2010年02月26日

◆ 人の鼻はなぜ高い?(何のため?)

 ゾウの鼻は長いが、人の鼻は高い。まわりの頬よりも隆起した鼻をもつ。そうなっているのは人間だけだ。
 ではなぜ、人間だけが高い鼻をもつのか? 人の鼻は何のためにあるのか? ──

 「鼻」という言葉に相当するもの(顔のなかで盛り上がった部分)をもつのは、人間だけである。他の動物は、同等のものをもたない。つまり、穴のあいた鼻はあるが、人間の鼻のように高くはない。
 以下の画像を参照。

  → チンパンジーゴリラ日本猿キツネ
  
 日本猿はちょっと人間に似ているが、それでも顔から出っぱった △ 状の部分はない。口と鼻のあたりの顔全体がふくらんでいるせいで、顔の中央部が鼻のように見えるだけかもしれない。

( ※ ここではさまざまな動物を掲げたが、実は、大事なのは、類人猿との比較だけだ。人間はキツネや猫から進化したのではなく、類人猿から進化したからだ。その点、チンパンジーもゴリラも、鼻がほとんど発達していない。この点に着目して、「人間の鼻はどうして発達しているのか?」と問うのがポイント。)
  
 ──

 この問題に対する私の回答は、二通りある。
  ・ 泳ぐため (鼻の穴に水が入らないため)
  ・ 発音のため

 二つあるので、順に述べる。

 泳ぐため


 人間の鼻が高いのは、なぜか? 鼻が高いこと自体が本質なのではない。鼻の穴が下に向いていることが本質なのだ。
 ではなぜ、鼻の穴は下を向いているのか? 泳ぐときに、鼻の穴に水が入らないためだ。簡単に言えば、泳ぐためだ。

 これは、「アクア説」(水生説)と同様だ。つまり、「人類は進化の過程で、水辺で過ごしたから、水辺で過ごすのに適した形態になった」というわけだ。
 実際、アクア説は、このような主張をしている。Wikipedia には、次の説明がある。
 「人の鼻の穴が下を向いているのは水が入りにくいように適応したためである」
 ( → Wikipedia

 ただし、次の点に留意。
 私の基本的な立場は、アクア説ではない。「半分だけのアクア説」ともいうべき「半水生説」である。この件は、前に述べたとおり。
  → 人類進化の水辺説(半・水生説)
 この主張は、「人間が水生動物であった」ということを意味しない。「岸辺で暮らすが、ときどきは泳ぐ」というだけのことだ。
 つまり、漁師みたいなものである。正確に言えば、(魚よりは魚貝類を捕るので)海女みたいなものである。

 ともあれ、人類は当初、海女みたいな生活をしていた。そこでは、鼻の穴が下向きである方が有利だった。というか、鼻の穴が下向きである個体のみが、水辺で有利になったので、それらの個体がどんどん増えていった。
 こうして人類の鼻の穴は、下向きになった。換言すれば、鼻は高くなった。

 ──
  
 [ 補足 ]
 「何のため?」という質問に、「泳ぐため」「発音のため」というふうに答えるのは、目的説である。
 しかし本当は、「原因説」で説明されるべきだろう。それによれば、次のようにも言える。
 「欧州人の鼻が大きくなったのは、寒冷地で、空気の保温・保湿のため」
 「モンゴロイドや北欧サーミ人の鼻が低いのは、気温が零下になるので、鼻の凍傷を防ぐため」
 ここでは、「〜のため」というふうに説明されるが、実際は、「そうしないと××の問題が起こるから」という原因説の形で説明される。
  ・ そうしないと、保温・保湿ができないから。
  ・ そうしないと、凍傷になるから。

 というふうに。
 ともあれ、アクア説で説明されるのは、アフリカ人までだ。欧州人の鼻が大きくて、東アジア人の鼻が低いことは、アクア説では説明しきれない。そこを説明するには、すぐ上のような説明が必要だろう。

( ※ 以上の「泳ぐため」という説および [ 補足 ]は、2011-07-30 に新たに書き加えた。この説を、新たに私の見解としたい。)
( ※ 一方、以下の「発音のため」という説は、本項を初めて書いた時点の見解。)

