インフルエンザの感染を防ぐために、「ウイルス除去」をうたう空気清浄機が、各社から発売されている。
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メーカーの宣伝では、「空気中のウイルスを 100%無効化する」というようなデータを競いあっている。では、これらは有効か?
( ※ ここで言う「空気清浄機」とは、「ウイルス無効化」という特殊な技術を使ったもの。ただのフィルター式ではない。)
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まず、ちょっと知ったかぶった人は、次のように批判する。
「インフルエンザは、飛沫感染をする。空気感染(飛沫核感染)はしない。空気中にウイルスが浮遊しているわけではないのだから、空気中のウイルスを除去しても無意味だ」
いかにも、もっともらしい。教科書を読んで、現実を見ない人だと、これらの空気清浄機を見て、「トンデモだ!」と批判する人もいるだろう。(……ただしどういうわけか、各社を批判しないで、私を「トンデモだ!」と批判する人もいる。私が空気清浄機を作っているわけじゃないんですけど。 (^^); )
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さて。机上の空理空論は別として、現実を考えてみよう。
仮に、空気感染が起こらないとしたら、病院では、次のことは不要であるはずだ。
「待合室で、インフルエンザの患者を、普通の患者と、別室にする」
「病棟で、インフルエンザの患者と、基礎疾患の患者とを、別室する」
これらのことは、特に必要ないはずだ。つまり、マスクさえしておけば、飛沫感染は防げるから、空気感染の心配はしなくていい。だから、これらの患者を、いっしょにしてもいいはずだ。
しかし、そんなことは、馬鹿げている。実際、政府も医者も、これらを区別することを推奨している。
ゆえに、「インフルエンザは空気感染しない」というのは、正しくない。
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では、正しくは?
インフルエンザは、普通の意味では、空気感染はしないし、飛沫感染するだけだ。ただし、飛沫というものは、数秒間ぐらいは空気中に浮遊する。
これを理解するには、霧吹き器を見るといい。霧吹き器の霧は、空気中に数秒間、浮遊する。そのあと、霧が蒸発する。
とすれば、咳をしたときの飛沫にも、次のことがあるはずだ。
「小さな飛沫が、数秒間ぐらいは、空中に浮遊する」
「小さな飛沫が乾燥して乾燥したあとの飛沫核が、空気中に数秒間は浮遊する」
ここでは、通常の空気感染が起こるわけではないが、数秒間ぐらいは、空気感染に似た効果があるのだ。だからこそ、インフルエンザの患者がたくさんいるような待合室では、そこにいるだけで感染してしまう、ということが起こる。
( ※ たとえば、インフルエンザの子供を病院に連れていった健康な母親が、その待合室で感染してしまった、というような例。)
また、こういうことがあるからこそ、インフルエンザの患者を治療する集中医療室では、陰圧をかけて、空気を排出する。ここでは、陰圧装置をあえて OFF にするということは、ありえない。たとえわずかであっても、効果があるからだ。
要するに、「インフルエンザが空気感染する」というのは、強い意味では成立しないのだが、弱い意味では成立する。空気を吸っただけで次々と感染者が発生するということはないのだが、大量の患者がいる部屋で空気を吸うと、インフルエンザに感染する人も少しは出てくる、ということがいくらかは起こる。
教科書ばかりを読んでいて、現実を見ることができないと、真実を見失う。ここでは「自分の頭で考えること」が大事だ。
( ※ 自分の頭で考えることのできない人は、「それは教科書に反するからトンデモだ!」と言って、現実をトンデモ扱いする。トンデモマニアというのは、そういうものだ。)
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以上のことから、次の結論が得られる。
空気清浄機には、額面ほどの効果があるわけではない。たとえ「空気中のウイルスを 100%除去します」と述べていても、基本的には空気感染が起こるわけではないからだ。
