という見解がある。これはこれで、一理ある。ただし…… ──
スパコン開発には、1230億円が投入される。それに比べると、米国製のスパコンを買う方がずっといい、という見解がある。百億円ぐらい出せば、優秀なスパコンを買える。だからそれをあちこちでたくさん購入した方が効果的だ、というわけだ。
これは、金の使い方としては、まったく正しい。つまり、コストパフォーマンスからすれば、これはまったく正しい。
ただし、である。それは、「需要」側から見た発想だ。需要の側から見れば、コストパフォーマンスがいいものが好ましい。一方、「生産」する側から見れば、事情は異なる。
これを知るには、次の言葉を見るといい。
「私作る人、僕食べる人」
かつて話題になったCMの文句だ。ここでは、「作る人、食べる人」が別々となっている。この違いに注意しよう。
スパコンもまた同様だ。「食べる人」の都合だけで(コストパフォーマンスを尺度に)物事を考えていては、「作る」という能力が失われてしまう。「金さえ払えばいいさ」という発想だと、自力で食事を作る能力がなくなる。そのせいで、女房が病気になったり外出したりすると、とたんに絶食の憂き身に合う。(特に、都会でないバンガローや別荘などで。)
というわけで、「金さえ払えばいいのさ」という発想は、あまり正しいとは言えない。
──
しかし、である。
前項では、生産する側の都合ばかりを考えてきた。
一方、需要の側の都合だって、ちゃんとある。生産する側の都合ばかりを押しつけられると、需要の側がいい迷惑だ。
特に、次の問題がある。
「研究開発の現場で、金がない。だから、スパコンを購入できない。富士通に千億円も渡すなら、各大学に 百億円のスパコンを10台配備してくれ。その方がずっと、科学研究に貢献する」
この主張は、まったく正しい。ただし、それは、需要の側の発想だ。
──
以上の問題を整理すると、次の判断が出る。
「生産の側と、需要の側とは、別の問題だ」
つまり、生産は生産で充実させるべきだし、需要は需要で充足させるべきだ。要するに、次の方針が正しい。
・ 富士通については、スパコンの開発を認める。
・ 研究機関については、スパコンの購入を認める。
この場合、双方とも、千億円規模の金が必要となる。だから、それを認めればいい。
逆に言えば、次のいずれも駄目だ。
「スパコンを自主開発するかわり、スパコンの購入をやめる」
「スパコンを購入するかわり、スパコンの自主開発をやめる」
これは、「片方を取れば、片方をやめる」という方針だ。しかし、それでは駄目だ、というのが、私の立場だ。
池田信夫の主張は、最後の主張である。つまり、
「スパコンを購入するかわり、スパコンの自主開発をやめる」
なるほど、これは、金の効率性から言えば、ベストだ。しかし、大事なのは、金の効率性じゃない。もっと大事なことがある。
日本という国は、研究開発の予算があまりにも不足している。アメリカに比べれば、ずっと低い。こういう状況で、「どうせ貧乏だから、貧乏なりに、倹しく節約しよう」という発想では、いつまでたっても、大学に行けない低学歴の利口者のようになる。そんなことでは、日本はいつか中国にも負けてしまう。
今の日本にとって必要なのは、
「金の使い方の効率性を考える。自主開発は諦めて、外国の技術を導入して、安上がりに済ませる」
ということではない。たとえ金の効率は低くても、自主開発することなのだ。そして、それができるのは、日本と中国(など)ぐらいだろう。他の国々(台湾や韓国)は、望んでも、それができない。日本ならば、米国に対抗する地位を確立できる。なのに、それを自分から捨ててしまって、どうする。「どうせ勝ち目はないから」と諦めてしまって、どうする。
なるほど、ボーイングやエアバスと対抗するのは、とても無理だ。しかし、スパコンならば、日本はかろうじてIBMに対抗できる。なのに、台湾や韓国みたいに、「どうせ勝てないから」と思って、最初から勝負を諦めるというのは、あまりにも情けない。しかも、その理由が、「能力がないから」ではなくて、「千億円程度の金を無駄にしたくないから」だ。その一方で、高速道路無料化やら、アフガン支援やらでは、圧倒的な巨額を浪費する。
ここまで来ると、頭が低脳というよりは、狂気的だ。そして、そういう狂気に染まったのが、民主党の「事業仕分け」だった。「巨額の浪費をするために、大切な研究費を削る」という倒錯。
そして、その尻馬に乗って、「金を賢明に使いましょう」と唱えて、勝負を諦めようとする意気地なしがいる。
「青年よ、大志を抱け」
という言葉を思い出してもらいたいものだ。もっとも、爺さん連中には、もはや無理かもしれないが。
結論。
「スパコンは、自主開発するべきか、買うべきか?」
という二者択一は、成立しない。その問題は、問題そのものが間違っている。正しくは、
