イレッサという抗ガン剤は、「夢の薬」ともてはやされたが、現実にはそれとは正反対で、悪魔の薬であった。副作用もなく命を救ってくれるはずだったのが、実際には副作用で患者の命を次々と奪った。
どうしてこういう問題が起こったのかは、謎だとされる。しかし私の考えでは、「医療詐欺」という形で認識できる。
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イレッサの薬害はひどかった。副作用で「間質性肺炎」が高頻度に起こるからだ。
服用からわずか3週間後、異変が起きた。むせ返るようなせき。息ができない。「死んだ方がましや」と本気で思った。「殺してくれ」。妻に泣きながら訴えた。イレッサの副作用の間質性肺炎だった。ステロイドの緊急投与で奇跡的に助かったが、文字通り死のふちをさまよった。このような薬害が起こった理由の一つに、特別な早期承認がある。日本では、新薬は、諸外国よりもずっと遅れて承認されるのが普通だ。ところがイレッサに限って、ろくに効果もないのに、早期承認された。
( → 産経新聞 )
「最後はまるで生き地獄だった」。
二〇〇二年十月に三十一歳で亡くなった三津子さんは、その一カ月前には自宅で食事の支度ができる状態だった。
ところが、イレッサの副作用である間質性肺炎で症状は一変した。酸素吸入しても息は苦しく、全身を震わせ、汗びっしょりになった。
「副作用の少ない『夢の新薬』ではなかったのか…」。昭雄さんは茫然(ぼうぜん)自失となったという。
( → 中日 特報 )
イレッサは2002年7月5日、世界に先駆けて日本で承認を受けた後、2003年5月5日アメリカ食品医薬品局 (FDA) での承認を含め、いくつかの国で承認を受けた。しかし、無作為比較臨床試験の結果、プラセボと比較して生存期間を延長することができなかったため、2005年1月4日アストラゼネカは欧州医薬品局 (EMEA) への承認申請を取り下げ、また2005年6月17日FDAは本薬剤の新規使用を原則禁止とした。「プラセボと比較して生存期間を延長することができなかった」というのに、特別に早期承認されたというのだから、びっくりである。ホメオパシーを騒ぐ人がいたら、大騒ぎしても良さそうだ。
( → Wikipedia )
ただ、後知恵では、次のように評価される。
・ 画一治療では効果は見出させない。
・ テーラーメード治療では効果は見出される。
( → イレッサ騒動の背景 )
ただし、世界ではそのように評価されているが、日本では画一治療がいまだに認められ、いまだに薬害の余地がある。
京都大の薬剤疫学教授だった福島氏は〇二年当時、薬事審査の幹部に「(米国の厚労省にあたる)米食品医薬品局(FDA)はイレッサ承認を保留している。このまま承認すると、とんでもないことになるのではないか」と指摘していた。しかし、効果はあるにしても、多大な副作用があるものを、あっさりと見逃したというのは、どうにも解せない。
しかし、その忠告は無視され、間質性肺炎による死亡例が相次いだ。海外での調査では、イレッサには全生存期間で「延命効果なし」という結果もあり、FDAは〇五年に新規患者への投与を原則禁止。欧州連合(EU)での承認申請も、当初は取り下げられていた。
それにもかかわらず、日本では現在まで広い適用が認められている。
( → 中日 特報 )
いったいどうしてこういうことが起こったのか? (責任を問う声も上がっているが)それは「謎」とされている。「裁判で検証が待たれる」というふうに報道されることが多い。
日本では、2002年7月、同年1月の承認申請からわずか6か月弱という異例のスピードで世界に先駆けて承認された。( → イレッサ薬害とは )事件の原因は、よくわかっていないらしい。
なぜ、厚労省が世界で初めて承認したのか。なぜ、申請から約5カ月のスピード審査がなされたのか。訴訟ですべてが分かると信じたが、新事実は「ないに等しかった」という。( → 産経新聞 )
福島氏は「日本には『(薬剤の)市販直後の全例調査』という、厚労省が自らつくった世界に冠たる制度がある。これをきちんと運用すれば、イレッサのような大規模な副作用被害は起こりえなかった」と主張する。
「イレッサではなぜか全例調査をせず、警告も無視された。欧米では、極めて限定的にしか使われていないという事実を厚労省はどう認識しているのか。薬害はいわば人災。この問題には、日本における薬害の構造的要因が凝縮されている」( → 中日 特報 )
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そこで、私なりに調べた結果、私なりの結論は、こうだ。
「夢の新薬だ、というふうにブームが起こって、それに世間が踊らされた」
