※ 本項は、前項(真鳥類と新鳥類)の補足です。
※ 次項の 恐竜と鳥の系統図 を見ながら読むといいでしょう。 ──
(1) イクチオルニス
イクチオルニスは、強靱な翼と発達した竜骨突起をもつので、十分な飛翔能力をもっていたと推定される。飛ぶことに関する限り、現生の鳥類と比べても遜色なかっただろう。(2) ヘスペロルニス
ヘスペロルニス は、イクチオルニスと同時期の真鳥類だが、水中で魚を取っていたらしい。その点でペンギンに似ているが、ヒレをもたず、翼ももたない。上肢が欠落している。(痕跡化している。)この意味で、「ヘスペロルニスの翼は退化した」と表現される。「翼は退化した( degenerated, vestigial )」と記述してある。たとえば、次のページがそうだ。
→ Wikipedia (化石の図あり)
→ Wikipedia 英語版 (想像図あり)
この「退化した」という記述は、妥当であると思う。私は新鳥類については、「走鳥類は、翼が退化したのではなく、翼がまだ生じていないのだ」と述べた。しかしながら、真鳥類については、「ヘスペロルニスの翼は退化した」と解釈したい。その理由は、三つある。
・ 翼の骨は、痕跡化したと見なされる。
・ 先祖はすでに翼をもっていたと推定される。
・ 時期的に、ヘスペロルニスはイクチオルニスなどよりも古くない。
なお、次に参考画像がある。
→ Ornithothoraces
→ Hesperornithiformes の画像一覧
(3) ホランダ・ルセリア( Hollanda luceria )
ホランダ・ルセリアは、ヘスペロルニスと同類のもの(オルニチュウロモルファ類)だが、水中ではなく、地上を駆け回っていたらしい。地上性という点では、走鳥類に似ているが、ノガンモドキにも似ている。また、小さな翼をもっていた可能性もある。これについては、日本語の情報がある。日本初の情報だからだ。まずは、これ。
→ 恐竜時代のモンゴルの陸上を走り回っていた鳥 (林原研究所)
一部抜粋すると、次の通り。ホランダ・ルセリア( Hollanda luceria )という鳥の化石。
1997年にゴビ砂漠で採集した鳥類の部分骨格の化石(白亜紀後期)を、アメリカとモンゴルの研究者とともに研究してきました。この度それが現生の鳥類の祖先グループであるオルニチュウロモルファ類の中の新属新種であることがわかり、国際学術雑誌(Cretaceous Research)誌に論文掲載されました。 この鳥は飛ぶことはできるものの、地上を走ることを得意とし、もっぱら地上で餌をとり、地面に巣を作ったと考えられます。なお、説明では、「この鳥は飛ぶことはできるものの、地上を走ることを得意とし」と記述してあり、想像図では翼のある絵が示されている。
現生鳥類につながるグループの鳥化石(オルニチュウロモルファ類)は、海や水辺の鳥は約20種類記録されている。
今回モンゴルのゴビ砂漠の後期白亜紀層から発見された本標本は、陸上で生活していた6番目のオルニチュウロモルファ類で、中生代の鳥類が、現生鳥類へと進化するにあたって、水辺の鳥のみではなく、内陸性の鳥からも進化した可能性を示唆する。
しかし、翼があったという証拠はない。(見つかった化石には翼の化石はない。「標本: 後ろ足の膝から足先にかけての骨格」と示してあるように、見つかったのは足の化石だけである。)
つまり、この化石からわかるのは、「翼をもっていること」ではなくて、「足をもって走ること」だけである。翼をもっていたかどうかは、はっきりしないと考えていいだろう。
(4) オルニチュウロモルファ類 ( Ornithuromorpha 類,Ornithurae )
ホランダ・ルセリアを含むオルニチュウロモルファ類とは、どのようなものか? 上記の記述では、「海や水辺の鳥は約20種類記録されている」と表現されているが、それはどのようなものか?簡単に言えば、それは、上記の (2)(3) のことであるようだ。ただし、次の (5) を含む。
(5) ガンスス・ユメネンシス ( Gansus yumenensis )
ガンスス・ユメネンシス は、最古の真鳥類と見なされる。水鳥であったらしい。(6) の異鳥類から進化したのかもしれないが、異鳥類とは別に、独立的に生じたのかもしれない。少なくとも古鳥類とはまったく別系統であったらしい。次の見解があるからだ。
