そんなの簡単さ。シマがあるからシマウマというんだよ。
……というんじゃ、つまらない。もうちょっと真面目に考えます。
出典
Wikipedia には次の解説がある。
シマウマの縞模様の効果は、捕食者が狩りの獲物とする個体を識別しにくくすることといわれている。これは、霊長類以外の哺乳類は色の識別能力が低いことと関連している。つまり、シマウマの白黒の模様は、霊長類以外の哺乳類が遠くから見た場合には草原の模様に埋もれ判別しにくいとされる。また、縞模様は身体の部位ごとに向きが異なり、群れをなすと各個体の縞模様が混ざって視覚的に同化してしまう。これは、もっともらしいが、簡単に否定される。というのは、他の草食動物には、縞がないからだ。ヌー、トムソンガゼル、鹿、レイヨウ、ウサギ、カンガルーなど、たいていの草食動物は、単に茶色であるだけで、縞はない。
( → シマウマ - Wikipedia )
かくて、上記の説は、あっさりと破綻する。
──
一方、次の説もある。「防虫のため」という説。
→ シマウマの縞には防虫効果がある
→ 血を吸う虫から身を守るため
→ 虫除けの洗練された形だ
これも、もっともらしいが、こじつけっぽい。仮にそういう効果があるとしても、そのくらいのことで縞模様ができるとは言えまい。また、それが成立するなら、他の動物だって同様であるはずだ。
ひょっとしたら人間だって、縞模様になっていたかもしれない。 (^^);
→ 縞模様やヒョウ柄の人間 (画像)
──
一方、分子生物学的な立場から、縞模様の成立を学術的に説明する立場もある。
→ シマウマよ、汝はなにゆえに、シマシマなのだ?(前篇)
→ シマウマよ、汝はなにゆえに、シマシマなのだ?(解決篇)
チューリングの示した原理により、簡単な理由で縞模様が誕生することがわかる。また、それは、ヒョウ柄とはパラメーターの違いしかないこともわかる。
これによって、縞ができた生理的な理由はいちおう説明できる。上記では次のように述べる。
ちょっとの変異で模様ができちゃうのであれば、大した利点が無くても問題なし。この説明は、シマウマだけでなく、他の縞模様、斑点模様を持つ種全てに適用可能なので、これで、皮膚模様の進化問題は一挙に片付いてしまったことになります。だが、「縞模様ができる原理」はわかっても、「どうして縞模様だけが残ったのか?」という進化論的な理由は説明できない。ある種の変異が簡単に生じることは説明できるが、その変異が集団全体に広がることは説明できないからだ。
そこで、次のように述べる。
「均一な中間色を作る原理が、馬や多くの野生動物で進化した。明らかに生存に有利なのだから、この過程は、適者生存の理屈にかなっている。で、その仕組みにちょっと変異がはいって、シマウマができちゃった。シマウマは、進化により縞を得たのではなく、均一中間色を失った。」これは、さじを投げるのに等しい。「わけはわからないけど、たまたまできちゃった」というだけだ。進化論的には、説明放棄だ。
──
というわけで、冒頭の問題の
「シマウマに縞があるのはなぜか?」
には、今もって、正解が与えられていない状態だ。
そこで、私が新たなアイデアを出そう。それを仮説として示す。
それは、次のことだ。
「シマウマに縞があるのは、シマウマにとって有利だからじゃない。シマウマの祖先には縞がある方が有利だった。シマウマはそれを引き継いだだけだ」
この説には、根拠がないわけじゃない。それは、キリンの祖先種といわれるオカピだ。オカピにも縞がある。
出典
オカピは森林で暮らしており、縞模様が森林で保護色となる。( → Wikipedia )
同様のことが、シマウマの祖先種にも成立したはずだ。つまり、シマウマの祖先種は、森林で暮らしており、だからこそ縞模様が保護色となった。
この点、子孫種であるシマウマはそうではない。シマウマは草原に出たので、縞模様は有利であるどころか、不利になった。
昔、アメリカの大統領セオドア・ルーズベルトがアフリカにハンティングに行った時に、「シマウマは、最も目立つ獣であり、サバンナではどんなに遠くからでも見つけることができる。あの模様がカモフラージュになると聞いていたが、到底信じられない。」と書き残している。だいたい、ブッシュに隠れるためだったら、あれほど鮮明な白黒である必要はあるまい。もっと目立たない色選びができるはずだ。ではなぜ、シマウマには、不利なはずの縞模様が残ったか? これは、次のように考えるといい。
( → 前出ページ )
