・ すべての医療機関で
・ かかりつけ医または相談センターへ
・ 病院に行かない (自宅療養) ──
豚インフルエンザの患者に対して、今秋以降の方針がはっきりと決まっていない。
・ すべての医療機関で受診
・ かかりつけ医または相談センターへ
・ 病院に行かない (自宅療養)
この3通りのうち、どれにするべきか? それぞれについて論じよう。
(1) すべての病院で受診
「すべての医療機関で受診」という方針がある。これが世間では広く知られている。同種の報道は多い。
《 全医療機関で診療、新型インフルの運用指針を改定 》以上のように、「すべての医療機関で受診」というのが基本方針だ。
新型インフルエンザの今後の流行に備え、厚生労働省は19日、医療や検疫、休校などに関する運用指針を改定した。原則として、すべての医療機関で患者を診療するとしている。
現在多くの地域で入院させている軽症患者は原則、自宅療養に変更。持病がある患者は悪化しやすいため、軽症でも入院が必要かどうか医師が判断する。
季節性インフルエンザと同様、原則として全医療機関で診療する。ただし、発熱者の待機場所や診療時間を、他の受診者と分けるほか、都道府県は、透析病院や産院など発熱者を診療しない病院を指定できることとした。
( → 読売新聞 2009-06-19 )
《 原則、全医療機関で診療―厚労省の新型インフル新指針(4) 》
医療提供体制については、6月19日に公表された「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針」の改定版により、外来部門については原則、すべての医療機関で新型インフルエンザの診療を行うこととした。
( → CBニュース 2009-06-26 )
《 新型インフルエンザ:どこでも診察 》
大分県は1日、医師会との調整がつき新型インフルエンザ診察にあたる病院を、大幅拡大する方針を発表した。眼科や皮膚科などを除き、季節性インフルを診察し得る全医療機関で対応する。これに伴い、「まずは保健所に電話相談を」との呼びかけをやめ、直接病院へ電話してもらう体制にする。
( → 毎日新聞 2009-07-02 )
このことは、裏付けがある。これに先立ち、5月21日、感染症学界が「全病院で」という提言を出したのだ。その第8項に
「(8) 全ての医療機関が新型インフルエンザ対策を行うべきです」
とある。( → 前述 5月22日の項目。 )
そこにある説明文を、原文から抜粋すると、次の通り。
ここで問題なのは、現在の検疫で行われているような、また、昨年来全国で実施されている新型インフルエンザ対策のシミュレーション訓練等で行われている宇宙服のような防護服に代表されるような対策を目の当たりにして「我々の病院では新型インフルエンザ対策は困難なので新型インフルエンザの患者は診療しない」として最初から対策を放棄してしまう病院の多数出ることが予想されることです。この文章は、具体的には、「発熱外来での受診」という方針を否定していることになる。その根拠は、次のことだ。
新型インフルエンザの流行蔓延期にはすべての医療機関に患者が受診することが予想されます。自分たちが普段から診ている通院患者からも新型インフルエンザの患者は多数出てくると予想され、診療を忌避することは出来ません。全医療施設が取り組むべき対策を構築しておかなければ、助かるべき多数の患者が助からない、といった事態が起こり兼ねません。
( → 原文の転載文 )
感染がまん延した神戸市では、感染が疑われる患者を専門に診療する「発熱外来」が飽和状態になった。県内の指定医療機関でも、24時間対応が続いてスタッフが疲弊し、県が指定機関縮小に踏み切った経緯がある。ま、ここまでの話は、おおむね妥当だろう。とにかく、「全医療機関で」というのが、よく知られた基本方針だ。
厚労省はこうした状況から、重症患者の診療態勢の確保や地域医療の維持を念頭に医療体制の変更を検討。今月19日、感染が拡大した際の医療確保や学校などへの休業要請の運用指針を改定した。原則として一般医療機関でも発熱患者を診療し、院内感染防止を徹底する。
( → 毎日新聞 2009-06-30 )
(2) かかりつけ医または相談センターへ
「かかりつけ医または相談センターへ」という方針もまた、同時に示されている。これは、(1) の「全医療機関で」という方針とは矛盾するが、とにかく、そういう方針も出されている。
《 厚労省の新型インフル新指針(2) 》読めばわかるように、これは (1) に矛盾する。
26日に開催した「新型インフルエンザ対策担当課長会議」で、医師から保健所への届け出範囲を見直す省令改正の手続きが完了する7月中旬以降の、医療機関での新型インフルエンザの診断の流れを説明した。
( → CBニュース )
患者の診療についてはまず、インフルエンザ様症状のある人が医療機関を受診しようとするとき、かかりつけ医がいる場合とそうでない場合とに分別される。かかりつけ医がいる場合、まずかかりつけ医に問い合わせて指示に従う。受診後、かかりつけ医がその後の診療が困難と判断した場合は、発熱外来機能を持つ医療機関に患者の紹介を行うこととしている。
( → CBニュース )
いったい、(1) と (2) のどっちが正しいのか? 政府の方針は、ふらついている。いったい、どういうつもりなのか?