獣脚類と古鳥類(Sauriurae) には多くの共有派生形質があるが、真鳥類とはそれは認められない。しかし、真鳥類が単系統であることは示唆されている。古鳥類と真鳥類が独立した起源をもつという仮説は立証されている。前者はジュラ紀の獣脚類に起源をもつが、後者は三畳紀後期の基盤的主竜形類群から進化した。鳥類が中生代前期から存在したことは、世界各地に残る上部三畳系及び下部ジュラ系の足跡の発見により支持されている。( → 出典 )ただ、古鳥類と真鳥類との間は切れているのだが、「古鳥類 ─ 異鳥類」のところで切れているのか、「異鳥類 ─ 真鳥類」のところで切れているのかは、はっきりしない。ともあれ、真鳥類の先祖は、異鳥類か否かは、はっきりとしていないようだ。
なお、エウマニラプトル類の上のマニラプトル類(オビラプトル類を含む)があるが、そこには真鳥類が含まれるはずだ。そうでないとしたら、羽毛は恐竜の歴史で二度生じたことになるが、それはありえそうにない。(上記見解には反するが。)
結局、真鳥類の祖先は、異鳥類か否かも、エウマニラプトル類か否かも、よくわかっていないが、マニラプトル類の一部であるとは言えそうだ。(羽毛恐竜の一群。)
※ 以上の (1) 〜 (5) までが真鳥類だ。以下は異なる。
(6) トロオドン類 ( Troodontidae )
参考で記すと、トロオドン類という羽毛恐竜のグループもいた。ここから、アンキオルニス や ジンフェンゴプテリクス や メイ・ロン などの、鳥そっくりの形態をもつ恐竜が生じた。ただし、いずれも絶滅した。そのかわり、トロオドン類では、大型のトロオドンのようなものが生き延びた。
なお、トロオドン類が、古鳥類や異鳥類や新鳥類と関係があるかというと、関係はかなり遠いらしい。つまり、形態では鳥類に似ているとしても、化石からわかる構造は、古鳥類や異鳥類や新鳥類からは遠く隔たっているようだ。( → 参考文献(英文) )
(7) 始祖鳥 ( Archaeopteryx )
参考で記すと、真鳥類でない古鳥類の始祖鳥もいる。これは1億5000万年前(ジュラ紀後期)に生息した。始祖鳥の先祖は、ペドペンナという羽毛恐竜が推定されている。ただしこれが恐竜で、始祖鳥が古鳥類だとしても、ペドペンナと始祖鳥との違いは、あまり大きくないようだ。
始祖鳥に類するものに、孔子鳥もある。英語版 Wikipedia によれば、歯のないクチバシをもつ。日本語版 Wikipediaによれば、クチバシというより顎であるらしい。(顎は骨で、クチバシは角質だが、区別しにくいようだ。)
始祖鳥が新鳥類の祖先でないことははっきりしている。では始祖鳥が真鳥類の祖先である可能性はあるか? たぶんない、と私は思う。1億1000万年前に出現した真鳥類の祖先となれる種は、たぶん、次の (8) だろう。
以上の (6) (7) は、いずれも鳥というよりは恐竜と見なしていい。というのは、はっきりとしたクチバシをもたないからだ。はっきりとしたクチバシをもつのは、次の (8) だ。
(8) エナンティオルニス類 ( Enantiornithes )
参考で記すと、エナンティオルニス類もある。これは、真鳥類ではなく、「異鳥類」と呼ばれる。エナンティオルニス類は白亜紀に非常に繁栄した。ほとんど主役の扱いである。エナンティオルニス類は、古鳥類や真鳥類と、どういう関係にあるだろうか?
古鳥類とはどういう関係にあるか? 古鳥類からエナンティオルニス類に進化したという可能性はあるか? 一応、ある。というのは、始祖鳥・エナンティオルニス類・真鳥類は、いずれも翼に指(爪)があるからだ。これで一つの系統をなしていると考えることもできる。
ただし、エナンティオルニス類・真鳥類は、歯のあるクチバシがあるのに対し、始祖鳥ではクチバシがなく、孔子鳥では歯のないクチバシ( or 顎)がある。そのせいで、始祖鳥と、エナンティオルニス類との関係は、はっきりしない。エナンティオルニス類の先祖が何であるかについては、不明ということにしておきたい。(系統図では ? という記号を付けておいた。)
( ※ なお、孔子鳥は時期的に遅くて、始祖鳥よりもあとであり、エナンティオルニス類と同時期だ。ゆえに、「孔子鳥 → エナンティオルニス類」という順の進化はなかったはずだ。つまり、エナンティオルニス類の祖先は、始祖鳥の仲間ではありえても、孔子鳥の仲間ではありえない。)
一方、真鳥類とはどういう関係にあるか? エナンティオルニス類が真鳥類の祖先である可能性はあるか? あるとも言えるし、ないとも言える。
(A)肯定
ナンティオルニス類が真鳥類の祖先であることを肯定する理由は、次の共通点だ。
・ 発達した羽毛と翼をもつこと。
・ 指(爪)があること。
・ 歯のあるクチバシをもつこと。
