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性の誕生が生命にとって決定的に重要だ、ということは、先に述べた。
→ 「性の誕生(半生物を越えて)」
その趣旨は、次のことだ。
・ 生物は有性生物と無性生物に分けられる。
・ 性をもつことで、生物は複雑な多細胞生物になることができた。
・ 性の誕生した時期は、カンブリア爆発の直前である。約6億年前。
一方、次の事実もある。
8億年前〜6億年前(おおざっぱに7億年前)には、地球が超寒冷化した時代があった。これが全地球凍結である。そして、この時代の直後に、有性生物が出現した。
→ 宇宙人の存在確率
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要するに、次の二点が言える。
・ 地球上の生命が急激に進化したきっかけは、性の誕生であった。
・ 性の誕生をもたらしたきっかけは、全地球凍結であった。
ではなぜ、全地球凍結が性の誕生をもたらしたのか? これは謎だ。この謎に、本項で考えよう。
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《 以下、大幅に改訂しました。 》
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性の誕生の前には、次のことがあった。
・ 生命の誕生
・ 真核生物の誕生
このうち、後者については、本項執筆のずっと後になって、次の項目で解説した。そちらを参照。
→ 真核生物の起源: Open ブログ
→ 有糸分裂の起源: Open ブログ
問題は、生命の起源の方だ。これは謎だ。
この謎に対しては、もちろん、正解は判明していない。正解どころか、合理的な仮説さえも出ていない。ただし、本サイトでは、前に 合理的な仮説を提出した。下記だ。
「自己複製」という機能だけについて言えば、生物の存在は必要なく、DNA の存在だけで可能だろう。
それを示すには「PCR法」の概念を用いればいい。
プライマーがたくさんある状況で、温度変化さえあれば、DNAはどんどん増殖していく。しかも、温度変化は、海底の熱水噴出孔のそばでは容易に得られる。(熱水噴出孔のそばでは温度が高く、離れたところでは温度が低い。水が循環していれば、熱変化のサイクルができる。)
こうして、「自己複製」という機能だけなら、「生物」はなくても DNAだけで可能となる。これが生物以前の「前生物」となりそうだ。
( → 生命の起源: Open ブログ )
このことを語り直すと、次のようになる。
「 冷たい海水の中で、地質的には、火山活動も起こった。すると、熱水と冷水との共存領域が出現した。その共存領域では、部分的に循環も起こった。次のように。
冷水 → 熱水 → 冷水 → 熱水 → …………
そこに DNA が置かれた。すると、この状態は PCR法 の状態と同様である。ゆえに、大幅な DNA の増殖が可能となった。これが進化の理由となった」
ちなみに、PCR法 については、次のように説明されている。
温度の上下(九四度→四五度→七二度→九四度)のサイクルを繰り返すだけでDNA合成の連鎖反応が起こり、試験管内で短時間にヒトのDNAを増やすことが可能となったのである。──
( → 解説ページ )
では、PCR法 が自然界でなされるとしたら、それはどのような意味を持つか? 次のことだ。
「 DNA の増殖というのは、一般的には、単細胞生物の自己複製と同様である。つまり、自然界で PCR法 による DNA の増殖があるというのは、そこにおいて単細胞生物の自己複製と同等のことが起こっていることになる。一種の生命システムだ」
「しかも、この生命システムは、不完全である。なぜなら、温度などの条件がちょうどうまく最適化しているとは限らないからだ。そのせいで、やたらとエラーが起こる。つまり、突然変異と同等のことが高頻度で起こる。しかも、その突然変異は、自然淘汰を経ない! 不利なものが消滅することもない。不利なものでもどんどん勝手に増殖が可能だ。そのせいで、最初の状態からはとてつもない迂回的な経路をたどって、巨大な大進化が可能となる。かくて、生命の誕生という、とてつもないことが起こった」
( ※ このような迂回的な進化は、自然淘汰では決してなされないはずだ。なぜなら
途中段階のものは、生命としては不利なので消滅してしまうからだ。
以上のような形(自然界における PCR法 )で、「生命の誕生」が起こったと推定される。
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このあと、(上記の)「有糸分裂」や「真核生物」の誕生を経て、生物はいよいよ生物らしくなっていった。すなわち大腸菌のような原核生物や、酵母菌のような真核生物ができていった。
このあと、単細胞の真核生物から、多細胞の真核生物が出現するが、その途中で、性の誕生があった。性の誕生を経て、生物は単細胞生物から多細胞生物になった。
→ 性の誕生(半生物を越えて): Open ブログ
では、いかにして、性は誕生したか?
