キジ類とカモ類は、どちらが先か? この問題はいろいろと難しい点を含む。
・ 分子系統樹では、どちらも対等である。
・ 化石からすると、カモ類の化石の方が早い。
・ 形態から見ればキジ類が先だろう。
以下、順に述べよう。
──
(1) 分子系統樹
このうち、分子系統樹の点は、何とか解決がつく。
たしかに分子系統樹では、キジ類とカモ類は対等の形で並んでいる。しかし、
「片方が基底的な系統であり、片方が側系統である」
と見なせばいいからだ。
つまり、
○
● <
○
と見なさずに、
┏━ ○
┃
● ━┻━ ○
と見なせばいいからだ。(下が基底的な系統で、上が側系統。)
こうして、分子系統樹の問題は解決がつく。
──
(2) 化石
化石では、カモ類の方が早い。しかしこれは、次の点から、説明がつく。
第1に、キジ類は地上性であり、捕食されやすいので、絶対数が少ない。一方、カモ類は水鳥であり、捕食されにくいので、数が非常に増えた。そのことは、以後の適応放散の過程を見ればわかる。(cf. フラミンゴやツルの仲間。) というわけで、圧倒的に数の多いカモ類の方が化石が残りやすくて、当然だ。
第2に、化石というものは、原則として浅瀬で作られる。というのは、地層というのは、水中の沈殿物によってできるからだ。
→ どのようにして地層ができるのかな?(学研)
水辺に暮らすカモ類の方が、地上に暮らすキジ類よりも、化石を残しやすくて当然だ。逆に言えば、たとえキジ類の方が先だとしても、キジ類の化石は残りにくい。
(3) 形態
形態は重要である。特に、祖先種となる大型の種を見ると、そのことが顕著だ。
→ 鳥の祖先種は大型だ
ここで、形態を見ると、水辺の鳥類が似た形をしていることに気づく。具体的には、次の三つだ。
・ ツル
・ フラミンゴ
・ ハクチョウ
いずれも、首が長くて、曲がっている。しかも、水辺で暮らすという食性まで似ている。とすれば、これらには強い関連があると見なしていい。
ここで、次のことに気づく。
・ カモ類のハクチョウは、ツルやフラミンゴに似ている。
・ キジ類の七面鳥は、ツルやフラミンゴに似ていない。
ここから、次のように結論できる。
「ツルやフラミンゴは、ハクチョウから分岐したと考えられるが、七面鳥から分岐したとは考えられない」
換言すれば、こうだ。
キジ類 → カモ類 → フラミンゴ類 → ツル類
という順はあり得るが、
カモ類 → キジ類 → フラミンゴ類 → ツル類
という順はありえない。
( cf. 鳥類の系統樹 )
形態面でいえば、他の形態も同様の結論をもたらす。
・ キジ類の翼は未発達だが、カモ類の翼は発達している。
・ キジ類はトサカがあったり(ニワトリ)、頭がハゲていたり(七面鳥)、
原始的だが、カモ類はそうではない。
・ キジ類は走鳥類のように足が発達しているが、カモ類はそうではない。
・ キジ類は走鳥類のように地上性だが、カモ類はそうではない。
・ キジ類のカンムリシャコ や ホロホロチョウ は、風切り羽が未発達だが、
カモ類は風切り羽が発達している。
《 羽毛の発達史 》( Wikipedia から。)
cf. 鳥の翼と羽毛
以上の諸点のように、あらゆる点から見て、キジ類の方がカモ類よりも原始的である。しかも、これらの点は、不可逆的だ。(たとえば、ハトが地上性のドードーに進化しても、羽毛は退化しない。ハト同様の発達した風切り羽を残す。)
──
以上のほかに、もう一つ、決定的な点がある。
キジ類やカモ類の祖先は、未発達な翼をもっていたはずだ。未発達な翼が有利であるのは、ニワトリのように、「地上にいて(捕食者が来たら)樹上に逃げる」という場合だ。( → 樹上性/地上性 )
一方、カモ類ならば、もともと水上では、危険な捕食者はいない。また、未発達な翼は有利ではない。なぜなら、陸上から水上に移動するには、一挙に数十メートルを飛ぶ必要があるからだ。(数メートルの飛翔力のまま、岸辺でモタモタしていては、かえって危険だからだ。)
未発達な翼をもつ(そのことが有利である)という点で、祖先種とキジ類とは、共通する。この点からも、キジ類の方が祖先種に近い、と見なせる。
こう考えた場合、それを裏付ける強力な事実が見つかる。
鳥類の系統樹 によると、カモ類のうちで最も原始的なものは、サケビドリだ。そしてサケビドリは、キジ類に似た形態を取っている。特に、翼や頭部がそうだ。
→ サケビドリの画像