真鳥類のように完成した姿のものがが、いきなり生じるはずはない。とすれば、それに先だって、何かがあったはずだ。その有力候補が、エナンティオルニス類だ。(他に類似のものが見当たらない。トロオドン類は別系統だし。) エナンティオルニス類との共通祖先から真鳥類が生じた、というシナリオが考えられる。
なお、この場合は、エナンティオルニス類は古鳥類から断絶していることになる。エナンティオルニス類と古鳥類との形質差は、あまりにも大きすぎるからだ。
(B)否定
エナンティオルニス類と古鳥類との形質差と、エナンティオルニス類と真鳥類との形質差を比べると、後者の方が大きいように見える。とすると、エナンティオルニス類と真鳥類のところで、断絶があるのかもしれない。この場合、真鳥類は単系統であり、真鳥類はエウマニラプトル類とは別の系統から生じたことになる。(前述の (5) を参照。)
その可能性はかなり高い、と思う。ただ、はっきりしないので、断定は差し控えたい。とはいえ、私としては、この説(否定説)を支持したい。
(9) ミクロラプトル・グイ ( Microraptor gui )
参考で記すと、ミクロラプトル・グイもある。これは鳥類とは全然関係ないだろう。鳥に似ているとはいえ、あくまで恐竜である。(ドロマエオサウルス科の一種。白亜紀前期。)普通の鳥と違って、後肢にも翼があるので、翼が四つある。
ミクロラプトル・グイという恐竜が存在したことは、「翼や羽毛は鳥類の特徴ではない」(恐竜ですら翼と羽毛をもって空を飛べる)ということを意味する。このことからしても、新鳥類が真鳥類とはまるきり別の系統であることは、不自然ではないとわかるだろう。
(10) プロターケオプテリクス ( Protarchaeopteryx )
参考で記すと、プロターケオプテリクスもある。これは古鳥類でも真鳥類でもない。鳥類とは全然関係ないだろう。生息時期は、始祖鳥よりも後だ。時期的に出遅れた感じで、真鳥類の祖先となるには、発達の程度が遅れている。真鳥類の祖先にはなりえない。
骨格は恐竜で、ヴェロキラプトルに似ている。骨格は始祖鳥にも似ているし、羽毛を持つので、原始祖鳥とも呼ばれることもある。( Prot - archaeopteryx というわけ。)
プロターケオプテリクスは、前期オビラプトル類の子孫であるそうだ。とすれば、前期オビラプトル類から、プロターケオプテリクスと新鳥類の双方が分岐した、と考えるとわかりやすい。(ただし新鳥類が分岐したのは、途中に後期オビラプトル類を挟んで、かなり後になってから。)
総論
真鳥類はいずれも、白亜紀の鳥類であり、白亜期末までに絶滅した。真鳥類の子孫は、新鳥類ではない。真鳥類は子孫を残さず、白亜期末までに絶滅したからだ。
真鳥類の先祖は、異鳥類(エナンティオルニス)であるか、別系統であるかは、よくわからない。真鳥類がエウマニラプトル類の系統にあるかどうかもわからない。古鳥類ならば、恐竜との関係はかなりはっきりしているが、異鳥類はかなり怪しい。真鳥類と恐竜との関係は、かなりあやふやである。謎が多い。(先祖はマニラプトル類には含まれそうだが、途中が大幅に抜けて、いきなりガンススが出現している。)
結局、翼をもつ鳥型の生物は、収斂進化の形で、七つの系統で生じたことになる。
・ ドロマエオサウルス類 (ジュラ紀から?)
・ トロオドン類 (ジュラ紀から)
・ 古鳥類 (ジュラ紀)
・ 異鳥類 (白亜紀前期から)
・ 真鳥類 (白亜紀前期から)
・ プロターケオプテリクス (白亜紀前期のみ)
・ 新鳥類[恐鳥類を含む] (白亜紀晩期から)
それぞれがどういう系統にあるかは、下記の系統図を参照。
→ 恐竜と鳥の系統図
( ※ 「七つもの系統で収斂進化が起こるのはおかしい」と思うかもしれない。しかし、すべては羽毛をもつのだ。いったん羽毛をもてば、羽毛が風切り羽になるだけで、あとは自動的に翼が生じる。翼の有無とは、羽毛が風切り羽になるか否かの違いでしかない。その意味で、翼への収斂進化は、羽毛をもつ系統では容易に起こるのだ。 → 鳥の翼と羽毛 )
【 注記 】
系統を調べるとき、鳥としての翼の完成度を調べるのが、従来の発想だ。
しかし私としては、「クチバシとトサカ」が決定的に重要だ、と考える。特に、トサカとクチバシの有無によって新鳥類の系統が判明する。
クチバシもトサカももたない系統は、あくまで恐竜であって、「翼をもつ恐竜」という扱いにした方がいいと思う。
クチバシのある系統でも、異鳥類や真鳥類は、本質的には恐竜というふうに見なすべきだが、「姿で見る限りは鳥類と同様」という扱いにするといいだろう。

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