「ホメオパシーよりも科学に従え」という科学主義の主張がある。ホメオパシー批判者の多くはそうだ。しかし、そこには重大な欠陥がある。次のことだ。
「科学は万能ではない。特に、現代医学は、しばしば無力になる」
多くの慢性病(アトピーなど)において、現代医学はしばしば無力になる。そのせいで、やむなくホメオパシーなどに逃げ込む患者が多い。ここで、
「ホメオパシーは駄目だ。現代医学に従え」
と告げても、そもそも現代医学は(この場合には)無力なのだから、何の効果もない。一方で、「ホメオパシーを信じれば救われる」と思っていたときに生じていたプラセボ効果が消失するから、症状はかえって悪化する。こんなことでは、患者の信頼は得られない。
( ※ ここでは「ホメオパシーの方が現代医療よりも有効だ」ということが、まさしく成立する。そのことを理解できないようでは、非科学的だ。科学を盲信するがゆえに、非科学的になっている。皮肉なことに。)
──
だから、批判者は、方針を改めるべきだ。
「現代医学は正しい。これを取れ。ホメオパシーを捨てよ」
なんていうふうに主張するべきではない。
では、どうするべきか? こう語るべきだ。
「現代医学は、無力なこともある。ホメオパシーを捨てても、症状は改善しないこともある。そういう場合には、ホメオパシーを取ってもいい。ただし、有料のものは詐欺だから、無料ホメオパシーを取ればいい。とにかく、詐欺師には、引っかかるな」
これが正解だ。そして、この正解を取らずに、救いの手のない患者を非難したり、レメディーを禁じるようなことは、あってはならない。そんなことをすれば、患者はますます逃げてしまう。
──
とにかく、現代医学が無力なことはある、と認めるべきだ。その上で、
「レメディーを取ってはならない」
「ホメオパシーをやってはならない」
なんていう無意味な非科学的なことを主張するのは、やめた方がいい。
大切なのは、次のことだ。
「現代医療が有効な場合には、現代医療を受ける」
──
以上のように、場合分けをすることが必要だ。そうすれば、どの場合にどうするべきかを、適切に対処できる。
そして、そのような場合分けができていないという点では、ホメオパシーの信者も、ホメオパシー批判者も、どちらも不正確なのである。特に、「科学は万能である」というごとき立場を取るに至っては、言語道断だ。
現代科学はまだまだ非力である。なかんずく、現代医療は、まったく発展途上だ。百年後の医療に比べれば、ほとんど原始的な医療と言えるだろう。このように遅れた現代医学を、「すばらしいもの」と思うべきではない。「役立つこともあるが、役立たずのこともある」と冷めた目で見るべきだ。
そして、そういう冷静な目を取ったとき、初めて、慢性病に苦しむ患者の気持ちを理解できるだろう。
( ※ 実際、ホメオパシーの利用者の声を見ると、全部ではないが、かなり多くが、現代医学から見放された人々である。そういう状況を認識するべきだ。ここでは、「現代医学に頼れ」という言葉そのものが、あまりにも虚しい。)
[ 付記1 ]
現代医学では片付かない問題(慢性病や、精神的な悩みなど)にかかると、ホメオパシーに走る傾向がある。
例を示そう。麻酔科医でホメオパシーをやっている人のサイトから、引用する。
退院して実家に帰り静養していたころ、知人からホメオパシーのことを聞きました。当時自信を失って精神的にもかなりのダメージを受けていた私は試しにレメディーをとってみることにしました。
するとどうでしょう。それまでのうつ的な気分が次第に晴れてきました。
( → http://www.geocities.jp/homoeopathytoyama/newpage46.html )
ここでは、「当時自信を失って精神的にもかなりのダメージを受けていた」という弱さがある。
これが根源だ。この根源を直視しないと、人々がなぜ非科学的なものにすがりつくのか、その心理を理解できない。
[ 付記2 ]
ホメオパシー批判者の多くは、次のように言う。
「ホメオパシーが無効であるという科学的な真実に目を向けよ」
それを言うなら、自分自身にも、こう言うべきだ。
「現代医学が無効である場合がかなり多くある、という科学的な真実に目を向けよ」
これを言えないという点で、両者は五十歩百歩なのである。
そして、このように言えないせいで、信者は馬鹿扱いされて非難されたあげく、救いを失い、いつまでも詐欺師にだまされ続けることになる。
[ 付記3 ]
現代科学は、百年後の医療に比べれば、ほとんど原始的な医療と言えるだろう。この件は、次のことからわかる。
現代医学は、経験科学である。たいていは偶発的に薬を見つけて、治験でその効果を統計的に調べて、薬を統計的に判断しながら処方する。
しかしながら、百年後の医療は、統計的(というヤマカン的な方法)ではなく、物理化学的になっているはずだ。あくまで分子レベルの作用を見る。当然、作用は遺伝子による個体差が大きいから、個人ごとのオーダーメード医療となる。統計的に有効かどうか、なんてことは考えない。百発百中で、必ず有効な方法を取る。(有効な方法がなければ、何もしない。)
また、薬が有効になるには、患者の遺伝子の側に問題がある場合には、患者の遺伝子を操作する。このことで薬が必ず有効になるようにする。(その前提としては、IPS細胞の普及がある。)
以上のようなことが、百年後の医療では、当然となっているはずだ。それに比べれば、現代の医療は、あまりにも原始的である。これでは医療が無効になることが多くとも、不思議ではない。
そして、医療(などの現実的対策)が無効なときには、人々は「宗教」に逃げがちになる。物質レベルで対処するかわりに、精神レベルで慰謝を求める。(医者よりも慰謝を求める。……ダジャレですけど。 (^^); )
ともあれ、こういう患者の精神を理解することが、医者としては第一歩だろう。そういう心がけがないと、患者を救うことはできない。そして、医者に放り出された患者は、ホメオパシーに逃げることも多いはずだ。
( ※ ホメオパシーでなく他の宗教に逃げることも多い。)
[ 補足 ]
話をひっくり返すようで申し訳ないが、本項は原則論であり、例外もある。
つまり、「現代医学では治癒できない病気」とは別の理由でホメオパシーに走る人々もいる。それは「自然だから」「エコだから」という理由だ。
この手の人々(エコ主義の人々)は、現代医学を拒否することもあるまい……と思ったのだが、拒否するというよりは、無知ゆえに「ホメオパシーだけで済む」と楽観することも多いようだ。それが重篤な問題を起こすとも気づかずに。
この件は、ハチのアナフィラキシー・ショックという話題で、先に紹介した。(コメント欄で。)
→ http://openblog.meblog.biz/article/3198279.html#comment
同じ話題を、次のブログでも扱っている。引用しよう。
UA本人は必死らしいのですが、夫が自らの症状から死すら想定しているのに対して、風呂を用意したり最終的には息子を送って行ったりと彼女はのんびりしている印象を受けます。現代医学を拒否するというよりは、無知ゆえにホメオパシーを過信する。
( → 該当ブログ )
ただし、ここでは、単に無知があるというよりは、無知であるようにと、ホメオパシー業者が仕向けている。つまり、錯覚させようとしている。「好転反応」などの言葉で。
やはり根源は、業者の詐欺・欺瞞であろう。
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