プロトアビス protoavis は、始祖鳥に似ており、最古の鳥とも言われる。始祖鳥よりもずっと前に出現した。 ──
プロトアビスは、始祖鳥に似ており、最古の鳥とも言われる。
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ただし、始祖鳥よりも、ずっと古い。始祖鳥の 7500万年の、2.25億年前の生物だ。
プロトアビスは、ある意味では、始祖鳥よりもずっと鳥類らしい。
・ 中空の骨 (気嚢をもつことの特徴 → 参考 )
・ 骨格の特徴
・ 竜骨突起がある
などの点だ。( → 出典 )
このことから、「恐竜から鳥が進化したのではなく、鳥類から恐竜が進化したのだ」というという珍説まで生じた。( → BCF理論 )
しかし、そんなことはありえない。
では、正しくは?
( ※ プロトアビスが実在したかどうかについては議論の余地があるが、とりあえず、実在したと仮定して、話を進める。))
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この疑問には、簡単に答えることができる。こうだ。
「プロトアビスも始祖鳥も、現在の新鳥類とは関係がない。いずれも、恐竜または爬虫類の一種として、羽毛と翼を備えただけだ」
実は、羽毛というものは、マニュラプトル形類の全体に備わっていた形質だとされる。それに含まれるものには、オビラプトル類、トロオドン類、ドロマエオサウルス類、始祖鳥、孔子鳥などがすべて含まれる。この全体は、ジュラ紀中期に分岐したらしい。(プロトアビスもここに含まれる。)
→ 羽毛恐竜
羽毛というものがもともと備わっていたのであれば、あとは羽毛から翼ができればいいだけだ。
そして、羽毛から翼ができるということは、羽毛が風切り羽になるというだけのことだから、たいして難しい突然変異ではない。容易に起こる突然変異だと言えよう。
→ 羽毛の進化史 (図あり)
このことは、始祖鳥、アンキオルニス、ヴェロキラプトルに当てはまる。
( ※ なお、始祖鳥、アンキオルニス、ヴェロキラプトルは、いずれも風切り羽をもっていたが、飛翔能力は不十分で、自力で飛ぶことはできなかった。始祖鳥は、滑空する能力はあったが、羽ばたいて飛翔する能力はなかった。プロトアビスも同様だろう。ヴェロキラプトルは滑空さえもできなかった。……本項末を参照。)
( ※ アンキオルニスという種は、ジュラ紀後期(1億6100万年〜1億5100万年前)だということだから、始祖鳥(1億5000万年前)よりも少し古い。 → 該当項目 )
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では、プロトアビスは?
プロトアビスもまた、始祖鳥、アンキオルニス、ヴェロキラプトルなどの古鳥類に含まれるのだろうか?
それは疑問だ。というのは、プロトアビスは、2.25億年前だから、古鳥類よりもはるかに古いからだ。最初の恐竜と同時期だ。羽毛恐竜(マニュラプトル形類)よりも、はるかに古い。起源は同じではない。
これを理解するには、次のように考えるといい。
いったん羽毛が生じれば、綿毛状の羽毛が風切り羽になるのは、容易に出現する突然変異である。(前出)
それだけでなく、羽毛が生じるという突然変異自体、必ずしも特別なことではない。それは、恐竜( or 爬虫類)の歴史のなかで、二度起こった。
・ プロトアビス
・ 羽毛恐竜(マニュラプトル形類)
この2回で起こった。
こう考えれば、特に矛盾はない。(プロトアビスが存在したという前提のもとで。)
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結局、プロトアビスが存在したとすれば、そのことは、次の説を実証する証拠となる。
「羽毛が生じるという突然変異は、爬虫類の歴史で二度起こった」
翼の発達の順序で言えば、こうだ。(左ほど翼が簡単だ。)
ヴェロキラプトル < 始祖鳥 < プロトアビス < 新鳥類
である。
一方、進化の順序は、こうだ。(左ほど古い。)
プロトアビス < 始祖鳥 < ヴェロキラプトル < 新鳥類
この両者は、順序が異なる。それを「矛盾」と感じるかもしれない。しかし、矛盾ではない。なぜなら、翼と羽毛の発達の順序は、鳥類の進化の順序ではないからだ。
羽毛の発達は、羽毛という形質さえもともと備わっていれば、あとはいつでも容易に生じる。また、羽毛が生じるという突然変異自体、歴史上で二度あった。
結局、翼の有無であれ、羽毛の有無であれ、鳥類の形質とはほとんど関係がない。
プロトアビス、始祖鳥、ヴェロキラプトルは、いずれも翼や風切り羽をもっていたが、それは新鳥類の形質ではなく、爬虫類の一部(プロトアビスと羽毛恐竜)の形質であった。それは一種の収斂進化である。
「翼をもって鳥類と規定する」という誤った判断基準をもつのでなければ、プロトアビスが始祖鳥やヴェロキラプトルよりも発達した翼をもつことは、何ら不思議はない。
また、羽毛恐竜よりも新しい恐鳥類や走鳥類が、翼(風切り羽)をもたなかったことも、何ら不思議ではない。
羽毛が風切り羽であるか否かは、生物の進化においてたいして重要な形質ではないのだ。たとえそれが「空への進出」という大きな効果をもつとしても。
(生物的な意味は大きいが、進化的な意味は小さい。羽毛の発達のための遺伝子は、あまり大きな変異を必要としないからだ。)
【 追記 】
以上のすべては、プロトアビスという種が存在した、ということを前提にしている。
ただし、このことはかなり疑わしいらしい。プロトアビスの化石には、かなり多くの他の化石が混在しているからだ。
プロトアビスという種は本当は存在しないで、実は他の多くの化石が洪水などによって掻き交ぜられただけだ、という解釈もある。( → 英語版 Wikipedia )
これはこれで、かなり妥当だ。その可能性は、かなりある。
もしそうだとすれば、羽毛の発生は、爬虫類の系列でただ一回だけあったことになる。(羽毛恐竜。マニュラプトル形類)
それはそれで、特に問題ない。プロトアビスは、実在したとしても、実在しなかったとしても、特に大騒ぎするようなことではないだろう。(別にそこから鳥類の系統が出現したわけではないからだ。あったとしても単発的事件。なかったとすれば無視していい。どっちみち、気にかける必要はない。)
【 関連項目 】
→ ヴェロキラプトルと鳥類
→ 鳥の翼と羽毛(コメント欄)
「始祖鳥は、羽ばたいて飛べなかった」という記事の紹介。
2010年09月21日
過去ログ

以下、引用。
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プロトアビスの標本には複数の爬虫類の骨格が混在していたり,血道弓 (尻部の骨)を叉骨と誤認していたりするらしいことから,鳥類とは考えられていない.
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http://www.jpgu.org/publication/jgl/JGL-Vol5-1.pdf