2010年03月04日

◆ キリンの首はなぜ長い?

 キリンの首はなぜ長いのか? 高いところの葉を食べるのに有利だからか? しかし話はそれほど単純ではない。首が長いだけでは、ろくろ首みたいで不便だし、頭に血が上らないので貧血になる。首が長いだけでは、かえって不利なのだ。 ──
  
 本項は、前項の「ゾウの鼻はなぜ長い?」で述べたことが、そのまま当てはまる。前項を先に読んでほしい。
   → 前項
  


 ゾウの鼻が長いのも、キリンの首が長いのも、理由は同じである。前項で述べた論法は、キリンにも同様に当てはまる。

 (誤)
 キリンの首が長くなった。
 ( = 首の長いキリンと首の短いキリンがいた。生存競争の結果、首の長いキリンが増えた。)

 (正)
 首の長いものがキリンになった。
 ( = キリンの原種に、首の長いものと首の短いものがいた。首の長いものが巨大化して、キリンになった。)
 
 ──

 ※ ゾウとキリンの違いは? ゾウは牙があるので、太って鈍足でも大丈夫。キリンは逃げるしかないので、走れるように痩せている。どちらも巨大化したが、巨大化の仕方は違っている。ゾウは太っていて、キリンは痩せている。

 ※ キリンの首が長いのは、地上の水を飲むためとも言える。足が長いから、首も長い。その点は、馬やオカピと同じ。首の長さは、ちょうど地面にある水を飲めるための長さだ。( → 参考図 ) 単に高いところの葉を食べるためなら、首はもっと長くなってもいいはずだが、そうはならない。
   
 ※ 絵で示そう。首が長いのが有利であれば、キリンはこうなっていたはずだ。

  kirinBc.gif



 まとめて言おう。
 首の長いキリンと首の短いキリンが生存競争をしたのではない。キリンの先祖に、首の長いものと首の短いものがいた。それはまだ巨大化していなかった。ところがあるとき、首の長いものが出現した。それは、首が長いので、巨大化することができた。
 こうして、キリンの先祖のうち、首の長いものだけが、どんどん首を長くし、体を巨大化していって、キリンになった。それ以外のものは、首が短いので、巨大化できないままだった。

 ともあれ、キリンの首が長いことの本当の理由は、樹葉の位置なんかじゃなくて、体の巨大化が有利だからだ。四肢が長くて、早く駆けることができれば、それだけ有利だ。また、遠くの肉食動物が近づくのを早く見出すこともできるので、有利だ。また、たとえ小型の肉食獣に噛みつかれても、蹴飛ばすことができる。(小型の鹿類ではそうは行かない。)
 一般に、草食動物というのは、巨大化することが最も生存競争で有利である。ただし、巨大化したくても、巨大化しにくい。しかるに、首が長いものだけは、首の長さに応じて、うまく巨大化することに成功した。それがキリンだ。

 結論。

 キリンの首が長いのは、首が長いと有利だからではなく、体が巨大だと有利だからだ。ただし、首が長いものだけが、巨大化できた。

 ──

 さて。この際、首だけの長いものは、最初は有利ではなく不利だった。(まさしく上の図のようだったので。)
 また、(首が短くて)体の巨大化という性質をもつのも不利だった。
 だが、「首が長い」「体が巨大」という双方の性質をあわせもつと、元の種よりもいっそう有利になった。つまり、不利な形質が二つ合わさることで、かえって有利なものになることができた。
 このことは「クラス交差」という言葉で説明される。
 
 詳しい話は、前に述べたことがある。下記。
  → 進化論 Q&A2
 ここでは進化の原理を「クラス交差」(不利な遺伝子が組み合わさると、有利に転じること)で説明している。