しかしながら、飛沫や飛沫核が数秒間程度は浮遊するという意味で、いくらかは空気感染の効果もある。そして、それを防ぐための、小さな効果ぐらいは、空気清浄機にある。
その効果は、もちろん、小さい。しかしながら、そこにいる人々が多数であったり、そこにいる感染者が多数であったりすれば、小さな効果が大きな影響を及ぼす。
たとえば、感染率を 10%下げるとしても、40人がいれば、4人を感染させずにすむ。ここでは、「感染率を下げる効果はたったの 10%しかないから、無視していい」ということにはならない。むしろ、「 40人もいるようなところでは、感染率を 10%下げるだけでも、とても効果がある」と考えるべきだ。(特に、価格が安ければ、費用対効果のメリットは高くなる。)
というわけで、人々の集まるところや、感染者の多いところでは、空気清浄機はそれなりに役立つ。具体的には、次のような例だ。
・ 小学校の教室 (大人数がいて、感染しやすい)
・ 病院の待合室 (感染者が多く、ウイルスがウヨウヨ)
これらの場合では、効果は小さくても、確かに、それなりに有効性はあると考えていい。
( ※ 「病院の待合室を分ける」という提案があるが、町の小さな医院では、それが不可能なことが多い。現実に、ほとんど実現していないようだ。)
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なお、有効である場合とは逆に、有効でない場合も明らかとなる。たとえば、次の場合だ。
「家庭で自宅に空気清浄機を置く」
これはほぼ無意味だ。というのは、自分でウイルスをまきちらして、それで自分が感染する、ということはありえないからだ。 (^^);
家庭で空気清浄機を置く効果があるとしたら、せいぜい、家族間の感染を防ぐことぐらいだろう。しかし、家族間の場合は、日常生活における接触感染の割合が圧倒的に大きいのだ。たとえば食卓など。とすれば、空気清浄機を付けたぐらいでは、ほとんど効果はない。というわけで、家庭では導入不要だろう。
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なお、もう一つ。いっそう重要な点がある。それは、空気清浄機そのものよりも、加湿機能の有無だ。これが重要だ。
加湿機能は、確実に有効だ。実際、「空気が乾燥すると、感染率が高まる」というのは、明白な事実である。低温・乾燥の状態では、人間の呼吸器(口腔・鼻腔)の免疫力が著しく低下して、感染率が高まる。その点、加湿機能があれば、感染率を確実に下げる。
また、別の効果もある。空気が乾燥していると、飛沫がすぐに乾燥しやすいので、飛沫が微粒子化して、空気中に漂う時間が増える。その点、湿度が高ければ、飛沫が乾燥しにくいので、飛沫がすぐに落下してしまって、空気中に漂う時間が短くなる。……この違いは、時間でいえば、数秒程度の時間でしかないが、大人数で何百時間も同じ空間にいれば、確実に影響は出るだろう。
以上の理由で、大人数の人々がいるところ(教室など)では、湿度を高めることが確実に有効だ。空気清浄機そのものよりも、加湿機能の方がいっそう有効だ。
だから、どうせ空気清浄機を買うならば、加湿機能付きのものの方が、圧倒的に有効である。
ここでは、加湿機能付きのものを無視して、
「空気清浄機なんか設置不要だ」
というのは、白も黒もひっくるめて捨ててしまうようなものだ。「悪い子が混じっているから、良い子もまとめて、殺してしまえ」というようなものだ。発想が単純すぎる。
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結論。
以上をまとめて、結論を下そう。
空気清浄機については、有用か不要かを、一概に決めつけるべきではない。ケースごとに区別するべきだ。具体的には、次のように。
・ 大人数か / 家庭か
・ 加湿機能が あるか / ないか
この区別をした上で、効果の有無を論じるべきだ。頭ごなしに「不要」と決めつけるのも、頭ごなしに「有効」と決めつけるのも、どちらも適切でない。
とりあえず、簡単に言えば、次のことを理解しておくといい。
「人が多いところではそこそこ有効だが、人が密集しない家庭では無効だ」
「空気清浄機よりは、加湿機能の方が有効だ」(ただし併用もできる。)