この画像を見ただけでは、カモ類というよりはキジ類に属すると見えるだろう。特に、キジ類のなかでも原始的と目される七面鳥にはよく似ている。
→ 七面鳥(野生種・メス)の画像
要するに、カモ類の全般はキジ類には似ていないのだが、カモ類のなかでも原始的なものはキジ類に似ている。このことは、キジ類の方がカモ類よりも原始的である(古い種である)ことを意味する。
──
以上の点から、次のように結論できる。
「キジ類の方が、カモ類よりも、古い」
これが結論だ。
──
ただし、この結論から踏み込んで、さらに多くのことを言えそうだ。
「キジ・カモ類の祖先種は、キジ類にきわめて近い」
これはかなり大胆な仮説だ。しかし、この仮説は、かなり正しい、と思える。
キジ・カモ類の祖先種というのは、ダチョウに似た走鳥類で、未発達な翼をもつものだ。しかもそれは大型の鳥類である。(体長1メートルを越えるぐらい。重量は 30キログラムを越えるぐらい。)翼は、未発達な風切り羽をもつ。頭はたぶん禿げている。全体的には、大型の七面鳥をもっと原始的にした感じ。
これは、大型であり、翼も未発達で、飛翔力が乏しい。それゆえに、早期に滅びてしまった。化石を残すこともなしに。
広い意味では、これをキジ類に入れてもいい、と思う。そして、これが、先に述べた「未知鳥類」の正体だ、と思える。
→ 走鳥類の位置づけ[再修正]
上記項目では、その未知鳥類を「ダチョウの兄弟(未発達な翼をもつもの)」というふうに表現した。それはそれでいいのだが、本項のように、「七面鳥の祖先種」というふうに表現すると、別の面から性質を規定できる。
・ ダチョウの兄弟 (未発達な翼をもつもの)
・ 七面鳥の祖先種 (原始的な七面鳥)
この二つの性質で規定することにより、ダチョウ類以外の現生鳥類の共通祖先を表現できることになる。
次の二つの画像を見て、その中間にいそうな未知鳥類を想像してみてほしい。
ダチョウの画像 七面鳥の画像
──
この二つの画像を比べると、ダチョウの首が長く、ハクチョウやフラミンゴやツルの首も長い。一方、キジの首は短い。
このことから、「キジ類の祖先種は、首がハクチョウのように長かった」と推定できる。それが、次の二系統に分岐したことになる。
・ 地上性 …… キジ類(首を短くして、飛翔力を少し高めた。)
・ 水辺性 …… カモ類(首は長いまま、羽毛と翼を発達させた。)
キジ類の祖先種は、広い意味では、キジ類に含まれただろう。それは首の長い大型の七面鳥というふうだった。しかしその直系の子孫は絶滅した。祖先種の直系の子孫は、体が大型だったせいで、飛翔力が十分でなく、捕食されて、絶滅した。
かわりに、あとで生じた側系統のキジ類のみが存続した。生き残ったキジ類は、体が大型ではなかったせいで、飛翔力が高く、捕食されることなく、うまく生き残ったのである。こうして今日では、祖先種の仲間の小柄のものが、キジ類として残ったことになる。
以上のように考えると、すべてが矛盾なく説明できる。
──
系統図を示せば、こうだ。
┏━━━ ツル
┃
┏━┻━━━ フラミンゴ
┃
┃ ┏━━ 小型のカモ類
┃ ┃
┃ ┏┻━━ 大型のカモ類
┃ ┃
┏┻━┻━━━ カモ類直系 (大型・絶滅)
┃
┃ ┏━━━ キジ類(小型・現生)
┃ ┃
┏━ キジ類の祖先種 ━┻━━┻━━━ 祖先種直系 (大型・絶滅)
┃
┫
┃
┗━ ダチョウ類
* 灰色の文字は絶滅種
この図を、現生鳥類だけに絞って書き直せば、次のように簡略化される。
┏━━━ ツル
┃
┏━┻━━━ フラミンゴ
┃
┃ ┏━━ 小型のカモ類
┃ ┃
┃┏━┻━━ 大型のカモ類
┏━━━━━━━━━━━━┻┫
┃ ┗━━━━ キジ類(小型・現生)
┫
┃
┗━ ダチョウ類
この図は、先に示した分子的な系統樹(鳥類の系統樹)と同等である。
[ 付記 ]
現生のカモ類は、いずれも十分な飛翔能力をもつ。しかし、カモの祖先種は、十分な飛翔能力をもたなかったはずだ。そのことは、ツルの仲間でも最古の部類になる ツメバケイ を見るとわかる。
※ 以下は読まなくてもよい。
ツメバケイは、十分な飛翔能力をもたず、竜骨突起が未発達である。
→ Wikipedia
Wikipedia の記述では、「竜骨突起が変形・退化している」というふうに表現しているが、「最も祖先的である種が、最も進化している」というのでは、矛盾だ。ここでは、逆に、「最も祖先的である種が、最も進化していない」と考えるべきだ。
