( ※ 本項の実際の掲載日は 2009-12-01 です。)
朝日新聞(朝刊・特集 2009-12-01 )が、民主党の事業仕分けの詳細を報道した。各項目について20字程度で説明している。紹介しよう。
- 競争的資金・若手研究者育成 …… 予算削減。成果目標が明確でない。
- 放射光施設スプリング8 …… 予算削減。投資額に見合う成果がない。
- 外国人研究者招聘事業 …… 予算削減。成果の検証がない。
- バイオリソース事業 …… 予算削減。投資額に見合う成果がない。
- 植物科学研究 …… 予算削減。投資額に見合う成果がない。
- 先端医療研究 …… 20%〜3分の1削減。検証が不十分。
- 宇宙開発・宇宙ステーション補給機 …… 予算 10%程度削減。効率化が必要。
- 次世代スパコンの推進 …… 事業凍結。見通しが不透明でリスク大きい。
これらをまとめれば、次のように言える。
「投資をしても、それに見合う利益を生まない。科学は金を食うばかりで、ちっとも儲からない。儲からない事業はやめてしまえ」
しかし、これは、科学研究や教育などを否定する発想だ。本当にそう思うのであれば、次のように主張するべきだ。
「科学研究は、みんな儲からないから、科学研究はすべて廃止するべきだ。大学も研究機関も、みんなつぶしてしまえ」
それが論理というものだ。彼らが「2割削減」などと主張しているのは、自己矛盾も甚だしい。「あらゆる科学研究を廃止せよ」と唱えるべきだろう。(彼らの論理に従えば、だが。)
そもそも、科学研究というものは、商売ではない。それは本質的に利益を生まない。利益を生むのは、十年以上先であることも多い。とすれば、もともと商売としての投資にはなじまない。
そういうものに、採算性みたいな尺度を持ち出すのであれば、すべてを廃止するしかあるまい。
さらには、教育や福祉も同様だ。これらも全部廃止するべきだろう。(彼らの論理に従えば。)
「小学校も中学校も高校も、予算ばかり食って、利益を生まない。ゆえに教育はすべて廃止するべきだ」
「福祉事業も、金食い虫だ。ゆえに、福祉はすべて、廃止するべきだ」
こういうふうに語るべきだ。
で、それで浮いたお金を、どうするか? 国民に還元するか? つまり、減税に回すか? 違う。特定の業界だけで奪い取ろうとする。
・ 高速道路無料化と暫定税率の廃止。数兆円規模。
(直嶋経産省の属する自動車業界が食い物にする。)
・ 中小企業の倒産を国家が肩代わりするために6兆円。( → 記事 )
(石原銀行と同様。中小企業の票が目当ての社民党・国民党。)
こういうところで、数兆円規模の浪費をする。で、そこでは、どれほど効率性があり、どれほどの採算性があるのか? もちろん皆無だ。 (^^);
要するに、自分の好き勝手に、予算をぶんどるわけだ。これはもう、民主党は、自民党よりもタチが悪いですね。自民党は、箱物予算の一部をかすめ取るだけだったが、民主党は、科学や文化の予算を削りに削って、自動車産業に数兆円もの金を回そうとする。自動車産業による、国家の私物化。ひどすぎる。
──
なお、事業仕分けについて、細かく見て、各論で論じよう。
・ 競争的資金・若手研究者育成 …… 予算削減。成果目標が明確でない。
・ 放射光施設スプリング8 …… 予算削減。投資額に見合う成果がない。
・ 外国人研究者招聘事業 …… 予算削減。成果の検証がない。
これらについては、前述の通り。(科学は採算性がないのは当然。)
・ バイオリソース事業 …… 予算削減。投資額に見合う成果がない。
・ 植物科学研究 …… 予算削減。投資額に見合う成果がない。
・ 先端医療研究 …… 20%〜3分の1削減。検証が不十分。
これらを削減すれば、過去の蓄積を破壊してしまうことになる。2割の予算削減により、2割以上の富を捨ててしまうことになる。1000億円の資産の維持費が 100億円だとして、維持費を 20億円節約するために、200億円の富を捨ててしまう。狂気の沙汰だ。
・ 宇宙開発・宇宙ステーション補給機 …… 予算 10%程度削減。効率化が必要。
宇宙開発には、無駄や余剰こそ、安全性のために必要だ。効率性を重視すれば、「システムの二重性」などの安全策が取れなくなる。その場合、ちょっとしたミスによって、ロケット全体が失敗してしまう。宇宙開発においては、「安全性」こそが最優先であり、そのためには、「効率性をあえて下げる」ことが絶対に必要なのだ。