そもそも、(1) で示した記事のいくつかでは、「発熱外来の廃止」が唱えられている。にもかかわらず、(2) では「発熱外来へ」という方針が示されている。自己矛盾。
(3) 病院に行かない
「病院に行かない」(自宅療養する)という方針も、あるはずだ。特に、軽症者では、そうだ。このことは、(1) の最初の記事でも示されている。次のように。
「軽症患者は原則、自宅療養に変更」
この方針があるにもかかわらず、この方針についての説明が、ほとんどなされていない。
現実にあるのは「全医療機関で診察」ということばかりだ。しかし、そんなことでは、「軽症者もまた、どんどん病院へ行け」ということになる。話がおかしい。
「ここで受診するべし」
ということばかりが強調されて、
「受診しなくていい」
ということが語られていない。特に、
「受診して、薬剤をもらえ」
ということがなされるだろうが、これは、
「薬剤をなるべく使うな(耐性化を避けよ)」
という WHO の方針に反する。政府の方針は、WHO の方針に反する方針だ。こんなことでいいのか?
(4) 私見
では、どうすればいいのか? 私見を言えば、次の通り。
・ 軽症者は、受診しなくていい。薬剤も不要。
・ 虚弱者は、受診する。ただし、耳鼻科で。
(内科や総合病院は不可。院内感染のおそれがあるので。)
・ 待合室では、「ウイルス 99%除去」という空気洗浄機を使用。
おおむね、この通り。細かい話は省略。詳しくは、前に述べた項目などを参照。
[ 付記1 ]
(1)と(2) について、私なりに評価しよう。
(1) は、特に大きな問題がない。「院内感染」の危険があるぐらいだろう。とはいえ、これは、昔からずっとある問題で、今になって急に生じた問題ではない。対処するべきではあるが、大騒ぎするほどのことではない。
(2) は、大きな問題がある。(2) は、
「かかりつけ医または発熱相談センター等へ相談して」
という方針だ。しかし、これには、問題がある。
「かかりつけ医」
というのは問題がないが、
「発熱相談センター」
というのは、まずい。これだと、患者が特定の病院に殺到する懸念がある。
そもそも、政府の方針は、「発熱外来の廃止」であるし、「発熱相談センターの廃止」も含まれる。それというのも、患者が殺到するからだ。実際、「発熱外来」も、「発熱相談センター」も、神戸の例ではパンクしてしまった。あのときは、患者数が 300人程度だったが、それでさえ、パンクしてしまったのだ。今秋以降、同じことが起こったら、とんでもないことになる。
また、そもそも、このようなことは物理的に不可能だろう。
・ 発熱外来のある少数病院への紹介ならば、病院がパンクする。
・ 多数の病院への紹介ならば、発熱相談センターがパンクする。
これはどういうことかというと、処理における次の方法の差だ。
・ 中央処理
・ 分散処理
患者が自分で近くの病院に行くのであれば、だいたい問題なく分散される。一種の経験則。(最適化はされなくても、そんなにひどくはならない。)
一方、発熱相談センターが紹介するのだと、大変だ。患者の自宅と、病院との、地理関係がわからない。「直線距離で一番近い病院」を紹介したら、そこには交通機関がなくて、ものすごい遠回りを迫られる……というようなことになりかねない。当然、患者は文句を言う。というわけで、電話相談の大半の時間は、「その病院はいやだ、こっちにしてくれ」という無意味な相談に費やされる。結果的に、発熱相談センターの職員は膨大な労働を強いられ、パンクしてしまう。
このことの無謀さを理解するには、次のことを考えればいい。
「東京に発熱相談センターをひとつ作って、それで全国の患者の相談を一手に受け付ける」
こんなことをしたら、何百万人もの電話が押し寄せて、莫大な職員を必要とする。しかも、職員は、遠くの地理のことなんかわからないから、患者とさんざん無駄なやりとりをするハメになる。
そして、同じことは、県単位や市単位でも起こる。というわけで、発熱相談センターなんかを使う方針(つまり (2) )は、とんでもない方針なのだ。
その意味で、「特定病院で」を否定して「すべての医療機関で」というふうに示した、感染症学会の方針(つまり (1) )は、ずっと妥当である。
(だから、この基本方針を、私はずっと前から示していた。……その後、院内感染の問題を考慮して、微修正したが。)
[ 付記2 ]
政府は新たな方針を示したが、しかし、方針転換の理由を示していない。結論だけを示して、その理由を示していない。
たぶん、示すだけの能力がないのだろうが、それでもやはり、できる範囲で、結論に至る理由を示すべきだろう。
ただし、その理由は、「それまでの方針は間違いでした」ということを説明する文章だ。つまり、過去の自分について、自己批判する文章だ。
となると、そういうのは、カッコ悪くて、出せないのかもしれない。……とすると、ここでは、官僚の自己保身のために、国民は正しい情報を知らされていないことになる。
そして、その結果が、(1)(2)(3) の支離滅裂な(自己矛盾を含む)方針なのだろう。
つまり、(1)(2)(3) の方針が曖昧なのは、過去の自分の誤りを認識しないからだ。過去の失敗について盲目になるから、現在の方針に置いても誤りを正せないのだ。
こう理解すると、(1)(2)(3) の方針のデタラメさの理由も、よくわかるだろう。
[ 付記3 ]
ただし、まったく説明されていないわけでもない。たった1〜2行だけながら、次の説明がある。
「今後の患者数の増加に対応するために、現在、発熱外来を行っている医療機関のみならず、原則として全ての一般医療機関においても患者の診療を行う。」
( → 政府の新方針・厚労省 )
【 関連項目 】
→ 情報センター長の能天気
政府の方針転換について説明がなされていない、という点を批判している。