 該当箇所を転載しよう。
  

 ダーウィン説ならば、「最も首の長い個体だけが生き残ったので、種の全体で首が長くなった」と主張するだろう。しかしそれだけでは、「首の長い個体がどうして生じたのか?」という疑問に答えられない。単に「突然変異で」と答えるのでは、「他の動物(たとえば鹿や馬)では、なぜ首が長くならなかったのか?」という疑問に答えられない。
 ここで、「早わかり」の冒頭の言葉を思い出そう。クラス進化論の主張は、「劣悪なものがなぜ滅びたのか?」という疑問に答えるのではなく、「優秀なものがなぜ生じたのか?」という疑問に答えているのだ。具体的には、次のようになる。
      *      *      *      *      *
 まず、草食獣がたくさん存在した。そのうち、ここでは、鹿に似た仲間に着目しよう。
 これらの草食獣には、多様な遺伝子が存在した。ここで、特に重要なのは、
  「首が長くなる」
 という遺伝子のほかに、
  「足が長くなる」
  「心臓が強くなる」
  「血圧に耐えるために皮が厚くなる」
  「血圧から脳を守るために血圧緩衝機構がある」
 という四個の遺伝子だ。合計、五個の遺伝子が重要である。
 この五個の遺伝子のうち、二つか三つぐらいを生じた種は、いくつかあったが、別に、何も起こらなかった。たとえば、「首が長い」だけがあり、「足が長い」がないと、ろくろ首のようになるので、不利だった。「首が長い」がなくて、「足が長い」だけがあると、足元の水を飲めないので、不利だった。最初の四個があっても、「血圧緩衝機構」がないと、脳の血管が破裂するので、不利だった。かくて、たいていの種では、これらの遺伝子は劣者となって、増えることはなかった。
 あるとき、特別の種では、交配によって、これらの遺伝子をすべてもつ個体が突発的に生じた。すると、その生物(キリンの原種)は、高い樹木の葉を食べることができるようになった。かくて、優者となった。このとき、「新種の核」が誕生したことになる。
 さて。元の仲間は、低い樹木の葉を食べていたが、この新しい生物は、高い樹木のある領域へと移動していった。つまり、「新しい領域」「空白領域」へと、移動していった。そこには、競合するライバルはいなかった。ゆえに自然淘汰の力が弱まった。そのせいで、遺伝子に多様性がもたらされた。
 この新しい種は、古い種とはほとんど交流しなかったので、独自の方向に進化することになった。新種独自の遺伝子を次々と蓄積して、次々と進化していった。最初は五個だけの「新種の遺伝子」があったが、やがて、十個、二十個、……というふうに次々と「新種の遺伝子」を蓄積していった。(クラス交差で。)
 結局、「クラス交差」によって新種が誕生したあと、さらに「クラス交差」を重ねて、旧種とは別の独自の進化の方向をたどることになった。かくて、首はどんどん長くなり、足もどんどん長くなった。
( ※ 最後の過程は、ダーウィン流に、「自然淘汰」による「小進化」でも、いくらか説明できそうだ。ただし、「優勝劣敗」が働く原理はともかく、「突然変異の発生」よりも、「遺伝子の集中」が重要である。)
( ※ 五個の遺伝子は、劣者であったかもしれないが、優者であってもよい。特に、「血圧緩衝機構」は、キリンの祖先種らしいオカピという動物にはもともと備わっているから、この遺伝子は優者であったらしい。 )

 上記のポイントは何か? 
 「首が長いものが有利だ」
 という点は、それでいい。しかし、
 「首が長い遺伝子が突然変異で生じる」
 という点は、問題だ。なぜなら、首が長いだけならば、その個体はかえって不利であるからだ。
 つまり、首が長い遺伝子だけでなく、他の遺伝子もいっしょに備わる必要がある。(さもなくば滅びてしまう。)ところが、複数の遺伝子が同時に突然変異を起こす、という確率は、非常に小さい。
 ではどうして、複数の突然変異をもつ個体が生じたのか? その答えとなる原理が、「クラス交差」という概念で示されるわけだ。
   
 従来の発想では、次のようになっていた。
 「首の長い個体は有利だった。ただし体が大きくないと不利なので、首が長くて体が大きい個体が有利となった。そこで、その方向に進化していった」
 しかしこの発想では、「首が長い」という突然変異と「体が大きい」という突然変異が同時に生じる必要がある。その確率は非常に小さい。ほとんどありえない。

 本項の発想では、次のようになる。
 「首の長いだけの個体は不利だし、体が大きいだけの個体も不利である。ただし、それらの個体が交配すると、双方の遺伝子を持つ個体が誕生する。その個体は有利なので、その方向に進化していった」

 両者の発想には、「複数の突然変異の同時発生」か、「交配」か、という違いがある。
  


 [ 付記 ]
 クラス進化論の発想がなぜ大切か? 
 「首が長いものが有利だから、首が長くなる」
 という説には、限界があるからだ。
 なるほど、ある程度までなら、その説は成立するだろう。しかし、どんな種であれ、種内における突然変異の範囲には、限界がある。そのことは、次の項目で示した。
  → 犬の小進化(品種改良)
 
dog.gif
  
種内で生じる突然変異のバラツキは、
一定の範囲内に限られている。


 大きな犬が有利だという理由で、人間がいくら品種改良しても、犬の大きさは限界がある。また、逆方向に小さくしても、犬の小ささは限界がある。
 キリンだって同様だ。キリンの原種のなかでどれほど首を長くしようとしても、その程度は限られている。オカピのようなものから、現代のキリンまで、小進化だけで首を長くしようとしても、とても無理なのだ。
 まったく別の形質になるほどにも大きな変化をもたらすには、小進化だけでは足りない。その意味で、「首が長いと有利だから」という説は、必要条件ではあっても、十分条件ではないのだ。
( ※ その十分条件を満たすためには、大進化の原理である「クラス交差」というものを導入する必要がある。)
    


  【 補説 】
 「高い葉っぱを食べることができると有利だ」
 という説は、実は疑わしい。なぜなら、そもそも樹葉を食べる必要はないからだ。樹葉というものは、草よりも硬くて、咀嚼に手間がかかる。同じ咀嚼をするだけなら、硬い樹葉より、柔らかい草を食べる方がいい。他の草食動物はみんなそうしている。
 しかし、キリンはそうは行かない。巨大化の代償として、やむなく首が長くなった。首が長くなると、草を食べることができなくなる。なぜなら、地面のそばに口を置くと、咀嚼したものを上の方まで飲み込むことができないからだ。どうしてもやるなら、ときどき首を高く持ち上げて、咀嚼したものを飲み下す必要がある。しかし、そんなことを何度もやったのでは、首が凝ってしまう。
 そこで、下方にある草を食べるかわりに、上方にある樹葉を食べることにしたのだ。硬いのであまり食べたくはないのだが、それしかないのだから仕方ない。
 つまり、キリンが高い樹葉を食べるのは、高い樹葉を食べると有利だからではなく、首をほぼ直立させて食べるしかないからだ。(斜めや水平にしたら首が疲れる。)

