2010年09月25日

◆ クチバシの理由

 前項 では、鳥型生物に2系統があることを示した。
 それぞれの系統において、どちらでも(翼のみならず)クチバシが生じている。それは、なぜか?

( ※ 重要な話題ではないので、読まなくてもよい。ただし最後の [ 補足2 ] だけは重要。)
 ──
 
 前項で示したように、鳥型生物に2系統がある。
   ・ エウマニラプトル類を祖先とするもの
   ・ オビラプトル類を祖先をするもの

 
 それぞれは別系統である。翼が生じたのは、収斂進化にすぎない。
( ※ 羽毛があることは、共通の先祖ゆえに必然だが、いったん羽毛が生じれば、そこから翼が生じることは、特に難しくない。)

 さて。2系統のどちらにもがあることは収斂進化で解決がつくが、2系統のどちらにもクチバシがあることはどう説明されるか?
  
 ──

 オビラプトル類の系統では、「抱卵」が理由となった。
  → 鳥類の祖先:鳥型恐竜
 しかし、エウマニラプトル類の系統では、「抱卵」は理由とならない。すると、次の疑問が生じる。
 「エウマニラプトル類の系統は、初期のころ(始祖鳥のあとのエナンティオルニス類)には、すでにクチバシを備えていた。抱卵をしていなかったはずなのに、どうしてクチバシを備えていたのか?

 オビラプトル類の場合は、「抱卵をしているので、固い卵を割るため」という理屈があった。だから、卵を割りやすいクチバシ(やや下向きで鈍角のクチバシ)があった。
 では、エウマニラプトル類の系統のクチバシ(尖った鋭角のクチバシ)は、何のためにあったのか?
( ※ 抱卵のためではない。抱卵というのは、哺乳類の哺乳や育児を見てもわかるように、かなり脳の発達した生物に特有の行動だ。白亜紀前期の小型恐竜は、脳が発達していたはずがないから、抱卵をしていたはずがない。)
 
 ──

 正解は容易でないが、一応推定すれば、次のようになる。

 エウマニラプトル類の系統のクチバシは、「捕食」のためだろう。このように尖った形が便利なのは、ハサミやピンセットのように、何かをつかむためだ。たとえば、小型鳥類ならば虫を。大型鳥類ならば魚や小動物を。
 このような目的で、始祖鳥では恐竜型の顎が鋭角になった。さらにそれが発達して、孔子鳥のように、クチバシ状の顎となった。さらにそれが発達して、エナンティオルニス類のように、(歯のある)クチバシが生じたのだろう。ここでは、捕食することが目的だから、クチバシには歯があることが必要となった。

 一方、オビラプトル類のクチバシは、別の理由だった。食性は肉食だったから、倒した動物の肉を噛み切る(刃のような)クチバシがあればよく、歯は必要なかった。強い咀嚼力で噛み切ることが大事だから、細長いクチバシはかえって不利だった。(噛み切ったあとは、飲み込んでいたのだろう。)
 逆に言えば、エウマニラプトル類の系統のクチバシは、強く噛むには不便だから、捕食したものは、噛まずに飲み込んでいたのだろう。このことは、現生の水生鳥類でも見られる。鵜(う)であれ、カワセミであれ、とらえた魚を丸飲みする。

 ──

 もう一つ、理由が考えられる。古鳥類の系統は、風切り羽を生やし、翼をもつようになった。翼をもつのにともなって、前肢で捕食物をつかむことができなくなった。このままでは不便だ。何とかして、捕食物を、前肢でつかまずとも食べられるようにする必要があった。
 そこで、顎の「つかむ」機能を発達させるため、「細長い顎」をもつようになった。だが、それでもまだ前肢のかわりとなるには機能が不足する。そこで、「突っつく」という機能をもつクチバシを発達させたのだろう。つまり、ここでは、クチバシの役割は、「顎のかわり」だけでなく、「前肢のかわり」「道具のかわり」でもあったのだ。
( ※ 鳥型恐竜の多くが、小さな前肢をもっていることに注意。たいして役に立ちそうにない前肢だが、捕食したものをつかんで食べるときには、とても役立つ。その前肢がなくなると、翼をもつ生物は困ってしまうのだ。)

 ──

 というわけで、エウマニラプトル類の系統で、早くからクチバシが発達したわけは、「捕食のため」と推定できる。ここでクチバシが生じた理由は、オビラプトル類のクチバシとはまったく異なっていたと推定される。
 
 この意味で、エウマニラプトル類の系統におけるクチバシは、鳥類である証拠というよりは、鳥類との収斂進化であろう。(翼が生じたことは収斂進化であるが、翼が生じたのにともなってクチバシが生じたのも収斂進化だ。)
 つまり、翼が生じたことも、クチバシが生じたことも、収斂進化である。

 [ 付記 ]
 クチバシは収斂進化だということの、傍証はある。それは、クチバシのない種があることだ。
 具体的には、以上に述べたものとはズレた、傍系に当たるものたちだ。
   ・ ミクロラプトル・グイ
   ・ ヴェロキラプトル
   ・ プロターケオプテリクス

 これらは、クチバシをもたなかった。何らかの形の翼はもっていたが、クチバシはもっていなかったのだ。(とがった顎をもつだけだった。)
 いまだ収斂進化が不十分な種では、クチバシを発達させることができなかった、と推定される。(そのまま子孫が次々と生きながらえれば、いつかはクチバシをもつ子孫ができて、収斂進化が起こったかもしれないが、その前に絶滅した。)
 


 [ 補足1 ]
 クチバシが生じる理由は、上記の二通りとは限らない。他にも、クチバシをもつ生物はいろいろとある。カモノハシや、角竜類など。
  → Wikipedia

