2009年11月27日

◆ 池田信夫のスパコン論 1

 スパコンの話の余談。
 池田信夫がいかにデタラメばかりを書いているかを列挙する。 ──
      ( ※ 本項の実際の掲載日は 2009-11-29 です。)


 どこが間違いかというのは、これまでの話を読めば明白だから、いちいち説明しない。着色して引用したあとで、ポイントを簡単に指摘するのみ。

 (1)
 国内最高速のスパコンが3800万円でできる時代に、それと大差ないマシンに1200億円もの税金を投入することは正当化できない。( → 出典

( ※ 今回のものは GPU タイプとは全然異なる。「大差ない」というのは誤り。自分が知らないだけ。)

 (2)
 もし国際入札で富士通のスパコンが選ばれていれば、何の問題もない。 ( → 出典

( ※ 買うことばかり考えていて、作ることを考えていない。)

 (3)
 世界に通用するコストで製品開発できない限り、日本のIT産業に未来はない。( → 出典

( ※ 補助金をやめればコストが下がるのではなく、スパコン産業が消滅するだけ。魚が陸に上がれば足が生えるのではなく、魚が干上がるだけ。)

 (4)
 理研のスパコンが有害な最大の原因は価格が高いことではなく、こういう袋小路の技術に多数の優秀なエンジニアを閉じ込めることです。( → 出典

( ※ 「袋小路の技術」と称するのは、スパコンについて無知なだけ。)

 (5)
 80年代に通産省が「メインフレームの次はスパコンや人工知能だ」と信じて、こうした大艦巨砲型コンピュータに巨額の国費を投入したとき、コンピュータの主流はPCに移っており、日本はその波に10年以上も乗り遅れました。コンピュータ・メーカーの第一線のエンジニアが大艦巨砲プロジェクトに投入され、「おもちゃ」と見られていたPCの開発に真剣に取り組まなかったからです。( → 出典

( ※ 富士通でスパコンや人工知能をやっていたのは、ごく一部のみ。大多数は FM-TOWNS みたいなのをやっていた。だいたい、パソコンはもはや組み立て産業になっていた。IBMは利口だから撤退した。パソコン組み立て産業はもはや先端産業ではない。)

 (6)
 この立ち後れがその後も尾を引き、今では日本のコンピュータ産業は台湾やシンガポールにも及ばない。( → 出典

( ※ 労働集約産業は途上国に移る、というだけのこと。別に、米国や欧州が自国内で生産しているわけじゃない。)

 (7)
 NECや日立が降りたのも、こういう時代遅れのコンピュータの開発にエンジニアを投入していては、経営が危うくなると考えたからでしょう。( → 出典

( ※ NECや日立が降りたのは、ベクトル型が駄目だからで、スパコンそのものが駄目だったからではない。)

 (8)
 残った富士通が世界のどこにも売れる見込みのない高価なスパコンを開発することは、税金ばかりでなく人材の浪費であり、すでに瀕死の状態になっている日本のコンピュータ産業に、致命的な打撃を与えるでしょう。( → 出典

( ※ 売れないのは事実だが、売れない物はつぶしてしまえ、というあなたの発想が、致命的な打撃を与える。)

 (9)
 政府が「科学技術立国」をめざすなら、重要なのは理研のような恐竜型システムを延命することではなく、長崎大のような破壊的イノベーションを生み出すことです。 ( → 出典

( ※ 理研がどれほど業績を上げているのかも知らないらしい。また、長崎大のが、ごく小さな業績にすぎないことも、理解できていないらしい。長崎大のが賞をもらったのは、「コストが低い割に頑張った」という賞だ。貧乏人向けの賞。わかっていないね。)

 (10)
 理研のスパコン計画は、いったん立ち止まって根本的に考え直すべきです。( → 出典

( ※ 一年の遅れは、致命的だ。一年の遅れを取り戻すには 10年かかるともいわれている。赤の女王仮説というものがあり、「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」と言われる。)

 (11)
 総工費1150億円で建設される予定の京速計算機。……この1150億円というのは、現段階の建設費だけの見積もりにすぎない。…… 1150億円というハコモノの予算。( → 出典

 1150億円(当時)は、総工費(箱物の費用)ではなくて、総事業費(開発費を含む)だ。正しくは、「設計で500億、建設で700億かかる」という数値がある。( → 出典(コメント欄) )また、建設のうち、高価な機器の費用もある。箱物は建設の何割かにすぎない。池田信夫は経済学者のくせに、事業の費用さえも理解できていない。

