先に 鳥類の系統樹 を示した。それを見ると、いろいろとわかることがある。────────────
その件を、上記項目に記したのだが、記述内容が多くなりすぎたので、独立する形で、本項に移した。同時に、全面的に記述し直した。
先の 鳥類の系統樹 で示したように、大きな分岐群は、食性によって区別することができる。たとえば、次のような分類だ。
・ 地表付近の虫を食べる鳥類
・ 水辺の食物を食べる鳥類
・ 魚を食べる鳥類
・ 小型動物などの肉を食べる鳥類
・ 木の実を食べる鳥類
これらの系統はだいたいグループが区別されている。
( ※ ただし、他に「雑食性の鳥類」もあり、これはどの系統でも進化につれて生じることがある。)
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さて。それぞれのグループ間の区別は、食性で説明されるが、それぞれのグループ内での区別は、食性では説明されないこともある。
たとえば、ハトだ。ハトとフラミンゴは、だいたい同じグループになるが、形態差や食性差が大きすぎる。ハトは雑食であるから、食性については上記で説明されるとしても、同じグループのフラミンゴとは形態差があまりにも大きい。これをどう説明するか?
私としては「収斂進化」の発想を取りたい。
鳥類の分岐では、どの分岐の系統でも、最も新しい系統では、いずれも似た形態になっている。つまり、鳥らしい形態だ。鳥類は、進化の過程で、どの系統でも、小型で雑食性の新しいグループが生じて、次々と繁栄していったのだろう。その結果、収斂進化の形で、いずれの形態も似てきたのだろう。
こう考えて、系統樹をよく見ると、上の説明でうまく説明されることがわかる。
・ フラミンゴは、その系統群の一番古い位置にいる。(古い形質を残す。)
・ フラミンゴの次がカイツブリで、カイツブリ以降どんどん分岐していく。
・ ハトはその分岐の一番先にいる。
・ フラミンゴの祖先は、ツルとの共通祖先だから、フラミンゴはツルに似ている。
つまり、フラミンゴとツルは共通祖先から分岐したので、かなり似ている。その後、フラミンゴの系統では、どんどん鳥らしい形になっていく分岐が生じた。これが収斂進化だ。
一方、収斂進化をしていないフラミンゴとツルは、祖先種の形態をそのまま残している。……このように説明される。
他方、ツルの分岐群では、祖先種はツルで、最も分岐した先には、アマツバメがいる。これもまた鳥らしい鳥であり、収斂進化の一例であろう。
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さて。上のことを逆に見ることもできる。
「分岐した先の種ほど収斂進化している」
ということは、
「分岐をしていない祖先種ほど、収斂進化をしていない」
ということだ。つまり、各グループにおいて、祖先種に当たるものは、進化における古い形質を残していることになる。
たとえば、フラミンゴとツルは、それぞれの分岐群では祖先種である。これらは、あまり鳥らしい姿をしておらず、かつ、大型である。
このことは、他の分岐群にも当てはまるはずだ。
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そう思って、調べると、次のように、あらゆるグループでそのことが当てはまる。
(1) スズメは小さく、ハヤブサは大きい。ノガンモドキはとても大きくて、飛翔能力が乏しい。
(2) カワセミは小さく、ワシは大きく、コンドルはとても大きい。
(3) 鵜は小さく、トキや コウノトリや アホウドリや ペリカンや ツルは大きい。
(4) アマツバメや ハトは小さく、フラミンゴは大きい。
(5) ウズラは小さく、キジ類の七面鳥は大きい。
(6) マガモは小さく、カモ類のハクチョウは大きい。
(7) キウイは小さく、レアや ダチョウは大きい。
いずれのグループでも、祖先種は大型で、原始的な形態をもつ。分岐した種は、どれもこれも、小形化して、飛ぶのに適した形態をもつ。(つまり鳥らしい形態。収斂進化。)
( ※ なお、七面鳥とハクチョウは、系統樹には記述されていない。ただし、上記の理論からすれば、七面鳥とハクチョウは、そのグループの祖先種であると強く推定される。)
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とにかく、進化の過程を調べるなら、なるべく祖先種の形態をもっている種を探るといい。特に、鳥類全体で言えば、ダチョウこそが、最も鳥類の古い形態を残している祖先種であることに注意。
《 注記 》
ただし、この発想は、標準的な進化論には、合致しない。標準的な進化論では、次のように考える。
「あらゆる種は、どれも同じように進化している。ウイルスも人間も、進化の程度は同じである。単に環境が違うので、形質が違うだけだ」
一方、私は、それとはまったく違う発想を取る。次のように。
「進化は『種の追加』という形で、新種が分岐するだけだ。旧種はそのまま(進化しないで)残る。そのせいで、あまり分岐しないまま、古い種の形質を比較的多く残している種もある」
このように考えると、ダチョウやフラミンゴやノガンモドキのような種は、あまり分岐せず、あまり進化せず、古い種の形質を多めに残していることになる。(そういうことの典型が、シーラカンスだ。生きた化石。)
シーラカンスにならえば、ダチョウは「生きた化石」と言ってもいいかもしれない。
[ 付記1 ]
フラミンゴとツルは、ハクチョウに似ている。これらはいずれもグループの祖先種であるが、グループを越えた分岐関係にもある。
このことから、次のように推定できる。
「(カモ類の)ハクチョウから分岐して、ツルとフラミンゴが生じた」
大型であるハクチョウから分岐して、大型であるツルとフラミンゴが生じた。この時点では、いずれも大型であった。その後、各グループで、小形化する収斂進化が起こった。
[ 付記2 ]
カモ類とキジ類は、どちらが祖先種だろうか?
