通説では、次のような系統図が書かれているようだ。
┗ マニラプトル類 (Maniraptora)
┣┳ テリジノサウルス類 (Therizinosauridae)
┃┃ ┣ テリジノサウルス
┃┃ ┗ セグノサウルス Segnosaurus
┃┗ オヴィラプトル類 (Oviraptoridae)
┃ ┣ オヴィラプトル (オビラプトル)
┃ ┗ プロターケオプテリクス
┗ エウマニラプトル類
┣ デイノニコサウルス類 (Deinonychosauria)
┃ ┣ トロオドン類 (Troodontidae)..
┃ ┃ ┣ トロオドン
┃ ┃ ┗メイ
┃ ┗ ドロマエオサウルス類 (dromaeosauridae)
┃ ┣ デイノニクス
┃ ┣ ヴェロキラプトル
┃ ┗ ミクロラプトル
┗ 鳥類(綱) (Aves)
( ※ 出典は → Wikipedia )
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この系統図に従うのであれば、鳥類はエウマニラプトル類から分岐して進化したことになる。また、ヴェロキラプトルを含むドロマエオサウルス類が最も近縁であることになる。
本当にそうか?
実は、この系統図は、あまり当てにならない。分子生物学で厳密に判定したわけではないからだ。(そもそも現生鳥類でさえ、分子生物学で厳密に判定されたのは、2008年である。前出項目で述べたとおり。)
そこで、通説とは別に、本質的に推理してみよう。
──
通説で重視されているのは、「翼の有無」であるようだ。「翼の有無」で言うと、ヴェロキラプトルあたりは、小さな翼状のものをもっていたと推定される。
→ ヴェロキラプトルの翼
こういうふうに、翼の有無に着目すると、ここから翼を生やした鳥類が出てきそうなので、
・ ヴェロキラプトルを含むドロマエオサウルス類
・ トロオドンを含むデイノニコサウルス
が、鳥類の祖先として、有力になるのだろう。(こうして通説ができるわけだ。)
──
しかしながら、私の考えでは、鳥類ではいったん前肢が消滅したはずだ。とすれば、恐竜段階で「小さな翼」みたいなものがあったとしても、それは何の意味もないことになる。(どうせあとで恐鳥の段階で消失するからだ。)
では翼以外に、何に着目して、鳥類の先祖を決めるべきか?
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ここで、私は先に、鳥類の形質として、次の3点を上げた。( → 鳥類の本質 )
・ 半恒温性または恒温性
・ 羽根をもつこと
・ 前肢がいったんなくなったこと
このうち、「前肢がなくなること」は、恐竜の段階では達成されていない。となると、残る二つは、「半恒温性または恒温性」と「羽根」だ。
この二つは、不完全ながら、恐竜の段階でも達成されていたはずだ。
では、そのような恐竜は、いたか? いた。ただし、前出の
・ ヴェロキラプトルを含むドロマエオサウルス類
・ トロオドンを含むデイノニコサウルス
ではなくて、
・ オビラプトル類(オヴィラプトル類)
である。
その形態は、次の図のように示される。( Wikipedia の図を拝借 )

きれいな図は、他サイトにある。そちらを参照。
→ オビラプトル (オビラプトル類)
→ リンチェニア (オビラプトル類)
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図からわかるように、オビラプトル類の特徴は、次の二点だ。
・ トサカをもつ
・ クチバシをもつ
この二点は、「半恒温性」と密接な関係がある。
(1) トサカ
トサカは、発熱した状態で脳の温度を下げることに役立つ。その意味で、発熱量の大きい半恒温性を示す。
(2) クチバシ
クチバシも、半恒温性と関係がある。
まず、オビラプトルは抱卵をしたらしい。( → 出典 )
抱卵をしたとすれば、親の重みで卵がつぶされないように、卵の殻は十分に固いことが必要だ。卵の自重に耐えるだけでなく、親の体重に耐えねばならない。しかし、卵の殻が固くなり過ぎると、ヒナは誕生時に卵の殻を破ることができない。そこで、鳥類では、ヒナが卵の殻を破れるように、(とがって固い)クチバシが発達した。
( ※ もう少し詳しくは → 参考1 )
なお、鳥の場合には、次の話もある。(下記で「卒」は代用漢字。正式は「くちへんに卒 → コトバンク)