 (12)
 今日のスカラ型スパコンは、能澤徹氏も指摘するように「スパコンの技術が民生用に応用される」のではなく、その逆に民生用のCPUをつないだものだ。そのCPUもサンマイクロシステムズのSPARC64であり、「日の丸技術」でさえない。 ( → 出典

( ※ 完璧な誤認。CPU は、サンの SPARC64 ではなくて、富士通の SPARC64 VIIIfx 。これは今のところ民生用ではない。また、SPARC はサンの技術ではなく、サンと富士通が共有するオープンアーキテクチャーだ。 → Wikipedia



 [ 付記1 ]
 池田信夫が駄目なのは、半導体技術のことを何もわかっていないで論じている、という点だ。素人でありながら、自分が素人であることを自覚できない。
 彼は GPU とはどんなものであるかも知っていない。せいぜい「画像処理チップ」と機能を認識しているだけで、チップの構造がどういうものであるかを理解していない。だから、GPU による処理は限定的なものであり、使える用途も限定的だ、ということが理解できないのだろう。
 GPU で使える計算は多体問題ぐらいしかない、というのが専門家の指摘だが、たとえそう知らされていなくても、GPU というものの構造を理解していれば、用途が非常に限定されるのはわかるはずだ。
 そして、彼はその基礎知識がないから、単に新聞報道だけを読んで、「 GPU のスパコンは破壊的イノベーションだ」なんていう勘違いをする。

 彼がこのように勘違いをするのは、彼の素人的な無知が理由だが、その勘違いを放置するのは、彼の傲慢さによる。
 そもそも、普通の人間であれば、自分の無知さ加減を理解できる。いくらスパコンについて知っているとしても、スパコンの専門家ほどには理解していない、と理解できる。とすれば、専門家が「スパコンは有益だ」と語るのを聞いて、「自分は何か理解できていないな」と反省するはずだ。
 そういう謙虚さがあれば、自分が専門家とは異なる見解を出したときに、自分の誤りを知ろうとする。しかし彼は、謙虚さはなく、傲慢さがある。自分が何かを間違えたときには、「自分が間違っているな」と考えて、自分が間違っている理由を探るかわりに、「自分は正しい」と主張して、自分が正しいことを説明するための論拠ばかりを追い求める。……こういう形で、入手する情報が偏り、真実を述べる情報を入手できなくなる。

 傲慢さは目を曇らせ、真実に対して盲目にさせる。そのことを、池田信夫は教えてくれる。彼はその傲慢さによる迷走によって、「こうなってはいけないよ」という見本を示し、人々のための反面教師になってくれている。
 彼はピエロであるが、ピエロであるがゆえに、結構役立つものだ。彼が「おれは正しい!」とふんぞりかえるほど、人々は「あはは」と笑うことができる。そして、「自分は威張ったブルドックみたいにはなるまい」と、わが身を振り返るのである。
 
 [ 付記2 ]
 彼のもう一つ駄目な点は、自説を徹底し切れていないところだ。
 なるほど、「効率向上、コスト低下」という発想をするのもいい。しかし、それだったら、その発想を貫徹するべきだ。つまり、「富士通を中国に売却する」という方針を取るべきだ。(前出)
 彼みたいに、単に「開発中止」をするだけでは、「損切り」をするだけであり、過去の赤字を消すことはできない。しかし、「富士通を中国に売却する」ことにすれば、赤字の多くを回収できる。
 彼が市場原理主義を貫徹して、「金が大事」「金がすべて」という発想をするのなら、そういう方針を取るべきだ。自説を貫徹できないところに、彼の弱点がある。(自説を貫徹すると破綻する、という問題を突き詰めることができないからだ。)
   


 【 追記 】
 ( ※ 細かな話なので、読まなくてもよい。)
 
 前述の牧野淳一郎(敬称略)が、池田信夫の見解に反論している。「自説を誤用された」というような趣旨。
 → http://www.artcompsci.org/~makino/articles/future_sc/note058.html

 重要な話題というよりは、枝葉末節ふうの話題。
 ただし、両者に共通する一致点もある。
 「最大の問題は、税金の無駄づかいよりも、ただでさえ経営の悪化している日本のITゼネコンが、こういう時代錯誤の大艦巨砲プロジェクトに莫大な人的・物的資源を投じることによって、世界の市場から決定的に取り残されることだ。」

