2009年06月19日

◆ 政府の方針転換

 政府の方針転換(豚インフルエンザ)が、正式に発表された。
 しかし、新たな対策には、重大な穴がある。 ──

 新しい方針

 豚インフルエンザについて、政府の方針転換が、正式に決定した。まずは、概略のニュース。
  → 全医療機関で診療 … 厚労省が運用指針改定

 記事の内容は、先日の項目 で示したとおり。というか、もっと簡略化された記事だ。朝日も読売も同様。
 マスコミの情報は、いずれも簡単だが、毎日の記事がやや詳しい。
  → 毎日の記事

 ただし、どうせなら、厚労省の原文を見る方がいい。
  → 厚労省 運用指針(改定版)
 これを見るといいだろう。(マスコミの記事はダメですね。)

  ※ 新旧の方針の対比も、PDF で表形式で示す。ちょっと良心的。
    旧来のダメなところを具体的に指摘すれば、さらに良かったが。

 なお、新しい方針の全体をつらぬく基調は、次のことだ。
 「感染者数の増加そのものを止めることはしない。かわりに、重症者の死亡や、虚弱者の重篤化をなくす」

 つまり、弱者への対策に焦点を移す。普通の健康な人が感染することについては、特に阻止しようとしない。
 こういう方針自体は、まったく支持できる。問題は、その方針が、不十分であることだ。このことを、本項で指摘しよう。

 注目点

 注目点を調べよう。
 新しい方針で着目するべき点は、次の箇所だ。(政府文書からの引用。一部省略。)
 [1] 患者
 基礎疾患を有する者等(*)に対しては、早期から抗インフルエンザウイルス薬の投与を行う。そのうち、重症化するおそれがある者については優先的にPCR検査を実施し、必要に応じ入院治療を行う。
 [2] 濃厚接触者

 基礎疾患を有する者等で感染を強く疑われる場合については、抗インフルエンザウイルス薬の予防投与を医師の判断により行う。さらに、医療従事者や初動対処要員等のうち基礎疾患を有する者については、それらの者がウイルスに暴露した場合には、抗インフルエンザウイルス薬の予防投与を行う。その上で、感染した可能性が高くない場合には、職務の継続を可能とする。

(*) 基礎疾患を有する者等:新型インフルエンザに罹患することで重症化するリスクが高いと考えられている者をいう。妊婦、幼児、高齢者、慢性呼吸器疾患・慢性心疾患……等。
 ここに記してあること自体は、問題ない。問題は、ここに記されていないこと(欠落していること)だ。それは、こうだ。
 「軽症者や健康者には、抗インフルエンザウイルス薬の投与は必要ない。むしろ、投与するべきでない

 この記述が抜けている。オーストラリア政府は、ちゃんとこの記述を書いたのに。
 ダメですねえ。何やっているんだか。……この分だと、豚インフルエンザは、(薬剤を乱用する)日本において、薬剤耐性ウイルスが出現するだろう。そして、そのあと、もし強毒化したら、どうするんですか? 
   → 豚インフルエンザの強毒化 (?)

 正しい方針

 では、どうすれば良かったのか? 正しい方針をで示そう。次の二点だ。
  ・ 軽症者には、薬剤を処方しない
  ・ 虚弱者には、遺伝子検査をしない

 この二つについて、詳しく述べよう。

 (1) 軽症者には、薬剤を処方しない

 軽症者には、薬剤を処方しない方がいい。政府の文書では、そのことが記述されていないが、「処方するべきでない」とはっきり明示するべきだ。そして、その理由を、きちんと書くべきだ。
 では、その理由とは? こうだ。
  軽症者に薬剤を処方すれば、軽症者が病院にわんさと押し寄せる。例年ならば、自宅療養で済ませた人々が、「タミフルをくれ、リレンザをくれ」と大挙して押し寄せる。
 そうなったら、病院はパンクする。たかがインフルエンザの患者が押し寄せるせいで、病院の本来の機能が損なわれる。また、インフルエンザの患者が押し寄せることで、虚弱な病人がどんどん院内感染する。
 そういう問題を避けるためには、軽症者が病院に来ないように仕向けることが必要だ。そのためには、「軽症者が病院に来ても、薬剤を処方しない」という方針を出すことが必要だ。
 この方針を取るべきだ。さもないと、次の冬には、患者が殺到して、病院はパニック状態になる。とんでもない大混乱が起こるだろう。と同時に、院内感染による死者が多大になるだろう。
 さらには、「薬剤の不足」という問題が起こるかもしれない。タミフルの不足ならば起こらないだろうが、リレンザの不足が起こりそうだ。そうなった場合、リレンザを真に必要とする人々に、薬剤が行き渡らず、大量の死者が出るかもしれない。
 政府の新しい方針は、「重症者の死を防ぐ」という方針が貫徹されていないのだ。

 (2) 虚弱者には、遺伝子検査をしない

 高齢者や病人などの虚弱者には、薬剤を投与するべきだ。(この点は、政府の方針に記述してあるとおり。)
 大事なのは、その際、「遺伝子検査をしない」ということだ。政府の方針には、この記述が抜けている。それどころか、逆のことを記述している。
 「重症化するおそれがある者については優先的にPCR検査を実施し」

 と。しかし、PCR検査をしてはならない。なぜなら、そのことによるメリットは、何もないからだ。患者にとって、豚インフルエンザであるか、季節性インフルエンザであるかは、いちいち知る必要がない。処置は同じである。
 「リレンザの投与」
 これだけだ。どうしてもPCR検査をする必要があるとしたら、それは、「タミフルを処方する」と先に決めている場合だけだ。その場合には、季節性インフルエンザだとタミフルが無効なので、PCR検査をする必要がある。しかし、そんな余計な検査をしてまで、タミフルを処方する必要はない。というか、してはならない。(病院は検査料を得るために、無駄な検査をしたがるが。)
   → タミフルの備蓄を増やすな

