2010年03月16日

◆ 人のヒゲは何のため?

 人のヒゲは、何のためにあるのか? 大人の男だけにあり、女や子供にはないが、それはなぜか? ──
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2012-02-18 です。)

 
 人のヒゲは、何のためにあるのか? この問題に対して、
 「大人の男だけにあり、女や子供にはない」
 という点に着目して、「性淘汰」(性的アピールのあるものほど異性との間で子孫を残す)の考え方で説明する立場がある。次のように。
 「ヒゲのある男だけが女にモテて、ヒゲのない男は女にモテなかった。だから、ヒゲのある男だけが子孫を残した」
 
 しかしこれは、安直すぎる。
  ・ ヒゲのある男ほどモテる、という事実はない。
  ・ 男性的な特徴がヒゲである必要がない。
  ・ 何であれ、男性的な特徴があれば、それは性的アピールにはなる。
   (つまり論理が逆だ。)

 以上のことから、性淘汰による説明は不適切だ、と思える。

 ついでだが、「第二次性徴で現れる体毛」としては、いわゆる陰毛と脇毛がある。これらを見て「性的アピールになる」という説も考えられる。しかし、不適切だ。なぜなら、これらの部分は、あまり見えないところだからだ。
  ・ 脇毛は見えない
  ・ 陰毛も見えにくい。(女性の股間部は特に隠れて見えにくい。)
  ・ アピールするために脇毛・陰毛を見せる、という性的行動はない。

 脇毛・陰毛では、こういうことからしても、性淘汰説は妥当でない。同様に、ヒゲも性淘汰説は妥当でない。
 そもそも、ヒゲにことさら性的アピールがあるとは思えない。たいていの男性は、ヒゲを剃ります。それでモテなくなることはない。むしろヒゲがあるとモテなくなりがちだ。(アラブではヒゲのある方がモテるらしいが。しかし、アラブは男性社会なので、女性にモテるというよりは、男性同士における優位を示すためにヒゲがある、という可能性が大だ。)

 ──

 となると、何らかの実用的な根拠があったはずだ。では、それは? 誰しも簡単に思いつくように、それは「保温」である。その意味は、次のように説明できる。
  ・ アフリカであっても、夜間は寒いので、保温は有益。
  ・ 保温が必要なのは、狩りをする大人の男だけだ。(女・子供は別。)
  ・ アフリカ人は、頭髪もヒゲも短めだ。 ( → 写真 ) 
  ・ 欧州人は、頭髪もヒゲも長めだ。 ( → 写真 )  

 というわけで、「保温」は、それなりに十分な根拠となる。

 ──

 さて。より根源的に考えよう。目的論でなく、原因論で考える。
 実は、顎のあたりに毛があるのは、人間の男だけではない。ゴリラ、チンパンジー、オランウータンもまた、顎のあたりに毛がある。次の写真を参照。
  → ゴリラ
  → チンパンジー
  → オランウータン

 こうしてみるとわかるだろう。われわれが「ヒゲ」と呼んでいるものは、髪の毛や他の体毛と特別に区別されるようなものではない。それはもともと体毛の一部なのだ。体毛のうち、頭部にあるものを「髪」と呼び、顎のあたりにあるものを「ヒゲ」と呼ぶ、というだけのことだ。

 だから、設問そのものを書き換える必要がある。
 × 「なぜ大人の男だけ、ヒゲをもつのか?」 
 ○ 「なぜ大人の男だけ、顎のあたりに体毛が残ったのか?」
 …… 

 ──

 この問題()に対して、次のように答えることもできる。
  ・ 目のそばに長い体毛があると、目に体毛が入って邪魔だ。 ( *
  ・ 類人猿はいずれも、顔面には体毛がない。(すぐ上の * が理由。)


 ただ、上の二つは、「顎以外では体毛が消失したこと」の理由だ。「顎では体毛が残ったこと」の理由ではない。では、「顎では体毛が残ったこと」の理由は? それは、先に述べたとおり。「保温」だ。

 ──

 結論。

 以上をまとめると、次のように言える。
 大人の男には、なぜヒゲがあるか?
 実は、それは、見方が逆である。大人の男だけにヒゲが生えるのではない。大人の男の顎のあたりだけでは、体毛が消失しなかったのだ。それ以外のものでは体毛が消失したから、大人の男の顎のあたりに残った体毛が物珍しく見えて、「ヒゲ」という名でことさら注目を浴びているだけだ。
 その意味で、「ヒゲ」があるのは、もともと当然なのである。そして、正しい質問は、「なぜヒゲ以外の体毛は消失したか?」だ。

 では、その理由は? 次のように言える。
  ・ 人は、衣服を着るようになったので、体毛がほとんど消失した。
  ・ 顔面部は衣服を着ないので、保温のため、男の体毛は消失しなかった。
  ・ 男は、一般的な体毛も、いくらか濃い。これも保温のため。(特に、足。)
  ・ 女や子供は、狩りをしなかったので、保温の必要がなく、体毛が消失した。


 こうして、大人の男だけに残った体毛が、「ヒゲ」と呼ばれて、物珍しく見えるようになった。別に、ことさらヒゲが生えたわけじゃなくて、人類(ホモ・サピエンス)以前からあった形質が、消えずにいた、というだけのことなのだが。
 
( ※ 性淘汰説が間違いなことは、もはや明らかだろう。なぜなら、「人はもともとヒゲがなかったのに、男だけはヒゲが生えるようになった」という発想を取って、「それはなぜか?」と考えるからだ。もともと間違った質問に対して、何を答えても、間違いにしかならない。)



 [ 付記 ]
 あごひげは上記で説明されるが、口ヒゲ(鼻の下のヒゲ)は説明しがたい。というのは、類人猿は、そこには体毛がないからだ。
 実は、口ヒゲは、個体差が大きい。また、人種差もある。アフリカ人やアジア人は、口ヒゲは濃くないことが多いが、欧州人は、口ヒゲが濃いことが多い。
 私が思うに、これは、「どっちでもいい」というような形で、変異がひろがっただけだろう。(木村資生の)中立説のもとの変動に近い。

 話はちょっと下品になるが、女性の陰毛も、かなり個体差が大きい。溝の左右が毛だらけのこともあるし、つるんとしていることもある。これもまた、中立説のもとの変動に近いと思える。つまり、「どっちでもいいので、そういうこともある」という程度の話。
posted by 管理人 at 20:20| Comment(0) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
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