「シマウマの祖先種は、森林で暮らしていたので、縞模様が保護色となった。その後、シマウマの祖先種の一部が、草原に出て、シマウマとなった。ここでは、縞模様のある集団のなかで、一部が縞模様をなくした。その突然変異体は、
・ 全身が黒
・ 全身が白
のいずれかであった。いずれであっても、縞模様の集団のなかで、その〈黒一色〉または〈白一色〉の個体はきわめて目立つ。だから捕食者に捕食されやすい。こうして、その突然変異体は集団のなかで淘汰されてしまう」
ここでは、次の原理が成立している。
「縞模様の個体が1頭だけいれば、縞模様の個体が目立つ。しかるに、縞模様の個体がたくさんいて集団をなせば、縞模様の集団のなかで縞なしの個体はかえって目立つ」
こうして、祖先種にあった「縞模様」という形質が保全されたのだ。
──
ではなぜ、馬は縞模様を持たないのか? 馬の祖先種が縞模様を持たなかったからだろう。ではなぜ、馬の祖先種が縞模様を持たなかったのか? 森林ではなく草原に暮らしていたからだろう。これで説明が付く。
ただ、もう一つ、別の説明も付くる。こうだ。
「馬は足が速いので、単体で逃げることができる。ゆえに集団生活でなく、単体で草原で生きることができる。単体ならば、目立つ縞模様よりは、目立たない地味な色の方が生存率が高い」
簡単に言えば、次の生存戦略の違いがある。
・ シマウマ …… 集団生活をして、縞を持つ。
・ 馬 …… 単独生活をして、速い足を持つ。
馬は速い足があるので、単独生活ができる。だからこそ、縞がない。
シマウマは速い足がないので、集団生活をするしかない。だからこそ、縞をなくしては生きることができない。(捕食されやすい。)
──
まとめ。
シマウマに縞があるのは、シマウマの祖先種が森林で暮らしていて、縞が保護色になったからだ。シマウマはそれを保持した。なぜなら、保持しないと、集団生活のなかで不利だからだ。(捕食されやすい。) ここでは、縞模様は、集団のなかで迷彩色としての効果を持つ。(保護色ではない。)
シマウマに縞があるのはなぜか? 縞があると有利だから、縞が生じたのではない。縞がないと不利だから、縞を失えなかったのである。
( ※ 他の草食動物には縞がない理由も、これで説明できる。もともとそれらの祖先種に縞がなかったから、縞を失うもへったくれもなかったのだ。)
[ 付記 ]
シマウマに似ているが、全身の縞模様でなく、部分的な縞模様を持つ種もある。
→ クアッガ
→ ゼブロイド (交雑種)
→ ゾース (交雑種)
これから、次のことが推定できる。
「シマウマの祖先種は、オカピやクアッガと同様に、部分的な縞模様があるだけだった。それでも十分に保護色(カモフラージュ)になったし、むしろ全身がわかりにくい分、全身が縞模様であるよりも有利であった。
だが、草原に出た段階で、目的は保護色から迷彩色(集団のなかで)になった。この場合、全身に縞模様がある方が有利になった。(下記の動画を参照。)
それゆえ、シマウマは全身に縞模様を持つように、進化したのである」
この説では、縞模様は、部分から全体へとひろがったことになる。
[ 参考 ]
草食動物が集団生活をするのは、捕食者から捕食されにくくなるようにするためだ。この点は、集団生活をする鳥類や、集団生活をするイカも、同様である。下記に説明がある。
→ Wikipedia 「群れ」
【 追記 】
クアッガが(全身縞模様でなく)部分的な縞模様を持つ理由は何か? 次の二点だと推定できる。
(1) もともと祖先種から進化したときに、黒い部分が多かった。当初のシマウマは、今のシマウマのようにきれいな縞模様をもっていたわけではなかった。黒地に白い縞が薄く細くあるぐらいだった。その後、シマウマでは白い部分が太くはっきりとしていって、クアッガでは白い部分がいくらか消失した。また、足の縞も消失した。(その理由は以下で。)
(2) (推測だが)シマウマとクアッガには、行動様式に差があった。シマウマは集団生活をしていたが、クアッガは単独生活も多かった。集団生活をするシマウマは、迷彩色としての縞模様を発達させた。単独行動することの多いクアッガは、縞模様は目立って不利なので、目立たないように縞の部分をなくしていった。
なお、今のシマウマも、群れを離れて、単独行動をすることがある。そのせいで食い殺されることもある。
→ 動画1 ,動画2
シマウマは、足も速くないし、戦うツノもない。あるのは縞だけだ。その縞は、集団でいるときにのみ、効果がある。集団をはぐれたシマウマは、いい餌食になるだけだ。
【 関連項目 】
→ のどちんこは何のため?