 発音のため


 本項を書いた時点( 2010-02-26 )では、次の見解を取った。
 「人間に鼻があるのは、言葉を発音するため」

 ( ※ 前々項・前項と同様だ。)
 
 これはどういうことかというと、鼻の外側部分が大事なのではなく、鼻の内側部分(鼻腔)が大事なのだ。
   → Wikipedia (鼻腔)  【 必見! 】
 
 ここにある図を見ればわかるように、鼻の本体は鼻腔なのだ。われわれが「鼻」と読んでいる部分は、鼻腔のカバーみたいなものにすぎない。たいていの動物は、そのカバーが貧弱である。人間の場合は、鼻腔全体が大きくて、鼻腔が発達しているので、立派なカバーがある。それが鼻だ。
 つまり、鼻の外側よりも、鼻の内側(= 鼻腔)が大事なのだ。

( ※ ここには、発想の転換がある。前々項では、「鼻の下の人中が凹んでいるのでなく、人中の両側が凸状になっているだけだ」という発想の転換をした。また、前項では、「唇は、赤いというよりは、柔らかい」という発想の転換をした。)

 ──

 では、鼻腔の目的は? 言葉を発音することである、というのが私の見解だ。

 Wikipedia には鼻腔の働きとして、「吸気の加湿、加温等」という説明がある。だが、それだったら、ホッキョクグマのように寒地適応した生物もまた、鼻腔が発達していいはずだ。その一方、アフリカで暮らしたホモ・サピエンスには、必要がなかったはずだ。
 ゆえに、「吸気の加湿、加温等」という説明は成立しない。そういう役割があるとしても、それは副次的なものにすぎない。

 Wikipedia には「発声時の共鳴作用」という説明がある。これが正しい。実際、鼻が詰まると、人間はうまく発音できない。特に、M音やN音は、鼻が詰まるとまともに発音できない。それ以外の音も、鼻が詰まるときれいに発音できない。
 特に、歌うときには顕著だ。鼻が詰まると、きれいに歌えない。風邪引きで鼻づまりの人の発音も、変ですね。

 ──

 まとめ。
  ・ 鼻の本体は、外側のカバー部分ではなく、内側の鼻腔である。
  ・ 大きな鼻腔の役割は、きれいな発音ができることである。
 というわけで、次の結論を得る。
 「人間だけに高い鼻があるのは、鼻腔が大きいからだが、それは、人間だけが言葉を発音するからである」



 [ 付記 ]
 ちょっと面白い事実もある。
 アフリカ人に比べて、白人(コーカソイド)は、鼻が発達している。つまり、鼻腔が大きい。それと同時に、子音の発達した言語を獲得した。(印欧語では子音の重要性が高い。*
 一方、黄色人種(モンゴロイド)のうち、寒地適応した新モンゴロイドは、鼻が縮小した。それと同時に、子音が発達しない言語、つまり、「弱い子音 + 母音」という形の言語となった。
 鼻の形と言語の発達状況とは、深い関係があるのだ。人々はそのことに気づいていないようだが。
 
 [ 脚注 ]
 * 印欧語では子音の重要性が高い、という点については、言語学で知られている。出典を知りたければ、言語学の本を読めばわかる。言学では常識なので、ここではいちいち出典を示さない。
 なお、言語学ならぬ言語科学という分野もあり、それによると、子音の発音では 1000Hz 以上の高音が主体となる。母音の発音では 300Hz ぐらいの低音が主体となる。
   → 参考図1参考図2 


 ──
 
 [ 補足 ] 
 犬などの動物の鼻については、下記のコメント欄に記しておいた。




 【 追記 】
 ホモ・サピエンスよりも前の、ネアンデルタール人や原人などはどうか? 
 実は、それは、化石からは判明しない。なぜなら、鼻は化石にならないからだ。
  → ネアンデルタール人の化石
  → アウストラロピテクスの化石

 頭蓋骨からわかるのは、「鼻の部分は穴になっている」ということだけだ。つまり、その外側にある「穴のカバー」としての鼻は、どんな形になっていたかはまったく不明である。(復元図などでは、立派な鼻を持っていることになっているが、それはあくまで現生人類からの類推であるに過ぎず、実際にどういう鼻であったかについての科学的な根拠は皆無である。)

