2009年12月07日

◆ ピグー・クラブ・マニフェスト

 環境保護のためには、社会や環境にとって悪いものに課税すればいい、という立場がある。この立場から、ピグー・クラブ・マニフェストというものが宣言された。 ──
 
 これは最近の話題ではなく、1〜3年ぐらい前の話題だ。ただ最近、民主党が、ガソリン暫定税率の廃止ということを主張している。そこで、それが間違っていることを示すために、本項の話題を取り上げる。(論拠として。)

 まず、概念は、「ピグー税」と呼ばれる。「環境に悪いものに課税すればいい」という発想だ。
   → Wikipedia

 これに基づいて、「ガソリン税を増税せよ」という提言がなされた。経済学者のマンキューによる。(原文は、英文。3年ほど前。)
  → The Pigou Club Manifesto

 翻訳しようかと思ったが、ネット上に翻訳が見出せた。そのうち、要点だけ抜粋すると、次の通り。
  1. 環境上の理由
  2. 道路の混雑の緩和
  3. 規制の簡素化
  4. 予算
  5. 税の帰着
  6. 経済成長
  7. 国家安全保障
 より詳しい話は、リンク先を見てほしい。(二つある。)
  → ピグー・クラブ・マニフェストの 抄訳翻訳
 
  ────────────

 ここまでは、紹介だ。このあとは、私の見解を述べよう。
 ピグー税(環境税)に対比されるものは、何かというと、排出権取引だ。では、両者を比べると、どうか?
 池田信夫は次のように述べている。
 排出権取引による統制経済は莫大な経済的損失をもたらす:今週のMankiw's Blogでも指摘しているように、この種の絶対的基準のはっきりしない問題には、Coase型(財産権方式)よりもPigou型(課税方式)の政策のほうが望ましいのだ。
( → 池田信夫ブログ
 これはちょっとおかしいですね。排出権取引は、市場で売買されるのだから、統制経済ではない。また、莫大な経済的損失をもたらすということはないだろう。見かけ上は経済的損失のよう見えるが、取引自体は何も損失をもたらさない。単に所得が移転するだけだ。
 で、所得はどう移転するかというと、たいていはまともなのだが、一部が投機家に回ってしまう。その分、配分に非効率さが生じる。そこが難点だ。(配分の問題。不公正になる問題。)

 ──

 私なりに結論を言うなら、ピグー税の評価は、次のようになる。
 (1) 悪いもの(炭酸ガス・有害ガス・交通混雑など)を、効率的に除去するという点では、ピグー税がいい。市場原理にいっそうよく従うので、いっそう効率的に悪いものを除去できる。(投機が介在するデメリットもない。)
 (2) 良いもの(森林維持や植林)を推進するという方法は、ない。良いものを非課税にすることはできても、良いものへの補助金は出ない。したがって、森林を増やすという効果はない。


 比喩的に言うと、ピグー税は、タバコで紫煙を出す人に課税する。しかし、紫煙を浄化する人がいても、非課税にするだけであり、補助金を出すことはしない。悪を減らすことはできるが、善を増やすことはできない。

 ──

 市場原理主義者ならば、(1) の点だけに着目して、「いっそう効率的だ」と称賛するだろう。(池田信夫はそうだ。)
 しかし、もともとのマンキューの説は、単に「ピグー税を導入せよ」と述べているだけであり、「排出権取引よりも好ましい」と主張しているわけではあるまい。
 悪を減らすことがどれほど効率的にできても、それは善を増やすことには関与しない。(ピグー税の限界。)

 ──

 私なりに提案するなら、両者を折衷するといいだろう。次のように。
 「悪いものについては、ピグー税を課税する。良いものについては、ピグー税の収入を、再配分(還元)する」

 具体的には、ピグー税の税収(の一部)を、(地球規模で)森林保有面積に比例して配分するといい。
  ・ アラブのような砂漠地帯の国では、収入がゼロ。
  ・ ブラジルのような熱帯雨林のある地域では、莫大な収入を得る。
 つまり、良いことをする国ほど、お金をもらえる。

 こうすれば、ブラジルのような地域では、熱帯雨林をどんどん削除すれば、もらえる金がどんどん減っていく。
 日本は、多大な森林があるので、かなりの収入を得ることができる。一方、欧州は、森林をどんどん伐採して市街地にしていったので、あまり収入を得られない。
 日本では平地が少なくて山地が多い。そのことが不便だと見なされていたが、ここでは一転して、国レベルの利益となる。……ただし、欧州はエゴイストだらけだから、この案を飲むとは思えないが。
 ま、とりあえず、提案しておこう。