ここでは、「非効率な成功」こそが大事なのであり、「効率的な失敗」は意味がない。効率性ばかりにとらわれていると、最悪の結果を招く。次の動画を見てほしいものだ。「こんなこともあろうかと」思って、たぶん無駄になりそうな対策をきちんと用意しておいたからこそ、いざというときに全滅を免れたのだ。
→ 探査機はやぶさ ( → その詳細 )
ついでに言えば、十年かそこら前のロケット開発では、打ち上げが失敗したことがある。それは、予算が削減されて、地上実験が不十分であったためだったらしい。実験予算を削ったせいで、ロケットそのものがパーになる。元も子もない、とはこのことだ。
・ 次世代スパコン …… 事業凍結。見通しが不透明でリスク大きい。
見通しが不透明でリスクが大きいからこそ、国の補助金が必要となる。そのことは米国だってわかっているから、米国は日本以上に、スパコン産業に補助金を投入している。( → 「各種スパコンの評価」 コメント欄 )
先端科学事業は、もともと採算性には乗らないものだ。科学研究は、見通しが不透明でリスクが大きいのが当然なのだ。それに対して、「事業としての採算性」を持ち出すのでは、「科学研究そのものを否定している」というしかない。
結論。
事業でもないものを「事業」と見なして、目に見える成果(採算性みたいなもの)を求めるということ自体が、根本的に狂っている。
なるほど、政府には、さまざまな事業がある。公共事業など。そこでは採算性みたいな尺度を取ることが大切だ。
しかし、科学研究や文化は、事業ではない。そこでは採算性みたいな尺度を取る時点で、「すべて全廃」という結論しか出ない。(民主党みたいに「2割減」みたいな方針を出すのは自己矛盾だ。「全廃」しかありえない。)
こういうふうに狂気的なことをやる時点で、民主党は根源的に狂っている。やるべきことは、むしろ正反対だ。つまり、「科学研究や文化の大幅拡充」だ。民主党みたいな発想をすれば、この世の子供たちは、「子供は利益を生まない」という理屈で、すべて殺されかねない。
──
《 参考1 》
別項では、「無用の用」を述べた。
→ 怠け蟻 … 無用の用
仕分け人にかかれば、こういう「無用の用」は理解できまい。
もし勤勉な蟻の世界に、仕分け人がいたら、「もっと働け、無駄をなくせ」と叱咤されたあげく、全滅してしまうだろう。
蟻の世界に仕分け人がいなくてよかったですね。
《 参考2 》
「日本人の絶滅」は、まんざら冗談ではなさそうだ。というのは、今回の事業仕分けで壊滅的打撃を受けるのは、科学研究費だけではないからだ。たとえば、新国立劇場のバレエ団の費用が半減または3分の1減になり、このままでは団の維持もできなくなって、壊滅状態になりそうだという。( → 読売・夕刊 2009-12-01 )
実を言うと、男性は別として、女性バレリーナでプロと言えるのは、新国立劇場のバレエ団だけだ。清貧ではあるが、ともかくプロ。それが消滅するとなると日本にはプロのバレエ団が消えてしまうことになる。文化の破壊。
こんなことをやっていると、クラシック音楽も消えてしまいそうだし、あれやこれやと、文化が消滅しそうだ。あとに残るのは高速道路だけか。箱物をつぶすのには熱心だが、高速道路とガソリン浪費ばかりが優先される。
さっさと滅びてしまった方が、世界人類のためになるかも。 (^^);
※ 以下は補足的な話。
[ 付記1 ]
事業仕分けでは、特に、次の三点が問題だ。
「予算の理由は要求されるが、削減の理由を要求されない」
「裁判で言えば、検事が裁判官をかねている」
「裁判で言えば、証人・参考人となる者の証言がない」
こんな人民裁判みたいなやり方では、とうてい、公正さは望めない。ただの吊し上げだ。もはや法治国家の体をなしていない。独裁的。
[ 付記2 ]
「巨額な事業をするならば、それを国民にわかりやすく説明しなければならない。さもなくば、ばっさり切る」
というのが仕分け人の方針だ。朝日の記事の解説者もそれを支持している。しかしそれは根本的な勘違いだ。
第1に、そのような説明は、先端科学では困難だ。今回のスパコンでも、その必要性をわかりやすく説明している人は、ネット上には私ぐらいしかいない。プレゼン能力の高い人はめったにいないのだ。しかし、プレゼン能力がないからといって、事業をばっさり切るというのでは、本末転倒だろう。(口先三寸の詐欺師ばかりが生き残り、真面目な研究者はみんな滅びる。)
