「スマートグリッドで省エネ社会の実現」というふうに提唱されてきた。次の趣旨。
一つは、オバマ大統領の提唱。
もう一つは、朝日・社説の提唱。
いずれも本サイトで紹介してきた。(下記項目を参照。)
→ 太陽光発電と電力安定
エコ主義者は、太陽光発電を提唱する。だが、太陽光発電には、「発電量の変動」という問題がつきまとう。
そこで、この問題を解決するための案として、「スマートグリッド」を提唱したわけだ。次の趣旨。
「送電網をIT技術で最適化することで、送電のロスを回避したり、電力の不安定さを回避したりする。電力を安定化する。また、省エネも狙う」
つまり、IT化すれば問題は簡単に片付く、という夢想的な発想。ITと唱えれば打ち出の小槌になると思い込む発想。
──
しかし、このような夢想は、とうてい実現不可能であるということを、本サイトは何度も指摘した。一部を再掲しよう。(詳しくはリンク先を参照。)
- 太陽光発電と電力安定
- こういうふうに述べて、「スマートグリッドで万事解決」と夢見ているようだ。しかし、それは夢想にすぎない。だいたい、新しいアイデアを一つ出したら、あらゆる問題が一挙に解決するなんて、そんなうまい話はあるはずがない。(朝日はやたらとこういう夢物語を持ち出すが、ほとんど詐欺的だ。)
- 超スマートグリッド
- 日本ぐらいの狭い国では、一国の大半が雨になることもあるし、一国の大半が台風に襲われることもある。国内で電力を融通するだけでは、とうてい電力の安定は実現できない。つまり、スマートグリッドは、ほぼ無効だ。
- 電力コストの計算法
- スマートグリッドというものが、いくらかでも意味を持つには、アメリカやヨーロッパのように、広大な大陸を必要とする。(それならば気象の変動を、ある程度吸収できる。)
しかるに、日本のように狭い島国では、一国全体がほぼ同じ気象となる。また、隣の国から電力を買おうにも、海に囲まれているので、送電線は存在しない。
──
以上は、私の指摘だ。
そして、1年以上が立って、現実が判明した。スマートグリッドは私の予想通り、失敗である。
読売新聞・朝刊 2010-11-28 の経済面に、「けいざい百景」というコラムがあり、コロラド州ボルダー市の「スマートグリッド実証実験」が失敗に終わったことを示している。
・ 光ファイバーの通信機能付き電力計「スマートメーター」を設置する。
・ 電力需要の多いときは料金が上がり、電力需要の少ないときは料金が下がる。
以上の点により、電力使用量が減り、電気料金も下がるはず……だった。(予定では)。
しかしながら、現実には、そうならなかった。
・ 光ファイバーの工事費などで費用は予定の3倍。
・ コストが上がったので電気料金は下がるどころか上がる。
・ 料金の申込みもわずか 2000軒。
つまり、まったくの当てはずれ。
ではなぜ、当てはずれになったか? 料金の変動で電力消費の変動を抑えるといっても、それに対応する機器(夜間利用の給湯器など)はちっとも普及していなかった、と記事では記してある。
しかし、私は違うと思いますね。「料金の変動で電力消費の変動を抑える」という狙いは、すでに深夜電力で実現されている。今さら「スマートグリッド」を出したところで、たいして効果はない。
さらに言えば、人間の生活は、コストで決めるわけじゃない。夜間コストが低いからといって、夜中に起きて、昼間は眠る、という行動は取れない。人間はロボットじゃないのだ。コストの低い生き方をするわけじゃない。はした金で人間の行動が変わると思ったら、大間違いだ。市場原理ですべて解決するという発想そのものが根本的に狂っている。(そのことが現状の深夜電力の利用者が少ないことからもわかる。)
──
まとめ。
人間は機械じゃない。昼間は起きて、夜は眠る。昼間は電力を多く消費して、夜間は電力をあまり消費しない。このことは、スマートグリッドという形でIT技術を導入したからといって、解決する問題じゃない。IT技術を使ったからといって、人間の生活を根本的にひっくり返すことができると思ったら、大間違いだ。
結局、スマートグリッドは電力変動の解決策にはならない。かねて何度も述べた通り。
結論。
スマートグリッドに頼れば太陽光発電に頼っても大丈夫、と思っても、駄目だ。太陽光発電は、もともと電力変動が大きすぎる。そういうものに頼るという発想が根本的に狂っている。
どちらかと言えば、発電効率のアップを狙う方がいい。はるか先になれば、太陽光発電の発電効率が大幅に上昇するだろう。そうなれば、人類の必要とする発電量を大幅に上回る量を発電できるようになるだろうし、そのときには、(たとえ電力変動が大きくても構わないので)、スマートグリッドを必要としなくなるだろう。
しかし、それははるか遠い先の話だ。今すぐ補助金を出して太陽電池を普及させよう、というような段階じゃない。今はまだ実験室で研究する段階にすぎない。
できもしないことをしようとして、普及のために莫大な補助金を無駄に投じるくらいなら、研究開発にを多大に投資する方が、よほど理に適っている。
[ 付記1 ]
電気自動車はこのあと 10年ぐらいで大幅に普及すると見込まれている。どうせ普及のためなら、こちらの普及のために努力する方が、ずっとマシだ。
研究室段階の夢想を無理に実用化しようとしても、金を無駄に捨てるだけのことだ。どうせ夢想のために金を無駄に捨てるなら、「タイムマシンの研究」とか「錬金術の研究」とか、実現不可能な夢を語るホラ吹き大会のために、金を使う方がマシだろう。それならまだしも、お笑いの楽しみがある。 (^^);
[ 付記2 ]
スマートグリッドは将来的に実現可能か? 実現可能だとしたら、超伝導電線を地球規模で張り巡らせた場合だろう。それなら、昼間の領域と夜の領域で、電力を融通することができる。
しかしそれには、百年以上もかかりそうだ。夢のまた夢。……しかもそのころには、太陽光発電は、必要なくなっているはずだ。なぜなら核融合発電が実現しているから。 (^^);
ま、唯一実現可能なのは、電気自動車の電池に、夜間電力で充電することだ。これならば可能だろう。ただしそのためには、あらかじめ電気自動車を大量に普及させることが必要となる。つまり、スマートグリッドを実現する唯一の方法は、電気自動車の普及だ。
→ 超スマートグリッド
【 関連サイト 】
ボルダーのスマートグリッドの失敗について、やや詳しい話は英文で。
→ SmartGridCity is a Smart Grid Flop
→ SmartGridCity Meltdown: How Bad Is It?
他の情報を知りたければ、下記にもある。(やたらと長い。)
→ Xcel Energyのボルダー・スマートグリッド事例から学べること(上)
→ Xcel Energyのボルダー・スマートグリッド事例から学べること(下)