
ではなぜ、人間だけが赤い唇をもつのか? 「言葉を発音するため」というのが、私の仮説だ。 ──
人の唇は赤い。そういう唇を持つのは、哺乳類のなかでも人間だけだ。ではなぜ、人間だけはそうなのか?
構造的に言えば、赤い部分は粘膜である。つまり、口の内側の部分だ。人間の場合、口の内側の粘膜状の部分が、外にはみ出しているので、粘膜状の唇があるわけだ。
ではなぜ、そうなっているのか?
──
広く知られた説は、次のようなものだ。
「性的アピールのため」
しかし、これはおかしい。いわゆる性淘汰説に従うのなら、性的アピールをする側だけがその形質をもつ。人間ならば、女性の側だけが赤い唇を持てばいい。男の方は赤い唇は不要だ。実際、口紅を塗るのは女だけであり、男は口紅を塗らない。
だから、上記の説は成立しない。
( ※ また、もしその説が成立するなら、他の動物だって、唇が赤くなっていいはずだ。たとえばチンパンジーやゴリラも。しかし、そうなっていない。)
( ※ そもそも、話が逆である。唇が赤いからそこに性的アピールを感じるだけのことだ。もともと唇が赤くなければ、唇が赤い個体は「奇形」または「病気」と思われるだけだ。たとえば、口紅なしで黄金色に輝く唇をもっている女性がいたら、気持ち悪い。)
( ※ そもそも、唇は赤くない。本当は薄紫みたいな色だ。稀に鮮やかな赤い唇をもつ人もいる * が、そういうタイプの人が自然淘汰で有利になるということはない。 ( * → 検索 )
【 追記 】
「性的アピールのため」
という説は、科学的に明確に否定できる。
仮に「性的アピールのため」であるとすれば、第二次性徴とともにその性質が拡大するはずだ。つまり、思春期になると、女性の唇は赤く大きくなるはずだ。(その方が女らしい。)逆に、男性の唇は目立たない色になって縮小するはずだ。(その方が男らしい。)
現実には、そうではない。子供も女も男も、唇はみな同様である。これはつまり、唇には「性的アピール」の効果がないことを意味する。
余談だが、女性の唇は赤く大きくなっても、性的アピールの効果はない。たとえば、井上和香という女性タレントの唇は赤くて大きいが、それは魅力的というよりは、気持ち悪く見えたりする。島田紳助は「タラコ唇」と言って馬鹿にした。
これを「侮辱だ!」「差別表現だ!」と思う人もいるだろう。そして、そう思う人がいるということ自体、大きい唇は魅力を持たないことを意味する。
なお、唇に性的アピールを感じるのは、見て印象的であるからではなくて、キスを想像するからだ。そこにあるのは、「触感への想像力」だけである。赤いことや大きいことに意味があるのではない。
ちなみに、セクシーな唇というのは、井上和香みたいに「赤くて大きい唇」ではなくて、板野友美みたいに「キスして気持ちよさそうな形の唇」である。このことからしても、「性的魅力のために赤い」という説は否定される。
では、性的アピールのためでないとしたら、何のためか? 私は次のように考える。
「粘膜状の唇は、赤いことに意味があるのではなく、柔らかいことに意味がある。なぜ柔らかいかというと、言葉を発音するためだ」
この件は、前項で述べた。前項を参照してほしい。
→ 鼻の下の溝(人中)は何のため?
【 関連項目 】
→ 人の鼻はなぜ高い? (次項)
【 参考 】
前項のコメント欄には、「舌もそうだろう」という読者コメントがあった。
なるほど。舌もまた、言葉を発音するために、自由に動くのかも。と思って調べると……
Wikipedia の記述には、次のようにある。
ほ乳類、は虫類では舌は筋肉質で、動かし方に自由度が高いため、様々なものを操作するのに使われる。Wikipedia によると、人間以外でも、手のない動物は手のかわりに舌を使うから、けっこう舌が発達しているようだ。とすると、人間だけ舌が発達しているとは言えないようだ。
哺乳類の場合、サル以外の動物は指先が器用でなく、もっとも細かな操作ができるのが口と舌である場合が多い。そのため、体をぬぐうこと、治療のために傷口をきれいにすることなどは口と舌を使って行う。
実際、舌を使って人間をペロリとなめる犬や馬もいる。
→ 馬に舐められた人
こういうのは、馬はできても、人間はできないこともある。
ま、舌を使って口の外のものをいじるのは、日本人はあまり得意じゃなさそうだ。フランス人はともかく。 (^^);
( ※ では、カメレオンの舌はどうか? 単に伸び縮みするだけでしょう。
→ カメレオンの舌 ,その誤解 )
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