 なお、体が一回り小型のミニキリンがいたとしよう。それはキリンに比べて、生存競争で不利だろうか?
 樹葉を食べるという点では、不利ではない。キリンは自分の身長と同程度のものを食べるのが一番楽だから、わざわざ低い位置のものを食べようとはしない。だからミニキリンとは競合が起こらない。どちらも共存できたはずだ。(樹葉の食い合いは起こらない。)
 ただし、肉食動物からの逃避という点では、差が付いたはずだ。ミニキリンの方がずっと多く肉食動物の餌食となっただろう。だからミニキリンは滅びてしまったわけだ。
 ここでは、樹葉の食い合いで競争があったのではなく、肉食動物からの逃避(捕食されないこと)で競争があったわけだ。
  
 【 追記1 】
 「高い位置の樹葉を食べることができるので有利」
 という説が間違いであることの科学的な証明は可能だ。
 もしその説が正しければ(仮定)、次のようになるはずだ。

 「樹葉は、キリンの背の高さより下は食い荒らされており、キリンの背の高さより上では豊かに茂っている」

 しかし、このような事実はない。ゆえに、仮定は成立しない。(背理法)
 要するに、樹葉はあまりにもたくさんあるから、背の高い方がうまく食べられるということはない。キリンよりも背が低くても、豊かな樹葉をちゃんと食べられる。実際、キリンの子供は、背が低いけれども、ちゃんと食べている。(樹木の下の方で葉がないわけじゃない。)

 【 追記2 】
 次のような説がある。
 「あるとき環境が悪化して、樹葉が著しく減少した。そのとき、食糧事情が影響した。低い樹葉は食べ尽くされた。そのせいで、背の低いキリンは餓死して絶滅し、背の高いキリンばかりが生き残った」
 この説は、やはり成立しない。もしその説が正しければ、キリンの子供も餓死して絶滅してしまうので、キリンもまた絶滅してしまうはずだからだ。
 
 真相は? 草食動物の生存率に影響するのは、食糧事情よりは、捕食者から逃れることの上手・下手だ。餓死するキリンはほとんどいないが、補食されるキリンはたくさんいる。
  


 【 参考 】


 キリンの画像
   → 画像1画像2

 どこからどこまでが首なのか? 視覚の錯覚で、胴体の一部が首のように見えるので、ちょっと区別しがたい。
  
 [ 余談1 ]
 キリンの場合、首と足がともに長いわりには、胴体が短い。胴体に比べて首が長く見えるだけだ、とも言える。足の長さに比べた首の長さで言えば、鹿や馬と大差ないとも言える。(顔の長さの分を差し引きすれば。)
 というわけで、「キリンはやたらと首が長いのでなく、胴体が短いだけだ」というふうに答えてもよさそうだ。
 質問するなら、「キリンの足はなぜ長いの?」と質問してもいいだろう。首だけが長いわけじゃないんだから。
  
 [ 余談2 ]
 キリンの首が長く見えることには、次の理由がある。
 「前脚が後脚よりも長い」

 このことのせいで、胴体の一部が首のように見える。だから「首が長い」と感じられる。(上記の通り。)

 なお、この件については、下記項目を参照。
  → キリンの前脚はなぜ長い (次項)



 【 関連項目 】
 
  → 小進化と大進化(形質の数)

    ※ キリンはいかに進化したか、についての認識方法の違い。
      一つの形質がだんだん変化したと見なすか否か。



 【 関連サイト 】
 高い葉を食べると有利だ、という話は、下記にある。
   → okwave

 首が長いと性的アピールになる、という説もあるが、否定された。
   → 海外のニュース記事
posted by 管理人 at 19:14| Comment(3) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後のあたりに 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2010年03月06日 00:01
竹内久美子が似た説を述べているそうだ。
  (1) キリンは肉植獣から身を守るために前脚(キックする)を伸ばしてきた。
  (2) 地面の水を飲むために、前脚の成長に合わせて、首も伸びてきた。
  → http://www5.ocn.ne.jp/~odland/hitorigoto54.htm

 ──

 (1) は、成立しない。理由は下記。(小学生が指摘している。)
  → http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1017379365
 (2) は、論理が逆だ。そもそも、そんな理屈が成立するなら、あらゆる草食獣はみんなキリンみたいになっていたはずだ。(正しくは、首を伸ばしたものだけが、巨大化できた。)

 ──

 参考。
  → http://blog.goo.ne.jp/shinoropeach/e/e2e2b2c6b1a15a437a4bc8e8c7414a59
Posted by 管理人 at 2010年03月16日 21:43
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