トヨタが画期的な生産ラインの方法を創案した。米フォードモーターが流れ作業で車を作り始めてから百年間、ずっと続いてきた方式を、まったく新たな方式に変更した。きわめて独創的と言える。
《 車体横置き生産ライン トヨタ導入 》──
トヨタ自動車は、今月稼働を始めた宮城県の完全子会社の工場に、車体を横向きに置いて流す、新しい生産ラインを導入した。車は、長さは4、5メートルあるが幅は約2メートルなので、縦に流す従来法よりラインの長さを3分の1ほどに短くできる。このため、ほかの取り組みも合わせて、新工場の設備投資額は当初予定の6割で済んだ。車の組み立てにかかる時間も短縮できたという。
米フォードモーターが流れ作業で車を作り始めて約100年。各メーカーは、車をラインに縦置きで流し、大量生産してきた。ところが、近年、先進国の不況と所得の低い新興国市場の台頭で、世界的に安い車しか売れなくなり、いっそうのコスト削減を迫られるようになった。そこでトヨタは、「世の中の常識」に手を付けた。
ラインはU字形で、車体は90度外側を向く。これによりラインの長さが短くできるだけでなく、ラインの外側からエンジンを、内側から足回り部品を取り付けるなど、違う作業を同時並行ででき、完成までの時間も大幅に短くできるという。
トヨタは、宮城での「横置き方式」がうまくいけば、トヨタ本体の工場の組み立てラインにも採り入れることを検討する方針。
( → 朝日新聞 )
米フォードモーターが流れ作業で車を作り始めてから百年間、ずっと続いてきた方式を、まったく新たな方式に変更したのだ。きわめて独創的と言える。これほど独創的な方法を、どうやって考案したか?
推測するに、考案した人は、研究者ではなくて、現場の工員だろう。そこで「カイゼン」運動のなかから創案されたものだと思える。
では、その工員は、どうやってこのアイデアを出したか?
そのためには、特別な学問的研究は必要ない。次の発想だけがあればいい。
「縦のものを横にする」
それまで「縦」だった生産ラインを「横」にした。それだけの発想だ。
では、たったそれだけのことを、どうして他の人々は思いつかなかったか?
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ここまで考えて、ようやく、独創性の理由がわかる。それは、次のことだ。
「過去の発想にとらわれないこと」
これまでは当り前だと思って受け入れていたことを、当り前だと無条件に受け入れない。人々が常識だと思っていたことを、あえて疑う。これと似たことは、ファインマンも言っている。
そのとき、僕をはじめみんなの心は、自分達が良い目的をもってこの仕事を始め、力を合わせて無我夢中で働いてきた、そしてそれがついに完成したのだ、という喜びでいっぱいだった。そしてその瞬間、考えることを忘れていたのだ。つまり考えるという機能がまったく停止 してしまったのだ。ただ一人、ボブ・ウィルソンだけがこの瞬間にも、まだ考えることをやめなかったのである。人々が思考停止になっているときにも、考えることをやめない。こういうふうに頭を働かせることで、常識によって曇っていた目が晴れる。
( → ファインマンの教訓 )
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「過去の発想にとらわれないこと」というのは、「しがらみ」がない、ということでもある。この件は、下記でも詳しく説明した。そちらを参照。いろいろと論じている。
→ しがらみ (1)
→ しがらみ (2)
→ しがらみ (3)
[ 余談 ]
余談だが、独創性をなくす方法もある。それは、標準理論にとらわれることだ。世の中の常識を盲目的に信じて、それを疑いもしないことだ。その特徴は、トンデモマニアに見られる。
ちょっとでも毛色の変わったものを見ると、「トンデモだ」と批判して喜ぶような人は、決して独創的な発想ができない。なぜなら、独創的な発想を毛嫌いしているからだ。
一方、それとは逆の発想をする人の典型が、ファインマンだ。
そして、トンデモマニアがファインマンを読むと、素晴らしく魅力的なファインマンの本も、独創性のための本というより、「やる気を出すことの必要さ」を説くだけの凡庸な本としか読めなくなる。
→ ファインマンの教訓
【 関連項目 】
次の項目も独創性について論じている。
→ 兼坂弘の教え
ここでは、「物事の本質を見ること」の大切さを論じている。これは、工員レベルではなく、研究者レベルの話だ。
その典型的な例は、マツダの SKY というエンジン技術に見られる。
・ ガソリン車で圧縮比 14 という高い数値の実現。
・ ディーゼル車では、逆に低圧縮比にして、排ガスをクリーンに。
まったく常識に反することを実現しているが、その根源には、「本質を徹底的に考え抜く」という発想法がある。
【 関連サイト 】
マツダのエンジンの技術解説。専門的なので、いちいち読む必要はない。エンジンの好きな人だけ、お読みください。
→ MAZDA SKY-G 広報資料 の解説
→ マツダの広報資料(PDF)

セル生産など、I型ラインをU型ラインにして部品の投入と完成品の引き取りを同じ物流担当者が行うといった事も、数年前から既に種々の業界の製造ラインに採用されています。部品の投入と完成品の引き取りを同じタイミングで行えるため、「空荷」輸送が減って物流効率も良いのですね。
頻繁に工程が組み替えられる多品種少量ロットの生産にも向いた方式ですが、トヨタさんも専用ラインで同じものばかり作っている場合じゃなくなってきたという事でしょうかね。