「スパコンは、自主開発し、かつ、買うべきだ」
である。つまり、両取りだ。そのために、科学技術の予算の総枠を増やすべきだ。
( ※ この件については、最後の 【 補説 】 に記す。)
[ 付記1 ]
世界各国のスパコン開発については、ネット上に次の情報があった。おおまかな情報。
■各国のスパコン開発事情■これは2ちゃんねるの書き込み。あまり信頼性は高くない。
世界の7大ベンダーは NEC 日立 富士通 IBM HP SGI Cray SUN(日本と米だけ)
★アメリカ 世界2強の一角 世界の7大ベンダーのうち4社 直近10年で世界一のスパコンの5つがアメリカ製
開発台数は無駄に多いがたびたび世界一を日本にとられている為、開発は年々強化している
日本に負けた年はまるで冷戦でソ連に負けたかのようにショックを受け全米で大騒ぎだったが
なぜか日本の反日マスコミはほとんど報道していない。
★日本 世界2強の一角 世界の7大ベンダーのうち3社 直近10年で世界一のスパコンの5つが日本製
開発台数は少ないが、何度も世界一になっており、潜在能力はアメリカ以上、あとはお金があれば・・
日本が緊縮財政に走ったとたん、アメリカに追い越され、最近は2番手に甘んじている。
これだけレベルの高い国がスパコン開発を止めるなんて、世界の常識からすればありえない
------------------------------------------
☆欧州全体 本格的な開発はしていない。日本とアメリカのスパコンを導入し、日米の派生品のみ開発
★イギリス 本格的な開発はしていない。日本のスパコンを導入し、日本の派生品のみ開発
★ドイツ 本格的な開発はしていない。日本とアメリカのスパコンを導入し、日米の派生品のみ開発
★フランス 本格的な開発はしていない。アメリカのスパコンを導入し、米の派生品のみ開発
★台湾 コストを考えてあえて開発はしていない。
しかし開発能力はかなり高く欧州に準ずるレベルのものを作れる能力はある。
★中国 開発はしている。
かなりレベルは上がってきているが、まだまだ盗用技術がほとんどで、自主開発能力は高いとはいえない。
★韓国 開発はしていない。 いくらお金をかけても、高いレベルのものが作れないので、作らないだけ。
開発どころかスパコンの運用すらマトモにできていない状態で何年経っても進歩が見られない。
( → 出典 )
たとえば、中国は、盗用技術というよりは、単に粗悪品であるだけだ。
→ 出典
ただ、他の点では、おおまかには正しい。ドイツの場合、ドイツ IBM は、アメリカ IBM の派生品。フランスの Bull は、日本のスパコンの提携。韓国のスパコンは、ネットで探せばすぐにわかるように、ないも同然。
なお、上記では言及されていないが、インドのスパコンも優秀だった。
→ インドのタタグループのスパコン
※ ただし、インドのパソコン開発は、その後、失速したという情報もある。
[ 付記2 ]
「どうしても費用節約したい、そのために国産スパコン開発をやめる」
と主張するのであれば、富士通を丸ごと、中国に売却するべきだ。そうすれば、中国が富士通を保有して、日本は中国の属国となる。その方がマシである。
なぜか? さもなくば、アメリカの独占になるからだ。この世で独占ほど悪いことはない。独占状態になるくらいなら、まだしも米国と中国の競争の方が、ずっとマシである。そうすれば、双方の価格競争が成立するので、どちらか一方から買うことができる。
「アメリカから買うことができるぞ」
という見解は、独占が成立していないからこそ、成立するのだ。アメリカの独占状態が成立すれば、もはや「アメリカから買うこと」は(正常には)できなくなる。買いたければ相手の言い値で、1兆円でも10兆円でも払うしかない。さもなくばスパコンなしで、世界水準から取り残される。
「千億円を節約して、独占状態を成立させて、1兆円を払う」
ということほど馬鹿らしいことはない。池田信夫は、「市場原理」を主張しているが、実際は、「アメリカの独占状態」を成立させようとしているのだ。彼の「市場競争は素晴らしい」というのは、「強者は素晴らしい」ということであり、要するに、「強者のアメリカによる独占」をもたらすだけだ。自分が何を言っているか、まったくわかっていない。
( ※ たぶん現実には、1兆円を払っても、売ってもらえないだろう。最高品質の品は、常に輸出禁止となり、二流品だけが輸出可能となる。そうすればアメリカの圧倒的優位が確立できるのだから、そうして当然だ。)
とにかく、経済において「独占」ほど悪いものはない。そのことを留意するべきだ。
ちなみに、サントリーとキリンの提携も、ほぼ同様だ。こんなことが成立すれば、ビールの競争は著しく阻害され、「日本のビールは安くてうまい」(税金を除けば)という状態は、消えてしまう。