 本項で述べたことは、一応の目安ぐらいに理解しておいてほしい。「これのみが絶対的に正しい」というような理論ではなくて、「これならば何とか説明がつく」という程度のことだ。「周辺的な話題」程度の、軽い位置づけ。
 トサカというのは、恒温性に関するので、かなり重要な器官だが、クチバシというのは、捕食に関する器官であり、さまざまな生物で、同様の器官が生じやすい。収斂進化するとしても、鳥類の仲間に限ったことではない。哺乳類でも、他の爬虫類でも、クチバシが生じることはある。あまり重要な話題とはならない。
 
 [ 補足2 ]
 クチバシを生じる理由そのものは、あまり大したことではないかもしれない。クチバシは鳥類以外の生物でも、かなり見られるからだ。(上記)
 しかしながら、クチバシがあることは、その生物にとって非常に大きな意味を持つようになったはずだ。特に、小型の生物では。
 というのは、クチバシがあると、虫を捕るのにすごく便利だからだ。たとえば、ニワトリは、自然状態で放置すると、地面をクチバシで突っついて、地面のなかにいる虫を食べる。さらに、空を飛べるようになれば、樹上にいる毛虫などをどんどん食べることができるから、虫を食べるのに非常に有利だろう。
 実は、虫というのは、高タンパク質で、非常に重要な食物なのである。虫は、それ自体が、植物の栄養を濃縮した形で存在しているから、その虫を食べることで、エネルギーを摂取する効率は非常に高くなる。
 サバイバルの本では、人間もいざとなったら虫を食べることを推奨している。(毒虫は駄目だが。) 魚や獣は、そう簡単には見つからないことが多いが、虫ならば、どんな森林や草原にもあふれるほど存在するからだ。
 鳥のような生物にとっても、虫を食べることができるか否かは、死活問題と言えるほど重要だ。その点、クチバシがあるか否かは、虫を採取する道具をもつかもたないか、という意味がある。ヴェロキラプトルのような、歯のある顎は、肉を食べるには便利だが、虫を食べるのには不便だ。……というわけで、鳥型の小型の生物では、クチバシのある生物が圧倒的に有利になる。
 それゆえ、先の 恐竜と鳥の系統図 では、クチバシのあるもの(古鳥類・真鳥類・新鳥類)ばかりが繁栄し、一方、クチバシのないもの(鳥型の恐竜と見なされるもの)は、子孫を分岐させて繁栄させることもなく、絶滅してしまったのだろう。
  


 【 追記1 】
 オビラプトルのクチバシについては、初期は「卵を割って食べていた」という説があった。のちに、「口の中央にある突起で貝殻を割って食べた」という説があるそうだ。つまり、「貝を食べた」という説だ。( → 解説
 一方、「骨髄を食べた」という説もある。(上記ページのコメント欄。)
 私としては、後者を支持したい。
 そういう説があるとは知らないで、私は独自に「骨髄を食べていたのだろう」と推定した。その理由は、以下の通り。
 第1に、卵を食べたということはありえない。そんなにたくさん卵はない。普通の鳥や爬虫類は、ニワトリみたいに毎日卵を生むことはないからだ。探すだけでも大変だ。
 第2に、貝もありえない。貝は小さすぎるからだ。哺乳類みたいに小型で器用ならばともかく、大型の爬虫類には小さすぎて扱えない。
 そこで、私の推定は、「骨」だ。骨というのは、ただのカルシウムではない。骨を割ると、骨髄が出る。これが動物(特に犬)にとっては最大のごちそうだ。犬が骨を大好きなのも、骨をしゃぶって、骨髄を吸い出すからだ。
 恐竜の時代には、肉食恐竜がさんざん食い散らかしたあとがあるはずだ。そのあとには骨が残っている。その骨を割れば、骨髄をいただける。自分は狩りをしなくても、肉食恐竜が狩りをしたあとで、その食べ残しの骨をいただけばいいのだ。これなら、骨はふんだんにあるし、食いっぱぐれる恐れはない。肉食恐竜のあとを追いかけるだけで済む。
 なお、固い突起があるのも、この説を補強する。固い突起によって、骨に穴をあけて、その穴から骨髄を吸い出していたのだろう。そう考えれば、わけがわかる。
 以上が、私の解釈だ。

 【 追記2 】
 オビラプトルのクチバシは、鳥類のクチバシのように角質(皮膚の一種)でできているのではなく、でできているそうだ。つまり、クチバシというよりは、顎というべきであるようだ。( 英語版 Wikipedia による。)
 この点では、真鳥類のイクチオルニスが角質のクチバシをもっていた(出典)のとは異なる。

 とはいえ、角質か骨であるかは、あまりこだわる必要はないとも思える。というのは、いったんクチバシ状の骨ができれば、そのあとでは骨が角質に交替することは可能だからだ。進化のために十分な時間があれば、それは可能だろう。
 オビラプトル類は、クチバシが生じてまだ時間がないので、クチバシは骨から角質に転じなかった。そういう進化が起こるには、恐鳥類への進化を待たねばならなかった。

( ※ なお、真鳥類は、翼を発達させるための時間があったことからもわかるように、かなり前から少しずつ進化していたはずだ。たとえば、始祖鳥からであるなら、始祖鳥のクチバシふうの顎は骨だったが、そのあとで長い時間があったから、骨の顎から角質のクチバシに転じることは可能だった。エナンティオルニス類 Enantiornithes がクチバシをもっていたかどうかは判明していないそうだ。)
posted by 管理人 at 18:48| Comment(1) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に [ 補足2 ] を加筆しました。
 これだけはかなり重要な話。

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Posted by 管理人 at 2010年09月26日 15:25
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