この方針について批判する。2回連続の予定。 (本項では、「タミフル耐性ウイルスの出現」という観点からの批判。)
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感染症学会の新方針
まずは、新聞の報道から紹介しよう。《 早期にタミフルを 感染症学会が新型インフル診療指針 》以上は報道だが、感染症学会の原文もある。
日本感染症学会は15日、新型インフルエンザ感染者の重症化を避けるために、持病のない成人、子どもらにもタミフルなどの抗ウイルス薬を早期に投与すべきだとする提言と診療指針をまとめた。持病のない成人への投与は不要とする世界保健機関(WHO)の見解について、海外で死者が多数出たことから「危険」と指摘した。
提言では「新型は弱毒で季節性と変わらないので厳重な対策は緩めていい」という国内の一部意見について、「誤り」と指摘。タミフルなどの抗ウイルス薬について「診断で感染が疑われた場合は、可能な限り全患者に早期から投与すべきだ」と結論づけた。簡易診断キットでは見逃しもあるため、仮に陰性でも症状からインフルエンザが疑われたら投与が必要と定めた。
タミフルの積極的な使用については、耐性ウイルスの発生や、10代の患者の異常行動が指摘され、慎重論もある。しかし、提言や指針では、重症化して死亡することを防ぐことのほうが重要と結論付けた。
WHOや米疾病対策センターは持病のない患者への使用は不要としている。感染症学会の新型インフルエンザ対策委員会座長の渡辺彰・東北大教授は「海外と比べて日本の致死率が低いのはタミフルの早期投与によるものだ。抗インフルエンザ薬の備蓄は5千万人分以上あり、早期投与で重症化を防ぐのが一番重要」と話す。
( → 朝日新聞 2009-09-16 )
→ 感染症学会の提言
これを読むと、次の箇所が重要だ。
基礎疾患のない若年健常成人でも重症化して死亡する例が報告されている今回のS-OIVでは、S-OIV感染が少しでも疑われたら可能な限り早期から抗インフルエンザ薬を投与すべきです。つまり、健康な人のなかにも死者がかなり出ているから、死者を少しでも減らすために、タミフルをどんどん乱用せよ、という理屈だ。
( ※ 【 注 】 S-OIV とは、今回の豚インフルエンザのこと。)
薬剤耐性の問題
感染症学会は一見、まともなことを言っているように思える。だが、その理屈が成立するなら、あらゆる病気についても、同様のことが必要となるだろう。次のように。・ 例年の季節性インフルエンザでも、薬剤の安易な乱用。
・ ちょっとした病気でも、致死率が 0.1%なら、抗生物質の安易な乱用。
・ あらゆる病気について、やたらと薬漬け。
しかしながら、こういうふうに「薬剤の安易な乱用」という方針が取られてきたから、さまざまな耐性ウイルスや耐性菌が出現するようになったのだ。実際、季節性インフルエンザはタミフル耐性を持つようになったし、MRSA のような薬剤耐性のある病気も蔓延するようになった。
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豚インフルエンザについて「タミフル耐性菌の出現」という事態は、決してただの杞憂ではない。それは確実なことだ。なぜか? すでにタミフル耐性ウイルスは続出しているからだ。
《 さいたま市でタミフル耐性の新型インフルウイルス見つかる 》以上の記事から、将来のことも予想できる。
さいたま市は11日、新型インフルエンザに感染した市内の保育園児の男児から、インフルエンザ治療薬「タミフル」耐性ウイルスが見つかったと発表した。タミフル耐性ウイルスが見つかったのは国内7例目。
( → 産経ニュース 2009.9.11 )
《 タミフル耐性ウイルス、米で人から人へ感染 初の確認 》
【ワシントン=弟子丸幸子】 インフルエンザの治療薬「タミフル」への耐性を獲得した新型インフルエンザのウイルスが、人から人へ感染した可能性が米国で出ていることが10日、分かった。米疾病対策センター(CDC)が同日の週報で明らかにした。耐性ウイルスの報告例はこれまでにもあるが、人から人への感染は初のケースになるという。
CDCはタミフルなど抗ウイルス薬の過剰な服用を控えるよう呼び掛けている。
( → 日経 2009-09-11 )
タミフルを乱用すると、どうなるか? 豚インフルエンザのウイルスが全滅するか? 違う。豚インフルエンザのウイルスはすべて、タミフル耐性ウイルスになる、ということだ。
図式化すると、こうだ。
《 間違い 》
タミフル
↓
豚インフルエンザ ─→ 全滅
《 正しい 》
タミフル
↓
豚インフルエンザ ─→ タミフル耐性化
進化論的な理解
薬剤を乱用すると、ウイルスが全滅するのではなく、ウイルスが耐性化するだけだ。このことは、経験的にもわかるが、進化論的にも説明がつく。進化論的に説明しよう。薬剤を乱用すると、豚インフルエンザのウイルスは激減するし、患者も激減する。ただし、それは、豚インフルエンザのウイルスが消滅することを意味しない。