 しかし、これについては、私の見解は異なる。さすがの牧野淳一郎も、IT産業の振興という経済面については、いくらか誤認しているということか。
 「HPC は既にIT 産業の牽引力にはなっていない、ということを、スパコン開発計画を立てる側がきちんと認識している必要があるのに、京速計算機ではそのような認識が曖昧なまま中途半端にお金を使う計画になっているのです。」
 と牧野淳一郎は言うが、スパコンは別に IT 産業の牽引力としてなされるわけじゃない。日本に強力なスパコン産業を構築するために補助金を出すわけじゃない。単に消滅させないためにやるだけだ。
 はっきり言えば、スパコン補助金は、もともと世界2位を目的としているのだ。逆に言えば、米国による独占を阻止するためだ。
 池田信夫も牧野淳一郎も、そこのところを勘違いしている。経済音痴というべきか。

 実を言うと、スパコン補助金やスパコン計画には、駄目なところはたくさんある。とても褒められたものじゃない、という牧野淳一郎の評価は、もっともだ。しかし、だからといって、いきなり「全廃せよ」というのは、滅茶苦茶だ。
 たとえば、日本のケータイ機器産業は、世界レベルの競争力を持たない。ガラパゴス化している。だから世界の場に出て競争力を持つようにするべきだ。……池田信夫はそう主張しているし、それは正しい。しかし、「競争力がないからケータイ機器産業をすべてぶっつぶしてしまえ」というような暴論は成立しない。
 ケータイ機器産業ならば、十分な実力があるから、市場原理の荒波にさらしてもいい。しかし、日本のスパコンは、十分な実力はない。そもそも、米国のスパコンだって、十分な実力はない。(政府から巨額の補助金を受けている。)
 この世界では、産業としてのスパコン産業は成立しがたい。少なくとも、民生分野では。……しかし、だからといって「スパコン産業をぶっつぶせ」ということにはならないのだ。
 何でもかんでも「市場原理で片付けよ」というのは、あまりにも暴論に過ぎる。頭が単純すぎる、とすら言える。経済音痴の極み。

( ※ 実は、スパコン産業というのは、もともと産業ではない。民生産業ではない。どちらかと言えば、宇宙開発に似ている。もともと商業ベースにはならないのだ。ここで「商業ベースにならないから廃止してしまえ」というのは、あまりにも暴論だ。)
( ※ 似た例で、防衛産業というのもある。日本の防衛産業というのは褒められたものではないが、アメリカの防衛産業というのは立派に存在意義がある。別に民間向けに兵器を売却しているわけではないが、政府向けに巨額の兵器を売却している。なのに、池田信夫の理屈を出すと、「米国は(民間には売れない)兵器産業を廃止してしまえ」となる。すると、米国は丸裸となり、あっさりとロシアや中国に侵略されてしまう。……池田信夫の論理がいかに滅茶苦茶か、よくわかる。彼のは要するに亡国論だ。)
posted by 管理人 at 23:00| Comment(3) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2009年11月29日 23:36
項目の (11) を加筆しました。事業費の内訳を示す。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2009年11月29日 23:55
ネットに面白い記事が見つかった。
 「池田信夫 対 西和彦」
http://agora-web.jp/archives/804723.html

 ──

池田「「日の丸技術」の開発には意味がない:スパコンというのは、きわめて特殊な科学技術用コンピュータであり、世界で年間数十台しか売れないものだ。富士通がクレイの4倍以上のコストのスパコンを開発しても、世界市場では売れない。日本の大学でも中規模のスパコンをリースで利用するのが常識であり、このような「日の丸技術」の開発にはビジネス的な意味もない。」

西「これは間違い。この度の富士通のスパコンは、凄い商品になる。CPUのSPARC64は凄いチップで、1基で128GFLOPSの性能を持っている。それが、マザーボードの上に4基のって512GFLOPSできる。このマザーボード1枚だけで、凄い科学技術計算機になる。AMDのOPTERONが128基繋がったクラスターが、ピザの箱ぐらいの大きさで可能になる。世界中に売れる商品になる。アメリカにもOEM出来る。」
Posted by 管理人 at 2009年11月30日 00:49
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