 はっきり言って、タミフルが必要なのは、リレンザを飲むことのできない人だけだ。それは、痴呆老人とか、寝たきり病人とか、手足にしびれが来ているとか、そういう特殊な障害者だけだ。普通の健常者は、タミフルを飲む必要はない。リレンザを吸入すればいい。それゆえ、PCR検査は不要なのである。
 このことを、はっきりと方針として示す必要がある。

 なお、現実には、その方針が出されていない。とすると、どうなるか? 次の秋冬には、何百万人もの虚弱者が病院でPCR検査を要求する。(日本の人口の3分の1ぐらいは高齢者だから、その数は 500万〜1000万人にもなる。)そうなると、「PCR検査をしてくれ」という患者の要求と、「たったの 300人の患者でパンクした」という大阪府のような現状とが、せめぎあう。そのせいで、大混乱が起こる。パニックの発生。

 実は、これは絵空事ではない。中村正三郎のブログ からの孫引きだと、勝谷という評論家が福岡の保健所に対して、「PCR検査を拒否したのはけしからん」と非難しているそうだ。(週刊 AERA)
 福岡では、大量の患者が発生しているのだから、大阪府の例からして、PCR検査の処理能力がパンクしているのは自明である。保健所は、検査を渋っているのではない。検査する能力がないのだ。その理由は、検査の機器と人員をケチっている、政府の方針にある。政府が保健所の能力を削減しているから、いざとなったら「保健所の能力不足でできない」という結果になるわけだ。なのに、保健所を非難するというのは、筋違いだろう。非難するなら、自分自身だ。お門違いも甚だしい。
 保健所の職員は、普段から超多忙であるところに加えて、豚インフルエンザの検査という追加業務を課された。しかも、検査薬も検査機器も足りない。どうしたって、限られた数の処理しかできない。なのに、さんざん非難される。あまりにもかわいそうだ。

 比喩。
 百人で百日間かかるソフトの開発を、「十人で1週間でやれ」と命令される。それができなかったからといって、「ソフト開発を拒否した悪党だ!」と、勝谷という評論家に非難される。それを朝日の週刊誌が掲載するので、世間から指弾されて針のむしろとなる。


 世間というものは、こういうふうに、医療の実情というものを何も理解していない。やたらと過剰なことばかりを要求する。
 「豚インフルエンザのウイルスを封じ込めよ!」
 「感染者をゼロにせよ!」
 「百人分のPCR検査機器で、百万人を処理せよ!」
 こういう馬鹿げたことばかりを要求するのだ。だから、何ができて、何ができないかを、はっきりと明示する必要がある。特に、「PCR検査は原則としてやらない(できない)」と、はっきりと明示する必要がある。
 このことを記述していない政府の新方針は、まるで不足だ。というか、逆のことを書いているという点で、有害ですらある。



 [ 付記1 ]
 オーストラリアの方針は、馬鹿な日本とは違う。下記に引用しよう。。
 抗ウイルス薬は中度から重度の患者、又は、診断の結果、リスクが高いとされた患者のみに提供される。感染者の家族で健康な者に抗ウイルス薬を提供することや、これらに隔離措置をとることは適切ではない。
 殆どのケースが軽度で治療不要であり、新型インフルエンザ感染の有無を判定する検査を行う必要は無い
( → 日本総領事館による「豪州政府の方針」紹介。
 [ 付記2 ]
 同じ箇所には、オーストラリア政府の方針として、次の文章もある。
 学校閉鎖や、感染拡大地域へ旅行した児童生徒の登校停止を今後は行わない。
 つまり、「学校閉鎖は行なわれない」というわけだ。
 ひるがえって、日本は? 厚労省の文書を見たら、その記述はなかった。逆に、「学校閉鎖をしてもいい。広域閉鎖をしてもいい」というふうな記述がある。
 ダメですねえ。また大阪府の二の舞だろうか。下手をすると、日本中の学校が、冬はずっと閉鎖されてしまう。
 「最大でも学級単位の学級閉鎖に留めるべき」
 これが正解なんだが、わからないのかな?
 そもそも、大人の世界でインフルエンザが流行しているときに、学校だけ広域閉鎖しても、何にもならないんだが。わからないんでしょうかねえ。

 この分だと、政府「改訂版のそのまた改訂版」を出す必要に迫られそうだ。   (^^);

 [ 付記3 ]
 本サイトを読んだ医者のうちの何人かは、私のことを「医者を非難している」と思い込んでいるようだ。しかし、勘違いも甚だしい。
 現状では、次の秋冬に、医者は患者に非難されるだろう。
 「リレンザをくれと言ったのにくれない!」
 「タミフルをくれと言ったのに、検査まで要求される!」
 「検査してくれと言ったのに、検査できないと拒否された!」
 こういうふうに、医者はさんざん非難されるはずだ。だから、そういう非難から医療関係者を守ろうとして、私が孤軍奮闘しているのだが。

posted by 管理人 at 20:05| Comment(1) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この件について、産経新聞のみ、社説 or コラムで論じている。

「インフル新対策 治療態勢の変更は当然だ」
http://sankei.jp.msn.com/life/body/090620/bdy0906200306000-n1.htm

 言っていることは当り前のことだが、「変更は当然だ」って、それ、今までの自説と全然違うでしょうが。   (^^);

 パニックの反省が全然ないですね。

 ※ 何も書かない朝日・読売・日経よりはマシか。

 ──

 毎日の社説もある。

http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090620k0000m070154000c.html

 これは、比較的、まとも。一読をお勧めする。
Posted by 管理人 at 2009年06月20日 22:35
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