豚インフルエンザのウイルスが激減すると、空白領域ができる。空白領域ができれば、それまでは少数だったもの(劣者だったもの)が急増する。
今回の例で言えば、タミフルを乱用したとき、非耐性ウイルスは激減する。しかしそのとき、空白領域ができるから、その空白領域で耐性ウイルスが急増するのだ。
感染症学会はおそらく、次のように考えているのだろう。
「タミフルを乱用すれば、非耐性ウイルスは激減する。一方、耐性ウイルスは急増しない」
これはあまりにも甘い認識だ。
正しくは? 耐性ウイルスはすでに存在するのだから、非耐性ウイルスが激減すれば、耐性ウイルスが急増するだけだ。
もちろん、タイムラグはある。だから、ここ1〜2年ぐらいは、「非耐性ウイルスは激減する」という現象が起こるだろう。そのことで、「タミフル乱用の成果はあった」と自慢することもできるだろう。
しかし、1〜2年ぐらいたったあとで、タイムラグの期間が過ぎる。そのとき、豚インフルエンザはすべて、非耐性ウイルスから耐性ウイルスに取って代わる。
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結局、タミフル乱用は、次のことを意味する。
「当面(1〜2年ぐらい)は、死者の急減という成果を得ることができる。しかしその後、タミフル耐性ウイルスの蔓延により、タミフルそのものが無効化する。そうなると、健康な成人のみならず、基礎疾患のある患者にも、タミフルが無効化する。また、莫大なタミフルの備蓄は、すべてゴミと化する」
これは決して杞憂ではない。すでに季節性インフルエンザでは起こったことだ。その経験を、世界の医療関係者は、ちゃんと覚えている。ただし、悲しいかな、日本の医療関係者は、健忘症のため、季節性インフルエンザの経験を忘れてしまっている。
何しろ、季節性インフルエンザの患者に、いまだに「タミフルを投与しましょう」と思っている医者も多い。
こういうお馬鹿な医者が、感染症学会にもいっぱいいる。だから彼らは、「タミフル乱用を」という新しい指針を出す。(後述の [ 付記4 ] を参照。)
感染するのは、インフルエンザだけじゃない。馬鹿も感染するのだ。日本の学会では。
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では、正しくは?
お馬鹿な感染症学会はさておき、世界にはまともな知性をもつ人々もいる。まともな人々はきちんと、「タミフル乱用はダメ」と指摘している。理由はもちろん、「耐性ウイルスの出現という危険があるから」である。
たとえば、CDC の「タミフルを乱要するべきでない」という方針をきちんと読むべし。
→ CDC の方針(英文)
→ 本サイトにおける CDC の紹介(CDC:「タミフルは不要」)
[ 付記1 ]
感染症学会のどこがおかしいかを、原理的に示すと、こうだ。
「目先の少数の命を救おうとして、将来の大多数の命を救う手段を失う」
タミフルという特効薬がある。それを使えば、今冬に限り、数百人の命を救える。しかし、いったんそうしたら、それっきりだ。それ以降、数万人もの重症者を救う手段をなくす。……つまり、数百人の命を救うことで、数万人もの命を失うことになる。
こういう馬鹿なことをしてはいけない、というのが、「トリアージ」の発想だ。
→ 間違いだらけのインフル対策 [ 付記2 ]
小さな問題ばかりを見ていると、大きな問題を見失ってしまうものだ。100人の死者をなくそうとすると、100万人の死者を生み出してしまうものだ。
愚かな医者ほど、危険なものはない。彼らは人の命を救おうとして、大量の生命を奪ってしまう。その根源は、彼らがあまりにも人道主義者であるせいで、トリアージという「見殺し」の発想を取ることができないからだ。
かくて、目の前の1人を救おうとして、視野の外にいる 100人を死なせる、という道を選んでしまう。
[ 付記2 ]
感染症学会は、無知であるどころか、傲慢さもある。それは、次の趣旨の発想だ。
「他国は貧乏だからタミフルをたくさん持っていないが、日本は金持ちだからタミフルをたくさん持っている。ならば金持ちの日本は、貧乏な国と違って、タミルをどんどん使えるのだ」
その例証として、
「例えば、タイのノイラミニダーゼ阻害薬の備蓄は、国民の1%を治療する量しかなく」
というふうに文章を書く。(出典は前出)
その傲慢さには、呆れてしまう。だいたい、貧乏国としてタイを上げるのはいいが、他の先進諸国はどうなのだ? 欧米各国は、金持ちの日本と違って貧乏だから、タミフルの乱用をしないのか? まさか。
実を言うと、先進諸国の中で、日本は最貧国である。昔は世界第2の国民所得だったが、小泉時代に急激に低下して、昨年では世界 19位にまで落ちている。これは欧州で最低のイタリアに並ばれる始末だ。
そういう貧しい国(日本)が、欧米諸国を見て、「金がないからタミフルを使えないんだ」と馬鹿にするというのは、無知にもほどがある。