 逆に言えば、このことから、次のことも結論できる。
 「ホモ・サピエンスが当初から立派な鼻を持っていたという証拠はない。当初のホモ・サピエンスも、ネアンデルタール人も、ホモ・エレクトスも、いずれもチンパンジーのような低い鼻を持つだけだったかもしれない」

 この可能性は、十分にある。というのは、そもそも、 穴のカバーとしての鼻は、骨には影響されないからだ。このことゆえに、容易に進化が起こる。(種の変化をともなう大進化を必要とせず、種の内部における小進化だけで鼻の大型化が起こる。)
 実際、北欧白人の鼻は大きく、北方系モンゴロイド(新モンゴロイド)の鼻は小さい。同じ種のなかでも人種差で容易に鼻の大小の差が出るのだ。
 このことからして、当初のホモ・サピエンスの鼻がきわめて低かったとしても、不思議ではない。

 とはいえ、現生人類の鼻は、どれもそこそこ高い。類人猿のように低い鼻を持つ人種はない。とすれば、鼻が高くなったのは、さまざまな人種が分岐した後ではなくて、ホモサピエンスという種が確立した当初であっただろう。具体的に言えば、ネアンデルタール人からホモ・サピエンス[の祖先]が分岐した 40〜60万年前ごろよりは後で、ホモサピエンスという種が確立したころである 20万年前よりは前だろう。つまり、40〜60万年前ごろと、20万年前ごろとの、間である。この時期に、先駆的ホモ・サピエンスの鼻は高くなっていったものと思える。というか、鼻の高くなった先駆的ホモ・サピエンスのみが、のちに進化して、ホモ・サピエスになったものと思える。
 では、なぜ? その理由は、言語だ。鼻の高くなった先駆的ホモ・サピエンスのみが、言語を使えるようになったので、優勢になって、数を増やしていったのだ。(鼻の高くならなかった先駆的ホモ・サピエンスは、言葉を使えないので、劣勢となり、数を減らして滅亡していった。)

 以上のことからして、鼻と言語の双方について、次のように結論できる。
 (i) ホモ・サピエンスの鼻が高くなった時期は、40〜60万年前ごろと、20万年前ごろとの、間である。この時期に、先駆的ホモ・サピエンスからホモ・サピエンスへの進化が起こったのだろう。
 (ii) この進化は、言語の発達を伴うものだった。換言すれば、この時期に、人類は徐々に言語を獲得していった。それはきわめて原始的な言語であり、たぶん少数の名詞をもつだけであっただろう。その後に徐々に動詞や形容詞を獲得していったかもしれないが、そうなるのはかなり後期になってからのことだろう。ともあれ、この時期(40〜60万年前と20万年前との間)に、現生人類は徐々に原始的な言語を獲得していったのだろう。

 要するに、次のことが言える。
  ・ 現生人類を生み出す進化は、言葉の発達をともなう進化だった。
  ・ それは鼻が高くなったことを理由とする進化だった。
  ・ その時期は、40〜60万年前と20万年前との間だった。

 これはあくまで推定であるが、十分に根拠のある推定である。それにしても、鼻の発達こそがホモ・サピエンスを生み出した、というのは、なかなか興味深いことだ。
 ホモ・サピエンスは、肉体的にネアンデルタール人やゴリラよりも劣り、体力差では勝てそうにない。しかしながら、弱体な体を補う知恵があるがゆえに、大幅に数を増やすことがでいた。そして、知恵をもたらしたのは言葉であるが、言葉をもたらしたのは高い鼻だったのである。

( ※ ついでだが、唇の発達も大きな影響があった。同じく言葉の発達に影響したからだ。次の項目を参照。 → 鼻の下の溝(人中)は何のため?
posted by 管理人 at 18:57| Comment(3) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
【 参考 】
 他の動物の鼻は、人間の鼻とはまったく違う構造をもつ。特に犬(など)の鼻は、黒くて濡れていることが多い。なぜ? 
  ・ 目的は、匂いを嗅ぐ嗅覚を鋭敏にするため。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1030628510
  ・ 生理構造は、分泌線から液体が出て、鼻を濡らすから。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q148850009