これはつまり、米国の金融工学バブルと同じだ。
「金融工学は、夢の理論だ。これによって大儲けできる」
というブームが起こり、人々は踊らされた。そのあげく、バブルがふくらんで、破裂した。
イレッサも同様だ。「これは夢の新薬だ」というブームが起こって、製薬会社だけでなく、マスコミも踊らされた。
「夢の新薬・希望の薬」と呼ばれたわけ:こういうふうにブームが起こって人々が踊らされるのは、日本では特に起こりやすい。だから、日本でこういう馬鹿げた事が起こった。
・ 様々な抗ガン剤の中でも珍しく、1日1錠飲むだけ
・ 実際に効果がとても早く現れる
・ “分子標的薬”として正常細胞は攻撃せず、ガン細胞だけを狙い撃ちし、死滅させる
( → 薬害について )
京都大の薬剤疫学教授だった福島氏は〇二年当時、薬事審査の幹部に「(米国の厚労省にあたる)米食品医薬品局(FDA)はイレッサ承認を保留している。このまま承認すると、とんでもないことになるのではないか」と指摘していた。
しかし、その忠告は無視され、間質性肺炎による死亡例が相次いだ。海外での調査では、イレッサには全生存期間で「延命効果なし」という結果もあり、FDAは〇五年に新規患者への投与を原則禁止。欧州連合(EU)での承認申請も、当初は取り下げられていた。
それにもかかわらず、日本では現在まで広い適用が認められている。
「あらゆる警告を無視したことで被害が拡大した。承認から二年間の間に、添付文書が十回も変わったが、それ自体が異例で『まずい』と認識していたからだろう」と福島氏は推察する。
「承認前から『夢の新薬』ともてはやしたマスコミも問題で、患者はそれに踊らされた。重大な副作用事例を事前に把握しながら、それを無視しての承認には『何としてでも承認させる』という強い意図がどこからか働いていた、と感じる」
( → 中日 特報 )
だから、イレッサの薬害は、米国の金融工学バブルと同様である。ここでは、「そんなのは危ないぞ」と警告する人々はちゃんといたのだが、マスコミを含む多くの人々は、「夢の薬は素晴らしい」と浮かれていた。そのせいで、明るい面ばかりを見て、暗い面を見失った。目が曇っていた。さらには、「自己反省」の能力も欠落していた。
こういう事情から、一種のバブルとしての「イレッサ・バブル」が生じた、と考えていいだろう。
それに踊らされた人々は、「詐欺にあった」とも言える。
ただし、その根源を言えば、「錯覚」であろう。誰がだましたかが大事なのではない。人々がだまされたということが大事なのだ。被害者の声を聞いても、「夢の薬だ」と聞かされた、という話が多い。
「肺がんに、とどめを刺す」。イレッサの服用を決めたのはそんな気持ちからだった。──
「抗がん剤を併用しますか」と医師に問われたが断った。肺がんで亡くなった母親がひどい副作用に苦しんだからだ。従来の抗がん剤に代わって提案されたのが、同年7月に承認されたばかりのイレッサだった。
1日1錠、朝食後に飲むだけ。「がん細胞だけを狙い撃つ薬。副作用も発疹(ほっしん)、下痢くらい」と聞かされたときは、「まさに理想的。使わない方がどうかしている」と飛びついた。
( → 産経新聞 )
“夢の新薬”ともてはやされたイレッサ。
がんサイトの掲示板には「かなり前から個人輸入しています」「1日1錠を服用するだけで、あとは普通の生活ができる。たいした副作用は出ていません」「肺がんの影がほとんど消えました」「飲み始めてからめきめきと回復し、職場復帰ができました」など、書き込みの文字が踊っていた。
イレッサが承認された当時、延命効果の有無は市販後に調査すればよいことになっていて、延命効果を調べる第3相試験は行われないまま、承認された。発売開始後、国内での第3相試験が実施され、その結果が報告されたが、ほかの抗がん剤と比べ「延命効果に有意差はなし」の結果だった。
( → がん患者たちの声 )
イレッサは、がん細胞を狙い撃つ「分子標的薬」という新しいタイプの抗がん剤で、同年7月、世界に先駆けて日本で承認された。正常な細胞も攻撃する通常の抗がん剤と違い、「副作用が少ない夢の新薬」との評判で短期間に使用を増やした。だが、まもなく間質性肺炎など重い副作用が表面化。この年だけで387人の副作用報告があり、180人が死亡した。
( → 夢の抗がん剤、死の教訓 )
「イレッサは発売前から夢の新薬といわれ、じっさい治療を始めるとそのことを裏づけるような劇的な著効例も現れた。そうしてつくられた幻影に患者も医師も振り回されてしまったということでしょう。たかだか2、300人を対象にした治験では、薬の作用のすべてを確かめるすべがないことを忘れてしまっていたのです。そうした安易な利用が行われたところに落とし穴が待っていたということではないでしょうか。イレッサはすばらしい治療薬です。しかし、副作用のない夢の新薬ではありえないことを医師も患者も忘れてしまっていたのです」