→ 人のヒゲは何のため?
→ 女性の乳房は何のため?
→ 眉毛は何のため?
→ ライオンのタテガミは何のため?
→ クジャクの羽はなぜ華美か?
→ 馬の顔はなぜ長い
→ キリンの前脚はなぜ長い
→ キリンの首はなぜ長い?
→ ゾウの鼻はなぜ長い?
→ 猿の尻はなぜ赤い?
[ 補足 ]
(1) 補足的な話が、コメント欄に記してあります。重要な話なので、是非、お読みください。
(2) 本項の続編があります。(1) の続編ふう。
→ シマウマはなぜ縞がある? 2: Open ブログ
→ http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120210002
→ http://d.hatena.ne.jp/mysouda/20120214/1329191624
だが、これは否定できるだろう。
仮にその説が正しいとしたら、該当の虫がいるかどうかで、地域差が生じたはずだ。ある地域では縞が生じて、ある地域ではヒョウ柄が生じて、ある地域では褐色か黒色か白色になる、というふうな。(亜種ぐらいの差)
現実には、そうではない。地域差は生じない。このことは、虫の影響という説を否定する。
また、シマウマでない別の草食動物にも、縞やヒョウ柄が生じていないことからも、同様の結論となる。
言葉がありません。すばらしい。
ありがとうございました。
「シマウマの縞には防虫効果がある」ということが証明されたそうだ。
ただの馬に、縞ありと、縞なし(白・黒)という3種類のコートを着せて比較実験したら、
「アブがコートにふれたり、体にとまったりする回数は、黒は平均約60回、白は平均約80回だったのに対し、しま模様では10回以下と大幅に少なかった」
という差が生じたという。
→ https://www.asahi.com/articles/ASM2P66KCM2PULBJ010.html
つまり、「縞には防虫効果がある」と言えるわけだ。なるほど。そういう効果はあるようだ。
しかし、そこから、
「シマウマに縞があるのは、縞に防虫効果があるからだ」
と結論することはできない。
なぜなら、それが成立するためには、
「縞の有無が生存率に明白な差をもたらした」
ということが必要だからだ。
ところが、実際には、それは成立しそうにない。
・ アブが付くかどうかは、生存率に影響するとは思えない。
・ シマウマ以外の動物には、アブが付くが、滅びたりはしない。
というわけで、「縞には防虫効果がある」ということは、たしかに成立しそうだが、それはただの副次的な効果であって、主要な効果ではない、と見なせるわけだ。一種のオマケみたいなものだ。
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似た例を示す。
人間は(獣のように深い)体毛がなくて、ほぼ無毛である。そのおかげで、ダニが付きにくい。(犬や猫はダニが付きやすいが。)
しかし、「人間がほぼ無毛なのは、ダ二付かなくなるようにするためだ」というのは、論理の飛躍である。
ダ二付かなくなったのは、あくまで副次的な効果であって、主要な理由ではないのだ。
※ 無毛であることの主要な理由は、長距離走での体温低下だろう。人間だけに発汗機能があることと関連する。
参考:
→ http://openblog.seesaa.net/article/458697052.html
以下、引用。
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ハエ除け効果を持つシマウマの縞模様。実は「チェック柄」でも効果があると証明される!
これでハエの着地失敗がアパーチャ効果のせいではないことが証明されました。
というのも、アパーチャ効果を縞模様だけに特有の錯覚であり、チェック柄では起こりません。もしアパーチャ効果が原因なら、チェック柄には着地できるはずです。
https://nazology.net/archives/67621