 《 つけたし 》

 で、何が言いたいか? こうだ。
 「民主党のガソリン暫定税率の廃止というのは、とんでもない間違いだ」

 民主党は、ガソリン暫定税率の廃止の一部を、環境税の導入で相殺しようとしている。だが、単に炭酸ガスの削減だけを考えていては駄目だ。交通混雑,交通事故死,騒音,花粉症……などの諸悪は、自動車だけにあるからだ。自動車には、炭酸ガス以外の悪がいっぱいある。なのに、それを無視して、いっぱい悪のある自動車だけを減税にするなんて、頭がイカレている。(強盗犯を免罪して、コソ泥を重罪にするようなものだ。)
 そもそも、税の趣旨に反する。ガソリン税を上げれば、人々は自動車をやめて電車の利用を増やす。あるいは、無駄なドライブを減らす。しかし、一般家庭のガスや灯油に課税しても、ガスや灯油の使用量を減らすことにはつながらない。というのはもともと無駄は少ないからだ。むしろ、調理のガス代を減らそうとして、弱火にして、ガスが消えて、ガス中毒で死者が出たら、取り返しのつかない問題となる。あるいは、ガス中毒にともなって、ガス爆発の火事が起こるかもしれない。一方、自動車の無駄なドライブを減らせば、交通事故を減らすというような、副次的なメリットが出る。
 要するに、課税は、「悪の度合い」に比例して課税するべきなのであり、炭酸ガスの排出量に比例するのではない。民主党は、炭酸ガスばかりにとらわれたせいで、炭酸ガスを減らそうとして、悪を増やす政策を取っている。
 悪の政党。悪党と呼ぶべきか。  (^^);

 ──

 ※ なお、マンキューの提案は、「ピグー税」というよりは、ただの「ガソリン税」である。その意味でも、民主党の方針が、まったく駄目であることがよくわかる。



 [ 付記 ]
 欧州はきれいごとを言っているが、しょせんは考えていることは汚い。その証拠が、炭酸ガスの基準年を 90年にすることだ。この件は、前にも言及したことがある。
 温暖化ガスの削減は、基準年を 90年とするか 95年とするかで、結果が異なるという。欧州は 90年の排出量が多かった。その後、努力で炭酸ガスを減らせた。そこで、基準年を 90年にすると、それだけで以後の削減目標は楽々達成となる。そこで、欧州は自分たちが何もしないでも削減目標を達成できるように、基準年を 90年にしろと強硬に主張したという。(読売・朝刊・コラム 2009-10-12 )
( → 泉の波立ち 10月14日
 自分たちが悪だった時点を基準に取ることで、「あのころよりもこんなに改善しました」と威張って、自分を善人に見せかける。かつて悪党であればあるほど、自分を善人に見せかける。そのあげく、昔からずっと善人だったという日本を、「少しも改善していないから、おまえは悪だ」と批判する。
 ペテンですね。
  


 【 追記 】
 排出権取引とピグー税の優劣について考えよう。
 池田信夫は「排出権取引よりもピグー税の方がいいとマンキューが述べている」と書いている。だが、そんなことはない、ということを、下記ブログは示している。その上で、どちらがいいかを調べているが、特にはっきりとした優劣はないようだ。
   → 排出権取引と炭素税との経済学的優劣

 マンキューなどの説では、「ピグー税は政府の歳入になるから有利」ということだが、それはつまり、環境改善に役立てるべき植林などの費用を、政府が横取りしてしまうということだから、かえって逆効果だろう。
 排出権取引の場合には、「どの分野で削減するか」という割り当てを、最も合理的な方法で経済的に決めることができる。配分が最適化する。その一方、税方式では、政府が恣意的に決めるが、その方法が最適だとは限らない。たとえば、日本の民主党は、「環境税」の名のもとで、ガソリン税ばかりを極端に減税しようとしているが、ここではガソリンについてのみ(追加となる)環境税がマイナスになることになる。滅茶苦茶。

( ※ 「ガソリン税は高いぞ」という声もあるかもしれないが、あれは道路建設費と道路補修費と道路の土地の利用代だ。……ちなみに、鉄道利用者は、これらの料金をすべて払っている。土地買収費もね。)
( ※ 民主党は、ガソリン税・暫定税の名前を「環境税」として、環境保護のために使うように見せかけているが、実際には、道路建設費・補修費などに使われるわけだから、詐欺も同然だろう。どうしても環境税という名前にするのであれば、公共財産である道路はすべて民営化して、すべて有料道路にするべきだ。その上で、走行距離に応じて、利用者から道路利用料を徴収する。……となれば、実質的には、それはガソリン税と同じことになる。  (^^);  )
( ※ 要するに、民主党のやっていることは、滅茶苦茶と詐欺である。「炭酸ガスの 25%削減」と口先では言いながら、実際にやっていることはその正反対。ペテン師。小泉と同様だな。同じ穴のムジナ。)
posted by 管理人 at 19:11 | Comment(0) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
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