( → イレッサの真実 )
まとめて言おう。
薬に副作用があることは当然だ。それ自体は当り前のことであり、大騒ぎするほどのことはない。
しかしながら、「夢の薬だ、副作用もない」と思い込んで、勝手に浮かれていれば、とんでもない被害が起こるのも当然だ。
ここでは、被害が起こった理由は、副作用があったことではなくて、副作用に目を閉じたことだ。
この意味では、この薬害は、ただの医療の薬害ではなくて、社会的な「錯覚」「妄想」「勘違い」が理由となっている。
マスコミは厚労省を責めているようだが、それでは解決はしない。「やたらと夢の新薬だと浮かれたマスコミにも責任の多くがある」と反省することが必要だろう。
つい先年も、「 Web 2.0 」「 Google 化する」「ビル・ゲイツの真似をする」なんてことを叫んでいたマスコミにも、多くの罪がある。こういうふうに浮かれてばかりいるマスコミこそ、イレッサ薬害の真犯人だと言えなくもない。
( ※ 太陽光発電や、エコ・キャップも同様だ。私が警鐘を鳴らしても、まともに治らないのが、マスコミだ。こういうマスコミの体質が、イレッサのような薬害となって露呈する。)
[ 付記 ]
分子標的薬というのは、特定の場合に限っては、劇的な改善効果が出ることがある。だから、非常に顕著な効能のある優れた薬だと思う(錯覚する)人もいるだろう。
→ 知恵袋
しかし、実は、「馬鹿とハサミは使いよう」というようなもので、使い方しだいでは効能がある、というだけのことだ。あらゆる場合に適用可能なわけではない。
そこのところを誤認した(錯覚した)せいで、この薬を「夢の薬」と思い込むブームが生じたわけだ。
似た例はある。
・ 金融工学でボロ儲け
・ Google 化でボロ儲け
・ Web 2.0 でボロ儲け
・ イレッサで癌を撲滅
いずれも似ている。たまに劇的にうまく行った例があったからといって、誰もが「われもわれも」と殺到するが、たいていは失敗する、という事例だ。
これを応用すると、次の詐欺が生じる。
・ オークションで液晶テレビを500円で落札 ( → オークション詐欺 )
「宝くじの1等は1億円です。誰もが1億円 当選します」
というわけ。
ともあれ、どれもこれも似たようなものであるが、引っかかる人が多すぎる。
【 関連サイト 】
イレッサは「分子標的」という言葉とともに、「夢の薬」ともてはやされた。これについては、下記にある PDF に詳しい説明がある。
→ 案内ページ
念のためにタイトルを示しておくと、下記。
title: 「知の失敗」としての薬害を考えるための覚え書 : 「イレッサ」報道記事「『夢の抗がん剤』落とし穴」に落とし穴はないか
author: 松山 圭子 MATSUYAMA Keiko
【 後日記 】 ( 2011-01-19 )
イレッサについては、行政の対応に問題があった、という報道があった。(関係者の証言。)
旧厚生省の薬系技官トップだった土井脩氏……は、イレッサ問題が起きる前年の2001年1月まで、医薬安全担当審議官を務めた。1993年、抗ウイルス剤ソリブジンと抗がん剤を併用した患者が死亡した薬害の発生当時は、安全対策の担当課長だった。
イレッサは02年7月、世界に先駆けて日本で承認されたが、まもなく間質性肺炎の副作用で死亡例が次々に報告された。土井氏は「最初に承認したのはよいが、前後の対応が問題。行政がやるべきことをやっていれば被害はかなり防げたはず」と話す。間質性肺炎については審査で指摘され、薬の添付文書にも盛り込まれたが、目立たない記載で現場に浸透しなかった上、その後の安全対策にも問題があった、という。
まず承認の際、条件として全例調査を義務づけなかったのを「間違い」と言う。全例調査は、懸念のある薬の場合、使える医師を限定し、すべての投与患者を把握して、承認後も安全監視を続ける仕組み。土井氏は「イレッサにはこの条件が付かず、無防備に使用が拡大した」と指摘する。
事後の対策では、「重大な副作用報告があったら迅速に対応すべきだ。イレッサの場合、緊急安全性情報を出して現場に注意喚起するまで3か月もかかった」と問題視する。ソリブジン薬害では、報告1週間後に緊急安全性情報が出た。
( → 読売新聞 2011-01-19 )
タイムスタンプは 下記 ↓
→ http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130402-OYT1T01040.htm
→ http://mainichi.jp/select/news/20130403k0000m040068000c.html