また、コスト的にも、同様だろう。人数が多ければ、一人あたりのコストは少ないが、人数が少なければ、一人あたりのコストは高い。そういうコスト差がある。ここでも同様の結論が出る。
[ 付記1 ]
本項では、通常の医者とは異なる発想がある。それは、次のことだ。
「一人が感染するかどうかを医学的に考えるのでなく、多数の人々が感染するかどうかを公衆衛生的に考える」
ここでは、公衆衛生(保健)の発想が必要となる。それは医学的な発想とは異なる。医学であれば、「1人に対して感染を下げる効果は少ない」という結論が出るだろが、保健であれば、「1人に対して感染を下げる効果は少なくとも、多数に対しては大きな影響が出る」という結論が出る。
朝日新聞では、「空気清浄機はあまり効果がない」という記事を示した。(朝刊 2009-10-30。紙の新聞のみ。)
そこでは、医者の医学的な見解はあったが、公衆衛生の立場からの見解はなかった。「医学あって保健なし」という状況が、ここにも露見している。木村もりよ が言ったように、日本では公衆衛生という分野が確立していないのだ。保健後進国。(そこでは医者ばかりが偉ぶっている。そのせいで、患者が続出する。おまけにタミフルは乱用される。)
[ 付記2 ]
本項では、「空気清浄機にはそれなりの効果がある」という趣旨で記しているが、誤解しないように。ちまたの宣伝サイトにあふれているような、
「空気清浄機はインフルエンザの感染を抑制する効果がある」
と明白に述べているわけではない。この言葉は嘘だ。たとえば、家庭では、インフルエンザの感染を抑制する効果はほとんどない。
実際、これらの空気清浄機は、医療品としては承認されていないし、メーカーも明白に「感染抑止効果」を宣伝しているわけではない。単に空気中のウイルスを無効化すると述べているだけだ。
ちまたの宣伝サイトの話は、誇大宣伝気味である。その意味では「トンデモ」のそしりを免れない。
ただし、そういう巷の宣伝サイトと、本項で述べたこと(限定的な効果があること)とを、混同しないようにしてほしい。
( ※ 世の中には悪口を言うのが趣味の人もいて、しきりに誤読したあげく、私に文句を吹っかけてきたりするが。)
[ 付記3 ]
あとでネットを調べているうちに気づいたのだが、インフルエンザは、空気感染がまさしく起こっているようだ。(数秒間程度、どころではなくて、もっと本格的に。)
次に、該当の一文を示す。
(インフルエンザは)……あるいは空気中に浮遊しているさらに小さな気道分泌物由来の粒子中のウイルスが(飛沫核感染あるいは空気感染)周囲の人の呼吸器に侵入して感染をおこす。集団生活の場では、飛沫核感染によって同室内の人が同時に多数罹患(りかん)する。これについて文句を言いたがる専門家もいるかもしれないが(特にトンデモ医者のN氏とかね)、しかし、文句は私でなく、上記の百科事典へどうぞ。
( → 日本大百科全書 )
なお、開放された戸外では空気感染しないが、密閉されたところに大人数がいれば空気感染する、ということは、下記でも説明されている。
→ 感染症情報センター
→ 個人ブログ
実は、考えてみれば、飛沫核感染が起こるのは、当然だ。待合室などには、暖房器具があるが、そこから排出された暖気は、上昇気流をなす。その上昇気流に飛沫を飛ばせば、飛沫は乾燥して軽い飛沫核になってから、上昇気流に乗って空気中を浮遊する。ここでは暖かな上昇気流があるということが決定的に重要だ。それゆえ、インフルエンザは空気感染するのである。冬の室内では。
戸外で空気感染しないからといって、暖房機のある室内で空気感染しないということにはならない。教科書ばかりを鵜呑みにしていると、現実を見失う。
なお、「インフルエンザは絶対に空気感染しないぞ!」と頑強に言い張る人もいる。
→ 読売の記事を訂正させた人
( ※ 話は密室の話なのだから、いちいち記事を訂正させる必要はなかったのだが。……この分だと、「密室でも空気感染しない」というデマを流して、密室の空気感染で罹患する患者が増えてしまいそうだ。デマが患者を増やしてしまう。罪作り。)
【 関連項目 】
空気清浄機については、前にも別項でいくらか言及した。特に見るべき話があるわけではないが、本項と少しダブっている話もある。お暇な人は、以前の話でも読んでください。(特に情報が得られるわけではないが。)
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