系統樹では、カモ類とキジ類は対等の位置にあるので、どちらが祖先種だとも言えない。つまり、今回の系統樹(つまり分子解析)だけでは、どちらとも言えない。
[ 付記3 ]
キジ類とカモ類の順序について述べよう。
「キジ類よりもカモ類の方が早い」という説が、化石などから有力である。しかし、化石は生息数の多さに影響する。だから、生息数の多いカモ類の化石の方が、生息数の少ないキジ類よりも見つかりやすくとも、不思議ではない。また、化石は浅瀬の地層で生じることから、水鳥であるカモ類が、地上性のキジ類よりは、化石を多く残すのは当然だろう。
これらのことから、カモの化石が古くても、カモの方が古いとは断定できない。
[ 付記4 ]
別項の「樹上性/地上性(飛ぶ前)」の 【 追記1 】では、不完全な翼が有利である例として、「ニワトリが樹上に飛んで逃げる」という例を示した。(ここでは、足でジャンプする力も加わるから、飛翔力は中途半端でもいい。)
このことは、森林に暮らすキジ類には成立するが、水辺に暮らすカモ類には成立しない。
カモ類では、水上に浮かんでいること自体が、外敵から逃げる方法となる。飛ぶ能力は特に必要ない。強いて言えば、岸辺を歩いているときが一番危ないから、岸辺を乗り越えて、草むらから水上へ飛翔できればいい。つまり、数十メートルの飛翔力があればいい。とはいえ、これは、かなりの飛翔力だ。中途半端ではない。
以上のことをかんがみて、中途半端な飛翔力でも大丈夫だったのは、キジ類だけだ。ゆえに、翼の未発達なキジ類の方が、より原始的な性質を残している、と考えられる。
ただし、順序関係からすれば、「キジ類 → カモ類」であったかどうかは疑わしい。未知鳥類(絶滅種)という共通祖先がいたはずだ、そこから一挙に双方へ分岐した可能性を否定できない。
キジ類の方がカモ類よりは古い種であることは確かだろうが、キジ類がカモ類の祖先であるかどうかは何とも言えない。分子系統図からは、どちらが基底的な系統で、どちらが側系統であるかは、判然としない。特に、七面鳥が抜けているのが痛い。
ただし、形質から見れば、七面鳥が最も原始的だろう。頭がハゲているのは、ダチョウやコンドルとも共通する。恒温性の能力が惹く異性かもしれない。(トサカがあるニワトリと同様。)
[ 補足1 ]
キジ類について考えよう。
キジ類のなかでは、ホウカンチョウが最も古い系統だと見なされる(上図で)。また、Wikipedia によると、化石はキジ目のなかで最も古い時代から見つかっているようだ。
ただ、上図からは漏れているが、キジ類には七面鳥もいる。七面鳥は、形態が原始的で、体のサイズも最大だ。また、足の長い種もあり、その姿はダチョウにそっくりだ。( → 画像 )……これらのことから、キジ目のなかでは七面鳥が最も祖先種に近いと私は考える。
[ 補足2 ]
七面鳥とシギダチョウは、かなり似た形態をしているので、「シギダチョウ → 七面鳥」という進化の順序も考えられる。しかし、上図(分子系統)によれば、それは成立しないようだ。
ダチョウ目のなかで、収斂進化に近い形で、羽毛と翼を発達させたものがあり、それがシギダチョウだ。
一方、キジ類は、シギダチョウ目から分岐したのではなく、その大元のダチョウ目から分岐している。従って、順序としては、
走鳥類 → キジ類
となる。
[ 補足3 ]
ここで、これまでの順序をまとめると、次のように書ける。
ダチョウ類(ダチョウ) → キジ類(七面鳥)・カモ類(白鳥) → フラミンゴ ,ツル
それぞれの類のなかでは、カッコ内のものが最も古く、そこから、その類のなかで細かく分岐していったと考えられる。(たとえばダチョウ類、ダチョウから分岐して、レアやシギダチョウなどが生じた。)
となる。