池田信夫がまともな経済センスをもっていれば、「サントリーとキリンの提携に反対」と言うべきなのだ。スパコン潰しに熱中するのは、飛んだ間違いだ。
( ※ 池田信夫は、サントリーとキリンの提携について、何も論じていない。一方、私は、論じている。 → 該当箇所 )
【 補説 】
本文の最後で、次のように述べた。
「科学技術の予算の総枠を増やすべきだ」(スパコンは、自主開発し、かつ、買うべきだ。)
ところが、現在の民主党は事業仕分けで、逆に、「科学技術の予算の総枠を減らす」という方針を取っている。
→ 朝日新聞 2009-11-26
鳩山首相は、このような「縮減」の方針を見直す予定だという。ただし、記事を見ると、面白いことがわかる。
記事には、GXロケットやプレートテクニクスなどのプロジェクトが含まれているが、確かに、これらの予算は縮減してもいいだろう。つまり、
「巨大プロジェクトの廃止」
という方針そのものもは、間違いではない。というのは、研究というものは、一点集中で巨額の金をかけて、建物や設備を買えばいい、というものではなくて、幅広く人材のために研究資金を投入するべきだからだ。(基礎研究ではそうだ。)
その意味で、次のような方針は、正しい。
「(基礎分野では)巨額のプロジェクトを廃止して、幅広く人材に投資する」
ただし、現実には、次のようになっている。
「巨額のプロジェクトも廃止する。幅広く人材に投資するのも廃止する」
つまり、あっちも減らす、こっちも減らす、あらゆる金を減らす、という方針だ。これは、間違いだ。
( ※ 上記記事でも、「幅広く若手に研究費を支給する」という項目が「縮減」とされている。これは駄目だ。)
( ※ ついでだが、現状は、かなりひどい。次の記事を参照。
→ GDPに占める教育機関への公的支出は、主要28カ国中27位 )
話をスパコンに戻そう。
池田信夫は、「自主開発よりは、米国製パソコンを買う方がいい」という主張をしている。
しかし、民主党の方針は、そうではない。「自主開発をやめて、米国製パソコンを買うこともしない」という最悪の方針だ。池田信夫はそのために利用されているだけだ。(自分が何をしているかも知らないピエロ。エゴイストに利用されるだけの猿。)
正しくは、民主党の方針の正反対だ。つまり、「自主開発もして、米国製パソコンも買うこと」だ。
[ 余談1 ]
民主党の「事業仕分け」については、次の例が詳報で示されている。
→ 質疑レポート
仕分け人の言っていることは、かなりまともだが、残念ながら、そこにあるのは「相手の欠点を突く」という形のものだ。仕分け人の目的は、「金を減らすこと」だけであり、「物事を改善する」という発想はない。「気に食わないから、つぶしてしまえ」という発想だけ。「悪いところを指摘して、良くなるように改善する」という発想はない。
こういう人間が教師になったら、どうなるか? 「駄目な生徒を落第させよ」とだけ主張して、「駄目な生徒を教育する」という発想はないだろう。
こういう人間が日本を牛耳ると、「日本の駄目なところを改善する」というふうに医者的な処方をするのではなく、「日本の駄目なところを叩きつぶす」という殺し屋ふうの処方をすることになる。
最悪の処置を取りながら、正しいことをしていると信じているわけ。自分を「正義の味方」と思っている阿呆ほど、始末に困るものはない。
[ 余談2 ]
日本の科学技術力を示す、とても面白い動画。
→ 探査機はやぶさ

──
「法王」の異名を取った日本銀行総裁に、一万田尚登がいる。戦後の金融界に君臨した人は、伝説的な“暴論”を説いている。〈日本に乗用車工業は要らない〉。1950年(昭和25年)のことである。
国の貴重なカネを貧弱な国産メーカーにつぎ込んでも意味がない。国際分業の時代、乗用車は米国に依存すればいい――という理屈である。一万田氏の意思が通っていれば、トヨタやホンダなど日本を代表する企業はいま、影も形もなかっただろう。
→ http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20091125-OYT1T01438.htm
──
このくらいのことは、経済音痴のコラムニストでさえわかる。
全て目を通させて頂きました。
国民にとって、上で現在の技術力を築き上げている人の事なんて眼中にありませんからね。
これは愛国心の欠如に直結する問題でもあります。
しかし、東芝がノートPCを始めに作った事。
シャープが世界最初の液晶テレビを作った事。
日本人が世界最初のCPUを作った事などは知られておりません。
それは情報の担い手であるマスコミが報道しないからなんです。
情報は広告主にとって都合の良いものだけ流す。
そんなマスコミはジャーナリストではありません。
貴方こそがジャーナリスト!