つまり、キジも、カモも、フラミンゴも、ツルも、それらの祖先種はいずれも十分な飛翔能力をもたなかった。竜骨突起も不完全だった。その後、それぞれの種ごとに、翼を発達させ、竜骨突起を発達させていった。……そう考えると、わかりやすい。
ただし、それぞれにおける発達段階は、異なった。後のものほど、祖先種の翼も発達の程度が高かった。そのせいで、カモ類以後の種は子孫が十分な飛翔能力を持てるようになったのに、キジ類ではいまだには子孫が十分な飛翔能力を持てずにいる。
[ 余談 ]
余談だが、七面鳥の頭がハゲていて、ダチョウの頭部もハゲに近い感じだ。これらのことから、恐鳥類・巨鳥類についても、「頭部はハゲていた」と推定できる。
現今の復元図(想像図)では、恐鳥類や巨鳥類を「巨大な獰猛なカラス」みたいに描いているが、それらは妥当ではない。第1に、頭部はハゲているはずだ。第2に、風切り羽をもつはずがない。
さらに言えば、オビラプトルだって、あの巨大な体で飛ぶことができたはずがないのだから、風切り羽をもつはずがないのだ。現在のたいていの復元図は、全然間違っていると思う。「風切り羽はなく、頭部はハゲ」という形で、描写し直すべきだ。(トサカがあれば、頭部はハゲていなくてもいいが。)
なお、ヴェロキラプトルは風切り羽をもっていたらしいが、それはヴェロキラプトルが小型であったからだ。オビラプトルや恐鳥類・巨鳥類(ディアトリマ・エピオルニスなど)には当てはまらない。
[ 参考 ]
カモ類の最古の化石は、南極で見つかっている。6800万年前〜6600万年前と推定されている。ベガビス・イアアイという種。その想像画として、下記のような画像が描かれる。
→ ベガビス・イアアイ
これはちょっと首が太く描かれすぎているようだ。もうちょっと首を細くした方が良さそうだ。そうすれば、Swan Goose そっくりになる。
→ Swan Goose の写真
Swan Goose は、ハクチョウ に似たカモだ。ベガビス・イアアイは、それに似ている。私の想像では、ベガビス・イアアイの前に、もっと大型の祖先種がいたはずで、それがハクチョウに似ていたはずだ。(つまり、ベガビス・イアアイはいきなり出現したのではない、ということ。むしろ、ベガビス・イアアイの段階で数が増えたので、化石が残るようになった、と考えるといい。)
ついでだが、ハクチョウの首がなぜ長いのかも、系統を考えるとわかる。ハクチョウは、首が長い必要はない。ツルやフラミンゴみたいに( or キリンや馬みたいに)、「足が長くて、地上の餌を食べる」という動物ではないからだ。実際、ハクチョウ以外のカモは、首が長くない。首が長いという形質は、明らかに余計だ。その余計な形質を備えているのは、先祖種では首が長かったからだ。
その先祖種とは? ダチョウ に似た鳥類だ。
こうして、ハクチョウの首が長い(カモ類として無駄な形質を備えている)ということから、ハクチョウがカモ類のなかの祖先種であることが推定される。
と同時に、キジ類の祖先種もまた、首が長かったであろうと、強く推定される。
【 後日記 】
「ハクチョウがカモ類のなかの祖先種であることが推定される」
と述べたが、これはかなり不正確である。
なるほど、体のサイズの点では、「大型のカモ類」という点で、祖先種に近いと言える。
しかしながら形態的には、サケビドリの方が祖先種に近いと言える。
・ 羽毛が原始的。
・ 飛べるが、地上性。
・ 顔や足や頭部などがキジ類に似ている。
また、分子系統樹を見ても、カモ類のなかで最も祖先種に当たるのはサケビドリである。
ただし、体のサイズは、大型ではないので、その点では祖先種の形態を残しているとは言えない。
以上をまとめると、カモ類の祖先種は、
・ 形態はサケビドリに似ている。
・ 体のサイズは大きくて、首は長い。(ハクチョウに似ている。)
という形質を備えたものであったのだろう。そう推定できる。
ついでだが、体のサイズが大きくて、形態が原始的なものとしては、カササギガン がある。大型のカモ類の代表としては、ハクチョウよりは、カササギガンを取る方がよさそうだ。ただし形態的および分子系統的には、サケビドリの方が古い。
( ※ なお、体のサイズが大きいことと、首が長いこととは、同時に備わる性質だ。体のサイズが大きければ、足は長くなり、そのせいで、首も長くなる。この件については、「キリンの首はなぜ長い?」で述べた。)
( ※ 体のサイズが大きいことは、あとから備わった形質ではなく、その前の走鳥類の段階で備わった形質だ。たとえば、ダチョウやエピオルニスは首が長い。)