正しくは? 「欧米諸国は、タミフル耐性ウイルスの出現を抑止するために乱用しない」のである。彼らはちゃんとそう主張している。なのに、勝手に「金がないから買えない」のだと思い込んでいる連中がいる。
逆だ。欧米諸国は、金がある。一方、日本は、金がないだけでなく、知恵もない。
[ 付記3 ]
感染症学会の無知さ加減は、次の文章からもわかる。(出典は同じ。)
わが国のタミフルの備蓄率は世界では第4位であり、既に 5000万人分以上が確保されています。なるほど、それは現時点では事実だ。ただし、それが意味を持つのは、タミフル耐性ウイルスが出現していないときだけだ。
一方、タミフルを乱用したあげく、タミフル耐性ウイルスが出現すれば、タミフルはすべて無効化する。5000万人分あろうが、それはもはや、抗インフルエンザ薬ではなく、ただのゴミである。ゴミをたくさん備蓄していても、仕方ないでしょうが。
なお、感染症学会は、「薬剤耐性の危険性」をまともに認識していないようだ。というのは、次の一文があるからだ。
軽症の健康小児、成人では、必ずしも抗ウイルス薬による治療は必要ないとされています。主要な理由はコストです。あくまで金を理由としている。金、金、金だ。薬剤耐性についてはろくに認識してない。困ったものだ。(彼らの考えていることはいつも金ばかり、ということか。)
[ 付記4 ]
感染症学会が薬剤耐性について理解していないということは、次の一文からもわかる。
オセルタミビルでもいわゆるソ連かぜのH1N1ウイルスで耐性ウイルスが高率に出現していますが、耐性のレベルは試験管内耐性の程度であり、臨床では未だ有効に使用できると考えられています。「耐性のレベルはまだ高くないから大丈夫」という理屈で、「耐性の問題は考えなくていい」と楽観している。
これはつまり、次の発想と同じだ。
「患者はまだ死んでいないから、患者が死ぬ危険性については考えなくていい。楽観しよう」
感染症学会は、耐性の危険性をまったく理解できていない。耐性の危険性については、「まだ耐性ができていないから、大丈夫」なのではない。「耐性ができてからでは、もう手遅れ」なのだ。
手遅れになってから対処しても仕方ない。だから、手遅れにならないよう、努力する必要がある。
なのに感染症学会は、「まだ手遅れじゃないから大丈夫」という発想だ。
比喩的言えば、ロシアンルーレットを頭に向けて引き金を引く。生きている打ちは、手遅れではない。そこで、「まだ生きているから大丈夫」という理由で、何度も何度も引き金を引く。死ぬまでやる。「死んでから中止の必要性に気づいても遅い」ということを、全然理解できない。
そして、こういう阿呆の発想のもとで、「季節性インフルエンザでも、豚インフルエンザでも、タミフルを乱用しよう」というふうに主張するのが、感染症学会だ。度しがたい阿呆と言うべきだろう。
彼らはきっと、「耐性ウィルスが蔓延したら、そのあとでタミフル乱用の方針を改めよう」と思っているのだろう。まず、間違いなし。(ロシアンルーレットで弾丸が発射されたあとで、引き金を引くのを中止しよう、という発想と同じ。)
【 追記 】
すぐ上に述べた感染症学会の見解は、完全に誤りであることがわかった。すなわち、
オセルタミビルでもいわゆるソ連かぜのH1N1ウイルスで耐性ウイルスが高率に出現していますが、耐性のレベルは試験管内耐性の程度であり、臨床では未だ有効に使用できると考えられています。という見解は、完全な誤りである。このことは、次のページで詳しく説明されている。
→ タミフル耐性ウイルス(季節性インフルエンザの場合)
ここで、図が示されている。(図1)
それを見れば明らかなように、タミフル耐性ウイルスについて、リレンザは有効であるが、タミフルはまったく無効である。つまり、感染症学会の見解は、まったくの誤りだ。
なお、この図1は、第83回・日本感染症学会において研究発表されたものである。つまり、感染症学会の当局の出した見解は、感染症学会の研究成果を無視している。感染症学会と名乗っている当局は、本当の学会である感染症学会の成果をないがしろにしているのだ。
まったく、呆れはてたものだ。
( ※ ついでだが、図2の報告を見れば、「タミフルもリレンザも使わなくても、インフルエンザというものは自然治癒するものだ」ということがわかる。健康な人の場合には、大差がない。ただ、虚弱な人の場合には、かなり大きな差が出る。……それが原理なのだから、それを理解しておけばいいだろう。「効果があるから誰もがやたらと使うべきだ」ということにはならないのだ。比喩的に言えば、「婦人症の薬はちゃんと効果があるから、男も使うべきだ」ということにはならないのだ。 (^^); )
【 関連サイト 】
本文中にもリンクしたサイト。
→ 感染症学会の提言
※ これは間違いだらけ。
→ CDC の方針(英文)
※ これは正しい方針。なお、WHO でも同趣旨を示している。
【 関連項目 】
→ 間違いだらけのインフル対策
※ 薬剤耐性の問題を指摘している。(他にも同趣旨の項目あり。)
→ 感染症学会のタミフル推奨 (2) (次項)