第2に、そのような説明は、文科省の役人に求めるべきではない。むしろ、担当者(今回では富士通の人)に尋ねるべきだ。尋ねる相手を間違えている。文科省の役人は、富士通の声を聞いて、それに対して諾否をするだけだ。さらに、文科省の説明を聞いて、頭のいい財務省の主計官が判断する。その際、大量の説明を読むこともあるだろう。一方、今回の仕分けでは、頭の悪い仕分け人がちょっと話を聞くだけだ。しかも話のポイントは、事業の有用性ではなくて、採算性だけだ。相手が事業の有用性を説明しようとすると、「そんなことは聞いていません」と遮って、「採算に乗るかどうかを聞いているんです。どうなんです、採算に乗るんですか?」と尋ね、「採算には乗りません」と答えられると、「じゃ、無駄な事業ですね。予算削減・廃止」と結論する。
「国民にわかりやすく説明できなければ予算削除」なんていう方針を取れば、難解な先端科学はすべて廃止となる。池田信夫でさえ全然理解できないようなことを、さらに馬鹿な仕分け人が理解できるはずがない。そして、「馬鹿な自分が理解できないから」という理由で、大事なものがつぶされていく。
ポル・ポトと同じですね。国家破壊。
[ 付記3 ]
そもそも、仕分け人は、やるべきことが正反対だ。「日本の科学研究費は極端に少ない」という事実があるのだから、科学研究費の総額を大幅にアップするべきであり、そのあとで、研究費の配分を考えればいい。増やす仕分けをするべきであり、減らす仕分けをするべきではない。
方向が正反対。病人の病気を治す必要があるときに、治療費を削って病気を悪化させることめざしている。
[ 付記4 ]
やたらと「コストの低いものがいい」「安いものがいい」という貧乏くさい発想は、考え物だ。歴史を見るといい。
マイクロソフトは最初の MS-DOS を無償で供与した。そのことで圧倒的なシェアを得た。しかしその後、MS-DOS は有償化された。こうして独占体制を確立したあとで、Windows を高値で売りつけている。その利益率は4割程度。日本は毎年毎年、何百億円もの不当利益をマイクロソフトに与えている。(独占状態による過大利益。)
さらには、マイクロソフトは Windows 7 の発売にともなって、WindowsXP の発売を来年には停止する。そのことで、WindowsXP を必要とするユーザーに大迷惑をかけることになる。こうして世界中のIT状況が、マイクロソフトの横暴に左右されてしまう。
それというのも、「安いものを買えればいい」という発想で、ライバル(競争者)を存在させなかったからだ。安いものを買えば、後ではかえって高くつくのである。
[ 付記5 ]
池田信夫にしてもそうだが、科学研究に採算性や効率性を持ち出すよりは、高速道路やガソリンの浪費とか、中小企業への徳政令(石原銀行の国家版)とか、そういう阿呆な問題を直すことの方が、よほどまともだろうに。
( ※ 石原銀行では、暴力団関係者が中小企業を設立して、東京都から数百万〜数億円規模の借金をして、それを踏み倒した例が続出した。こうして都民の血税が、大量に暴力団関係者に渡った。その規模は総額で千億円を上回る。……これには呆れたものだが、民主党はそれを6兆円規模で実施しようとしている。)

ソニーのプレステ3の CPU である Cell というプロセッサは、小さなプロセッサが8つ搭載されているが、そのうち7つだけが働いて、残りの1個は働かない。つまり、無駄になっている。要するに、わざと効率を落としてあるのだ。
では、なぜ?
その答えは、下記にある。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL_LEAF/20050518/104776/
なるほど、公共事業については、それは当てはまる。しかし、本項で述べた科学研究については当てはまらない。無駄だけでなく本体部分を大幅に削るからだ。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3.pdf
比喩で言えば、「体重5%削減」ならば、無駄を削るだけで済む。しかし、「体重3割減」「半減」となれば、必要な筋肉や内臓を削る結果となり、人間は死んでしまいかねない。
なお、研究現場のことを知らない人が多いようだが、大学の場合、学会に行くための旅費さえまともに支払われない。関係学会が年に3回あるとして、1回分ぐらいしか支払われないから、2回は行けなくなるか、自腹で行くか、どちらかだ。
日本の学術研究の予算は先進国で最低レベルだ、ということを忘れてはならない。