禅の言葉に「卒啄同時」というのがあります、5月は野鳥にとっては子育ての時期です、卵の中のヒナ鳥が殻を破ってまさに生まれ出ようとする時、卵の殻を内側から雛がコツコツとつつくことを「卒」といい、ちょうどその時、親鳥が外から殻をコツコツとつつくのを「啄」といいます。雛鳥が内側からつつく「卒」と親鳥が外側からつつく「啄」とによって殻が破れて中から雛鳥が出てくるのです。
両方が一致して雛が生まれる「機を得て両者相応じる得難い好機」のことを「卒啄同時」というのです。親鳥の啄が一瞬でもあやまると、中のヒナ鳥の命があぶない、早くてもいけない、遅くてもいけない、まことに大事なそれだけに危険な一瞬であり卒啄は同時でなくてはなりません。
( → 出典 )
鶏の場合は、親鳥は外からつつきません。しかし、雀や燕などは幼く生まれてくるので、親鳥が手助けして外からつつきます。
( → 知恵袋 )
これと同じことがオビラプトルにも成立するはずだ。オビラプトルには、(とがって固い)クチバシがある。その理由は、固い殻があるからだ。その理由は、親が抱卵するからだ。その理由は、親が半恒温性をもつからだ。(親が変温動物であれば抱卵しても卵の温度を一定に保てない。)
──
トサカであれ、クチバシであれ、それらの形質は、半恒温性と密接な関係がある。これらの形質をもつ種は、半恒温性を備えていたと推定される。
そして、半恒温性という形質は、脳と内臓の形質であるがゆえに、容易に獲得されるものではない。手足の形状の変化や、羽毛の発生ならば、ごく小さな遺伝子変異によって生じるが、半恒温性をもたらす脳と内臓の形質は、小さな遺伝子変異で生じるものではない。それは恐竜(というか爬虫類)が何億年もかけて、ようやく獲得した形質だ。
とすれば、このような形質は、容易に生じるわけではないのだから、複数の系統で同時に発生するとは思えない。
その形質が、オビラプトル類にあり、エウマニラプトル類にはないのであれば、その形質をもつオビラプトル類から鳥類は進化したはずなのだ。
( ※ オビラプトル類のすべてがトサカとクチバシをもつわけではないが、トサカとクチバシと羽毛をもつ恐竜は、オビラプトル類に限られるはずだ。)
結論。
鳥類の本質は、恒温性にある。その形質をいくらか備えた(半恒温性をもつ)恐竜が、鳥類の祖先だろう。それは、オビラプトル類だ。
オビラプトル類は、トサカとクチバシをもつ。また、体温保持に役立つ羽根(羽毛)を十分に備えていた。これらの点は、半恒温性を備えていたことの有力な根拠となる。
エウマニラプトル類に羽根があったことは、何の意味もない。飛ぶことにも役立たず、保温にも役立たないような羽根は、あってもろくに意味がない。エウマニラプトル類に(翼に似た)羽根があっても、それは鳥類の祖先であることの根拠とはならない。
鳥類の祖先は、オビラプトル類なのだ。
( ※ オビラプトル類が鳥類の直系の祖先であるか、あるいは、共通の祖先がいるのかは、特に区別しないでいい。いずれにせよ、きわめて近縁であることが推定される。ヴェロキラプトルのようなエウマニラプトル類よりも、ずっと近縁であるはずだ。)
( ※ 本項の結論が正しければ、本項の冒頭に掲げた Wikipedia の系統図は正しくないことになる。鳥類はオビラプトル類から分岐するのでなくてはならない。)
[ 付記 ]
次の情報もある。
→ 雑誌「サイエンス」の記事の紹介
これは、オビラプトルに関する記事だ。以下、転載。
恐竜の産卵は、ワニのような爬虫(はちゅう)類と鳥類の両方の特性を備えていることが明らかになった。ワニをはじめとする原始的な形態の爬虫類は2 本の卵管を持ち、一度に複数の卵を産むことができる。これに対して鳥類には卵管が1本しかなく、一度に産卵できる卵の数は1個だけだ。このことからも、オビラプトルが鳥類の祖先として、有力となる。
発見された恐竜の産卵方法は、爬虫類と鳥類の間に位置するもので、現生鳥類とのつながりを示すものだと研究者たちは述べている。この恐竜は一度に複数の卵を作れたが、それぞれの卵管から産まれるのは一度につき1個のみだったと考えられる。
【 関連サイト 】
オビラプトル類の形質など、生物学的な情報は、オビラプトル類の図のあるサイト(前出)に記述してある。リンクがあるので、リンク先を読んでほしい。
再掲すれば、下記だ。
→ Wikipedia
→ オビラプトル (オビラプトル類)
→ リンチェニア (オビラプトル類)
