ゾウの鼻はなぜ長いのか? この問いには、
「鼻の長いものが有利だから、鼻が長くなった」
という説が知られている。
つまり、鼻の短いゾウと鼻の長いゾウがいて、鼻の長いゾウだけが生き延びたから、ゾウはみんな鼻が長くなった、という理屈。(キリンの首の場合と同様の論理。)
→ 学研のサイト
しかし、鼻の短いゾウがいたわけでもない*のだし、ゾウがたがいに鼻の長さの競争をしていたわけでもないのだから、この説はうさん臭い。
* 脚注──
ゾウの先祖は鼻が短いが、これはゾウとは言えない。この点は、クジラの先祖の場合と同様。クジラの先祖は、クジラではない。
一方、別の説もある。
地面の草を食べるためなら、鼻が長い必要はない。首が長くてもいい。馬や鹿などがそうだ。
→ 科学博物館 (ぜひ読んでほしい。図もある。)
この説は妥当だろう。そして、この説に従うなら、次のようになりそうだ。
「ゾウの鼻が長いのは、首を短くするため」
ちょっと変な感じもするが、こういう解釈もできそうだ。
──
ただし、もっと正確に考えよう。
首を長くしたり、鼻を長くしたりする必要は、どの動物にも共通することではない。巨大な動物にのみ当てはまる。
だから、どちらかと言えば、目的は「巨大化すること」であったはずだ。
とはいえ、それは、目的論だ。正確には、目的論でなく、原因論で語るべきだろう。
《 目的論 》 ゾウの鼻が長いのは、巨大化するため
《 原因論 》 鼻が長いものが、巨大化してゾウになった
後者が正しい。
──
結論としては、こうなる。
ゾウの原種は、鼻が長くなかった。しかし、鼻が長いものができると、巨大化することができた。鼻が長くなればなるほど、巨大化が進んだ。巨大化が進むと、生存競争に有利になった。(鼻の長さが有利なのではない!)
ここでは、鼻が長いことは、直接的に有利なのではなく、間接的に有利なのだ。(捕食されないので。)有利か不利かは、鼻の長さよりは、巨大化の程度によって決まる。
──
《 まとめ 》
(誤)
ゾウの鼻が長くなった。
( = 鼻の長いゾウと鼻の短いゾウがいた。生存競争の結果、鼻の長いゾウが増えた。)
(正)
鼻の長いものがゾウになった。
( = ゾウの原種に、鼻の長いものと鼻の短いものがいた。鼻の長いものが巨大化して、ゾウになった。)
【 補説 】
「そんなのどっちだって同じだろ!」
と思う人もいるかもしれないが、違う。
すでに巨大化したゾウならば、
「鼻の長いゾウ」
というのは、鼻の短いゾウ(奇形のゾウ)よりは有利だろう。しかし、
「ゾウの原種で、鼻が長いもの」
というのは、ゾウの原種としては、鼻ばかりがやたらと長くて、かえって不利なのである。不利なものは滅びて当然だ。
ただし、何らかの事情*で、滅びずにいたとしよう。同時に、
「ゾウの原種で、体が大きなもの」
というのがあるとしよう。それもまた、鼻が長くないのに、体ばかりが大きすぎて、不利であるが、何らかの事情*で、滅びずにいたとしよう。
そのあと、両者が交配すれば、
「ゾウの原種で、鼻が長く、体が大きなもの」
というのができる。そうすれば、それは、有利になる。つまり、不利なもの同士が交配することで、有利なものができる。(これが新種の萌芽となる。)
このような理屈は、「クラス進化論」で原理を説明される。
→ クラス進化論
* 脚注
「何らかの事情」とは、何か? 不利なものが滅びないような事情であるから、それは、「自然淘汰が働かないこと」である。もし自然淘汰が働けば、その生物は滅びる。もし自然淘汰が働かなければ、その生物は滅びない。
だから、新しい種が誕生することの理由は、「自然淘汰が働かないこと(弱いこと)」である。正確に言えば、自然淘汰が弱い領域があることだ。常にそうである必要はないが、新種が誕生する時期には、そのような領域[= ニッチ]があることが必要だ。
クラス進化論では、ダーウィン説とは逆に、「自然淘汰が働かないこと(弱いこと)」が進化において決定的に重要となる。自然淘汰は不必要になるわけではないが、ある時期に、ある領域では、自然淘汰が弱まっていることが必要だ。(これはダーウィン説の否定ではなくて、発展的な拡張である。)
[ 付記 ]
前出の科学博物館のページには、次の記述がある。
ゾウは大きな身体を養うために大量の植物を食うが、それを咀嚼するための顔は極めて重い。これは妥当ではない。
「ゾウは大きな身体を養うために大量の植物を食う」というのなら、キリンだって同様だ。また、馬や牛なら、小さな口を使って一日中、草を食べている。つまり、時間でカバーできる。それでも問題ないはずだ。
ゾウの顔が大きいのは、咀嚼のためではない。実際、ゾウの口は、カバみたいに大きくなく、かなり小さめだ。咀嚼のために顎がデカいわけではない。
では、何のためか?
「大きな牙を持つため」
だろう。ゾウは、体が鈍重で逃げ足が遅いかわりに、牙を持つ。これによって肉食動物に対抗できる。あんなに大きな牙は、小さな顔には、とうてい収まらない。牙がデカいから、顔がデカいのだ。そして、顔がデカいから、首が短い。首が短いから、鼻が長い。
要するに、「鼻が長い」ことと、「首が短いこと」と、「顔がデカいこと」と、「牙が大きい」こととは、関連している。このように多数の形質がともに備わったものだけが生き延びることができる。どれか一つだけがあっても駄目なのだ。(鼻だけが長いというような)どれか一つだけなら、有利であるどころか、かえって不利なのだ。
そして、多数の形質がともに備わった個体が誕生する理由は、突然変異ではなくて、「不利なもの同士の交配」である。……この件もまた、クラス進化論で述べたとおり。
→ クラス進化論
( ※ 念のために解説。「牙がデカいから、顔がデカい」のは、当然だ。大きな牙を支えるために、顔がデカい。「顔がデカいから、首が短い」のも、当然だ。これは科学博物館のページに書いてあるとおり。「首が短いから、鼻が長い」のも、当然だ。科学博物館のページに書いてあるとおり。)
【 関連サイト 】
ゾウの進化については
→ 各種の画像
→ 進化の図
→ 図と説明
→ フォスファテリウム
→ Wikipedia の説明
関連する話題は
→ 科学博物館・特別展
本項には続編がある。
→ ゾウの鼻はなぜ長い 2