おそらく、何もない状態からいきなり(完全な)性をもつ生物が誕生したわけではあるまい。その途中段階があったはずだ。
それは「半分の性」とも言えるし、「原始的な性」とも言える。その形態は、ゾウリムシの「接合」であろう。
( ※ 「接合」とは何か、という話は、説明すると長くなりすぎるので、ここでは割愛する。知りたければ生物学の本を読むといいだろう。ネットで調べてもいい。)
そのゾウリムシの「接合」を初めとする「性の誕生」には、全地球凍結が大きな影響をもたらしたと考えられる。(時期的に。)
ただ、全地球凍結がどうして「性の誕生」に結びついたかというと……
本項では、それを考えるつもりで書きはじめたのだが、どうも、うまく示せないままになってしまった。尻切れトンボである。ごめんなさい。
( ※ 本項は、元の原稿では説明をしていたのだが、あとで考え直したら、見当違いのことを書いていたと判明したので、削除して、書き直しました。)
[ 付記 ]
「性」の誕生によって、生命は次のことをなしえた。
「個体は死ぬが、遺伝子は死なない」 …… (*)
ドーキンスならば、(*)のことを「生命と遺伝子の特徴」と見なすだろうが、実はそうではない。 (*)のことが成立するのは、有性生物だけだ。
無性生物では、次のことが成立する。
「個体は死なず、遺伝子も死なない」
無性生物は不死である。親細胞から娘細胞に分裂するとき、親と娘とは別物ではない。親が二つの娘になるだけだ。親と娘とは何らかのは同一性が成立する。そこでは「親が死んで娘が産まれる」のではなく、「親が娘に生まれ変わる」のである。ゆえに親は不死だ。その意味で無性生物は不死である。(寿命がない。)
一方、有性生物は、(*) のことが成立する。つまり、個体の死がある。
それにによって、「生命の複雑化」をなしえるようになった。つまり、たとえ親に遺伝子エラーが蓄積しても、その遺伝子エラーを省いた健全なる子孫が誕生できるようになった。そのことで複雑化が可能となった。
→ 性の誕生(半生物を越えて)
性による上記のような原理は「初期化」というふうにも表現できる。
パソコンを長く稼働していると、エラーが蓄積して、動作がおかしくなるが、初期化することで、パソコンの状態を正常に戻せる。
それと同様に、細胞が分裂を繰り返すと、エラーが蓄積するが、2n の DNA を n ずつにバラバラにすることで、エラーの蓄積した方の n をうまく排除して、エラーのない新たな 2n を形成することができる。これは DNA における「初期化」と言えるだろう。
このことは、有性生物でのみ、可能となった。有性生物では、個体は寿命をもつが、同時に、次の世代では初期化が可能となったのだ。(無性生物ではそれはなしえない。無性生物は自己複製するだけだからだ。)
関連する話は、下記にもある。
→ ヘイフリック限界
[ 余談 ]
蛇足だが、「生命の本質は自己複製だ」というのは、無性生物にのみ成立する話であり、有性生物には成立しない。この件は、別項で述べた。
→ 生命の本質とは? (自己複製?)
ここで示したのは、単に基本的なアイデアだけです。「当たらずといえども遠からず」というのを狙っているだけ。
話を精密化して具体的なモデルを出すのは、他の人にお任せします。
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