2009年10月10日

◆ 進化の不可逆性

 進化の不可逆性という言葉は、二つの意味で解釈されるので、混同しないようにしよう。 ──
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2010-02-02 です。)


 進化の不可逆性という言葉は、二つの意味で解釈される。
  ・ 「旧種 → 新種」という進化が不可逆的であること (の不可逆性)
  ・ いったん消失した器官は、ふたたび生じないこと (器官の不可逆性)

 順に説明しよう。

 (1) 種の不可逆性

 本サイトでは、「進化の不可逆性」という言葉は、前者の意味(種の不可逆性)で使っている。つまり、「旧種 → 新種」という進化は逆行しない、ということだ。
 たとえば、ホモ・ハイデルベルクのあとで、ホモ・サピエンスが出現するが、その逆の進化はありえない、ということだ。同様に、人間が類人猿に進化することもありえない。(たとえ人間が森林に入っても。)

 (2) 進化不可逆の法則

 「進化不可逆の法則」または「進化非逆行の法則」または「ドロの法則(Dollo's law)」という言葉で示される概念もある。これも場合によっては、「進化の不可逆性」と見なされる。
 その内容は、(1)とは異なり、次のことだ。
 「いったん失われた器官や部分構造は、その後の進化で、ふたたび出現することはないこと」

 これは、事実ではない。Wikipedia にも記してあるように、「退化によって消失した器官が、再び復活するという例は少ない」のであって、皆無ではないのだ。

──

 この (1) と (2) は、どう違うか? 
 (1) では、進化にともなって、旧種の器官(またはさまざまな形質)が消失したあとで、新種の器官(またはさまざまな形質)が生じる。簡単に言えば、遺伝子が A から B に変化する。いったんこのように進化すると、B から A に逆戻りすることはない。
  (2) では、進化にともなって、旧種の器官(またはさまざまな形質)が、新種で消失しただけだ。その場合、遺伝子レベルで言えば、A という遺伝子が消失したわけではなく、Aという遺伝子が働かなくなっただけだ。簡単に言えば、Aという遺伝子を発現させるスイッチが働かなくなっただけだ。それでも、A という遺伝子は残っている。遺伝子が残ったまま、遺伝子として働かなくなった状態は、「偽遺伝子」という状態だ。……この状態では、その遺伝子(偽遺伝子)は、そのまま残っていることもあるが、中立説に従って、容易に大規模に変異しているのが普通だ。

 ──

 ここまで考えるとわかるだろう。
 (1) の進化は、不可逆的である。B から A へと高度に進化したものが、逆戻りするはずがない。
 (2) の進化は、可逆的である。スイッチが OFF になったあとで、スイッチが OFF から ON に戻るだけで済む。たとえば、人間の尾てい骨について言うと、シッポの遺伝子はたぶんまだあるはずだから、あるときスイッチが OFF から ON に変異して、(未来の)人間にシッポが生えてくる可能性はある。
 これはまんざらありえないことではない。現代人でも、いったん消失した器官が出現することは稀にある。たとえば、乳首が4つある人間が誕生することもある。これは哺乳類の乳首が4つあったことの名残だ。それが発現する。(先祖返り。)
  → http://oshiete1.goo.ne.jp/qa3023979.html
 このような例では、眠っていた遺伝子が何らかの理由で目覚めたことになる。( OFF から ON への切り替え。)
 もっと有名な例もある。それは哺乳類の色覚細胞だ。爬虫類では4つあった色覚細胞が、夜行性の哺乳類では2つに減った。その後、霊長類では 3つに戻った。
  → Wikipedia 4色型色覚錐体細胞
 2つから3つに戻ったとき、完全に元通りになったとは言えないが、おおむね元通りになっている。その意味では「いったん失われた形質(ここでは緑錐体)が復活した」ことになる。
( ※ この場合は、眠っていた遺伝子が目覚めたわけではなく、既存の遺伝子が重複してから変異したことで再発生したらしい。それでもともあれ、復活は起こった。)

 ──

 まとめて言おう。
 「進化の不可逆性」には、二通りある。
 そのうち、「いったん消失した器官が復活しない」ということは、真実ではない。その例外は、稀にある。稀にあっても、特に不思議ではない。器官は消失しても、遺伝子は消失していないからだ。
 一方、「旧種から新種に進化したあとで、新種から旧種に戻ることはない」ということは、真実である。その例外はありえない。なぜなら、旧種から新種に進化したあとでは、旧種の遺伝子はもはやどこにも残っていないからだ。旧種の遺伝子は、眠っているのではなく、新種の遺伝子に変貌してしまった。そして、いったん新種の遺伝子に変貌したら、その遺伝子は旧種の遺伝子には戻りえない。……これが「進化の不可逆性」の意味だ。



 [ 付記1 ]
 他のサイトにもわかりやすく解説した表現があったので、引用しよう。
 進化の不可逆性といって大進化では、形質が戻りません。これは主遺伝子の特徴で、主遺伝子の進化の遅さだけが原因ではなく、主遺伝子は進化の際に複雑さを増していく性質があるためです。進化した遺伝子がもとに戻ることが難しいのは、改築した家を戻すのが難しいことに似ています。さまざまな機能を追加すると、取り除くよりは、使わなくする(退化・縮小)ことが簡単で安全なため、遺伝子の複雑さ自体は単純化されにくいのです。
( → 現在の進化論入門
 これはよく書けた説明だ。私としても付け加えることはないので、この件は引用するだけで済ませた。

 [ 付記2 ]
 ただし、主遺伝子の変異でなく、1塩基レベル(または数個ぐらいの塩基だけのレベル)の変異では、そうではない。そのような小さな変異では、「旧種」と「新種」の間の進化は、可逆的である。……これが「小進化」だ。
 たとえば、ダーウィン・フィンチのクチバシの大きさの変異は、ごく少数の塩基の変異であるだろうから、その「小進化」はたがいに可逆的である。
 つまり、小進化については、「進化の不可逆性」は成立せず、「進化の可逆性」が成立する。
 大進化と小進化の違いに注意しよう。「進化の不可逆性」が成立するのは、大進化だけだ。

 なお、大進化においても、新種の遺伝子のうち、ごく一部だけが旧種の遺伝子に戻ることは、稀にはあるかもしれない。(部分的な先祖返り。)
 ただし、新種の遺伝子がそろって旧種の遺伝子に戻ることはない。つまり、新種から旧種に逆行することはない。……これが「進化の不可逆性」だ。



 【 関連 】

 本項の話は、次項以降の数項目に続く。そちらも読んでほしい。

 また、次のサイトにも統一的な記述がある。
  → クラス進化論(概要)

  ※ 大進化が不可逆的であることの原理を示す。
    「進化は不可逆的である」という項目、および、その前後。
posted by 管理人 at 22:10| Comment(0) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
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