 猿は、木の果実を食べることが多くなったので、夜間行動や捕食などのために嗅覚を鋭敏にする必要がなくなってきた。そのせいで嗅覚の能力が下がり、同時に、黒くて濡れた鼻をもたない構造になっていった。(どちらかというと、苦みを感じる味覚を発達させたようだ。植物毒アルカロイドの危険を回避するため。)
Posted by 管理人 at 2010年02月26日 22:59
南堂様初めまして。niwanと申します。
以前よりこちらにお邪魔して、高速更新される記事を大変興味深く拝読しておりました。御意見には深く納得させられるばかりでなく、その依り処となる南堂様の価値観、倫理観が前向きで強く明るいものであるところにもいつも感銘を受けております。御挨拶が遅れまして申し訳ございません。

今回の唇の鼻の形状についての記事にはとても納得させられました。なるほど、蛇腹!日本語ではあまり強い発音ではありませんが、例えば中国語のp音等の有気音は、確かに人中を境に唇が牛乳パックの様に尖る事で発音を可能にしているなと思いました。

南堂様が仰る鼻や口の形状が発音に及ぼす影響について、医師や専門家がある程度言及している障害の一つに、妊娠中の女性がアルコールを摂取する事で子宮内の胎児に奇形や知能、精神上の遅滞等が生じる胎児性アルコール症候群(Fatal Alcohol Syndrome=FAS)という障害があるのですが、最近この障害についての文献を読む機会があり、読み進む内にこの障害と発音の関係についての記述が、南堂様の仰る鼻と唇の機能についての御意見の傍証になるのではないかと思いコメントさせて頂きました。既に御存じでしたら御容赦下さい。

FASは個人により発症の程度に差があり、全てのFAS児に必ず同じ症状が表れる訳ではありませんが、よく共通して見られる特徴的な奇形に
・人中に当たる部分が長く、溝が無い
・極端に薄く真っ直ぐな上唇
・殆んど鼻梁の見られない小さな鼻
等が挙げられます(他にも幾つかありますが割愛します)。これらの奇形については、南堂様が仰ったように鼻の共鳴作用が失われる事や口まわりが動かしにくいことから
・言葉の発音、特に子音の発声に困難を伴う
・口笛や息を吹き掛ける等の口を尖らせる仕種ができない
等の言葉の発音にかかる障害がよく見られます。
面白いのは、医師や専門家がこれらの特徴が言葉を発音する上での大きな障害になっていると明言しているにも関わらず、よって人間の人中や上唇の形状は発音の為にあのような形状になっているのだと発想する人間が居なかった、と言うところです。
実務でFASを扱う方からすれば当に専門外の事ですから、職務上人中や上唇が果たす機能についてそこまで深く考える必要は無いのですが、私も含め何人もの人がこの障害について何度も考え、同じ文献を何度も読み、人中や上唇の形状にある一定の特徴がある→発音が困難であると当然のように思っていながら、南堂様のように考える者が居なかった事がいっそ不思議だと感じました。一見簡単な事のように見えながら、誰もが考えつく事の無かった素晴らしい発想の転換ですね。

その他にも、FASには脳体積の減少や言葉によるコミュニケーションが不得手である事(自分の意思を言葉で表す能力、他人の言葉を理解する能力共に弱い)、IQは正常の範囲でも問題の解決に困難を伴う事が多い等、幾つかの参考になりそうな症状が見られますが、これらの特徴については、胎児の週齢と曝露されたアルコール量及び障害が発生する脳の部位との関係が未だはっきりとは分かっていない為、割愛させて頂きました。
それでは長文大変失礼致しました。南堂様の記事を拝読した折に私の拙い知識からふと出た思いつきですので、的を得ているか甚だ不安ではありますがお耳汚しまで。
次の記事も楽しみにしております。失礼致しました。
Posted by niwan at 2010年03月09日 00:02
本項前半を新たに加筆しました。 2011-07-30

 ──

 本項前半の最後に [ 補足 ] を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2011年07月30日 22:08
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