には。
 
( ※ 考えてみれば、JR西日本の尼崎の事故と、根っこは同じだ。どちらも金儲け主義による安全軽視。)
posted by 管理人 at 19:15| Comment(7) | 安全・事故 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私の個人的感想を言えば、アルバイトの人事権を持つ重役と社長については、業務上過失致死罪で起訴するべきだと思う。できれば刑務所に入ってほしい。
 一罰百戒。
 これで世間の安全軽視の風潮に警鐘を鳴らす。さもなくば、事故がちょっとは続発しそうだ。
Posted by 管理人 at 2011年01月31日 21:32
私が一番気になっているのは、「しっかり安全確認をする」というマニュアルは当たり前の事ですが、安全が確認できなかった場合にどうするべきかと言う事・・・今回の場合は当然一旦座った客に搭乗をあきらめてもらわなければならないわけですが、その場合色々トラブルも予想されます。それでも毅然として断らなければない訳で、それをアルバイト従業員にさせるのは酷というものです。そういう場合にスムースに責任を取れる立場の人が引き継ぐようなマニュアルないしは運用になっていたのかどうか。その辺が一番重要だと思うのですがマスコミは全然そこに触れていないように思います。
Posted by マリウス at 2011年02月01日 13:00
>マリウスさん
そういう場合にいちばん手っ取り早いのは機械に丸投げしてしまうことですね。
今回でいえば乗客の居ない車両も含めてすべてのバーが一定の高さまで下がらないと発車しない機構を入れるだけです。
機械の判断なので曖昧性や怠慢の絡む余地がなく
何より良い点は係員が「すみません、機械がそういう造りになってるので」といえば乗客も怒りようがない点です。
ただ経営層からしてみれば、十中八九問題ないケースでも律儀に止まるので稼働率が下がる点がデメリットです。
とはいっても十中八九平気だから問題なかろうと
判断した結果がこの有様なんですが。
Posted by サルガッソー at 2011年02月02日 00:12
そう言えば、女性アルバイトがバーを押さないのも、当然かもしれませんね。
 男性のふくらんだおなかを押して、「あなたのおなかは押しても収まらないから駄目です」なんて、若い女性は言いたがらないかも。
 担当者は男性にするべきでしたね。それなら、客が女性でも…… 以下略。
Posted by 管理人 at 2011年02月02日 00:59
おっしゃるとおりだと思います。
さらに、フェースセーフの観点からすれば、安全バーが降りていなくても動いてしまう遊具のつくりについても問題があると思います。
Posted by masa at 2011年02月02日 06:40
平和ボケ日本の象徴のような事件、セイフティーバーが閉まらなかったのは落ちた客認識していた。そこで自分で声を出さないのはどうなの?人に言われんと自分の身も守れんのか
Posted by amuro at 2011年02月07日 17:19
最新記事の紹介
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/tokyo_dome_coaster_accident/

──
社内規定に反しアルバイトが運行 コースター転落死

 東京ドームシティアトラクションズ(東京都文京区)のコースターで会社員、倉野内史明さん(34)=羽村市=が転落死した事故で、運営会社「東京ドーム」の社内規定で、コースターの運行は社員か契約社員が担当しなければならないと定めていたにもかかわらず、事故当時、アルバイトの女子大生に運行を任せていたことが7日、捜査関係者への取材で分かった。警視庁捜査1課は、同社の安全管理体制や人員配置に問題があったとみて、業務上過失致死容疑で捜査している。
 捜査関係者によると、同社が昨年4月に定めた運行管理規定では、コースターの運行を担当する係員は社員か契約社員に定め、アルバイトなどは「補助者」と位置付けていた。
 今回の事故で、コースターには契約社員とアルバイト4人の係員計5人がおり、運行係はアルバイトの女子大生が担当。コースターの管理室前には契約社員がいたが、コースターを含め計9カ所のアトラクションを巡回して指導する立場だったため、コースターの運行は直接担当していなかった。
 ──
 本項の趣旨に合致している。このページの途中に、本項へのリンクがある。
Posted by 管理人 at 2011年02月07日 17:49
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